99 / 175
4章
8.二体目の錬金獣
しおりを挟む
数日の魔結晶作りを経て、釜の使い方は学んだ。
ちなみに小さな魔結晶は亀蔵のおやつになった。
なったというよりも、気付いたら食べていた。
土魔法を使って机の上に置いてあったものを回収してしまうなんて、やはりうちの亀蔵は天才すぎる。
同様の方法で魔結晶以外のもの、特に亀蔵が食べられないものを食べてしまうと困るので、一応注意だけはしておいた。
だが失敗作を作ってしまったことへの残念感は一気に払拭され、上達も早まった。亀蔵様々である。
「それでは早速魔核作りに取りかかりたい訳ですが、魔核って何で出来ているんですか? 今まで気にした事なかったけど、核っていうぐらいだから魔結晶とは違うでしょうし、材料は必要ですよね?」
「核部分は何でも構わないが、魔力を込めることになるから自分と相性の良いものを選ぶと良い。ウェスパルの場合、森に落ちているものがいいと思うぞ」
「今の時期だと枝か石ですかね?」
「石の方がいいだろうな。洞窟の前にある物がいいだろう。我の魔力があったからとはいえ、亀蔵のベースとなったのも石だったはずだ」
「亀蔵に弟か妹が出来るのか~。亀蔵はどんな子がいい?」
「かめえ?」
弟や妹というものが何か、よく分かっていないようだ。不思議そうにこちらを眺めている。
「核を作る必要があるだけで、錬金獣を増やす必要はないがな」
「でも核作って、それだけ持っていたら不審に思われませんか?」
「まぁそうか」
「それに家族が増えたら嬉しいですし」
「なるほど」
「かめかめかっめえええ」
「亀蔵も家族が増えたら嬉しいそうだ。魔核が出来たら一緒に図鑑でも見て決めるか」
「賛成!」
「か~めかっめ」
早速魔核のベースとなる石を拾いに行くことにした。
洞窟付近の石が一番注ぎやすいと思うが、すでに回収された後だった。安全管理を重要視した結果だ。仕方ない。
少し離れた場所にポツポツと落ちている石をバケツに入れていく。
失敗する可能性もあるので、大きさの違うものをいくつか。
あまり重くなりすぎても困るので、そこそこで止めておくことにした。
失敗した時はまた、お散歩がてら拾いに来ればいいだけだ。
小屋に帰ってきてから、バケツに水を入れる。
土を落とすようにしっかりと洗って、一晩自然乾燥させる。これは汚れを落とす目的以外にも、水の魔法を馴染ませる役割があるらしい。
翌日、乾燥させた石を錬金釜に入れ、魔力を注いでいく。
魔結晶作りとおおまかな行程は一緒。ただ核となる石に魔力を注ぐことを強く意識する必要がある。
私だってこの数日でスキルアップしたのだ。上手くいくといいな、なんて考えながらぐーるぐるとかき混ぜる。
亀蔵の核と同じ物を。
亀蔵のように可愛い子を。
亀蔵のように……。
そう強く念じながら魔力を注ぎ続けていると、ボフンと煙が上がった。
頭を守るようにその場に伏せる。音が続く様子はない。つまり完成の合図だ。
おずおずと釜を覗き込む。だが表面には何も浮いていない。
失敗したのか。
「まぁそんな簡単にはいかないか」
私だって初めての作成で上手くいくとは思っていない。乾かした石を取りに向かう。
どの石がいいか、と話し合っている時だった。
「かめぇ」
背後から鳴き声がした。
「亀蔵、どうしたの?」
てっきり亀蔵が励ましてくれているのかと思ったのだが、よく考えれば亀蔵は私の足下にいる。声が聞こえた方向とは少しズレている。
そう、まるで釜の中から声が聞こえてきたかのよう。
まさか! 急いで釜を覗き込めば、水面には小さな亀がぷかぷかと浮いていた。
亀蔵をそのまま小さくした感じの亀だ。普通の亀とは少し違う。
そもそも普通の亀はかめえなんて鳴かない。
うちの亀蔵くらいなものだ。なのに、この亀はかめと鳴いている。
「かめええ」
「ルクスさん、これってもしかして……」
ほぼ確定しているようなものだが、それでも聞かないという選択肢はない。
おずおずと振り向けば、あきれ顔のルクスさんと目が合った。
「錬金獣を直接作り出すなど聞いたことがないぞ」
「やっぱり錬金獣なんですね」
どうやら魔核を通り越して錬金獣を作ってしまったらしい。
こんな簡単に作れるものなのか。そもそもなぜ亀なのか。
とりあえず子亀を釜から掬いだす。
目の色は亀蔵とは違うんだな~と眺めていると、ふとあることを思い出した。
私、作業中ずっと亀蔵のことを考えていたな、と。
原因があるとすれば確実にそれだ。
むしろこれ以外の理由が思いつかない。
「まぁいっか。亀可愛いし」
「かめえ」
「かめかめえ」
シルヴェスターを守る亀が増えたということにしておこう。
前向きに考えれば、新しい錬金獣が亀蔵と似ていれば、森から見つかったとでも何とでも言い訳が出来る。
魔核はまた別に作ればいいのだ。
今度はちゃんと核のことを考えて。
「名前どうしよう……。ルクスさん、いい名前あります?」
先のことよりも今のこと。
亀蔵にも名前があるのだから、新入り亀さんにも名前を付けてあげたい。
「領主に付けさせたらどうだ?」
「お父様に、ですか?」
「もうそろそろ来るぞ」
「ウェスパル、無事か!」
ルクスさんがそういうと、ドンっと勢いよくドアが開かれた。
どうやら音を聞いて急いで見に来てくれたらしい。
錬金部屋まで来たお父様に「無事ですよ」と手を振る。
ちなみに小さな魔結晶は亀蔵のおやつになった。
なったというよりも、気付いたら食べていた。
土魔法を使って机の上に置いてあったものを回収してしまうなんて、やはりうちの亀蔵は天才すぎる。
同様の方法で魔結晶以外のもの、特に亀蔵が食べられないものを食べてしまうと困るので、一応注意だけはしておいた。
だが失敗作を作ってしまったことへの残念感は一気に払拭され、上達も早まった。亀蔵様々である。
「それでは早速魔核作りに取りかかりたい訳ですが、魔核って何で出来ているんですか? 今まで気にした事なかったけど、核っていうぐらいだから魔結晶とは違うでしょうし、材料は必要ですよね?」
「核部分は何でも構わないが、魔力を込めることになるから自分と相性の良いものを選ぶと良い。ウェスパルの場合、森に落ちているものがいいと思うぞ」
「今の時期だと枝か石ですかね?」
「石の方がいいだろうな。洞窟の前にある物がいいだろう。我の魔力があったからとはいえ、亀蔵のベースとなったのも石だったはずだ」
「亀蔵に弟か妹が出来るのか~。亀蔵はどんな子がいい?」
「かめえ?」
弟や妹というものが何か、よく分かっていないようだ。不思議そうにこちらを眺めている。
「核を作る必要があるだけで、錬金獣を増やす必要はないがな」
「でも核作って、それだけ持っていたら不審に思われませんか?」
「まぁそうか」
「それに家族が増えたら嬉しいですし」
「なるほど」
「かめかめかっめえええ」
「亀蔵も家族が増えたら嬉しいそうだ。魔核が出来たら一緒に図鑑でも見て決めるか」
「賛成!」
「か~めかっめ」
早速魔核のベースとなる石を拾いに行くことにした。
洞窟付近の石が一番注ぎやすいと思うが、すでに回収された後だった。安全管理を重要視した結果だ。仕方ない。
少し離れた場所にポツポツと落ちている石をバケツに入れていく。
失敗する可能性もあるので、大きさの違うものをいくつか。
あまり重くなりすぎても困るので、そこそこで止めておくことにした。
失敗した時はまた、お散歩がてら拾いに来ればいいだけだ。
小屋に帰ってきてから、バケツに水を入れる。
土を落とすようにしっかりと洗って、一晩自然乾燥させる。これは汚れを落とす目的以外にも、水の魔法を馴染ませる役割があるらしい。
翌日、乾燥させた石を錬金釜に入れ、魔力を注いでいく。
魔結晶作りとおおまかな行程は一緒。ただ核となる石に魔力を注ぐことを強く意識する必要がある。
私だってこの数日でスキルアップしたのだ。上手くいくといいな、なんて考えながらぐーるぐるとかき混ぜる。
亀蔵の核と同じ物を。
亀蔵のように可愛い子を。
亀蔵のように……。
そう強く念じながら魔力を注ぎ続けていると、ボフンと煙が上がった。
頭を守るようにその場に伏せる。音が続く様子はない。つまり完成の合図だ。
おずおずと釜を覗き込む。だが表面には何も浮いていない。
失敗したのか。
「まぁそんな簡単にはいかないか」
私だって初めての作成で上手くいくとは思っていない。乾かした石を取りに向かう。
どの石がいいか、と話し合っている時だった。
「かめぇ」
背後から鳴き声がした。
「亀蔵、どうしたの?」
てっきり亀蔵が励ましてくれているのかと思ったのだが、よく考えれば亀蔵は私の足下にいる。声が聞こえた方向とは少しズレている。
そう、まるで釜の中から声が聞こえてきたかのよう。
まさか! 急いで釜を覗き込めば、水面には小さな亀がぷかぷかと浮いていた。
亀蔵をそのまま小さくした感じの亀だ。普通の亀とは少し違う。
そもそも普通の亀はかめえなんて鳴かない。
うちの亀蔵くらいなものだ。なのに、この亀はかめと鳴いている。
「かめええ」
「ルクスさん、これってもしかして……」
ほぼ確定しているようなものだが、それでも聞かないという選択肢はない。
おずおずと振り向けば、あきれ顔のルクスさんと目が合った。
「錬金獣を直接作り出すなど聞いたことがないぞ」
「やっぱり錬金獣なんですね」
どうやら魔核を通り越して錬金獣を作ってしまったらしい。
こんな簡単に作れるものなのか。そもそもなぜ亀なのか。
とりあえず子亀を釜から掬いだす。
目の色は亀蔵とは違うんだな~と眺めていると、ふとあることを思い出した。
私、作業中ずっと亀蔵のことを考えていたな、と。
原因があるとすれば確実にそれだ。
むしろこれ以外の理由が思いつかない。
「まぁいっか。亀可愛いし」
「かめえ」
「かめかめえ」
シルヴェスターを守る亀が増えたということにしておこう。
前向きに考えれば、新しい錬金獣が亀蔵と似ていれば、森から見つかったとでも何とでも言い訳が出来る。
魔核はまた別に作ればいいのだ。
今度はちゃんと核のことを考えて。
「名前どうしよう……。ルクスさん、いい名前あります?」
先のことよりも今のこと。
亀蔵にも名前があるのだから、新入り亀さんにも名前を付けてあげたい。
「領主に付けさせたらどうだ?」
「お父様に、ですか?」
「もうそろそろ来るぞ」
「ウェスパル、無事か!」
ルクスさんがそういうと、ドンっと勢いよくドアが開かれた。
どうやら音を聞いて急いで見に来てくれたらしい。
錬金部屋まで来たお父様に「無事ですよ」と手を振る。
0
お気に入りに追加
471
あなたにおすすめの小説
月が隠れるとき
いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。
その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。
という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。
小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください
シンさん
恋愛
金貸しから追われる、靴職人のドロシー。
ある日突然、7才のアイザック王子にプロポーズされたんだけど、本当は20才の王太子様…。
こんな事になったのは、王家に伝わる魔術の7つ道具の1つ『子供に戻る靴』を履いてしまったから。
…何でそんな靴を履いたのか、本人でさえわからない。けど王太子が靴を履いた事には理由があった。
子供になってしまった20才の王太子と、靴職人ドロシーの恋愛ストーリー
ストーリーは完結していますので、毎日更新です。
表紙はぷりりん様に描いていただきました(゜▽゜*)

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる