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5章
5.黒い石
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だがお兄様が変な人と会わせるはずもなく、ただただいい人達なのだろう。
だがそこまで割り切ることが出来ない。かといって今後頼るかもしれない人達を警戒し続けるというのも失礼に当たる。
思い切って兄達との出逢いを聞いてみることにした。
「皆さんはなぜお兄様と……」
おずおずと切り出せば、三人とも柔らかく笑った。ふわふわと人好きな笑みである。
「聞きたくなる気持ち、よく分かるよ」
「実力全然違うもんな」
「初めて声をかけられた時は驚いたよ」
「すみません。優しそうだったもので」
「すごくいい人そうだったので」
「驚いただけだから気にしないで。俺にも少し年の離れた妹がいるんだ」
「俺達の故郷は結構王都から離れていて、ダグラス君が心配に思う気持ちも分かるよなって話をしていたところに声をかけられた」
「正直、二人のことは地元の年下の子達のように見ている」
楽しそうに笑う彼らはシルヴェスターの領民によく似ていた。
だからこそお兄様は彼らを信用したのだろう。後々、三領のどこかに来てくれないかなという期待を込めて。
地元愛が強そうだから、きっとシルヴェスターを選んでくれることはないと思う。それでも決してマイナスになることはない。私達にとって、家族や故郷を大切に出来る人ほど信頼出来る人はいない。
「彼らはこういう人達だ」
「信頼出来るだろう?」
お兄様とライヒムさんはにっこりと笑う。
私とロドリーは顔を見合わせ、そして大きく頷いた。
「あ、でもダグラス君の妹じゃなくてもウェスパルさんに声をかけていたと思う」
「まさか髪も目も、連れているドラゴンのうろこまで黒いとはな……」
「どういうことですか?」
「俺達の出身地では黒が縁起が良い色とされているんだ」
「特に村長の家に飾られている石のように光沢のある黒は大事にしろって昔から言い聞かされてきた」
「村の外に出る時は必ず、お守りとして黒い石を身につける習慣があるんだ。それで外に出た時に同じような石を持ち帰る」
彼らはそう言いながら、石がはめ込まれたバッグ・剣の柄・腕輪を見せてくれた。
確かにどの石も黒くて光沢がある。まるでルクスさんの鱗のようだ。
「宝石、ですか?」
黒い宝石は何種類かある。有名どころだとオニキスやスピネルなんかがそう。ブラックダイヤモンドなんてものもある。
黒い宝石は魔除けや厄除けの効果があり、守護石として使われていたと聞いたことがある。彼らの村でも似たような習慣があるのだろうか。
「いや、ただの石だ」
「村長の家にあるのもただの石だな。何かを模していると言っていたような?」
「困ったときに守ってくれる存在だったはずだが、よく思い出せない。神様でないのだけは確かなんだが……」
「村長も正確な記録は残っていないって言ってなかったっけ?」
「そうだったかも。俺達が石もらう時、村長は腰を痛めていてそれどころじゃなかったから、ちゃんとした説明をされていないんだよな……」
大事に手入れしてあるわりにはあやふやだ。
大事にしろと言い聞かされていたから大事にしている、みたいな。
だが地方の風習なんて大体そんなものなのかもしれない。しっかりと文献が残っていたり、正確に言い伝えられていたりすることの方が稀な気がする。
神様ですらそうなのだ。そこが面白いところだと以前、イザラクに熱弁されたことを思い出す。
私が首を捻っていると、三人は困ったように笑った。
「とりあえず大事なのは石ではなく色だったはず。うちの村では冠婚葬祭なんでも黒い服で出るんだ」
「不思議な習慣ですね」
「村を出るまではどこも同じだと思っていたんだけどな」
「白や赤が神聖な色として大事にされている地域は多いが、黒を縁起の良い色としているところは今のところ自分達のところしか知らないな」
「マイナスな意味を持つ場所はあるが、俺達からすれば悪い理由がよく分からないしな~」
白はおそらくシロが関係しているのだろう。
獣神を神として祀っていた国はいくつかあったはず。
赤も同じく神様の色だろう。
前世でも紅白で縁起が良いとされており、紅白団子や紅白まんじゅうなんてものがあった。
だが黒は不吉や恐怖を表す色として知られていることが多かった。
喪服も黒だし、死に神も黒。今世でもどちらかといえば怖いイメージが強かったはず。
シルヴェスターではあまり色は気にしたことがなかったけど、貴族女性が黒いドレスを身に纏うのは喪に服している時のみだ。
だが前世の裁判官は揺るぎない意思を持つという意味で黒い服を着ていた。今世でも前世でも男性の服には黒も多く使われるので一概にマイナスイメージばかりという訳ではない。
なにより前世も今世も私は黒目黒髪。
縁起が良いかと聞かれると悩むが、不吉かと言われればはっきりとノーと主張する。
「俺もウェスパルの髪の色が好きだ」
「ダグラスは黒でなくてもそうだろう」
「兄が妹を大切に思うのは当然だ」
「ダグラス君は本当に妹さんが大事なんだな」
アンドゥトロワさんはハハハと笑いながら私達を歓迎してくれたのだった。
その後、私とロドリーは冒険者登録を行った。
ルクスさんと亀蔵は私と契約しているということで、登録は不要とのこと。
簡単な説明を受けてからヴァレンチノ屋敷へと帰るのだった。
だがそこまで割り切ることが出来ない。かといって今後頼るかもしれない人達を警戒し続けるというのも失礼に当たる。
思い切って兄達との出逢いを聞いてみることにした。
「皆さんはなぜお兄様と……」
おずおずと切り出せば、三人とも柔らかく笑った。ふわふわと人好きな笑みである。
「聞きたくなる気持ち、よく分かるよ」
「実力全然違うもんな」
「初めて声をかけられた時は驚いたよ」
「すみません。優しそうだったもので」
「すごくいい人そうだったので」
「驚いただけだから気にしないで。俺にも少し年の離れた妹がいるんだ」
「俺達の故郷は結構王都から離れていて、ダグラス君が心配に思う気持ちも分かるよなって話をしていたところに声をかけられた」
「正直、二人のことは地元の年下の子達のように見ている」
楽しそうに笑う彼らはシルヴェスターの領民によく似ていた。
だからこそお兄様は彼らを信用したのだろう。後々、三領のどこかに来てくれないかなという期待を込めて。
地元愛が強そうだから、きっとシルヴェスターを選んでくれることはないと思う。それでも決してマイナスになることはない。私達にとって、家族や故郷を大切に出来る人ほど信頼出来る人はいない。
「彼らはこういう人達だ」
「信頼出来るだろう?」
お兄様とライヒムさんはにっこりと笑う。
私とロドリーは顔を見合わせ、そして大きく頷いた。
「あ、でもダグラス君の妹じゃなくてもウェスパルさんに声をかけていたと思う」
「まさか髪も目も、連れているドラゴンのうろこまで黒いとはな……」
「どういうことですか?」
「俺達の出身地では黒が縁起が良い色とされているんだ」
「特に村長の家に飾られている石のように光沢のある黒は大事にしろって昔から言い聞かされてきた」
「村の外に出る時は必ず、お守りとして黒い石を身につける習慣があるんだ。それで外に出た時に同じような石を持ち帰る」
彼らはそう言いながら、石がはめ込まれたバッグ・剣の柄・腕輪を見せてくれた。
確かにどの石も黒くて光沢がある。まるでルクスさんの鱗のようだ。
「宝石、ですか?」
黒い宝石は何種類かある。有名どころだとオニキスやスピネルなんかがそう。ブラックダイヤモンドなんてものもある。
黒い宝石は魔除けや厄除けの効果があり、守護石として使われていたと聞いたことがある。彼らの村でも似たような習慣があるのだろうか。
「いや、ただの石だ」
「村長の家にあるのもただの石だな。何かを模していると言っていたような?」
「困ったときに守ってくれる存在だったはずだが、よく思い出せない。神様でないのだけは確かなんだが……」
「村長も正確な記録は残っていないって言ってなかったっけ?」
「そうだったかも。俺達が石もらう時、村長は腰を痛めていてそれどころじゃなかったから、ちゃんとした説明をされていないんだよな……」
大事に手入れしてあるわりにはあやふやだ。
大事にしろと言い聞かされていたから大事にしている、みたいな。
だが地方の風習なんて大体そんなものなのかもしれない。しっかりと文献が残っていたり、正確に言い伝えられていたりすることの方が稀な気がする。
神様ですらそうなのだ。そこが面白いところだと以前、イザラクに熱弁されたことを思い出す。
私が首を捻っていると、三人は困ったように笑った。
「とりあえず大事なのは石ではなく色だったはず。うちの村では冠婚葬祭なんでも黒い服で出るんだ」
「不思議な習慣ですね」
「村を出るまではどこも同じだと思っていたんだけどな」
「白や赤が神聖な色として大事にされている地域は多いが、黒を縁起の良い色としているところは今のところ自分達のところしか知らないな」
「マイナスな意味を持つ場所はあるが、俺達からすれば悪い理由がよく分からないしな~」
白はおそらくシロが関係しているのだろう。
獣神を神として祀っていた国はいくつかあったはず。
赤も同じく神様の色だろう。
前世でも紅白で縁起が良いとされており、紅白団子や紅白まんじゅうなんてものがあった。
だが黒は不吉や恐怖を表す色として知られていることが多かった。
喪服も黒だし、死に神も黒。今世でもどちらかといえば怖いイメージが強かったはず。
シルヴェスターではあまり色は気にしたことがなかったけど、貴族女性が黒いドレスを身に纏うのは喪に服している時のみだ。
だが前世の裁判官は揺るぎない意思を持つという意味で黒い服を着ていた。今世でも前世でも男性の服には黒も多く使われるので一概にマイナスイメージばかりという訳ではない。
なにより前世も今世も私は黒目黒髪。
縁起が良いかと聞かれると悩むが、不吉かと言われればはっきりとノーと主張する。
「俺もウェスパルの髪の色が好きだ」
「ダグラスは黒でなくてもそうだろう」
「兄が妹を大切に思うのは当然だ」
「ダグラス君は本当に妹さんが大事なんだな」
アンドゥトロワさんはハハハと笑いながら私達を歓迎してくれたのだった。
その後、私とロドリーは冒険者登録を行った。
ルクスさんと亀蔵は私と契約しているということで、登録は不要とのこと。
簡単な説明を受けてからヴァレンチノ屋敷へと帰るのだった。
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