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5章
23.親愛なる聖女へ
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「どうだったの?」
馬車に揺られながら、イザラクに問いかける。
「拘束時間が多いのがネックだけど、色々と特典もあって。生徒会に入ると学園内に部屋が与えられるらしいんだ」
「部屋?」
「うん。広くはないんだけど、自由に荷物を置いたり食事で使ったり出来る部屋。空き部屋の一つを見せてもらったんだけど、そこそこの広さがあってルクスさんの着替えにも使えそう。今までは行きにドラゴンか人型か決めていたけど、学校にも着替えられるスペースがあったら便利だろう?」
「あー、確かに。でもルクスさんのためにイザラクが無理して働くことないよ?」
生徒会特典はあくまでも生徒会に入る生徒のためのもの。
だがこの話し方ではまるでルクスさんのための部屋を確認してきたようだ。
実際、イザラクならやりかねない。イザラクの時間はイザラクに使って欲しいし、生徒会を受けるにしても特典はイザラクのためになるべきものなのだ。
私の意見にルクスさんも首を縦に振る。
「うむ。我は別に人間の服など着なくとも魔法で作り出せる」
「それはダメです。服はちゃんと着てください」
「むぅ」
「その他にはカフェテラスの特別スペースが開放されるとか。申請しておけば本人以外も三人まで使えるらしい。亀蔵も大丈夫かちゃんと聞いてきた」
「それは魅力的ね……」
今は友人や知り合いと共に食事を摂っている。だが今後休講になることやどうしても一コマ間に空いてしまうことだってあるかもしれない。
そんな時にパッションピンク王子に目を付けられたら最悪だ。図書館に逃げ込むというのも手だが、あそこでは亀蔵をゆっくりとさせることが出来ない。
部屋と合わせて、こういうスペースが使えるのはありがたい話である。
「でしょう? それから生徒会役員には特別なバッチも授与されて、どれでも好きな授業を受けられるようになるのも魅力の一つかな。魔力量はウェスパル達には勝てないけど、一応一通り出来るし。それに二人と違う授業を受けた後でも合流しやすい」
「仕事の方は大丈夫なの?」
「あくまで学園内の事務処理なんかがメインで、難しいことはないみたい。それに何かあった場合にはサルガス王子に押しつけて帰ってくるから」
爽やかな笑顔でとんでもない言葉を口走る。さすがはイザラク。清々しいほどの家族ファーストだ。
だがサルガス王子とてイザラクを推薦した以上、こうなることを考えているはずだ。
とはいえイザラクは真面目であり、すでに公爵家の仕事のいくつかを手伝っている。よほどのことでもない限り、きっちりと仕事をこなしてくれることだろう。
「実際に生徒会の話を受けるかどうかはお父様とお祖父様に話してみてからになるけど、受けてもいいかなと思ってる。良い勉強にもなりそうだし。でも……」
「何か気になることがあるの?」
「放課後、二人と一緒に帰れなくなる」
「それなら問題ない。我らは図書館で時間を潰しておく」
「ロドリーとギルドに行くこともあるかもだけど、そういう時は事前に伝えるようにするから」
「そっか。ありがとう」
感謝するのはこちらの方だ。それに図書館にも足を運びやすくなるというのも、私とルクスさんにとっては大きなプラスである。
屋敷に戻り、イザラクと別れて部屋に入る。
着替えてすぐにスクールバッグから取り出すのはあの部屋から借りてきた本である。
「机の上に置いておきますね」
「うむ。上から三番目の本はウェスパルが読むといい」
「これですか?」
「ウェスパルの興味がありそうなものが書いてあるぞ」
背表紙には手書きで『親愛なる聖女へ』と書かれている。作者名は書かれていない。
だが製本は専門の人が行ったものではなく、素人が行ったと思われる。
図書館にずらりと並んでいる本のように専用の機械で行われたものではなく、紙に穴を空けてから紐を通したもの。少しだけ紙がズレている。
製本の際にズレたのではなく、束ねられている紙自体の大きさが一律ではないのだ。
一応近くなるように調整はしているみたいだけど、穴の形といい、製本した人はあまり器用ではなかったようだ。
ベッドに寝転びながらペラペラと捲る。
『後生の巫女達に捧ぐ』との書き出しから始まり、つらつらと闇の巫女と光の巫女について書かれている。表紙同様に中身も手書き。
書いたのは歴代の光の巫女・闇の巫女の中の誰かと見てまず間違いないだろう。ざっくりとしたことは乙女ゲームで履修済み。ルクスさんからも聞いている。
なので得るものはあまりないかと思ったのだが、ここに書かれている内容は私の知るものと少し違う。
馬車に揺られながら、イザラクに問いかける。
「拘束時間が多いのがネックだけど、色々と特典もあって。生徒会に入ると学園内に部屋が与えられるらしいんだ」
「部屋?」
「うん。広くはないんだけど、自由に荷物を置いたり食事で使ったり出来る部屋。空き部屋の一つを見せてもらったんだけど、そこそこの広さがあってルクスさんの着替えにも使えそう。今までは行きにドラゴンか人型か決めていたけど、学校にも着替えられるスペースがあったら便利だろう?」
「あー、確かに。でもルクスさんのためにイザラクが無理して働くことないよ?」
生徒会特典はあくまでも生徒会に入る生徒のためのもの。
だがこの話し方ではまるでルクスさんのための部屋を確認してきたようだ。
実際、イザラクならやりかねない。イザラクの時間はイザラクに使って欲しいし、生徒会を受けるにしても特典はイザラクのためになるべきものなのだ。
私の意見にルクスさんも首を縦に振る。
「うむ。我は別に人間の服など着なくとも魔法で作り出せる」
「それはダメです。服はちゃんと着てください」
「むぅ」
「その他にはカフェテラスの特別スペースが開放されるとか。申請しておけば本人以外も三人まで使えるらしい。亀蔵も大丈夫かちゃんと聞いてきた」
「それは魅力的ね……」
今は友人や知り合いと共に食事を摂っている。だが今後休講になることやどうしても一コマ間に空いてしまうことだってあるかもしれない。
そんな時にパッションピンク王子に目を付けられたら最悪だ。図書館に逃げ込むというのも手だが、あそこでは亀蔵をゆっくりとさせることが出来ない。
部屋と合わせて、こういうスペースが使えるのはありがたい話である。
「でしょう? それから生徒会役員には特別なバッチも授与されて、どれでも好きな授業を受けられるようになるのも魅力の一つかな。魔力量はウェスパル達には勝てないけど、一応一通り出来るし。それに二人と違う授業を受けた後でも合流しやすい」
「仕事の方は大丈夫なの?」
「あくまで学園内の事務処理なんかがメインで、難しいことはないみたい。それに何かあった場合にはサルガス王子に押しつけて帰ってくるから」
爽やかな笑顔でとんでもない言葉を口走る。さすがはイザラク。清々しいほどの家族ファーストだ。
だがサルガス王子とてイザラクを推薦した以上、こうなることを考えているはずだ。
とはいえイザラクは真面目であり、すでに公爵家の仕事のいくつかを手伝っている。よほどのことでもない限り、きっちりと仕事をこなしてくれることだろう。
「実際に生徒会の話を受けるかどうかはお父様とお祖父様に話してみてからになるけど、受けてもいいかなと思ってる。良い勉強にもなりそうだし。でも……」
「何か気になることがあるの?」
「放課後、二人と一緒に帰れなくなる」
「それなら問題ない。我らは図書館で時間を潰しておく」
「ロドリーとギルドに行くこともあるかもだけど、そういう時は事前に伝えるようにするから」
「そっか。ありがとう」
感謝するのはこちらの方だ。それに図書館にも足を運びやすくなるというのも、私とルクスさんにとっては大きなプラスである。
屋敷に戻り、イザラクと別れて部屋に入る。
着替えてすぐにスクールバッグから取り出すのはあの部屋から借りてきた本である。
「机の上に置いておきますね」
「うむ。上から三番目の本はウェスパルが読むといい」
「これですか?」
「ウェスパルの興味がありそうなものが書いてあるぞ」
背表紙には手書きで『親愛なる聖女へ』と書かれている。作者名は書かれていない。
だが製本は専門の人が行ったものではなく、素人が行ったと思われる。
図書館にずらりと並んでいる本のように専用の機械で行われたものではなく、紙に穴を空けてから紐を通したもの。少しだけ紙がズレている。
製本の際にズレたのではなく、束ねられている紙自体の大きさが一律ではないのだ。
一応近くなるように調整はしているみたいだけど、穴の形といい、製本した人はあまり器用ではなかったようだ。
ベッドに寝転びながらペラペラと捲る。
『後生の巫女達に捧ぐ』との書き出しから始まり、つらつらと闇の巫女と光の巫女について書かれている。表紙同様に中身も手書き。
書いたのは歴代の光の巫女・闇の巫女の中の誰かと見てまず間違いないだろう。ざっくりとしたことは乙女ゲームで履修済み。ルクスさんからも聞いている。
なので得るものはあまりないかと思ったのだが、ここに書かれている内容は私の知るものと少し違う。
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