第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

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4章

15.お兄様は予想外の行動しかしない

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 夕方頃と思われたお兄様の帰りは早かった。
 そりゃあ早いだろう、と空を見上げながら呆れる。

 私は呆れる程度だが、領民達は空を見上げて口をあんぐりと開けている。

 シルヴェスター領でこの反応なので、お兄様が通り過ぎてきた領では騒ぎになっていたことだろう。

 いや、むしろお兄様があんな魔獣を連れているという情報が入ってこなかったことが異常なのだ。

「あんな男が身内にいるなら、邪神に何かを乞う必要がないと思うのは我だけか?」
「奇遇ですね。私もなんで闇落ちしたんだろう? って本気で悩んでいるところです」

 お兄様はレッドドラゴンの背中に乗って帰還したのだ。
 それもあの日、洞窟で見たルクスさんの像と同じくらいに大きい。

 遠目から見ても使役していると分かるのは、ドラゴンが両手で馬車を抱えているから。
 馬はいないので、龍車と言ったところか。あれだけの巨体に跨がれば、王都から辺境までもひとっ飛びである。

 王都に降り立つ場所があるかは微妙だが。
 はしゃいでいるのは亀蔵だけ。亀吉は急いで出てきたお父様の後ろに隠れてしまった。

「ウェスパル!」

 上空から私達の姿を捕らえたお兄様は満面の笑みである。

 まるでいたずらが成功した子どもかのよう。
 フェンリルとレッドドラゴンを使役する子どもがどこにいるのかという話だが。

 ゆっくりと下降して、ようやくお兄様の後ろにお祖父様の姿が見えた。
 さすがにこの異常事態の説明をお兄様だけにさせるつもりはないようでホッと胸をなで下ろす。

 あの馬車は荷物を運ぶ役割だけではなく、帰りはお祖父様が使うつもりなのかもしれない。

「驚いたか? 俺もウェスパルと同じく、ドラゴンを仲間にしたんだ」
「私と同じ?」
「ああ! しかも背中に乗れるから、ウェスパルが学園に入学してからもすぐに会いに行ける!」

 サプライズでドラゴンを連れ帰るなんてうちのお兄様しか出来ない芸当だ。

 しかもこの話し方では、まるで私のためにドラゴンを使役したかのよう。
 本来、ドラゴンはかなりプライドが高い種族である。そもそもドラゴンなんてそう易々と会える種族ではない。

 たまたま家の近くの森の中にいて、芋欲しさに少女に付いてきちゃうルクスさんがイレギュラー中のイレギュラーなだけ。

 あり得ない。
 普通なら、背筋を伸ばしながら待機しているドラゴンなんて到底信じられるようなものではない。

 だが連れ帰ったのはお兄様である。
 フェンリルを召喚し、ワンパンチで従えた私の兄。シルヴェスターの次期当主。

 ーーお兄様ならそれくらいしてもおかしくないな!
 お兄様にとってドラゴンは犬猫どころかカブトムシと同じようなものだ。むしろ対決させるために数体連れて帰るなんて暴挙をしなかっただけ喜ぼう。

 そう、現実逃避をして笑いかける。

「とりあえず、初めまして、ウェスパルです」
「これはどうもご丁寧に。私、ダグラス様とテイム契約を結ばせて頂きました、アカと申します」

 ドラゴンはゆっくりと私達に頭を下げて自己紹介をしてくれる。
 本当にしっかりとしたドラゴンさんである。だが驚くべきはそこではない。

「テイム? え、使役でも召喚でもなく?」
「私はダグラス様に負けましたので」
「アカは凄いぞ。三発ももった」
「……ドラゴン相手に素手で挑んだんですか?」
「これから仲良くしようという相手に剣を向けたらダメだろ?」
「そうですね」

 そもそも仲良くしようとドラゴンの元に行くこと自体、かなり希有な例である。
 ただレッドドラゴンさん、アカもそれで納得しているようなので、深くは追求しない方向で行こう。


 深く考えると、お兄様はゲームでもこれほどマイペースだったのか、はたまた前世の記憶を持つ私という異物が混ざったことにより関係なかったはずのお兄様が爆速でシナリオ改変を進めているのか。

 どこから分岐したのか。
 ゲーム版ウェスパルはこの兄とどうやって付き合っていたのか、など多くの疑問が湧き出てしまう。

 それに領地から出ずにこの状態なら、お兄様が三年も滞在していた王都の方はどのくらい変わっているのか、とか。

 気になることが多すぎて頭が痛くなりそうなので、一旦蓋をすることにした。
 出来れば今後も開封したくない。


「ライヒムもグリフォンを召喚したから、今度乗ってくるそうだ」

 お兄様の話によると、学生生活の傍ら、ライヒムさんと共に冒険者として依頼を受けていたそうだ。

 ゲームとは異なり、一年目で仲良くなった二人だが、その後にも大きな変化があったようだ。お兄様が真面目に椅子に座りっぱなしというのはあまり想像が付かない。

 お友達と一緒にいろんなところにお出かけしていたと思えば健全である。

 この三年間でライヒムさんは何度と王宮騎士のスカウトと最高ランクパーティのスカウトを蹴ったそうだ。お兄様と一緒に出かけていた時点で想像出来たが、かなり強くなったらしい。

 それらを蹴ってどうするのかと言えば、彼は上機嫌で実家に帰ったそうだ。
 ロドリーが入学するまでに、可能な限り彼を強化するつもりらしい。

 これは私にとってはとてもありがたい情報だ。

 強くなったライヒムさんがロドリーを扱いてくれれば、自然とロドリーがレベルアップし、三章での怪我の確率はグッと減る。

 大変だろうが、ロドリーとて強さには貪欲だ。きっとお兄さんからいろんな強さを学び取ってくれるはずだ。
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