第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中

文字の大きさ
上 下
139 / 175
5章

15.デッサン隊

しおりを挟む
「魔獣を愛でる会所属亀蔵様の日常デッサン部門?」
「私共は亀蔵様の愛らしさは後世に残すべきものだと確信しております!」
「ああ、魔獣コンテストの」

 辺境以外の人で亀蔵の可愛さに魅了されている人といえば、思い当たるのはお父様が王都に亀蔵を連れて行った時のことだ。確かコンテストに出た後、少し引き留められたと言っていた。

「会長は五年前の魔獣コンテストで亀蔵様のご活躍を拝見させていただいてから、すっかり亀蔵様の虜でして。亀蔵様が再び参加されることを心待ちにしております。今年の報酬は五年前の魔石よりも立派なものを用意しておりますので、是非ご検討いただきたく」

 遅れてやってきたデッサン隊の人が「こちらです」とチラシを渡してくれる。思っていたよりも部門がたくさんあり、その中の総合部門の報酬に魔石があった。

「亀蔵、水の魔石だって」

 亀蔵にチラシを見せると「かめぇ?」と首を捻った。紙を見せて魔石と伝えてもよく分からなかったようだ。

 そんな仕草を見たデッサン隊の人達は胸や頭、顔を押さえている。

「後世に伝えるべき愛らしさ」
「次期魔獣神に一番近い魔獣」
「むしろ新たな神となるべき存在」

 亀蔵を讃えてる。
 さすがは魔獣を愛でる会。亀蔵が反応する度に嬉しい悲鳴を上げている。まるで亀蔵のファンだ。魔獣への愛がヒシヒシと伝わってくる。

 少し落ち着いてから教えてくれたのだが、彼らは全員特待生枠。平民だった。
 多少は会長さんからの援助を受けているものの、亀蔵を間近でデッサンするために全力で入学枠を勝ち取ったのだとか。

「会員の間で楽しむだけにいたしますので、今後もデッサンさせていただきたく」
「お金儲けや亀蔵が不快になるような利用さえしなければ……」
「創造神に誓っていたしません!」
「必要とあれば誓約書を用意いたしますので」
「いえ、そこまでしていただかなくても大丈夫です……はい」
「ありがとうございますうううう」

 一斉に頭を下げられ、他の生徒からの視線も集まる。なんだか居た堪れない。

「魔獣を愛でる会とはこんな奴らばかりなのか……」

 ルクスさんは完全に呆れ顔だ。
 初対面でわざわざ名刺とチラシを渡して自己紹介と合わせて目的を告げてくるあたり、悪い人ではないのだろう。ただちょっと愛と圧が強すぎるだけで。

 これも亀蔵の可愛さゆえ。
 数年前に一度姿を見せただけで魅了してしまうとはさすが亀蔵。愛すべき亀様である。


「僕も亀蔵殿に挨拶してもいいかな」

 横から声をかけられ、ビクッと身体が跳ねる。そこにいたのは見知らぬ男子学生だった。けれど次の一言ですぐに彼が誰なのか理解した。

「ギュンタ殿とサルガス王子の論文を読んだ時から是非会ってみたいと思っていたんだ。こんなに間近で見られるなんて父に頼み込んで留学を決めた甲斐があった」

 グリードニア王国からやってきた伯爵令息、リーフである。少し亀蔵から離れた場所でしゃがんで、ひらひらと手を振っている。

 先ほどの彼らほどではないが頬がゆるゆるで、マンション住まいの猫好きさんが猫カフェにやってきた時のような破顔具合。亀蔵が気になっていたというよりも亀が好きなのかもしれない。

 この世界、亀好き多すぎないか?
 その割に王都に来てからも亀蔵達以外の亀を見たことがない。亀っていないのかな。でも亀蔵は亀で通じているし……。

 前の方に座っている生徒達は特に亀蔵には反応していないのも合わせて謎だ。



「ということで週の最後に授業登録を忘れないように」

 その言葉と共に一時間目は締めくくられた。
 予定終了時間よりもかなり早い。早々に席を立つ生徒もちらほらといるが、多くは二時間目が始まる少し前までここで過ごすと決めたようだ。授業開始前と同じように会話を楽しんでいる。

 私達もそうだ。誰一人立つ様子はない。
 イヴァンカ達に話しかける前からルクスさんの期待の眼差しをひしひしと感じる。

「ウェスパル」
「分かってますって。ねぇみんな、おやつ食べない?」
「食べる!」
「実は私もマフィンを焼いてきたのよ」
「さすがはイヴァンカ。用意がいい」

 せっせと荷物を片付けてから各々水筒を取り出す。私とイヴァンカはそれに加えておやつを。
 それだけで教室の一角はおやつ会場へと変わった。すると少し離れた場所から見慣れた子達がやってきた。

「あの、実は私もクッキーを焼いてきているの」
「私はドライフルーツを」
「一緒に食べてもいい?」
「もちろんよ!」
「あ、俺もサンドイッチがある」
「スコーンもあるぞ!」

 地方勢は何かしら食べ物を持って来ているようだ。

 なんでも寮のキッチンが貸し出されていて、昨日の夕方と今朝のどちらも非常に賑わっていたとのこと。ずらっと様々な種類のおやつが並び、一気に賑やかになった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください

シンさん
恋愛
金貸しから追われる、靴職人のドロシー。 ある日突然、7才のアイザック王子にプロポーズされたんだけど、本当は20才の王太子様…。 こんな事になったのは、王家に伝わる魔術の7つ道具の1つ『子供に戻る靴』を履いてしまったから。 …何でそんな靴を履いたのか、本人でさえわからない。けど王太子が靴を履いた事には理由があった。 子供になってしまった20才の王太子と、靴職人ドロシーの恋愛ストーリー ストーリーは完結していますので、毎日更新です。 表紙はぷりりん様に描いていただきました(゜▽゜*)

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

処理中です...