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5章
11.亀蔵、授業に興味を持つ
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屋敷に着いてすぐ、ワンタッチネクタイのイラストを描いてイザラクに渡す。
早速余っている布で試作品を作ってみるらしい。紙片手に「ありがとう」と爽やかな笑顔で去って行った。
私は使用人に用意してもらった材料でせっせと揚げスイートポテトと揚げアップルパイを作っていく。
「明日持っていくから多めに作ってくれ」
「初めの一週間は午前授業ですよ?」
「おやつだ。イヴァンカとギュンタにも分けてやる」
「同じ授業を取るかは分かりませんけどね」
「その時は我が食うから問題ない」
「朝に揚げれば済むように多めに包んでおきます」
「うむ」
せっせと生地を作って中身を作って。
その間、ルクスさんは亀蔵と一緒にシラバスを読んでいる。
すでにドラゴン姿に戻っており、シラバスは地面に直置きされている。汚れるのもお構いなしだ。まぁ汚れたところで私の分を見せれば良い話ではあるのだが。
「何かいいのありました?」
生地を寝かせている間に私もシラバスを覗き込む。
ルクスさんはどれもあまり興味がないようだが、亀蔵はかめぇかめえ! と元気に返事してくれる。
「亀蔵はこれが気になるようだ」
ルクスさんはペラペラと捲り、とあるページを見せてくれた。
「土魔法学Ⅲ?」
なぜいきなり三なのか。
試しに一と二を見せてみたがお気に召さない様子。ぷいっと顔を背けてしまった。
よくよく読んでみると同じ土魔法学でも教える先生が違い、Ⅲは特に何かを作り出すことに力を入れているらしい。つまりは造形特化の魔法。亀蔵はこれが気になる、と。
「亀蔵からすればⅠとⅡはどちらもつまらんだろうからな」
「でもⅠとⅡを履修済みの者のみ可って書かれてますよ。先にそっちを受けないと」
「ああ、それについては前の方のページに書かれている」
ルクスさんは本を持ち上げ、一気に前のページへと戻っていく。それから「ここの記述だ」とその中の見出しを指差した。
書かれているのはバッチ持ち生徒の特例について。
先ほど授与されたバッチがあると特例措置を受けることが出来るらしい。
武術なら武術に関する授業で、魔力なら魔法の授業で、座学なら座学授業で、希望する授業を好きに受けることが出来るのだとか。
また教員及び監督員の許可があれば試験も不要になる--と。
「こんなのあるんですね」
「強い生徒や賢い生徒が初級授業に混ざってると邪魔だから他に行けということだな」
「さすがにその表現はドストレートすぎません?」
「だがそういうことだろう。どうせなら卒業に必要な単位数とやらを減らせばいいものを」
「まぁそこまでするとさすがに不平等ですからね」
試験が不要となる場合があるだけでかなり平等性は失われているが。
これもレミリアさんのような生徒がごくごく一般的な男子生徒と戦うようなことを防ぐための措置なのだろう。
バッチ持ちの生徒を優遇するように見せて、本来の目的は一般生徒を守るため。
学園は生徒を守る立場にあるので何かしら対応を取る必要があり、その形がバッチだった、と。
「担当教員に聞くようにって書かれてるから今度聞いてみますか」
「うむ。他のも実技はⅢにするのだ。弱いのの相手をちまちましていても時間の無駄だ」
「でも実技のⅠとⅡを飛ばすとなると単位取るのが面倒くさくなりますよ?」
「座学を取ればいいだろう。座学で名前を呼ばれなかったのだから勉学に励むべきだ」
「ゔっ」
もう少しオブラートに包んでくれてもいいのに……。
ルクスさんはすでに私の弱い分野を把握している。五年以上前からほとんど一緒に過ごしてきたのだ。弱みも強みもバレている。
「これとこれと……これも受けておけ」
ひたすら私が苦手そうな授業をピックアップしていく。しかも実技の時間と被っているところを着実に選んでいる。
すでに時間割まで頭に入っているとは……。
さっきは全く興味なさそうだったのに、これが座学一位の記憶力ということか。
記憶力を少しばかり分けて欲しいものである。
代わりに私が差し出せるのはおやつくらいなものだが、芋を使ったおやつならまだいくつか候補がある。
「算術! 算術も受けましょう?」
「すでに計算は出来るだろう。不要だ」
「でも帳簿付けもあるらしいですし。計算だけ出来ても困ることが出て来るかもですよ!」
算術のページを探し、ドンっと見せつける。
数学と簿記を混ぜたような感じかな。けれどルクスさんは鼻で笑って一刀両断した。
「そんなもの領主にさせておけ」
「えーーー」
「えーーじゃない。どうせ領に戻ったら普通の勉強などしないのだ。今のうちにやっておけ」
ルクスさんの中で既に確定しているらしく、妥協する気がない。
私のためを思ってということは分かるので、ブツブツと文句を言いつつもおやつ作りを再開する。
生地を作って、中身を包んで揚げ始めた頃、アカがやってきた。
早速余っている布で試作品を作ってみるらしい。紙片手に「ありがとう」と爽やかな笑顔で去って行った。
私は使用人に用意してもらった材料でせっせと揚げスイートポテトと揚げアップルパイを作っていく。
「明日持っていくから多めに作ってくれ」
「初めの一週間は午前授業ですよ?」
「おやつだ。イヴァンカとギュンタにも分けてやる」
「同じ授業を取るかは分かりませんけどね」
「その時は我が食うから問題ない」
「朝に揚げれば済むように多めに包んでおきます」
「うむ」
せっせと生地を作って中身を作って。
その間、ルクスさんは亀蔵と一緒にシラバスを読んでいる。
すでにドラゴン姿に戻っており、シラバスは地面に直置きされている。汚れるのもお構いなしだ。まぁ汚れたところで私の分を見せれば良い話ではあるのだが。
「何かいいのありました?」
生地を寝かせている間に私もシラバスを覗き込む。
ルクスさんはどれもあまり興味がないようだが、亀蔵はかめぇかめえ! と元気に返事してくれる。
「亀蔵はこれが気になるようだ」
ルクスさんはペラペラと捲り、とあるページを見せてくれた。
「土魔法学Ⅲ?」
なぜいきなり三なのか。
試しに一と二を見せてみたがお気に召さない様子。ぷいっと顔を背けてしまった。
よくよく読んでみると同じ土魔法学でも教える先生が違い、Ⅲは特に何かを作り出すことに力を入れているらしい。つまりは造形特化の魔法。亀蔵はこれが気になる、と。
「亀蔵からすればⅠとⅡはどちらもつまらんだろうからな」
「でもⅠとⅡを履修済みの者のみ可って書かれてますよ。先にそっちを受けないと」
「ああ、それについては前の方のページに書かれている」
ルクスさんは本を持ち上げ、一気に前のページへと戻っていく。それから「ここの記述だ」とその中の見出しを指差した。
書かれているのはバッチ持ち生徒の特例について。
先ほど授与されたバッチがあると特例措置を受けることが出来るらしい。
武術なら武術に関する授業で、魔力なら魔法の授業で、座学なら座学授業で、希望する授業を好きに受けることが出来るのだとか。
また教員及び監督員の許可があれば試験も不要になる--と。
「こんなのあるんですね」
「強い生徒や賢い生徒が初級授業に混ざってると邪魔だから他に行けということだな」
「さすがにその表現はドストレートすぎません?」
「だがそういうことだろう。どうせなら卒業に必要な単位数とやらを減らせばいいものを」
「まぁそこまでするとさすがに不平等ですからね」
試験が不要となる場合があるだけでかなり平等性は失われているが。
これもレミリアさんのような生徒がごくごく一般的な男子生徒と戦うようなことを防ぐための措置なのだろう。
バッチ持ちの生徒を優遇するように見せて、本来の目的は一般生徒を守るため。
学園は生徒を守る立場にあるので何かしら対応を取る必要があり、その形がバッチだった、と。
「担当教員に聞くようにって書かれてるから今度聞いてみますか」
「うむ。他のも実技はⅢにするのだ。弱いのの相手をちまちましていても時間の無駄だ」
「でも実技のⅠとⅡを飛ばすとなると単位取るのが面倒くさくなりますよ?」
「座学を取ればいいだろう。座学で名前を呼ばれなかったのだから勉学に励むべきだ」
「ゔっ」
もう少しオブラートに包んでくれてもいいのに……。
ルクスさんはすでに私の弱い分野を把握している。五年以上前からほとんど一緒に過ごしてきたのだ。弱みも強みもバレている。
「これとこれと……これも受けておけ」
ひたすら私が苦手そうな授業をピックアップしていく。しかも実技の時間と被っているところを着実に選んでいる。
すでに時間割まで頭に入っているとは……。
さっきは全く興味なさそうだったのに、これが座学一位の記憶力ということか。
記憶力を少しばかり分けて欲しいものである。
代わりに私が差し出せるのはおやつくらいなものだが、芋を使ったおやつならまだいくつか候補がある。
「算術! 算術も受けましょう?」
「すでに計算は出来るだろう。不要だ」
「でも帳簿付けもあるらしいですし。計算だけ出来ても困ることが出て来るかもですよ!」
算術のページを探し、ドンっと見せつける。
数学と簿記を混ぜたような感じかな。けれどルクスさんは鼻で笑って一刀両断した。
「そんなもの領主にさせておけ」
「えーーー」
「えーーじゃない。どうせ領に戻ったら普通の勉強などしないのだ。今のうちにやっておけ」
ルクスさんの中で既に確定しているらしく、妥協する気がない。
私のためを思ってということは分かるので、ブツブツと文句を言いつつもおやつ作りを再開する。
生地を作って、中身を包んで揚げ始めた頃、アカがやってきた。
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