第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

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5章

25.悪筆のレシピ

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 それからまもなくイザラクの生徒会入りが決まった。伯父様もお祖父様も反対はしなかった。

「本人がいいなら構わない」
「ああ、イザラクがそう判断したのであれば私達が止めることはない」

 なんともあっさりとしたものだった。開始から一分もしないで終了。
 話し合いのために用意したお芋のドーナッツにすら手をつけることなく終わってしまった。そこから席を立つかといえばそんなことはなく、二人揃ってお芋のドーナッツに手を伸ばした。

「今日も美味いな」
「いつも仕事終わりに食べていたが、出来立てはここまで美味いのか」
「だからいつも早く食べなよって言ってるじゃないか」
「途中で区切るとやる気がなくなるんだ」

 イザラクはムスッとした声を出す。
 作り手としてはやはり作り立てを食べてもらいたい。例えば揚げスイートポテトや揚げアップルパイ。冷めても美味しいけどあつあつで食べればもっと美味しい。だが伯父様の言い分も分からなくはない。

 錬金釜をかき混ぜている時にお父様がおやつを持ってきてくれても生返事をしていた気がする。
 悪いことをしてしまったなと今さらながらに気づく。

 まぁお父様の場合、私のおやつを運ぶのが目的か亀蔵に会いにくるのが目的か分かったものではなかったが。私が作業の手を止めようが止めまいが構わず亀蔵におやつをあげていた。

「…………アカが来たらお父様にも持っていってもらおう」

 お父様の過ごし方はどうあれ、私の態度が悪かったのも事実。お詫びの気持ちを込めてドーナッツの差し入れでもしよう。

「追加を作るのなら我の分も頼む」
「え、まだ食べるんですか⁉︎ さっきからずっと食べてるのに?」
「こんなんじゃ足りん。牛乳も」

 イザラクが真面目な話をしている時からルクスさんは一人で黙々とドーナッツを食べ続けていたのだ。

 渡しておいた分では足りず、机の真ん中に置いてある大皿から二個も持っていったのもバッチリと見ている。大きさはみんな一緒。四つも完食しているのはルクスさんだけだ。そのくせ追加分も狙おうとは……。

 いくら芋が好きとはいえ、食べ過ぎだ。

「ダメですよ。私の分の牛乳をあげますから我慢してください」
「頭を使うと腹が減るのだ」
「じゃあルクスさん用のお肉とかパンを用意してもらいましょうか?」
「甘いものがいい」
「甘いものばっかりじゃないですか」

 食べる量が増えたなら他のものも食べればいいのに、ルクスさんが食べるのはおやつと林檎ばかり。

 いくら人間とドラゴンの食生活が違うとはいえ、ここまで偏っていていいものか。私が心配しているというのに当のルクスさんは右から左に聞き流す。

 そして牛乳と一緒に私のお皿から食べかけのドーナッツを奪っていった。

 その後新しく揚げた十個はなんとか死守し、全てをアカに託すのだった。



「今日は二時間くらいだと思うから」
「うむ。我らはまた同じところで待っておる」
「急がなくても大丈夫だから」

 生徒会室に向かうイザラクを見送り、私達は図書館の例の部屋へと向かう。
 あまり長居はせず、返却と次に借りる本を選ぶのがメインだ。

 事前に放課後に図書館に行くと話し合っていたため、今日のルクスさんは人間の姿である。一緒に本を戻していく。

 だが効率がまるで違う。
 本を持ってうろうろする私とは違い、ルクスさんはサクサクと棚に挿していく。

「この本はどこでしたっけ?」
「その棚の二段目の左から五番目だ」
「よく覚えてますね」
「分野ごとに並べられているからな。隙間と周りの本を見れば分かる」
「タイトルだけ見てもよく分かりませんよ」
「まぁそのうち慣れる」
「だといいですけど。っとこれで全部ですかね」
「そうだな。ウェスパル、これ」

 てこずる私とは違い、ルクスさんは次に借りる本を選び始めていたようだ。すでに三冊も腕に抱えている。

 とはいえ今回はちゃんとマジックバッグを持ってきている。前回は突然だったから重いバッグを持ち帰ることになったが、あんなの二度とごめんだ。

 教科書を用意している時、スクールバッグにマジックバッグを入れているのをイザラクに見られて、不思議そうな顔をされたけど。


「後でまとめて入れるので、そこの椅子にでも積んでおいてください」
「うむ。ウェスパルも何か好きな本を選ぶといいぞ」
「好きな本っていっても何を選べばいいか」

 分かりませんよ、と続けようとした時だった。

 目の前に『錬金アイテムレシピ』と書かれた本を見つけた。以前読んだ巫女に関する本と同様に手書きである。

 いや、これらの本に限らず、この部屋の本は手書きのものばかりだ。綺麗な文字で書かれたものがほとんどだが、人間味のようなものを感じる。この本はどちらかといえば悪筆に含まれる文字で書かれている。
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