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5章
14.妹枠
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「俺はウェスパル達の受ける授業をベースにしつつ、実技もいくつか入れてみた」
イザラクも遅れて時間割を見せる。よく似た二枚の時間割にイヴァンカだけではなく、ギュンタまで目を丸くしている。
「結構偏っているのねぇ」
「イヴァンカは満遍なくって感じだね」
「どの授業が合うか分からないから、とりあえず初級言語だけ二つ入れたの。ギュンタも似たような感じよ」
「俺は言語が三つあるけどな」
「言語ばっかりそんなにいっぱい入れて大丈夫?」
言語は他国の言語を習う授業で、他の授業と違って週に三コマもある。宿題も出るとシラバスに書かれていた。
シルヴェスターに永住する気満々の私は、ルクスさんが言語の授業を一つも入れなかったことに胸をなで下ろしていたほどだ。
そんな授業を一年の前期から複数取るなんて……。
私だったら早速単位を落としてしまいそうだ。
「今までも論文の提出用に少しは勉強してたから。それに大変だったらサルガス王子に頼ろうかなって思っている」
実は今までも何度か頼っていて、と付け足すギュンタ。
サルガス王子がスカビオ領に滞在していた期間に色々と教えてもらったのだろう。
王子なだけあってサルガス王子は複数の言語を話せるだけではなく、読み書きまで出来るのだ。ばあやさんへの愛がかなり目立つ彼だが、わりとハイスペックなのである。
とはいえ新たな婚約者が出来たばかりなのにギュンタと仲良くしていてもいいのか。少しだけ不安だ。そんな感情が顔に出ていたのだろう。イヴァンカはふんわりと笑みを浮かべた。
「来週末、サルガス王子が新しい婚約者を紹介してくれることになっているの」
「婚約者同士仲良くしてほしいって、城に招待されたんだ」
「なるほど」
心配はいらなかったようだ。ばあやさんのことと言い、サルガス王子は好きな相手を隠すつもりなどないのだ。
サヴィエーラ王国側としてもファドゥールとスカビオと良い関係を築いておきたいのだろうし、ちょうどいいのかもしれない。
「運動系をメインで取るのは俺だけか」
「時間割見せて……ってロドリーの偏りも凄いね」
見せてもらった時間割の半分以上が実技、それも武術などの運動系科目で埋められていた。なんともロドリーらしい時間割だ。ルクスさんが座学をドサドサと入れなければ、私も似たような時間割になっていたことだろう。
それでもロドリーはバッチリと経営系の授業や言語もちゃんと入っているあたり、私よりも計画性があると言える。
「座学は後期以降にして、前期は空き時間多めでもいいかなって思ったんだが、みんな最初から最後まで詰めるって言うから俺も詰めてみたんだ」
「寮だと学園まですぐだもんね」
「ああ。一時間目入れて、次は四時間目でも余裕で出席出来る」
「そんなことしたらロドリーはギルドに行っちゃうだろ」
「出る日は出る、ギルドに行く日はギルドに行く日で分けた方がいいわ」
「こう言われちゃって」
ギュンタとイヴァンカのアドバイスのおかげか。彼らの時間割を参考にして空いている時間を埋めていったらしい。
先に来ていた彼らとなんてことない話をしていると、少し離れた場所から複数の視線を感じた。遅れて声が聞こえてくる。かなり声を潜めているようだが、私の耳にはバッチリだ。
「多くの腰を救った腰痛の救世主、薬学の名門スカビオ家の令息がいるぞ。俺、初めて見た。本当に同じ歳だったんだな」
「あちらはサヴィエーラ王国の王様を唸らせたというワインを作ったファドゥール領の!」
「その隣にいるのは珍しい力を発現させた平民の少女だわ」
「昨日の様子を見た限り、かなり肝が据わっているぞ」
「彼女はダグラス様の弟子だと聞いたわ」
「嘘だろ。あの人、弟子なんか取るのか……」
「今年は弟子だけじゃなく妹もいるぞ」
「ああ、溺愛しているっていうあの……」
「それより見ろよ。ロドリーがいるぞ。俺、ファンなんだよな~」
「辺境領の奴と仲が良いって本当だったんだな」
私だけ妹枠なのか。
とはいえ王都でお茶会に参加したのは一度きりで、ギュンタのように何かしらの功績があるわけでもない。私は目立ちたい訳でもなく、大切な人達が馬鹿にされている訳でもないので良しとしよう。
それより気になるのは少し離れたところでデッサンしている人達だ。しかも初めにいた席からわざわざ動いて、私達から少し離れた後ろの席を確保している。視線の先にいるのは亀蔵である。
最後列を確保しているパッションピンク王子の視線も同じく感じるがそちらは無視だ。全く情報のなかったデッサン隊の方が気になる。じいっと見ていたからか、デッサン隊の一人がトトトと私の元へとやってきた。
亀蔵がいるからか隣には来ず、私の後ろの席まで来て「後ろから失礼いたします」と声をかけてくる。
「私、こういうものでして」
スッと差し出されたのは一枚の名刺。しかも手で触れてすぐに分かるほど上質な紙が使われている。貴族には見えないので大商会所属の人だろうか。名刺に視線を落とし、刻まれた文字を確認する。
イザラクも遅れて時間割を見せる。よく似た二枚の時間割にイヴァンカだけではなく、ギュンタまで目を丸くしている。
「結構偏っているのねぇ」
「イヴァンカは満遍なくって感じだね」
「どの授業が合うか分からないから、とりあえず初級言語だけ二つ入れたの。ギュンタも似たような感じよ」
「俺は言語が三つあるけどな」
「言語ばっかりそんなにいっぱい入れて大丈夫?」
言語は他国の言語を習う授業で、他の授業と違って週に三コマもある。宿題も出るとシラバスに書かれていた。
シルヴェスターに永住する気満々の私は、ルクスさんが言語の授業を一つも入れなかったことに胸をなで下ろしていたほどだ。
そんな授業を一年の前期から複数取るなんて……。
私だったら早速単位を落としてしまいそうだ。
「今までも論文の提出用に少しは勉強してたから。それに大変だったらサルガス王子に頼ろうかなって思っている」
実は今までも何度か頼っていて、と付け足すギュンタ。
サルガス王子がスカビオ領に滞在していた期間に色々と教えてもらったのだろう。
王子なだけあってサルガス王子は複数の言語を話せるだけではなく、読み書きまで出来るのだ。ばあやさんへの愛がかなり目立つ彼だが、わりとハイスペックなのである。
とはいえ新たな婚約者が出来たばかりなのにギュンタと仲良くしていてもいいのか。少しだけ不安だ。そんな感情が顔に出ていたのだろう。イヴァンカはふんわりと笑みを浮かべた。
「来週末、サルガス王子が新しい婚約者を紹介してくれることになっているの」
「婚約者同士仲良くしてほしいって、城に招待されたんだ」
「なるほど」
心配はいらなかったようだ。ばあやさんのことと言い、サルガス王子は好きな相手を隠すつもりなどないのだ。
サヴィエーラ王国側としてもファドゥールとスカビオと良い関係を築いておきたいのだろうし、ちょうどいいのかもしれない。
「運動系をメインで取るのは俺だけか」
「時間割見せて……ってロドリーの偏りも凄いね」
見せてもらった時間割の半分以上が実技、それも武術などの運動系科目で埋められていた。なんともロドリーらしい時間割だ。ルクスさんが座学をドサドサと入れなければ、私も似たような時間割になっていたことだろう。
それでもロドリーはバッチリと経営系の授業や言語もちゃんと入っているあたり、私よりも計画性があると言える。
「座学は後期以降にして、前期は空き時間多めでもいいかなって思ったんだが、みんな最初から最後まで詰めるって言うから俺も詰めてみたんだ」
「寮だと学園まですぐだもんね」
「ああ。一時間目入れて、次は四時間目でも余裕で出席出来る」
「そんなことしたらロドリーはギルドに行っちゃうだろ」
「出る日は出る、ギルドに行く日はギルドに行く日で分けた方がいいわ」
「こう言われちゃって」
ギュンタとイヴァンカのアドバイスのおかげか。彼らの時間割を参考にして空いている時間を埋めていったらしい。
先に来ていた彼らとなんてことない話をしていると、少し離れた場所から複数の視線を感じた。遅れて声が聞こえてくる。かなり声を潜めているようだが、私の耳にはバッチリだ。
「多くの腰を救った腰痛の救世主、薬学の名門スカビオ家の令息がいるぞ。俺、初めて見た。本当に同じ歳だったんだな」
「あちらはサヴィエーラ王国の王様を唸らせたというワインを作ったファドゥール領の!」
「その隣にいるのは珍しい力を発現させた平民の少女だわ」
「昨日の様子を見た限り、かなり肝が据わっているぞ」
「彼女はダグラス様の弟子だと聞いたわ」
「嘘だろ。あの人、弟子なんか取るのか……」
「今年は弟子だけじゃなく妹もいるぞ」
「ああ、溺愛しているっていうあの……」
「それより見ろよ。ロドリーがいるぞ。俺、ファンなんだよな~」
「辺境領の奴と仲が良いって本当だったんだな」
私だけ妹枠なのか。
とはいえ王都でお茶会に参加したのは一度きりで、ギュンタのように何かしらの功績があるわけでもない。私は目立ちたい訳でもなく、大切な人達が馬鹿にされている訳でもないので良しとしよう。
それより気になるのは少し離れたところでデッサンしている人達だ。しかも初めにいた席からわざわざ動いて、私達から少し離れた後ろの席を確保している。視線の先にいるのは亀蔵である。
最後列を確保しているパッションピンク王子の視線も同じく感じるがそちらは無視だ。全く情報のなかったデッサン隊の方が気になる。じいっと見ていたからか、デッサン隊の一人がトトトと私の元へとやってきた。
亀蔵がいるからか隣には来ず、私の後ろの席まで来て「後ろから失礼いたします」と声をかけてくる。
「私、こういうものでして」
スッと差し出されたのは一枚の名刺。しかも手で触れてすぐに分かるほど上質な紙が使われている。貴族には見えないので大商会所属の人だろうか。名刺に視線を落とし、刻まれた文字を確認する。
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