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5章
16.亀蔵の待遇
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ルクスさんもほくほく顔でスコーンを手に取る。
「うまい」
「そのスコーンには俺の実家の小麦粉を使ってるんだ」
「私の領のバターもよ」
「ジャムもあるぞ。こっち来てすぐに煮込んだんだ」
「ありがとう」
のほほんとした空気に、他の生徒達は唖然としている。
ちなみに亀蔵はデッサン隊からの差し入れの魔石をもぐもぐと食べており、リーフもおやつを持ち込んでお茶会に参加している。びっくりするほど馴染んでいる。
ちなみに彼が持ち込んだのはハーブクッキー。一緒に持ってきていたハーブティーも分けてもらった。さっぱりとしていてとても美味しい。
「ハーブは何を使っているんですか?」
「我が国でしか生息していない野草を掛け合わせたハーブで」
「今、育てているハーブがあるんですがそれとの組み合わせが」
ギュンタはおやつよりもハーブが気になったようだ。早速情報交換を行っている。
チャイムが鳴るまでほのぼのとしたおやつ会が続いた。そこからは各自授業に向かう。
私とルクスさん、イザラクは同じ棟の三階へ。ロドリーを筆頭とした実技を取る生徒達は別棟へと向かっていく。他の子もわりとバラバラだ。
イヴァンカとギュンタ、ロドリーとは二時間目だけではなく三時間目、来週から始まる午後の時間も一つも授業が被っていない。明日以降もなかなか。けれど寂しくはない。
「来週もおやつ持ってくるわね」
「俺はお茶持ってきますので」
「人数が多いからお湯はお湯で持ってきて、淹れた方がよさそうよね」
「ならティーポッドは私が」
皆、来週のおやつ会の約束をして別れる。
一時間目の時間が余ってなければお昼の時間に集まろうと。
皆と別れた後、他の地方の生徒達から声をかけられている子もいた。来週は参加者が増えているかもしれない。
私はまだ知らない人達と積極的に関わろうと思うことは出来ない。それでも顔なじみの子達がこれをきっかけに他の生徒達とも馴染めるのは良いことだ。
「来週は何作ろうかな」
「今日と同じものなら確実に被らないぞ」
「ルクスさんが食べたいだけでしょ」
「俺も食べたい。今日はあんまり食べられなかったんだ」
「イザラクまで……」
ルクスさんを抱えて階段を登る。
次の授業の教室まで移動したところ、前方右端の席に不自然にぽっかりと空いたスペースを見つけた。段差があるので、元々何かを置いていたという訳ではないのだろう。
いかにも亀蔵のために空けましたとばかりの隙間に見えてしまうのは私だけだろうか。
「ねぇイザラク」
「授業が始まるまでならいいんじゃないか? さっきの授業中も注意されなかったし」
「そうかな」
イザラクの言葉に背中を押される形で亀蔵をハウスから出そうとする。
けれど亀蔵は先ほどの授業で沢山の人に会い、疲れて眠ってしまっていたようだ。呼んでも出てくる気配がない。なので普通に授業の準備をしたのだが……。
先生は入ってくるなり、謎の隙間に視線を落とした。
遅れて私に謎の質問を投げかける。
「亀は?」
「へ?」
「君は亀を連れていると聞きましたが。今日は一緒ではないのですか?」
「亀蔵ならお昼寝中で」
「そうですか。私の授業は静かにしていられるのであれば出しても構いませんので」
「はぁ……ありがとうございます」
なんだ、この亀蔵への寛容さは。
その疑問は帰宅直前に解けた。
それは帰る前に職員室に寄った時のこと。ルクスさんとイザラクと共に土魔法学Ⅲの先生を訪ねた。廊下で先生の席順を見て、ずんずんと進んでいく。すると彼は笑顔で歓迎してくれた。
「私とルクスさんの土魔法学Ⅲの受講について検討していただけませんか?」
「構いませんよ。来週からでよろしいですか?」
「はい。それで、出来れば亀蔵、私が連れている亀も一緒に受けさせて頂けたらと思っておりまして」
「亀蔵さんもいらっしゃるのですね。嬉しいな~」
「亀蔵をご存じなのですか?」
「あのコンテストを見ていましたので。私だけではなく学園の教師と講師の多くが彼のファンですよ」
だから先生は亀蔵のことを気にしていたのか。
あのスペースもわざわざ亀蔵のために空けてくれたのかな。
ずっとハウスの中に入れているのも可哀想なので、今後は遠慮なくハウスの外に出させてもらうことにしよう。
「それに魔獣を愛でる会の会長さんから通達がありまして、会える日をずっと楽しみにしていました。今日はご一緒ではないのですか?」
「今はハウスの中に」
「よろしければ会わせて頂けませんか?」
通達ってなんだろう。デッサン隊の人が複数人入学してきたことといい、会長さんがかなり力を入れていたことだけは分かる。
突っ込みどころはあるが、魔獣を愛でる会の人達の魔獣愛は先ほど確認済みだ。多分、深く考えたら負けなのだ。
とりあえず亀蔵をハウスから呼び出す。先生は大喜びで亀蔵を褒め始めた。
「あの日の魔法は実に見事でした。それに可愛らしい顔立ちですね。以前は遠くてよく見えなかったのでお顔が見られて嬉しいです」
今日はよく亀蔵を褒められる日だ。
亀蔵もかめぇかめぇと鳴きながら少しだけ歩いてみせる。可愛いが、一体いつこんなサービスを覚えたのだろうか。
「うまい」
「そのスコーンには俺の実家の小麦粉を使ってるんだ」
「私の領のバターもよ」
「ジャムもあるぞ。こっち来てすぐに煮込んだんだ」
「ありがとう」
のほほんとした空気に、他の生徒達は唖然としている。
ちなみに亀蔵はデッサン隊からの差し入れの魔石をもぐもぐと食べており、リーフもおやつを持ち込んでお茶会に参加している。びっくりするほど馴染んでいる。
ちなみに彼が持ち込んだのはハーブクッキー。一緒に持ってきていたハーブティーも分けてもらった。さっぱりとしていてとても美味しい。
「ハーブは何を使っているんですか?」
「我が国でしか生息していない野草を掛け合わせたハーブで」
「今、育てているハーブがあるんですがそれとの組み合わせが」
ギュンタはおやつよりもハーブが気になったようだ。早速情報交換を行っている。
チャイムが鳴るまでほのぼのとしたおやつ会が続いた。そこからは各自授業に向かう。
私とルクスさん、イザラクは同じ棟の三階へ。ロドリーを筆頭とした実技を取る生徒達は別棟へと向かっていく。他の子もわりとバラバラだ。
イヴァンカとギュンタ、ロドリーとは二時間目だけではなく三時間目、来週から始まる午後の時間も一つも授業が被っていない。明日以降もなかなか。けれど寂しくはない。
「来週もおやつ持ってくるわね」
「俺はお茶持ってきますので」
「人数が多いからお湯はお湯で持ってきて、淹れた方がよさそうよね」
「ならティーポッドは私が」
皆、来週のおやつ会の約束をして別れる。
一時間目の時間が余ってなければお昼の時間に集まろうと。
皆と別れた後、他の地方の生徒達から声をかけられている子もいた。来週は参加者が増えているかもしれない。
私はまだ知らない人達と積極的に関わろうと思うことは出来ない。それでも顔なじみの子達がこれをきっかけに他の生徒達とも馴染めるのは良いことだ。
「来週は何作ろうかな」
「今日と同じものなら確実に被らないぞ」
「ルクスさんが食べたいだけでしょ」
「俺も食べたい。今日はあんまり食べられなかったんだ」
「イザラクまで……」
ルクスさんを抱えて階段を登る。
次の授業の教室まで移動したところ、前方右端の席に不自然にぽっかりと空いたスペースを見つけた。段差があるので、元々何かを置いていたという訳ではないのだろう。
いかにも亀蔵のために空けましたとばかりの隙間に見えてしまうのは私だけだろうか。
「ねぇイザラク」
「授業が始まるまでならいいんじゃないか? さっきの授業中も注意されなかったし」
「そうかな」
イザラクの言葉に背中を押される形で亀蔵をハウスから出そうとする。
けれど亀蔵は先ほどの授業で沢山の人に会い、疲れて眠ってしまっていたようだ。呼んでも出てくる気配がない。なので普通に授業の準備をしたのだが……。
先生は入ってくるなり、謎の隙間に視線を落とした。
遅れて私に謎の質問を投げかける。
「亀は?」
「へ?」
「君は亀を連れていると聞きましたが。今日は一緒ではないのですか?」
「亀蔵ならお昼寝中で」
「そうですか。私の授業は静かにしていられるのであれば出しても構いませんので」
「はぁ……ありがとうございます」
なんだ、この亀蔵への寛容さは。
その疑問は帰宅直前に解けた。
それは帰る前に職員室に寄った時のこと。ルクスさんとイザラクと共に土魔法学Ⅲの先生を訪ねた。廊下で先生の席順を見て、ずんずんと進んでいく。すると彼は笑顔で歓迎してくれた。
「私とルクスさんの土魔法学Ⅲの受講について検討していただけませんか?」
「構いませんよ。来週からでよろしいですか?」
「はい。それで、出来れば亀蔵、私が連れている亀も一緒に受けさせて頂けたらと思っておりまして」
「亀蔵さんもいらっしゃるのですね。嬉しいな~」
「亀蔵をご存じなのですか?」
「あのコンテストを見ていましたので。私だけではなく学園の教師と講師の多くが彼のファンですよ」
だから先生は亀蔵のことを気にしていたのか。
あのスペースもわざわざ亀蔵のために空けてくれたのかな。
ずっとハウスの中に入れているのも可哀想なので、今後は遠慮なくハウスの外に出させてもらうことにしよう。
「それに魔獣を愛でる会の会長さんから通達がありまして、会える日をずっと楽しみにしていました。今日はご一緒ではないのですか?」
「今はハウスの中に」
「よろしければ会わせて頂けませんか?」
通達ってなんだろう。デッサン隊の人が複数人入学してきたことといい、会長さんがかなり力を入れていたことだけは分かる。
突っ込みどころはあるが、魔獣を愛でる会の人達の魔獣愛は先ほど確認済みだ。多分、深く考えたら負けなのだ。
とりあえず亀蔵をハウスから呼び出す。先生は大喜びで亀蔵を褒め始めた。
「あの日の魔法は実に見事でした。それに可愛らしい顔立ちですね。以前は遠くてよく見えなかったのでお顔が見られて嬉しいです」
今日はよく亀蔵を褒められる日だ。
亀蔵もかめぇかめぇと鳴きながら少しだけ歩いてみせる。可愛いが、一体いつこんなサービスを覚えたのだろうか。
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