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5章
22.どんなに小さくとも見逃さない
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「ここは禁書庫。表からは消された記録が残された場所になります」
「表から、消された?」
「闇の巫女が知りたがるような情報が。私は主人よりこの部屋の管理と、闇の巫女が訪れた際の案内役を任されております」
「これを見せてどうしろと」
「どうするもあなた方の自由です。私が任されているのは管理と案内。それ以上でもそれ以下でもございません。ああ、それとこちらが通行証になります。次回より必ずご持参ください」
渡されたのは手のひらサイズの鍵と紐だった。輪の部分に紐を通して保管しろということか。
彼は多くは語らず、にこにことするだけ。私を案内する意図が分からない。
だが彼は確かに『闇の巫女を訪れた際に案内をする』と言った。
今まであちらから接触されることはなかったので、案内する条件は図書館に足を運ぶこと?
詳しい条件は分からないが、三年も在学していれば一度くらい図書館に足を運ぶ機会はあるはず。
ゲーム版ウェスパルもこの場所を訪れている可能性が高い。
「この本は持ち帰っても良いのか」
「元の場所に戻してくだされば」
ルクスさんは棚に並べられた本に興味を持ったようだ。
すでに司書の横を通り過ぎて本を吟味している。私はあまり本に詳しい方ではないが、どれも見たことのないタイトルばかりだ。表から消されたというだけはある。
「ウェスパル、この本と、あとそっちの棚の上から二番目の右端の本を取れ」
「え、本当に持って帰るんですか!?」
「あやつもすぐにこちらに向かうはずだ。確認したいことがある」
イザラクのことを気遣ってくれたらしい。確かに彼が図書館に到着する前にこの部屋から出なければいけない。図書館にいると伝えた以上、姿が見えなければ心配してしまう。言いたいことをゴクリと飲み込む。
「これですか」
「うむ。あとその上のと、あとこれも」
「どれだけ持っていくつもりですか!」
「バッグに入れていけばいいだろう。我のにはまだ入ったはずだ」
「持つの私なんですけど」
文句を言いながらも言われた本を腕の中に積んでいく。ルクスさんには馬車まで飛んでもらうことにしよう。
七冊の本を積み上げてから振り返ると、司書は姿を消していた。仕事に戻ったのだろう。
「帰りにひと言声をかけてった方がいいですかね」
「通行証を渡したということは勝手に出入りしろということだ」
「そんなもんですか」
「そんなもんだ」
本を詰めたバッグを担ぎ、部屋を出る。職員専用の部屋から出てきたというのに、誰も私達を気にする様子はない。
カウンターを通り過ぎ、料理本がずらりと並ぶ棚の前へと移動する。イザラクはまだ来ていないようだ。
「ウェスパル、これも」
「今日はもうダメです」
「むぅ」
納得いかない表情をするルクスさんだが、私だって譲るつもりはない。ルクスさんはもっと遠慮というものを身につけた方がいい。
ダメですよ、と繰り返せば頭を垂れた。
「ならここで読むことにする」
「それならいいですよ。あっちの椅子に行きましょうか」
複数人で勉強しやすいように広い机が用意されているエリアと、一人一人ついたてがついている自習エリア。また本棚の近くにてんてんと一人用の椅子が用意されている。
ここは完全に読書する人用だ。椅子も他とは違い、背もたれはないがクッション性はありそうだ。床にバッグを置き、椅子に腰掛ける。ルクスさんは私の膝の上に座り、ページを捲るように指示を出す。
「それにしてもよくこの本を見つけましたね」
「我にかかれば造作もないわ」
ふんっと胸を張るルクスさん。だが褒めていない。食い意地と芋への並々ならぬ情熱に呆れている。
ルクスさんが見つけたのは芋レシピが載った本。背表紙には小さく『芋』と書かれているだけ。それに単行本と比べると背表紙自体が薄い。私も棚から取り出してみて芋レシピがあることに気付いたほど。
なのにルクスさんは棚をろくに見ずに大量の本の中からピンポイントに見つけ出したのだ。
「あ、これとか良さそうですね」
「マフィンならこの前食ったではないか」
「芋と豆の組み合わせはまだでしたよね」
「りんごの方が合う。それよりこっちのドーナッツというやつの方がいい」
「おいもドーナッツですか。いいですね」
そういえば作ったことがなかった。これくらいならレシピ本を借りなくても作れそうだ。
一口ドーナッツだったら学園に持ってきても摘まみやすいし。作る時も簡単だ。
一緒にごまも入れよう。私が持ち込むおやつは揚げたものが多いが、他の子と被らないので良しとしよう。
その後もペラペラと捲っていると、頭上から声が落ちてきた。
「ウェスパル。ルクスさん。待たせてごめん」
「ううん、大丈夫」
「気にするな。良いものを見つけられた」
「美味しそうなおやつでもあった?」
「うむ。ドーナッツというおやつだ」
イザラクとルクスさんが話しているうちに棚に本を返してしまう。戻ってきてから二人分のバッグを担いで外に出る。
目敏くバッグの重みに気付いたイザラクが持とうかと言ってくれたが、丁重にお断りした。
中身の本について聞かれたら上手く隠せる気がしない。一緒に乙女ゲームのことなんて口走ったら目も当てられない。
「表から、消された?」
「闇の巫女が知りたがるような情報が。私は主人よりこの部屋の管理と、闇の巫女が訪れた際の案内役を任されております」
「これを見せてどうしろと」
「どうするもあなた方の自由です。私が任されているのは管理と案内。それ以上でもそれ以下でもございません。ああ、それとこちらが通行証になります。次回より必ずご持参ください」
渡されたのは手のひらサイズの鍵と紐だった。輪の部分に紐を通して保管しろということか。
彼は多くは語らず、にこにことするだけ。私を案内する意図が分からない。
だが彼は確かに『闇の巫女を訪れた際に案内をする』と言った。
今まであちらから接触されることはなかったので、案内する条件は図書館に足を運ぶこと?
詳しい条件は分からないが、三年も在学していれば一度くらい図書館に足を運ぶ機会はあるはず。
ゲーム版ウェスパルもこの場所を訪れている可能性が高い。
「この本は持ち帰っても良いのか」
「元の場所に戻してくだされば」
ルクスさんは棚に並べられた本に興味を持ったようだ。
すでに司書の横を通り過ぎて本を吟味している。私はあまり本に詳しい方ではないが、どれも見たことのないタイトルばかりだ。表から消されたというだけはある。
「ウェスパル、この本と、あとそっちの棚の上から二番目の右端の本を取れ」
「え、本当に持って帰るんですか!?」
「あやつもすぐにこちらに向かうはずだ。確認したいことがある」
イザラクのことを気遣ってくれたらしい。確かに彼が図書館に到着する前にこの部屋から出なければいけない。図書館にいると伝えた以上、姿が見えなければ心配してしまう。言いたいことをゴクリと飲み込む。
「これですか」
「うむ。あとその上のと、あとこれも」
「どれだけ持っていくつもりですか!」
「バッグに入れていけばいいだろう。我のにはまだ入ったはずだ」
「持つの私なんですけど」
文句を言いながらも言われた本を腕の中に積んでいく。ルクスさんには馬車まで飛んでもらうことにしよう。
七冊の本を積み上げてから振り返ると、司書は姿を消していた。仕事に戻ったのだろう。
「帰りにひと言声をかけてった方がいいですかね」
「通行証を渡したということは勝手に出入りしろということだ」
「そんなもんですか」
「そんなもんだ」
本を詰めたバッグを担ぎ、部屋を出る。職員専用の部屋から出てきたというのに、誰も私達を気にする様子はない。
カウンターを通り過ぎ、料理本がずらりと並ぶ棚の前へと移動する。イザラクはまだ来ていないようだ。
「ウェスパル、これも」
「今日はもうダメです」
「むぅ」
納得いかない表情をするルクスさんだが、私だって譲るつもりはない。ルクスさんはもっと遠慮というものを身につけた方がいい。
ダメですよ、と繰り返せば頭を垂れた。
「ならここで読むことにする」
「それならいいですよ。あっちの椅子に行きましょうか」
複数人で勉強しやすいように広い机が用意されているエリアと、一人一人ついたてがついている自習エリア。また本棚の近くにてんてんと一人用の椅子が用意されている。
ここは完全に読書する人用だ。椅子も他とは違い、背もたれはないがクッション性はありそうだ。床にバッグを置き、椅子に腰掛ける。ルクスさんは私の膝の上に座り、ページを捲るように指示を出す。
「それにしてもよくこの本を見つけましたね」
「我にかかれば造作もないわ」
ふんっと胸を張るルクスさん。だが褒めていない。食い意地と芋への並々ならぬ情熱に呆れている。
ルクスさんが見つけたのは芋レシピが載った本。背表紙には小さく『芋』と書かれているだけ。それに単行本と比べると背表紙自体が薄い。私も棚から取り出してみて芋レシピがあることに気付いたほど。
なのにルクスさんは棚をろくに見ずに大量の本の中からピンポイントに見つけ出したのだ。
「あ、これとか良さそうですね」
「マフィンならこの前食ったではないか」
「芋と豆の組み合わせはまだでしたよね」
「りんごの方が合う。それよりこっちのドーナッツというやつの方がいい」
「おいもドーナッツですか。いいですね」
そういえば作ったことがなかった。これくらいならレシピ本を借りなくても作れそうだ。
一口ドーナッツだったら学園に持ってきても摘まみやすいし。作る時も簡単だ。
一緒にごまも入れよう。私が持ち込むおやつは揚げたものが多いが、他の子と被らないので良しとしよう。
その後もペラペラと捲っていると、頭上から声が落ちてきた。
「ウェスパル。ルクスさん。待たせてごめん」
「ううん、大丈夫」
「気にするな。良いものを見つけられた」
「美味しそうなおやつでもあった?」
「うむ。ドーナッツというおやつだ」
イザラクとルクスさんが話しているうちに棚に本を返してしまう。戻ってきてから二人分のバッグを担いで外に出る。
目敏くバッグの重みに気付いたイザラクが持とうかと言ってくれたが、丁重にお断りした。
中身の本について聞かれたら上手く隠せる気がしない。一緒に乙女ゲームのことなんて口走ったら目も当てられない。
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