第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

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4章

14.天才には勝てないけれど

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 バギーが取り上げられてしまった私達は、大人しく錬金術の勉強をする生活に戻ることとなった。

 あの現象が結局何だったのか分からないし、ルクスさんも語ろうとはしない。
 話したくなさそうなので、時が来たら話してくれるかもしれないと飲み込むことにした。

 ついでにぼうっとしたままのルクスさんの干し芋も頂戴したところ、凄い怒られた。


 あれからお父様のご機嫌取りのために魔核を作ろうかとも思ったのだが、火に油を注ぎそうなので止めた。

 私も連続で怒られたくないのだ。
 代わりに便利アイテムを作ることにした。

 我が家の錬金アイテムは芋小屋の空調管理アイテムに馬車、そして通信オーブである。

 通信機器も作れればフルコンボ!
 見本はあるし、見たとおりに作ればいいよねと安易に考えていた。

 だが実物を見て、そんな淡い夢はバッキバキに打ち砕かれることになった。


「あれ作った人は天才です。私なんて所詮、ルクスさんと精霊達の力を借りて錬金術を使えるようになっただけですもんね。どうせ私はドーピング錬金術師ですよ」
「落ち込みすぎだ。元気だせ」
「だってあんなの五十年経っても私には作れませんもん」
「なら六十年かけて作ればいいだろう」
「そんなにかかったら完成より死ぬ方が早いですよ。あれを作った人とは頭の構造から違うんですって」

 通信オーブを見せてもらったが、あれはまさに異次元の想像物だった。

 糸電話に例えると、王城とシルヴェスターにあるオーブがカップの役目を担っていて、糸の部分は風魔法を使って繋いでいるところは分かる。

 けれど王都からシルヴェスターまでかなりの距離ある上に大きな建物がいくつも建ってる。
 三百年前に作ったとなれば、それ以降に建てられた建造物もあるはずだ。なのにそれらの影響をまるで受けていない。

 それだけならよほど強力な風魔法を込めたのだろう、と納得出来なくはない。
 だが動画まで付いているのだ。前世のカメラ電話と全く同じ。なのに、中継地点はない。三百年経ってるのにまだ現役で、王家が使っているということは盗聴の危険もないということだ。


 どんな思考回路を持っていたら、あんな品が作れるのか。
 前世の知識を持っていても凡人でしかない私では再現すら出来ない。

 フルコンボとか、簡単に考えていた自分が恥ずかしい。落ち込むなというのが無理な話である。

「だがウェスパルだって車を作っただろう。あれはウェスパルでなければ作れなかったはずだ」
「前世の記憶あってこそですよ。通信オーブは私じゃ無理です。あそこまで長距離のものは作れない。頭のレベルが違いすぎます」
「あっさり諦めるなんてウェスパルらしくもない」
「無理なものは無理! 次世代の天才がどうにかすることに期待します。だから私は別の方向から攻めます!」
「おお、その意気だ」

 私が用があるのって基本的にイヴァンカとギュンタ、そしてイザラクである。
 無理して通信オーブを作るよりも、バギーを強化するか、伝書鳩みたいな手紙を運ぶことに特化した錬金獣を育てた方が早い。

 だからそんなことに数十年という時間をかけることはせず、私は私の出来ることをすることにしよう。

「ホムンクルスまでは行かなくても、やっぱりマジックバッグは欲しいです。時間が止められるやつ!」
「それもそれで相当難易度が高いがな」
「でもそれがあれば、学園生活が始まってからも毎日シルヴェスターの芋が食べられますし、牛乳だって消費期限とか気にせずに飲めるようになりますよ」
「それは重要じゃないか! 何故今まで黙っていたのだ! なんとしても学園入学までに作るのだ!」
「さっき、ルクスさんが難易度が相当高いって」
「知らんのか? 難しいということは不可能ではないということだ」

 格好いいこと言っているが、その目に映っているのは芋と牛乳である。
 食欲によって突き動かされたルクスさんの錬金術レッスンはこの日を境に、一気に厳しくなってしまった。



 私が涙目で錬金術レベルの向上を計っているうちにファドゥール産ワインが完成したとの知らせがあった。

 今年の精霊祭には出せるそうだ。

 来週にはお兄様も帰ってくる。
 卒業式の翌日に空から、とのことだが、お兄様を乗せて飛ぶことの出来る魔獣を召喚したのだろうか。

 グリフォンとか?
 詳しいことは帰ってから話してくれるらしい。

 サルガス王子が王都へ帰る日も近づき、一気にシナリオに近づいたなという実感が沸く。

 ちなみにヒロインさんは今日も元気に働いているそうだ。イヴァンカや領の人達はもちろん、精霊との関係も良好。

 彼女がシナリオにどのくらい関わってくるのかは依然として全く予想が付かない。
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