第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

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4章

8.二体目の錬金獣

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 数日の魔結晶作りを経て、釜の使い方は学んだ。

 ちなみに小さな魔結晶は亀蔵のおやつになった。
 なったというよりも、気付いたら食べていた。


 土魔法を使って机の上に置いてあったものを回収してしまうなんて、やはりうちの亀蔵は天才すぎる。

 同様の方法で魔結晶以外のもの、特に亀蔵が食べられないものを食べてしまうと困るので、一応注意だけはしておいた。

 だが失敗作を作ってしまったことへの残念感は一気に払拭され、上達も早まった。亀蔵様々である。


「それでは早速魔核作りに取りかかりたい訳ですが、魔核って何で出来ているんですか? 今まで気にした事なかったけど、核っていうぐらいだから魔結晶とは違うでしょうし、材料は必要ですよね?」
「核部分は何でも構わないが、魔力を込めることになるから自分と相性の良いものを選ぶと良い。ウェスパルの場合、森に落ちているものがいいと思うぞ」
「今の時期だと枝か石ですかね?」
「石の方がいいだろうな。洞窟の前にある物がいいだろう。我の魔力があったからとはいえ、亀蔵のベースとなったのも石だったはずだ」
「亀蔵に弟か妹が出来るのか~。亀蔵はどんな子がいい?」
「かめえ?」

 弟や妹というものが何か、よく分かっていないようだ。不思議そうにこちらを眺めている。

「核を作る必要があるだけで、錬金獣を増やす必要はないがな」
「でも核作って、それだけ持っていたら不審に思われませんか?」
「まぁそうか」
「それに家族が増えたら嬉しいですし」
「なるほど」
「かめかめかっめえええ」
「亀蔵も家族が増えたら嬉しいそうだ。魔核が出来たら一緒に図鑑でも見て決めるか」
「賛成!」
「か~めかっめ」

 早速魔核のベースとなる石を拾いに行くことにした。
 洞窟付近の石が一番注ぎやすいと思うが、すでに回収された後だった。安全管理を重要視した結果だ。仕方ない。

 少し離れた場所にポツポツと落ちている石をバケツに入れていく。

 失敗する可能性もあるので、大きさの違うものをいくつか。
 あまり重くなりすぎても困るので、そこそこで止めておくことにした。

 失敗した時はまた、お散歩がてら拾いに来ればいいだけだ。

 小屋に帰ってきてから、バケツに水を入れる。
 土を落とすようにしっかりと洗って、一晩自然乾燥させる。これは汚れを落とす目的以外にも、水の魔法を馴染ませる役割があるらしい。


 翌日、乾燥させた石を錬金釜に入れ、魔力を注いでいく。
 魔結晶作りとおおまかな行程は一緒。ただ核となる石に魔力を注ぐことを強く意識する必要がある。

 私だってこの数日でスキルアップしたのだ。上手くいくといいな、なんて考えながらぐーるぐるとかき混ぜる。


 亀蔵の核と同じ物を。
 亀蔵のように可愛い子を。
 亀蔵のように……。


 そう強く念じながら魔力を注ぎ続けていると、ボフンと煙が上がった。

 頭を守るようにその場に伏せる。音が続く様子はない。つまり完成の合図だ。
 おずおずと釜を覗き込む。だが表面には何も浮いていない。

 失敗したのか。

「まぁそんな簡単にはいかないか」

 私だって初めての作成で上手くいくとは思っていない。乾かした石を取りに向かう。
 どの石がいいか、と話し合っている時だった。

「かめぇ」
 背後から鳴き声がした。

「亀蔵、どうしたの?」
 てっきり亀蔵が励ましてくれているのかと思ったのだが、よく考えれば亀蔵は私の足下にいる。声が聞こえた方向とは少しズレている。

 そう、まるで釜の中から声が聞こえてきたかのよう。

 まさか! 急いで釜を覗き込めば、水面には小さな亀がぷかぷかと浮いていた。
 亀蔵をそのまま小さくした感じの亀だ。普通の亀とは少し違う。

 そもそも普通の亀はかめえなんて鳴かない。
 うちの亀蔵くらいなものだ。なのに、この亀はかめと鳴いている。

「かめええ」
「ルクスさん、これってもしかして……」

 ほぼ確定しているようなものだが、それでも聞かないという選択肢はない。
 おずおずと振り向けば、あきれ顔のルクスさんと目が合った。

「錬金獣を直接作り出すなど聞いたことがないぞ」
「やっぱり錬金獣なんですね」

 どうやら魔核を通り越して錬金獣を作ってしまったらしい。

 こんな簡単に作れるものなのか。そもそもなぜ亀なのか。

 とりあえず子亀を釜から掬いだす。
 目の色は亀蔵とは違うんだな~と眺めていると、ふとあることを思い出した。

 私、作業中ずっと亀蔵のことを考えていたな、と。

 原因があるとすれば確実にそれだ。
 むしろこれ以外の理由が思いつかない。

「まぁいっか。亀可愛いし」
「かめえ」
「かめかめえ」

 シルヴェスターを守る亀が増えたということにしておこう。
 前向きに考えれば、新しい錬金獣が亀蔵と似ていれば、森から見つかったとでも何とでも言い訳が出来る。

 魔核はまた別に作ればいいのだ。
 今度はちゃんと核のことを考えて。

「名前どうしよう……。ルクスさん、いい名前あります?」

 先のことよりも今のこと。
 亀蔵にも名前があるのだから、新入り亀さんにも名前を付けてあげたい。

「領主に付けさせたらどうだ?」
「お父様に、ですか?」
「もうそろそろ来るぞ」
「ウェスパル、無事か!」

 ルクスさんがそういうと、ドンっと勢いよくドアが開かれた。
 どうやら音を聞いて急いで見に来てくれたらしい。

 錬金部屋まで来たお父様に「無事ですよ」と手を振る。
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