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5章
15.デッサン隊
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「魔獣を愛でる会所属亀蔵様の日常デッサン部門?」
「私共は亀蔵様の愛らしさは後世に残すべきものだと確信しております!」
「ああ、魔獣コンテストの」
辺境以外の人で亀蔵の可愛さに魅了されている人といえば、思い当たるのはお父様が王都に亀蔵を連れて行った時のことだ。確かコンテストに出た後、少し引き留められたと言っていた。
「会長は五年前の魔獣コンテストで亀蔵様のご活躍を拝見させていただいてから、すっかり亀蔵様の虜でして。亀蔵様が再び参加されることを心待ちにしております。今年の報酬は五年前の魔石よりも立派なものを用意しておりますので、是非ご検討いただきたく」
遅れてやってきたデッサン隊の人が「こちらです」とチラシを渡してくれる。思っていたよりも部門がたくさんあり、その中の総合部門の報酬に魔石があった。
「亀蔵、水の魔石だって」
亀蔵にチラシを見せると「かめぇ?」と首を捻った。紙を見せて魔石と伝えてもよく分からなかったようだ。
そんな仕草を見たデッサン隊の人達は胸や頭、顔を押さえている。
「後世に伝えるべき愛らしさ」
「次期魔獣神に一番近い魔獣」
「むしろ新たな神となるべき存在」
亀蔵を讃えてる。
さすがは魔獣を愛でる会。亀蔵が反応する度に嬉しい悲鳴を上げている。まるで亀蔵のファンだ。魔獣への愛がヒシヒシと伝わってくる。
少し落ち着いてから教えてくれたのだが、彼らは全員特待生枠。平民だった。
多少は会長さんからの援助を受けているものの、亀蔵を間近でデッサンするために全力で入学枠を勝ち取ったのだとか。
「会員の間で楽しむだけにいたしますので、今後もデッサンさせていただきたく」
「お金儲けや亀蔵が不快になるような利用さえしなければ……」
「創造神に誓っていたしません!」
「必要とあれば誓約書を用意いたしますので」
「いえ、そこまでしていただかなくても大丈夫です……はい」
「ありがとうございますうううう」
一斉に頭を下げられ、他の生徒からの視線も集まる。なんだか居た堪れない。
「魔獣を愛でる会とはこんな奴らばかりなのか……」
ルクスさんは完全に呆れ顔だ。
初対面でわざわざ名刺とチラシを渡して自己紹介と合わせて目的を告げてくるあたり、悪い人ではないのだろう。ただちょっと愛と圧が強すぎるだけで。
これも亀蔵の可愛さゆえ。
数年前に一度姿を見せただけで魅了してしまうとはさすが亀蔵。愛すべき亀様である。
「僕も亀蔵殿に挨拶してもいいかな」
横から声をかけられ、ビクッと身体が跳ねる。そこにいたのは見知らぬ男子学生だった。けれど次の一言ですぐに彼が誰なのか理解した。
「ギュンタ殿とサルガス王子の論文を読んだ時から是非会ってみたいと思っていたんだ。こんなに間近で見られるなんて父に頼み込んで留学を決めた甲斐があった」
グリードニア王国からやってきた伯爵令息、リーフである。少し亀蔵から離れた場所でしゃがんで、ひらひらと手を振っている。
先ほどの彼らほどではないが頬がゆるゆるで、マンション住まいの猫好きさんが猫カフェにやってきた時のような破顔具合。亀蔵が気になっていたというよりも亀が好きなのかもしれない。
この世界、亀好き多すぎないか?
その割に王都に来てからも亀蔵達以外の亀を見たことがない。亀っていないのかな。でも亀蔵は亀で通じているし……。
前の方に座っている生徒達は特に亀蔵には反応していないのも合わせて謎だ。
「ということで週の最後に授業登録を忘れないように」
その言葉と共に一時間目は締めくくられた。
予定終了時間よりもかなり早い。早々に席を立つ生徒もちらほらといるが、多くは二時間目が始まる少し前までここで過ごすと決めたようだ。授業開始前と同じように会話を楽しんでいる。
私達もそうだ。誰一人立つ様子はない。
イヴァンカ達に話しかける前からルクスさんの期待の眼差しをひしひしと感じる。
「ウェスパル」
「分かってますって。ねぇみんな、おやつ食べない?」
「食べる!」
「実は私もマフィンを焼いてきたのよ」
「さすがはイヴァンカ。用意がいい」
せっせと荷物を片付けてから各々水筒を取り出す。私とイヴァンカはそれに加えておやつを。
それだけで教室の一角はおやつ会場へと変わった。すると少し離れた場所から見慣れた子達がやってきた。
「あの、実は私もクッキーを焼いてきているの」
「私はドライフルーツを」
「一緒に食べてもいい?」
「もちろんよ!」
「あ、俺もサンドイッチがある」
「スコーンもあるぞ!」
地方勢は何かしら食べ物を持って来ているようだ。
なんでも寮のキッチンが貸し出されていて、昨日の夕方と今朝のどちらも非常に賑わっていたとのこと。ずらっと様々な種類のおやつが並び、一気に賑やかになった。
「私共は亀蔵様の愛らしさは後世に残すべきものだと確信しております!」
「ああ、魔獣コンテストの」
辺境以外の人で亀蔵の可愛さに魅了されている人といえば、思い当たるのはお父様が王都に亀蔵を連れて行った時のことだ。確かコンテストに出た後、少し引き留められたと言っていた。
「会長は五年前の魔獣コンテストで亀蔵様のご活躍を拝見させていただいてから、すっかり亀蔵様の虜でして。亀蔵様が再び参加されることを心待ちにしております。今年の報酬は五年前の魔石よりも立派なものを用意しておりますので、是非ご検討いただきたく」
遅れてやってきたデッサン隊の人が「こちらです」とチラシを渡してくれる。思っていたよりも部門がたくさんあり、その中の総合部門の報酬に魔石があった。
「亀蔵、水の魔石だって」
亀蔵にチラシを見せると「かめぇ?」と首を捻った。紙を見せて魔石と伝えてもよく分からなかったようだ。
そんな仕草を見たデッサン隊の人達は胸や頭、顔を押さえている。
「後世に伝えるべき愛らしさ」
「次期魔獣神に一番近い魔獣」
「むしろ新たな神となるべき存在」
亀蔵を讃えてる。
さすがは魔獣を愛でる会。亀蔵が反応する度に嬉しい悲鳴を上げている。まるで亀蔵のファンだ。魔獣への愛がヒシヒシと伝わってくる。
少し落ち着いてから教えてくれたのだが、彼らは全員特待生枠。平民だった。
多少は会長さんからの援助を受けているものの、亀蔵を間近でデッサンするために全力で入学枠を勝ち取ったのだとか。
「会員の間で楽しむだけにいたしますので、今後もデッサンさせていただきたく」
「お金儲けや亀蔵が不快になるような利用さえしなければ……」
「創造神に誓っていたしません!」
「必要とあれば誓約書を用意いたしますので」
「いえ、そこまでしていただかなくても大丈夫です……はい」
「ありがとうございますうううう」
一斉に頭を下げられ、他の生徒からの視線も集まる。なんだか居た堪れない。
「魔獣を愛でる会とはこんな奴らばかりなのか……」
ルクスさんは完全に呆れ顔だ。
初対面でわざわざ名刺とチラシを渡して自己紹介と合わせて目的を告げてくるあたり、悪い人ではないのだろう。ただちょっと愛と圧が強すぎるだけで。
これも亀蔵の可愛さゆえ。
数年前に一度姿を見せただけで魅了してしまうとはさすが亀蔵。愛すべき亀様である。
「僕も亀蔵殿に挨拶してもいいかな」
横から声をかけられ、ビクッと身体が跳ねる。そこにいたのは見知らぬ男子学生だった。けれど次の一言ですぐに彼が誰なのか理解した。
「ギュンタ殿とサルガス王子の論文を読んだ時から是非会ってみたいと思っていたんだ。こんなに間近で見られるなんて父に頼み込んで留学を決めた甲斐があった」
グリードニア王国からやってきた伯爵令息、リーフである。少し亀蔵から離れた場所でしゃがんで、ひらひらと手を振っている。
先ほどの彼らほどではないが頬がゆるゆるで、マンション住まいの猫好きさんが猫カフェにやってきた時のような破顔具合。亀蔵が気になっていたというよりも亀が好きなのかもしれない。
この世界、亀好き多すぎないか?
その割に王都に来てからも亀蔵達以外の亀を見たことがない。亀っていないのかな。でも亀蔵は亀で通じているし……。
前の方に座っている生徒達は特に亀蔵には反応していないのも合わせて謎だ。
「ということで週の最後に授業登録を忘れないように」
その言葉と共に一時間目は締めくくられた。
予定終了時間よりもかなり早い。早々に席を立つ生徒もちらほらといるが、多くは二時間目が始まる少し前までここで過ごすと決めたようだ。授業開始前と同じように会話を楽しんでいる。
私達もそうだ。誰一人立つ様子はない。
イヴァンカ達に話しかける前からルクスさんの期待の眼差しをひしひしと感じる。
「ウェスパル」
「分かってますって。ねぇみんな、おやつ食べない?」
「食べる!」
「実は私もマフィンを焼いてきたのよ」
「さすがはイヴァンカ。用意がいい」
せっせと荷物を片付けてから各々水筒を取り出す。私とイヴァンカはそれに加えておやつを。
それだけで教室の一角はおやつ会場へと変わった。すると少し離れた場所から見慣れた子達がやってきた。
「あの、実は私もクッキーを焼いてきているの」
「私はドライフルーツを」
「一緒に食べてもいい?」
「もちろんよ!」
「あ、俺もサンドイッチがある」
「スコーンもあるぞ!」
地方勢は何かしら食べ物を持って来ているようだ。
なんでも寮のキッチンが貸し出されていて、昨日の夕方と今朝のどちらも非常に賑わっていたとのこと。ずらっと様々な種類のおやつが並び、一気に賑やかになった。
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