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4章
6.食っちゃ寝食っちゃ寝
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ルクスさんが運んできてくれた芋がゆを一緒に食べながら、私が一日も寝ていた理由について教えてもらった。
なんでも魔力を急激に消費するとこのような現象が起こるらしい。
お父様もお母様も了承済みだった。私に隠されていたのは、伝えることで無意識にでも力を制限してしまうことがないように。
使いすぎないように監督しつつも、私の可能性を最大限に引き出そうとした結果らしかった。
ちなみに拳大の魔結晶を条件に出したのは魔力の制御方法を身につけさせると共に、大量の魔力消費にも身体が耐えられよう訓練していたらしい。
初めの地味な訓練同様、意味があるものだったのだ。
それから安静にする生活が始まった。
しばらくは食っちゃ寝食っちゃ寝の生活。一週間が経った頃にようやく部屋と風呂、トイレの往復生活から解放された。
といっても森への散歩も魔法の使用も許可されてはいない。
体力が落ちすぎないように、屋敷内と小屋への移動が認められただけだった。私が暇暇騒いだからというのもあるのだろう。
小屋に移ったところで読書くらいしか出来ることはないが、それでも良い気分転換にはなる。
お父様達が運び込んでくれた錬金釜を横目に、ソファでごろりと横になる。
ダラダラとしながら捲るのは錬金術に関する本、ではなく、異国のグルメ本である。お兄様が送ってくれたものだ。二年生に上がった辺りから様々な国の本を送ってきてくれるようになったのだが、毎回ジャンルはバラバラ。
依頼先でたまたま目に付いたものを買っているのだろう。
当たりと外れの落差が激しいため、毎回おみくじ感覚で楽しんでいる。
「今回は当たりか?」
「ん~、作りやすさという点では当たりですけど、食文化が結構違うから……。これとかギュンタに頼めばうちでも出してもらえそうですけど、食べます?」
「どれだ?」
私の背中の上を陣取るルクスさんに見えるように、本を少し上げる。
するとう~むと長く唸り始めた。野菜と果物と砂糖と肉と香草をごった煮にした料理はなかなか受け入れられるものではないらしい。
私も酢豚にパイナップルくらいなら許容出来るのだが、いろいろ入れすぎていて食欲をそそられない。
「我はいつもの料理がいい」
「ですね。ちょっと肩凝ってきたので、お腹の上に移動してください」
「うむ」
ルクスさんに一旦退いてもらい、身体をうつ伏せから仰向けに変える。そしてルクスさんは私の背中の上からお腹の上に移動を完了させた。
ちなみに亀蔵はソファにピッタリとくっついている。
移動時は足にピッタリ。どちらも私に無理させないよう、監視しているようだ。
「なんか前よりも仲良くなってないか?」
ルクスさんをお腹に乗せることにも慣れた頃、ようやくギュンタとサルガス王子がスカビオ領へと戻ってきた。お土産を渡したいと小屋に訪れて、第一声がこれである。
せめて事前に手紙を出してくれれば私ももっとマシな格好で待っていたのだが、いかんせん突然の来訪であった。ルクスさんとブランケットを乗せながらソファで爆睡していたのである。
馬車の音に気付いて飛び起きただけでも許して欲しい。
だがギュンタも私達のだるだる姿を指摘出来るような立場ではない。
「ギュンタこそ、サルガス王子と前より仲良くなったんじゃない?」
「そうか? 前と変わらないと思うけど」
「そう思うか!」
ギュンタは首を傾げ、サルガス王子は嬉しそうだ。
同じような日焼け後を残して帰ってきた二人の仲が深まっていると思うのは、私だけではなく、イヴァンカの目から見ても明らからしい。
サルガス王子は今まで気の許せる相手がほとんどいなかったと知っているからこそ、文句を口に出したりはしないが、その表情には不満が満ちている。
といっても恋敵を見るようなものではなく、子どもの嫉妬のようなもの。ギュンタと一緒に出かけたサルガス王子が羨ましく、そして悔しいのである。
だがこの期間中に思い出を作ったのは何も男子二人だけではない。
「イヴァンカ、あれ見せてあげなよ」
耳元でそう呟くと、彼女の表情は一気に明るくなる。ふふふと口元を緩めながら、スッと手袋を抜き取った。
ちなみにこの手袋はルクスさんの案だ。ファドゥール領と他二領の人間なら問題ないが、外部の人間に加護持ちだとバレると何かと厄介である。誘拐なんてする阿呆が湧くかもしれないと、普段は隠すことにしたのだ。
だがこの二人なら見せても問題はない。
イヴァンカは加護が刻まれた左手を堂々と見せつける。
「見て! これが私と精霊達、そしてウェスパルとの絆の証よ!」
「そ、それは、精霊王の加護! どうしてイヴァンカ嬢が!」
「二人が学会に行っている間にいろいろあったのよ。ねぇ、ウェスパル?」
「ねぇ~」
悔しさを晴らすかのような良い笑顔に、サルガス王子はそれ以上の追求を諦めたようだ。ギュンタはといえば、イヴァンカの小さな嫉妬に気付くことはなく「良かったな」とニコニコと笑っている。
そこがギュンタの良いところでもあり、悪いところでもある。
それから二人の学会での成果を聞きながら、久しぶりにみんなでお茶を楽しむ。
学会での感触は良好。だがそれ以上に収穫はあったらしい。
お揃いの日焼け後は一緒に植物採取をした時に出来たのだそうだ。
ギュンタがどうしても! と欲しがったそれは、少し前にイヴァンカがお菓子作りに使いたいと呟いた香草で。サルガス王子が自慢気に語ってくれた草はどれも腰痛薬の研究に使う予定のものであった。
少し長く領を空けたところで、二人の一番は変わらないのであった。
なんでも魔力を急激に消費するとこのような現象が起こるらしい。
お父様もお母様も了承済みだった。私に隠されていたのは、伝えることで無意識にでも力を制限してしまうことがないように。
使いすぎないように監督しつつも、私の可能性を最大限に引き出そうとした結果らしかった。
ちなみに拳大の魔結晶を条件に出したのは魔力の制御方法を身につけさせると共に、大量の魔力消費にも身体が耐えられよう訓練していたらしい。
初めの地味な訓練同様、意味があるものだったのだ。
それから安静にする生活が始まった。
しばらくは食っちゃ寝食っちゃ寝の生活。一週間が経った頃にようやく部屋と風呂、トイレの往復生活から解放された。
といっても森への散歩も魔法の使用も許可されてはいない。
体力が落ちすぎないように、屋敷内と小屋への移動が認められただけだった。私が暇暇騒いだからというのもあるのだろう。
小屋に移ったところで読書くらいしか出来ることはないが、それでも良い気分転換にはなる。
お父様達が運び込んでくれた錬金釜を横目に、ソファでごろりと横になる。
ダラダラとしながら捲るのは錬金術に関する本、ではなく、異国のグルメ本である。お兄様が送ってくれたものだ。二年生に上がった辺りから様々な国の本を送ってきてくれるようになったのだが、毎回ジャンルはバラバラ。
依頼先でたまたま目に付いたものを買っているのだろう。
当たりと外れの落差が激しいため、毎回おみくじ感覚で楽しんでいる。
「今回は当たりか?」
「ん~、作りやすさという点では当たりですけど、食文化が結構違うから……。これとかギュンタに頼めばうちでも出してもらえそうですけど、食べます?」
「どれだ?」
私の背中の上を陣取るルクスさんに見えるように、本を少し上げる。
するとう~むと長く唸り始めた。野菜と果物と砂糖と肉と香草をごった煮にした料理はなかなか受け入れられるものではないらしい。
私も酢豚にパイナップルくらいなら許容出来るのだが、いろいろ入れすぎていて食欲をそそられない。
「我はいつもの料理がいい」
「ですね。ちょっと肩凝ってきたので、お腹の上に移動してください」
「うむ」
ルクスさんに一旦退いてもらい、身体をうつ伏せから仰向けに変える。そしてルクスさんは私の背中の上からお腹の上に移動を完了させた。
ちなみに亀蔵はソファにピッタリとくっついている。
移動時は足にピッタリ。どちらも私に無理させないよう、監視しているようだ。
「なんか前よりも仲良くなってないか?」
ルクスさんをお腹に乗せることにも慣れた頃、ようやくギュンタとサルガス王子がスカビオ領へと戻ってきた。お土産を渡したいと小屋に訪れて、第一声がこれである。
せめて事前に手紙を出してくれれば私ももっとマシな格好で待っていたのだが、いかんせん突然の来訪であった。ルクスさんとブランケットを乗せながらソファで爆睡していたのである。
馬車の音に気付いて飛び起きただけでも許して欲しい。
だがギュンタも私達のだるだる姿を指摘出来るような立場ではない。
「ギュンタこそ、サルガス王子と前より仲良くなったんじゃない?」
「そうか? 前と変わらないと思うけど」
「そう思うか!」
ギュンタは首を傾げ、サルガス王子は嬉しそうだ。
同じような日焼け後を残して帰ってきた二人の仲が深まっていると思うのは、私だけではなく、イヴァンカの目から見ても明らからしい。
サルガス王子は今まで気の許せる相手がほとんどいなかったと知っているからこそ、文句を口に出したりはしないが、その表情には不満が満ちている。
といっても恋敵を見るようなものではなく、子どもの嫉妬のようなもの。ギュンタと一緒に出かけたサルガス王子が羨ましく、そして悔しいのである。
だがこの期間中に思い出を作ったのは何も男子二人だけではない。
「イヴァンカ、あれ見せてあげなよ」
耳元でそう呟くと、彼女の表情は一気に明るくなる。ふふふと口元を緩めながら、スッと手袋を抜き取った。
ちなみにこの手袋はルクスさんの案だ。ファドゥール領と他二領の人間なら問題ないが、外部の人間に加護持ちだとバレると何かと厄介である。誘拐なんてする阿呆が湧くかもしれないと、普段は隠すことにしたのだ。
だがこの二人なら見せても問題はない。
イヴァンカは加護が刻まれた左手を堂々と見せつける。
「見て! これが私と精霊達、そしてウェスパルとの絆の証よ!」
「そ、それは、精霊王の加護! どうしてイヴァンカ嬢が!」
「二人が学会に行っている間にいろいろあったのよ。ねぇ、ウェスパル?」
「ねぇ~」
悔しさを晴らすかのような良い笑顔に、サルガス王子はそれ以上の追求を諦めたようだ。ギュンタはといえば、イヴァンカの小さな嫉妬に気付くことはなく「良かったな」とニコニコと笑っている。
そこがギュンタの良いところでもあり、悪いところでもある。
それから二人の学会での成果を聞きながら、久しぶりにみんなでお茶を楽しむ。
学会での感触は良好。だがそれ以上に収穫はあったらしい。
お揃いの日焼け後は一緒に植物採取をした時に出来たのだそうだ。
ギュンタがどうしても! と欲しがったそれは、少し前にイヴァンカがお菓子作りに使いたいと呟いた香草で。サルガス王子が自慢気に語ってくれた草はどれも腰痛薬の研究に使う予定のものであった。
少し長く領を空けたところで、二人の一番は変わらないのであった。
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