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5章
17.ファンクラブ
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「二ヶ月、あっという間だったわね。宿題が沢山出たせいで全然ギルドに行けなかったし」
授業開始から二ヶ月と少し。
意外にもすんなりと学園に適応していた。
どの授業でも亀蔵とルクスさんが側にいるというのも大きいのかもしれない。イザラクもほとんど同じ授業を取っているし。お昼だって辺境領出身者や地方勢と食べることが多い。
後はロドリーが入学前試験にいた脳筋ズを連れてきたり、リーフがちゃっかり席を取っていたり。
サルガス王子が加わるとサヴィエーラ王国の兄妹とマーシャル王子、シェリリン様もセットでやってくる。
こちらに来てから初めて会った人もチラホラといて、周りからの視線は感じるものの、あまり王都にいる感じがしない。
「ロドリーと約束してたのは今日だったよね。学園から一緒に行かなくて良かったの?」
「一度着替えてギルドで集合することになっているから。着替えたらすぐに出るわ」
とはいえ学園に在学している以上、辺境にいた頃はあまり気にしていなかった『勉強』というものが常に背中にへばりついている。しかも私たちは座学ばかり取っているせいで宿題がどっさりと出るのである。
毎日下校後にコツコツとこなしている。大変だが、ルクスさんとイザラクに手伝ってもらっているだけまだマシだ。ロドリーなんて毎日ひーひー言いながらこなしているようだ。寮では毎日のように勉強会が開かれているのだとか。
みんなで集まるという点は楽しそうだと思うが、夜遅くまで勉強をしたくはない。
私とロドリー、双方の時間がなかなか合わず、冒険者登録をしたきりになっていた。
だが二ヶ月経ってようやく学園生活にも慣れ、時間を捻出することが出来たという訳だ。
「そっか。気をつけてね」
「我が付いているのだ。心配など不要だ」
「それもそうか」
イザラクは頑張ってきてね、とほわほわと笑う。以前から優しかったが、最近のイザラクはよく笑うようになった。
笑いかける相手は未だかなり限定されているとはいえ、女子生徒からはかなりの人気だ。
イヴァンカによればファンクラブが出来上がっているのだとか。ちなみに男性陣に人気なのはレミリアさんではなく亀蔵である。
なぜ男子生徒ではなく、男性陣としたのかと言えば先生や学園職員の方々のファンも多いから。
初めは人差し指で銀縁眼鏡を上げながら『フェンリルや巨大なドラゴンを教室に連れ込まれるよりはマシですね』と言っていた経済学の先生も、今では授業後に亀蔵にあげるおやつを持ってきているほど。
この素朴さが堪らないらしい。
盆栽とか苔、鯉あたりにハマるタイプなんだろうな~と勝手に思っている。
食堂はほとんど行かないのに食堂スタッフから絶大な支持を得ている。
ルクスさんもルクスさんで謎の人気があり、人型で登校した日には知らない生徒から物を受け取っている。
プレゼントとか贈り物というよりも貢ぎ物という言葉がしっくりと来る。もらうものはその生徒の出身地の名産品が多い。小麦粉や野菜をもらうことも。
神様だとバレているのではないかと思うような品ばかり。といっても彼らはルクスさんが邪神と気付いている訳ではない。
ただなんとなくそうした方が良いような気がするというぼんやりとした理由で贈り物をしているようだ。仕送りのお裾分けをしているとも受け取れるのでありがたく使わせてもらっている。
私は特にない。びっくりするほど何もない。
亀蔵の主としての認知度が高まってきたくらいだ。たまに寮暮らしの生徒からパンの耳の入った袋をもらう。
亀蔵にはそのまま。ルクスさんには油で揚げたものに砂糖をまぶしてから渡している。
授業の合間の短時間でも手軽に食べられるので、最近のルクスさんのお気に入りのおやつなのだ。
といってもルクスさんの一番の好物は芋。
これだけは譲れず、どんなにたくさん食べた後でも芋のおやつがあれば絶対に要求する。一口でもいいから食べるという、謎の執念を持っている。
屋敷に到着し、ルクスさんを抱き抱えて馬車から降りる。
「ウェスパル、おやつも忘れるでないぞ」
「はいはい」
ルクスさんの第一声はなんとも彼らしいものだった。
ロドリーとのお出かけが決まってからというもの、ルクスさんの頭の中は持っていくおやつのことばかり。
目的は魔物の討伐であってピクニックではない。数時間で帰ってくるのでおやつなんていらないのではないか。
そう思ったのだが、ロドリーもおやつ持参には乗り気だった。
城下町のお菓子屋さんを覗く彼の姿が馬車の窓から見えた。
なので私も今日はいつもと違うおやつーーフライパンスイートポテトを登校前に用意しておいた。
作り方は簡単。
ゆでたさつまいもをマッシュして、バター、砂糖、牛乳、干しぶどうを入れて混ぜる。丸く整えてからフライパンで焼くだけ。
焼く前に卵黄を塗るとツヤが出るが、今回は面倒なのでやめておいた。
今はキッチンで保管してもらっている。
行く前に忘れずにおやつと水筒を受け取らないと。
「あ、イザラクの分もあとで出してもらうよう頼んでおくから」
「ありがとう」
イザラクと別れ、階段を駆け上がる。実家でも着ていた動きやすい服に着替える。制服も動きづらいという訳ではないけれど、スカートよりもズボンの方が落ち着く。
マジックバッグを肩から下げ、ルクスさんを抱えようと振り返る。
「じゃあルクスさん行きましょうか……ってあれ? なんで人型なんですか?」
「なんとなくだ。ちゃんと服は着ているぞ」
なぜかルクスさんは人型になっていた。さっきまではドラゴン姿だったのに。
王都に来てから度々人型になっているルクスさんだが、学園外でも人型になるとは思わなかった。
「何をぼんやりしておる。早く行くぞ」
「あ、はい」
キッチンに立ち寄って、おやつと水筒をもらってからギルドへと向かう。
授業開始から二ヶ月と少し。
意外にもすんなりと学園に適応していた。
どの授業でも亀蔵とルクスさんが側にいるというのも大きいのかもしれない。イザラクもほとんど同じ授業を取っているし。お昼だって辺境領出身者や地方勢と食べることが多い。
後はロドリーが入学前試験にいた脳筋ズを連れてきたり、リーフがちゃっかり席を取っていたり。
サルガス王子が加わるとサヴィエーラ王国の兄妹とマーシャル王子、シェリリン様もセットでやってくる。
こちらに来てから初めて会った人もチラホラといて、周りからの視線は感じるものの、あまり王都にいる感じがしない。
「ロドリーと約束してたのは今日だったよね。学園から一緒に行かなくて良かったの?」
「一度着替えてギルドで集合することになっているから。着替えたらすぐに出るわ」
とはいえ学園に在学している以上、辺境にいた頃はあまり気にしていなかった『勉強』というものが常に背中にへばりついている。しかも私たちは座学ばかり取っているせいで宿題がどっさりと出るのである。
毎日下校後にコツコツとこなしている。大変だが、ルクスさんとイザラクに手伝ってもらっているだけまだマシだ。ロドリーなんて毎日ひーひー言いながらこなしているようだ。寮では毎日のように勉強会が開かれているのだとか。
みんなで集まるという点は楽しそうだと思うが、夜遅くまで勉強をしたくはない。
私とロドリー、双方の時間がなかなか合わず、冒険者登録をしたきりになっていた。
だが二ヶ月経ってようやく学園生活にも慣れ、時間を捻出することが出来たという訳だ。
「そっか。気をつけてね」
「我が付いているのだ。心配など不要だ」
「それもそうか」
イザラクは頑張ってきてね、とほわほわと笑う。以前から優しかったが、最近のイザラクはよく笑うようになった。
笑いかける相手は未だかなり限定されているとはいえ、女子生徒からはかなりの人気だ。
イヴァンカによればファンクラブが出来上がっているのだとか。ちなみに男性陣に人気なのはレミリアさんではなく亀蔵である。
なぜ男子生徒ではなく、男性陣としたのかと言えば先生や学園職員の方々のファンも多いから。
初めは人差し指で銀縁眼鏡を上げながら『フェンリルや巨大なドラゴンを教室に連れ込まれるよりはマシですね』と言っていた経済学の先生も、今では授業後に亀蔵にあげるおやつを持ってきているほど。
この素朴さが堪らないらしい。
盆栽とか苔、鯉あたりにハマるタイプなんだろうな~と勝手に思っている。
食堂はほとんど行かないのに食堂スタッフから絶大な支持を得ている。
ルクスさんもルクスさんで謎の人気があり、人型で登校した日には知らない生徒から物を受け取っている。
プレゼントとか贈り物というよりも貢ぎ物という言葉がしっくりと来る。もらうものはその生徒の出身地の名産品が多い。小麦粉や野菜をもらうことも。
神様だとバレているのではないかと思うような品ばかり。といっても彼らはルクスさんが邪神と気付いている訳ではない。
ただなんとなくそうした方が良いような気がするというぼんやりとした理由で贈り物をしているようだ。仕送りのお裾分けをしているとも受け取れるのでありがたく使わせてもらっている。
私は特にない。びっくりするほど何もない。
亀蔵の主としての認知度が高まってきたくらいだ。たまに寮暮らしの生徒からパンの耳の入った袋をもらう。
亀蔵にはそのまま。ルクスさんには油で揚げたものに砂糖をまぶしてから渡している。
授業の合間の短時間でも手軽に食べられるので、最近のルクスさんのお気に入りのおやつなのだ。
といってもルクスさんの一番の好物は芋。
これだけは譲れず、どんなにたくさん食べた後でも芋のおやつがあれば絶対に要求する。一口でもいいから食べるという、謎の執念を持っている。
屋敷に到着し、ルクスさんを抱き抱えて馬車から降りる。
「ウェスパル、おやつも忘れるでないぞ」
「はいはい」
ルクスさんの第一声はなんとも彼らしいものだった。
ロドリーとのお出かけが決まってからというもの、ルクスさんの頭の中は持っていくおやつのことばかり。
目的は魔物の討伐であってピクニックではない。数時間で帰ってくるのでおやつなんていらないのではないか。
そう思ったのだが、ロドリーもおやつ持参には乗り気だった。
城下町のお菓子屋さんを覗く彼の姿が馬車の窓から見えた。
なので私も今日はいつもと違うおやつーーフライパンスイートポテトを登校前に用意しておいた。
作り方は簡単。
ゆでたさつまいもをマッシュして、バター、砂糖、牛乳、干しぶどうを入れて混ぜる。丸く整えてからフライパンで焼くだけ。
焼く前に卵黄を塗るとツヤが出るが、今回は面倒なのでやめておいた。
今はキッチンで保管してもらっている。
行く前に忘れずにおやつと水筒を受け取らないと。
「あ、イザラクの分もあとで出してもらうよう頼んでおくから」
「ありがとう」
イザラクと別れ、階段を駆け上がる。実家でも着ていた動きやすい服に着替える。制服も動きづらいという訳ではないけれど、スカートよりもズボンの方が落ち着く。
マジックバッグを肩から下げ、ルクスさんを抱えようと振り返る。
「じゃあルクスさん行きましょうか……ってあれ? なんで人型なんですか?」
「なんとなくだ。ちゃんと服は着ているぞ」
なぜかルクスさんは人型になっていた。さっきまではドラゴン姿だったのに。
王都に来てから度々人型になっているルクスさんだが、学園外でも人型になるとは思わなかった。
「何をぼんやりしておる。早く行くぞ」
「あ、はい」
キッチンに立ち寄って、おやつと水筒をもらってからギルドへと向かう。
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