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5章
4.王都の冒険者 アンドゥトロワ
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「ウェスパル、ルクスさん、亀蔵」
朝食後、外で焼き芋を作っていると上空からお兄様の声がした。
私達だけではなく、近くの家の人達もすでに慣れているようだ。驚く様子はない。
アカはバッサバッサと羽音を立てながらゆっくりと降りてきた。
けれど今日はアカの背中にはお兄様だけではなく、ロドリーとライヒムさんの姿もあった。
ロドリーと会うのも久しぶりだ。以前会った時よりも少しだけ背が伸びていて、ますます乙女ゲームに出てくる姿に近づいていた。
といってもステータスはゲームと比べものにならないくらいに強いのだろうが。
タータス兄弟はアカの上から降りると、爽やかな笑みを浮かべた。
「久しぶり。元気そうだな」
「これ、良かったらみんなで食べてくれ」
差し出された袋は見覚えのあるものだった。
紐を解き、中身を確認する。入っていたのはみんな大好きジャーキーだった。それもかなりの量である。多分私とルクスさんだけではなく、ヴァレンチノ公爵家の分も持ってきてくれたのだろう。
「こんなにいいの!?」
「これから三年間、お世話になることも多いと思うから持って行けって」
「良い心がけだ」
久しぶりのジャーキーに、ルクスさんはほくほく顔である。早速袋に手を突っ込んで、一つ取り出す。そのままもぐもぐと食べ始めた。
この場に行儀が悪いと突っ込む人はいない。プレゼントをしてくれたロドリーも「喜んでもらえて嬉しい」とニコニコしている。
「亀蔵には魔石な。ここに来る前に討伐した魔物から取れたんだ」
「かめぇ」
「ありがとう。ところで今日はどんな用事で? ロドリーも確か寮に入るのよね?」
この前もらった手紙には「徒歩通学は楽だが門限が厳しい」と書かれていた。ゲームのロドリールートでも門限云々という話は出てきたのでバッチリ覚えている。
タータス領から王都まではそこそこの日数がかかるはずなので、そろそろ出発する頃だと思ったのだが……。そんな私の予想は当たっていたらしい。
「ああ。明日には荷物を載せた馬車で学園に出発する予定だ」
「今日はうちのロドリーとウェスパル嬢の冒険者登録を済ませようと思ってきた」
「アンドゥトロワの皆さんが王都にいるうちに挨拶しておきたいしな。ちゃんと手土産も持ってきた」
ここで出てくるのか、アンドゥトロワさん。お兄様だけではなく、ライヒムさんもその不思議な名前のパーティーを信頼しているらしい。
とりあえずトングをお兄様に託して、使用人とイザラクにお兄様達の訪問を伝える。
「そういうことなら俺が焼き芋を見ているよ」
「いいの?」
「本を読みながらになるけど、ウェスパルが作っているところを何回か見ているから大丈夫」
「頼んだぞ」
イザラクとアカは屋敷でお留守番。
焼き芋担当を任せて、みんなでギルドへ向かう。ただし馬車ではなく徒歩で。
以前イザラクに聞いた話ではそこそこ離れているとのことだったが、お兄様達にとっては大した距離ではないらしい。ロドリーも同じ。亀蔵はハウスに戻ってもらい、ルクスさんは胸の前で抱えて三人と一緒に歩く。
そのまま歩くことしばらく。ギルドへと到着した。想像の数倍は大きい。建物もそうだが、入り口もなかなか。
これだけ大きければアカでも入れるのではなかろうか。一応馬車置き場もあったが、依頼者向けなのだろう。
出てきた人達の服装はどうみても冒険者をしている人には見えなかった。
「ウェスパル、亀蔵を呼んでくれ」
兄に言われ、ハウスから亀蔵を呼び出す。
そしてゆっくりとギルドの敷地をくぐる。一瞬でギルドの空気が変わった。
外にいても聞こえたほどのざわめきはピタリと止み、誰もが私達に注目する。
正確には視線の先にいるのはお兄様とライヒムさん。けれど二人は気にすることはなく、真っ直ぐと飲食スペースへと向かっていく。
すると一組だけ構わず食事を続けているグループがあった。こんな空気の中でもほのぼのと食事を楽しんでいる男性三人組の彼らこそ、アンドゥトロワさんだったらしい。
「お久しぶりです」
お兄様が声をかけると、ハッと顔を上げた。
「ダグラス君、ライヒム君。久しぶり」
そして空いている席に座って座ってと勧めてくれる。流れるように飲み物と軽食を注文してくれる辺り、関係が良好なのは確かだ。
しかもルクスさんと亀蔵の分までバッチリ。
周りも注文の声をきっかけに警戒するのを止めたようだ。各々自分の作業に戻っていった。
「元気そうだな」
「後ろにいるのは妹さんと弟さん?」
「はい。俺の妹のウェスパル、ルクスさんと亀蔵です」
「こっちは弟のロドリーです」
私とロドリーは続けてぺこりと頭を下げる。
「初めまして。アンディ、ドゥーダ、トロワンドです」
「俺達は主に王都のギルドを中心に冒険者をしている」
「君達の話はダグラス君とライヒム君から聞いているよ。飲み物と食べ物勝手に頼んじゃったけど大丈夫だった?」
「はい。大丈夫です」
「ありがとうございます」
「俺も兄貴から皆さんのお話は聞いています。頼れる人達だと」
「恥ずかしいな」
「俺達はダグラス君とライヒム君ほど強くはないんだけど、いろんな仕事もやってきたから知識や経験だけはそこそこあるんだ」
「王都で困ったことや冒険者として分からないことがあったら遠慮なく頼ってよ」
運ばれてきた食事と飲み物を分けてもらいながら、なんてことない話をしていく。
なんだろう、この滲み出るいい人感。
普通に遭遇していたら逆に警戒してしまいそうだ。ロドリーも若干表情が固い。
朝食後、外で焼き芋を作っていると上空からお兄様の声がした。
私達だけではなく、近くの家の人達もすでに慣れているようだ。驚く様子はない。
アカはバッサバッサと羽音を立てながらゆっくりと降りてきた。
けれど今日はアカの背中にはお兄様だけではなく、ロドリーとライヒムさんの姿もあった。
ロドリーと会うのも久しぶりだ。以前会った時よりも少しだけ背が伸びていて、ますます乙女ゲームに出てくる姿に近づいていた。
といってもステータスはゲームと比べものにならないくらいに強いのだろうが。
タータス兄弟はアカの上から降りると、爽やかな笑みを浮かべた。
「久しぶり。元気そうだな」
「これ、良かったらみんなで食べてくれ」
差し出された袋は見覚えのあるものだった。
紐を解き、中身を確認する。入っていたのはみんな大好きジャーキーだった。それもかなりの量である。多分私とルクスさんだけではなく、ヴァレンチノ公爵家の分も持ってきてくれたのだろう。
「こんなにいいの!?」
「これから三年間、お世話になることも多いと思うから持って行けって」
「良い心がけだ」
久しぶりのジャーキーに、ルクスさんはほくほく顔である。早速袋に手を突っ込んで、一つ取り出す。そのままもぐもぐと食べ始めた。
この場に行儀が悪いと突っ込む人はいない。プレゼントをしてくれたロドリーも「喜んでもらえて嬉しい」とニコニコしている。
「亀蔵には魔石な。ここに来る前に討伐した魔物から取れたんだ」
「かめぇ」
「ありがとう。ところで今日はどんな用事で? ロドリーも確か寮に入るのよね?」
この前もらった手紙には「徒歩通学は楽だが門限が厳しい」と書かれていた。ゲームのロドリールートでも門限云々という話は出てきたのでバッチリ覚えている。
タータス領から王都まではそこそこの日数がかかるはずなので、そろそろ出発する頃だと思ったのだが……。そんな私の予想は当たっていたらしい。
「ああ。明日には荷物を載せた馬車で学園に出発する予定だ」
「今日はうちのロドリーとウェスパル嬢の冒険者登録を済ませようと思ってきた」
「アンドゥトロワの皆さんが王都にいるうちに挨拶しておきたいしな。ちゃんと手土産も持ってきた」
ここで出てくるのか、アンドゥトロワさん。お兄様だけではなく、ライヒムさんもその不思議な名前のパーティーを信頼しているらしい。
とりあえずトングをお兄様に託して、使用人とイザラクにお兄様達の訪問を伝える。
「そういうことなら俺が焼き芋を見ているよ」
「いいの?」
「本を読みながらになるけど、ウェスパルが作っているところを何回か見ているから大丈夫」
「頼んだぞ」
イザラクとアカは屋敷でお留守番。
焼き芋担当を任せて、みんなでギルドへ向かう。ただし馬車ではなく徒歩で。
以前イザラクに聞いた話ではそこそこ離れているとのことだったが、お兄様達にとっては大した距離ではないらしい。ロドリーも同じ。亀蔵はハウスに戻ってもらい、ルクスさんは胸の前で抱えて三人と一緒に歩く。
そのまま歩くことしばらく。ギルドへと到着した。想像の数倍は大きい。建物もそうだが、入り口もなかなか。
これだけ大きければアカでも入れるのではなかろうか。一応馬車置き場もあったが、依頼者向けなのだろう。
出てきた人達の服装はどうみても冒険者をしている人には見えなかった。
「ウェスパル、亀蔵を呼んでくれ」
兄に言われ、ハウスから亀蔵を呼び出す。
そしてゆっくりとギルドの敷地をくぐる。一瞬でギルドの空気が変わった。
外にいても聞こえたほどのざわめきはピタリと止み、誰もが私達に注目する。
正確には視線の先にいるのはお兄様とライヒムさん。けれど二人は気にすることはなく、真っ直ぐと飲食スペースへと向かっていく。
すると一組だけ構わず食事を続けているグループがあった。こんな空気の中でもほのぼのと食事を楽しんでいる男性三人組の彼らこそ、アンドゥトロワさんだったらしい。
「お久しぶりです」
お兄様が声をかけると、ハッと顔を上げた。
「ダグラス君、ライヒム君。久しぶり」
そして空いている席に座って座ってと勧めてくれる。流れるように飲み物と軽食を注文してくれる辺り、関係が良好なのは確かだ。
しかもルクスさんと亀蔵の分までバッチリ。
周りも注文の声をきっかけに警戒するのを止めたようだ。各々自分の作業に戻っていった。
「元気そうだな」
「後ろにいるのは妹さんと弟さん?」
「はい。俺の妹のウェスパル、ルクスさんと亀蔵です」
「こっちは弟のロドリーです」
私とロドリーは続けてぺこりと頭を下げる。
「初めまして。アンディ、ドゥーダ、トロワンドです」
「俺達は主に王都のギルドを中心に冒険者をしている」
「君達の話はダグラス君とライヒム君から聞いているよ。飲み物と食べ物勝手に頼んじゃったけど大丈夫だった?」
「はい。大丈夫です」
「ありがとうございます」
「俺も兄貴から皆さんのお話は聞いています。頼れる人達だと」
「恥ずかしいな」
「俺達はダグラス君とライヒム君ほど強くはないんだけど、いろんな仕事もやってきたから知識や経験だけはそこそこあるんだ」
「王都で困ったことや冒険者として分からないことがあったら遠慮なく頼ってよ」
運ばれてきた食事と飲み物を分けてもらいながら、なんてことない話をしていく。
なんだろう、この滲み出るいい人感。
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