第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

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5章

6.ファドゥール・スカビオ組の到着

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「無事到着おめでとう!!」
「ウェスパルったらおおげさよ」
「荷物が多くて人数が多い分、長旅になったからな」

 イヴァンカとギュンタを筆頭としたファドゥール・スカビオ組は予定よりも三日遅れて王都に到着した。

 待ちきれなくて王都の城門に度々足を運んだが、一向に彼らの乗った馬車がやってこないので何かあったのではないかと本気で心配した。

 アカに低空飛行してもらってルートを逆走しようとしたほどだ。


 彼らがそれほど遅れたのには理由があった。

 途中、魔物の大群に遭遇したらしい。
 といってもこちらは大した問題ではなく、レイミアさんが精霊達と共に一掃したそう。

 王都に向かう途中だからとギルドに持ち込んだのだが、あまりの多さで買い取りに時間がかかったそうだ。

 誰かがギルド登録をしていれば引き取りは後日にも出来たそうだが、誰もしていなかったので足止めを食らってしまった。その間に領主から感謝されたりとまぁ色々あって遅れた--と。なんとも想定外な理由だったが、全員怪我なく健康で何よりであった。


 やはり精霊への賄賂は重要だった。
 話している間も彼らは私の周りを飛び回っている。まるで追加くれてもいいんですよ? とでも言うように。


 入学前試験は明明後日。
 すでに日が暮れているので、二人ともこの後はもう休むそうだ。

 すでに他のメンバーは各自の部屋に戻っている。長旅で疲れているようで、私達はお茶を飲んだらお暇するつもり。無事に二人の顔が見られただけで満足だ。

 ギリギリに到着した彼らは明日・明後日と荷ほどきに追われることになる。私も手伝うと言ったのだが、丁重にお断りされた。

 なので私には明日・明後日と時間がある。
 アカの背中に乗せてもらって一度実家に帰ろうか。
 今後も何かあったら賄賂という名の魔結晶を渡すことになりそうだし、ストックが欲しい。

「じゃあ私達は帰るわ。今度会う時に魔結晶を持ってくるから」
 イヴァンカとギュンタ、そして精霊達に声をかけて学生寮を後にする。

「このタイミングで離れても大丈夫なのか?」

 外に出てすぐ、ルクスさんは心配そうな声でそう尋ねてきた。
 ここ数日、彼らを心配していたのはルクスさんも同じなのだ。

「はい。ゲームでは彼らは王都に着いてさえいませんから」
「そうか。良かったな」
「ひとまず安心しました」

 二人の死の直接的な原因はやはり分からない。王都に向かう道中でも死亡フラグらしきものがあった気がしなくもない。

 だがそれはレイミアさんと精霊によってバッキバキに折られた。
 ここまで加わると死因の断定は難しい。けれど二人が生きて王都に到着した時点で、彼らに関するシナリオの改変は済んでいる。

 それに学園寮にいて死ぬ事なんて滅多にないはずだ。レイミアさんも精霊もついている。信頼しているから大丈夫。


 残すはウェスパルの闇落ちの謎のみ。

 これだけがウェスパル自身の意思で行っていること。
 ヒロインへの妨害行為も含め、思い当たる節が全くない。ないからこそ、最もシナリオ回避しづらい厄介事とも言える。

 二人が生き残ったことでゲーム版ウェスパルの闇落ちが変な方向に突き進まないことを祈るばかりだ。


 翌日、アカの背中に乗ってシルヴェスターへと戻った。
 そして一日かけて魔結晶を大量に作り、次の日の夕方に再び王都に戻る。
 お父様とお母様は久々の亀蔵を堪能し、スッキリとした顔で見送ってくれた。


 そしていよいよやってきた入学前テストの日。
 知らない人達も沢山いるだろうと緊張して国立競技場に足を運んだのだが……。

「知っている人ばっかり」

 見事に辺境三領とお茶会で会うメンバーばかりだった。
 一部見知らぬ男子生徒がいるが、彼らは全員ロドリーの知り合いのようだ。遠目でも脳筋っぽいなと分かる彼らからはやる気がみなぎっている。

 周りを眺めながら測定の開始を今か今かと楽しみにしているようだ。

 結果、体操着を身に纏った彼らは和気藹々としている。
 場所と服装こそ違うが、肌に馴染むほのぼのとした空気感に唖然としてしまう。

 目を丸くする私に、イザラクはなんてことないように教えてくれた。

「今年は召喚獣や精霊と契約している生徒が多いから、二グループに分けたんだよ」
「基準は?」
「学園の校庭を使っての測定に問題があるかどうかかな。ダグラス兄さんが測定時に窓ガラスを何枚か割って、一部の壁も崩れたみたいだから。測定にもかなり時間がかかったって聞くし、今回は魔獣・精霊と一緒に参加する生徒が多いから国立競技場を押さえたんだと思う」
「学園の設備ってもろいのね……」
「この数年でかなり見直したらしいけど、壊されたらたまらないってところかな。あそこに固まっている令息達は魔獣や精霊と契約していないみたいだけど、武術系の大会で好記録を残していたり、騎士の家系だったり。他の生徒達と比較すると体力に優れている人達だ」
「なるほど」

 だからマーシャル王子の姿が見えないのか。ノルマンディ商会の息子もそっちかな。

 イザラク曰く、もう一つのグループは学園の校庭に集められているらしい。

 試験のお知らせが届いた時からずっと、なぜ球技場で筆記試験もやるのか疑問だった。多分、試験情報が流れるのを防ぐためなのだろう。

 人数はこちらの方が少ないらしいが、明らかに確保してある時間が長い。
 その上、この国立競技場は王都最大の施設で、武術大会や魔獣コンテストで使われている。ちなみに入学前試験で使われるのは初めてだそうだ。

 それほどお兄様の時の被害が大きかったのだろう。
 だがそのお兄様から直接指導を受けたレイミアさんが試験に参加しているので、そのくらい考えていて正解だったと思う。

 彼女は今、ストレッチをしながら何やらブツブツ呟いている。
 多分集中モードに入るための儀式とかそんなものなのだろう。

 ちなみに留学生は別日程らしく、亀蔵に目を付けているという他国の王子もいなかった。
 これなら気兼ねなく亀蔵の実力を発揮させられそうだ。

「頑張ろうね、亀蔵」
「かめぇえ」
「なら我が人型になる必要はないのではないか?」
「ルクスさんは学生として登録してあるから試験は受けて欲しいそうだ」


 今日はルクスさんも人型で参加している。
 知らない人がいるかもと緊張している私を見て、自ら体操服の袖に腕を通してくれた。だが今は完全にやる気を失っている。

 ざっくりとしたプログラムは事前に送られてきており、すでに目を通しているからなおのこと。実技はともかく、筆記も四時間あるので面倒なのだろう。

 あちらのグループにも全く同じプログラムが渡されているかどうかは怪しい。
 女子生徒にも剣術・体術項目があるのもこちらのグループだけな気がする。

 その他は砲丸投げとか往復持久走とか前世の体力測定にもあった項目がずらりと並んでいる。往復持久走の間隔の桁が違い、二百×二になっているが。

 ここに集められたメンバーにとってはこのくらい余裕なのだろう。
 だが普通の貴族、特に令嬢がこれをこなせるとは思わないのだが、制定した人は何を基準にしたのか。少し気になってしまう。

「面倒くさい」
「まぁそう言わず頑張りましょう」

 そんな話をしていると集合の声がかかった。
 ほら行きましょうとルクスさんの手を引いて整列するのだった。
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