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5章
1.揚げスイートポテトと揚げアップルパイ
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「外に用意した調理スペースを確認してくれるか?」
朝起きてもそもそとご飯を食べていると、イザラクがそう切り出した。
なんでも私とルクスさんのためにたき火スペース、もとい焼き芋スペースとプラスアルファを作ってくれたらしい。
「そんなものがあるのか」
「といっても本当に屋根とか机を作っただけの簡易的なスペースだけど」
こっちこっちと案内されたのは公爵屋敷の裏。
前回王都に来た時、花壇があったはずのその場所には屋根付きの調理スペースがあった。
キャンプ場にありそうな感じだが、一部に大きなくぼみがある。
たき火に使えそうな薪が積んであったり、水道が用意されていたり。ぽつんと置かれた木箱を開ければ調理セットが入っていた。
「至れり尽くせり……」
「かめぇ」
いつも穴ぼこを用意していた亀蔵も、くぼみの綺麗さにはびっくりしているようだ。
「また足りないものや材料が必要だったら声をかけてくれってお父様が」
「伯父様が作ってくれたの!?」
「お父様もコーラが気に入ったみたいだから。ドラゴンの知識でまた新しいものを作ったら是非教えて欲しいってさ」
「なるほど」
これは先行投資という訳か。
といってもあれはドラゴンの知識ではなく、私の前世の知識で作ったものだ。
そこまで大したものは作れないのであまり期待されても困るのだが……。
「ウェスパルよ、折角だから何か作ってみたらどうだ? 芋を使ったおやつとか」
「芋を使った変わったおやつですか? そんないきなり言われてもすぐには……。あ!」
「何か良い物が浮かんだのか?」
「揚げスイートポテトを作りましょう。ついでに揚げアップルパイも。イザラク、薄力粉と強力粉、塩、砂糖、林檎、バター、生クリームを用意してもらえる?」
「分かった」
イザラクはコクリと頷いて屋敷へと戻っていった。
そのうちに箱に入っていた調理道具とスポンジ、洗剤を取り出してささっと洗う。そしてたき火の準備をしてからお湯を沸かす。
揚げスイートポテトと揚げアップルパイと言えば、前世の我が家で揚げ餃子をした翌日のおやつとして定番だった。
肉だねを余らせても仕方ないので皮を多めに作っておくと、今度は皮が余るから有効活用しようという考えから定番化したのである。
餃子はたくさん食べられるし、おやつも食べられるしで嬉しかった。
皮作りも難しくはないし、少ない材料で作れる。
強力粉がある家・ない家は分かれると思うが、我が家も常備していた訳ではなく、余った強力粉を使ってパンやクッキーを焼くまでがセットだった。
思い出したらすっかりと揚げスイートポテトのお腹になってきた。
「揚げスイートポテト、とはなんだ?」
「小麦粉で作った皮にスイートポテトの生地を入れて油でささっと揚げたものです。アップルパイは同じ皮に煮詰めた林檎を詰めます」
「美味いのか?」
「それはもう! 先に皮を作らないとですが、パイ生地ほど寝かせる時間は長くないので簡単で早く出来ます」
「アップルパイに使う林檎はファドゥール産か?」
「はい」
「なら食べる」
ルクスさんはその言葉で安心したようだ。近くに用意された椅子に座っておやつ待機モードに入る。
「材料と計りを持ってきたぞ。それから牛乳と紅茶も」
「おお、気が利くな」
「ありがとう」
「作るところを俺も見ていていいか?」
「見ているだなんて言わずに手伝ってよ」
「ウェスパルが教えてくれるなら」
「我のために頑張るのだぞ」
「かめぇ」
イザラクとは違い、ルクスさんは手伝ってくれないらしい。
うとうととしているのでまだ眠いのかも。寝てて良いですよ、と声をかけると丸くなった。
「昨日、来てすぐに王城に行ったから疲れたのかな」
「服の調整とかもあったしね」
「王子にサイズ聞かれた時は驚いたなぁ」
そんな話をしながら必要な量の粉を図っていく。
沸いたお湯から使う分だけ避けて、残ったお湯には芋を投入しておく。これはスイートポテト用の芋である。茹で上がるまでに餃子の皮作りをある程度進める。
「ボウルに両方の粉を入れて、追加で塩は少々。さっくりと混ぜたらここに熱湯をかけてぽろぽろになるまで混ぜる」
「ふむふむ」
イザラクは私の手元を見ながらコクコクと頷く。普段から料理をしているのか、手慣れているようだ。なんとも頼もしい。
「ぽろぽろになったら手でたたむようにこねる。そしてしばらく放置。この間に中の具を作っておこう。今日はスイートポテトとアップルパイ。イザラク、林檎のコンポートって作れる?」
「出来るよ」
「じゃあ林檎担当は任せた。大きさはこのくらいで」
指で小さな丸を作ってサイズを伝える。
そして私はスイートポテトの中身作りに取りかかる。芋が茹で上がるのを待ち、引き上げてから小さくカットしてボウルに入れる。その上にバター、砂糖、生クリームを入れ、泡立て器で潰すように混ぜていく。
中身の準備が出来たら生地をこねてから再び放置。
紅茶を飲んで一服しておく。
朝起きてもそもそとご飯を食べていると、イザラクがそう切り出した。
なんでも私とルクスさんのためにたき火スペース、もとい焼き芋スペースとプラスアルファを作ってくれたらしい。
「そんなものがあるのか」
「といっても本当に屋根とか机を作っただけの簡易的なスペースだけど」
こっちこっちと案内されたのは公爵屋敷の裏。
前回王都に来た時、花壇があったはずのその場所には屋根付きの調理スペースがあった。
キャンプ場にありそうな感じだが、一部に大きなくぼみがある。
たき火に使えそうな薪が積んであったり、水道が用意されていたり。ぽつんと置かれた木箱を開ければ調理セットが入っていた。
「至れり尽くせり……」
「かめぇ」
いつも穴ぼこを用意していた亀蔵も、くぼみの綺麗さにはびっくりしているようだ。
「また足りないものや材料が必要だったら声をかけてくれってお父様が」
「伯父様が作ってくれたの!?」
「お父様もコーラが気に入ったみたいだから。ドラゴンの知識でまた新しいものを作ったら是非教えて欲しいってさ」
「なるほど」
これは先行投資という訳か。
といってもあれはドラゴンの知識ではなく、私の前世の知識で作ったものだ。
そこまで大したものは作れないのであまり期待されても困るのだが……。
「ウェスパルよ、折角だから何か作ってみたらどうだ? 芋を使ったおやつとか」
「芋を使った変わったおやつですか? そんないきなり言われてもすぐには……。あ!」
「何か良い物が浮かんだのか?」
「揚げスイートポテトを作りましょう。ついでに揚げアップルパイも。イザラク、薄力粉と強力粉、塩、砂糖、林檎、バター、生クリームを用意してもらえる?」
「分かった」
イザラクはコクリと頷いて屋敷へと戻っていった。
そのうちに箱に入っていた調理道具とスポンジ、洗剤を取り出してささっと洗う。そしてたき火の準備をしてからお湯を沸かす。
揚げスイートポテトと揚げアップルパイと言えば、前世の我が家で揚げ餃子をした翌日のおやつとして定番だった。
肉だねを余らせても仕方ないので皮を多めに作っておくと、今度は皮が余るから有効活用しようという考えから定番化したのである。
餃子はたくさん食べられるし、おやつも食べられるしで嬉しかった。
皮作りも難しくはないし、少ない材料で作れる。
強力粉がある家・ない家は分かれると思うが、我が家も常備していた訳ではなく、余った強力粉を使ってパンやクッキーを焼くまでがセットだった。
思い出したらすっかりと揚げスイートポテトのお腹になってきた。
「揚げスイートポテト、とはなんだ?」
「小麦粉で作った皮にスイートポテトの生地を入れて油でささっと揚げたものです。アップルパイは同じ皮に煮詰めた林檎を詰めます」
「美味いのか?」
「それはもう! 先に皮を作らないとですが、パイ生地ほど寝かせる時間は長くないので簡単で早く出来ます」
「アップルパイに使う林檎はファドゥール産か?」
「はい」
「なら食べる」
ルクスさんはその言葉で安心したようだ。近くに用意された椅子に座っておやつ待機モードに入る。
「材料と計りを持ってきたぞ。それから牛乳と紅茶も」
「おお、気が利くな」
「ありがとう」
「作るところを俺も見ていていいか?」
「見ているだなんて言わずに手伝ってよ」
「ウェスパルが教えてくれるなら」
「我のために頑張るのだぞ」
「かめぇ」
イザラクとは違い、ルクスさんは手伝ってくれないらしい。
うとうととしているのでまだ眠いのかも。寝てて良いですよ、と声をかけると丸くなった。
「昨日、来てすぐに王城に行ったから疲れたのかな」
「服の調整とかもあったしね」
「王子にサイズ聞かれた時は驚いたなぁ」
そんな話をしながら必要な量の粉を図っていく。
沸いたお湯から使う分だけ避けて、残ったお湯には芋を投入しておく。これはスイートポテト用の芋である。茹で上がるまでに餃子の皮作りをある程度進める。
「ボウルに両方の粉を入れて、追加で塩は少々。さっくりと混ぜたらここに熱湯をかけてぽろぽろになるまで混ぜる」
「ふむふむ」
イザラクは私の手元を見ながらコクコクと頷く。普段から料理をしているのか、手慣れているようだ。なんとも頼もしい。
「ぽろぽろになったら手でたたむようにこねる。そしてしばらく放置。この間に中の具を作っておこう。今日はスイートポテトとアップルパイ。イザラク、林檎のコンポートって作れる?」
「出来るよ」
「じゃあ林檎担当は任せた。大きさはこのくらいで」
指で小さな丸を作ってサイズを伝える。
そして私はスイートポテトの中身作りに取りかかる。芋が茹で上がるのを待ち、引き上げてから小さくカットしてボウルに入れる。その上にバター、砂糖、生クリームを入れ、泡立て器で潰すように混ぜていく。
中身の準備が出来たら生地をこねてから再び放置。
紅茶を飲んで一服しておく。
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