第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中

文字の大きさ
上 下
109 / 175
4章

18.精霊の祝杯

しおりを挟む
 今年の精霊祭は例年よりも盛り上がりを見せている。
 今までは三領の領民が中心だったが、今年はワインのお披露目ということもあり、領を出た人達も多く集まっている。

 交流のある人達やブルワーズ領の領主様・孤児院の子ども達も招待したそうだ。

 お酒が飲める人はワインを。
 飲めない人はぶどうジュースを手に大盛り上がりである。

 ちなみに今日は樽だけではなく、瓶もいくつか並んでいる。来年以降、他の地域で暮らす家族に送るための試作瓶である。

 名前も決まっている。

『精霊の祝杯』
 ラベルには亀と精霊の絵が描いてある。

 精霊は特定の子はいないが、亀は完全に亀蔵である。
 ぶどう園を作る際に大活躍したからとのことだが、他の領の人が見たら「なぜ亀?」と疑問に思うことだろう。亀蔵は自分の絵が描かれていて嬉しそうだ。


「あ、美味しい」
「うむ。良い出来だ」

 私達は揃ってブドウジュースをもらった。
 今までも何度か飲ませてもらっているが、今日のためにさらなる調整を繰り返したそうだ。

 えぐみもなく、サラッと飲める。ついついおかわりに手が伸びてしまうほど。

 この出来にはぶどう作りに関わった亀蔵と亀吉も大満足のようだ。
 一緒にぶどうを育てた人の元へ行き、言葉をかけている。

「かめえかめかめっ」
「かめかめ」
「本当に二匹にはお世話になって……。今度も一緒に頑張ろう!」
「かめえ!」

 男性は目元に涙をにじませ、二匹の甲羅を撫でる。遅れてやってきた人も涙目である。
 どんな話をしているのかは分からないが、私も知らないうちに固い絆が出来ていたことだけは確かだ。

 その様子に、ワイン片手に戻ってきたお兄様も驚いている。

「すっかり打ち解けたな。ところで、ウェスパルが学園に通っている間は二匹とも王都に行くのか?」
「一緒に行くのは亀蔵だけで、亀吉は領に残ることになっています。ねぇ、亀吉」
「かめかめ!」

 本当は亀吉も連れて行く予定だったのだが、他の人達は亀蔵を連れて行く代わりに亀吉がやってきたものだと思っていたらしい。

 お父様とお母様だけではなく、領の人にもなんてひどいことを……という目で見られた。

 亀蔵もそのつもりだったようで、あの研修は自分の後釜として育てるためのものであったらしい。

 ルクスさんに通訳をしてもらって、最近知った。同時に亀吉一匹では三領を回るのは些か不安だとも。

 よくよく考えれば亀蔵の仕事量は多い。
 シルヴェスターの芋畑はもちろん、乞われればファドゥールのぶどう園に、スカビオの薬草園の様子も見るほどだ。亀蔵は徐々に慣れていったが、亀吉はまだまだ子ども。

 研修してすぐにお願いします、とはいかないものである。

 そこでしばらく様子を見て亀吉一匹では荷が重いようなら、小屋に飾ってある魔核で亀を増員することとなった。

 お父様達としては今すぐにでも亀を増やして欲しいようだが、亀吉が「自分も次の子に研修出来るようになるまで頑張りたい」と言ったのだ。

 うちの亀は二匹とも向上心が高いらしい。
 サラッと次の子が出来る未来が組み込まれているが、お父様と長時間過ごせば仕方のないことだろう。

「そうか、亀吉が残ってくれるなら安心だな。寂しくなったら王都まで行くか? アカの背中に乗ればひとっ飛びだぞ」
「かめ!」
「ダグラス様。ノルマンド商会の方がいらっしゃいました」
「今行く」
「いってらっしゃい」

 お兄様の向かった先に視線を向ければ、大人の中に一人だけ子どもがいた。お兄様とも親しげに話している。

 顔ははっきりと見えないが、紫頭の子どもと言えば、思い浮かぶのはただ一人。
 攻略対象者のゲルディ=ノルマンドである。

 ロドリーの時のように私に紹介してくるのではないかとヒヤヒヤしたが、何事もなく精霊祭はお開きになった。


 帰り際、今回来る事の出来なかった人に贈るための瓶を包む。
 イヴァンカが中心となっているのだが、モデルとなった亀蔵にも一緒に居て欲しいと頼まれた。テントの中に用意された台の上に亀蔵はでんっと座り、帰るお客さん達にご挨拶をしている。

 これが終わったら私達にもお土産のぶどうジュースを持たせてくれるらしい。

 それも二本も!
 樽の中身は一晩でなくなってしまったというのに、太っ腹である。ルクスさんも残ったご飯を食べながら上機嫌で待機している。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください

シンさん
恋愛
金貸しから追われる、靴職人のドロシー。 ある日突然、7才のアイザック王子にプロポーズされたんだけど、本当は20才の王太子様…。 こんな事になったのは、王家に伝わる魔術の7つ道具の1つ『子供に戻る靴』を履いてしまったから。 …何でそんな靴を履いたのか、本人でさえわからない。けど王太子が靴を履いた事には理由があった。 子供になってしまった20才の王太子と、靴職人ドロシーの恋愛ストーリー ストーリーは完結していますので、毎日更新です。 表紙はぷりりん様に描いていただきました(゜▽゜*)

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...