第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

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3章

◆冒険者ギルド内酒場にて(後編)

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「そういえばダグラス君の妹もミニドラゴンを召喚したらしいぞ」
「辺境伯が魔獣コンテストに連れてきていた亀がそうなんじゃないのか? あまりの強さと可愛さで魔獣を愛でる会の会長を魅了し、デッサンだけでも描かせてくれ! と頭を下げさせたという伝説の」
「亀はシルヴェスターの森にいた魔獣。召喚した訳じゃなく、ダグラス君の妹を気に入って付いてきたらしい」
「神の子どもを下すくらいに強い魔獣がついてくるなんて、それもそれで凄いな」
「シルヴェスターで生きている魔獣が弱いはずないもんな」
「大会主催者の会長に水かけるくらい肝も座ってるし......。なんでも会長が泣いて喜んでるうちに帰ったらしい」
「大物だな......。だがまぁ兄が兄なら妹も妹。強くて当然といえばそうなのか。でもそんな強い魔物連れてたら王都では悪目立ちしそうだよな……」
「それはまぁな~」

 気にしないタイプだと良いけどな、とぼやきながらつまみを突く。特に同じくらいの年の妹がいるアンディは、自分の妹に置き換えて想像し、ひどく落ち込んでいる。

 そんなアンディを励まそうと、ドゥーダが追加のオーダーを頼もうとした時だった。振り返った先、それも至近距離にダグラスの顔があった。


「俺の妹が何か?」
「ダ、ダグラス君!」
「俺の妹が悪目立ちするとかなんとか聞こえたのですが、妹が何か?」

 それも真顔である。
 殺気こそ出ていないが、魔物と対峙した時の何倍も怖い。

 どうやら自分の名前ではなく、妹の話題に反応してやってきたらしい。

 思えば、彼が学園で騒動を起こした時も引き金は家族の話題だった。
 家族が大事な彼にとって『妹が悪目立ち』というワードはとても無視出来るものではなかったのだろう。

 だが三人ともダグラスの妹を貶める意図はないのだ。
 殺気を漏らさないでくれよ、と必死で願いながら事情を説明をする。

「ああ、いや、妹さんが悪い訳じゃないんだ」
「そうそう。妹さんの才能が故に成し遂げた快挙だと言うことは重々承知している。ただ王都でも強い魔獣を連れている奴はかなり限られる。それも若い子が連れているとなればなおのこと。実際、ダグラス君もそうだろう?」
「前例が少ないものは興味を集めやすいとはいえ、あまり目立つんじゃ本人も気になるだろうな、と。そういうの、気にする子だったら可哀想だろ」
「なるほど。つまり前例があればいいんですね」
「ん?」
「ありがとうございます。俺では気づけなかった視点なので、アドバイスしていただけて、助かりました」

 ダグラスはぺこりと頭を下げて、去っていった。
 とりあえずアンディ達に悪意がないことは伝わったらしい。

 だが素直に喜べないのは、近くにいたらしいライヒムとの会話を聞いてしまったから。

「ドラゴンを従えている前例、いまからでも作れると思うか?」
「ダグラスなら従えることは可能だろうが、召喚となると相手が応じてくれるかどうかが重要だからな~。確実に欲しいなら、野生のドラゴンをテイムするという手もあるな。あまり一般的ではないし、そもそも奴らは召喚に応じる魔物と違って人間と契約するつもりがない。ドラゴン族となるとプライドも高いだろうし、些か手はかかると思うが」
「ウェスパルの快適な学園生活のためだ。多少の手間がかかるのは構わない。プレゼント用に確保した小屋が埋まるのは少し痛手だが、欲しければまた手に入れればいい。そうと決まれば早速ドラゴン目撃情報を集めないと、か」

 小屋ってもしかして『ハウス』のことか?
 この前の最高ランククエストを達成したのは彼だったのか……。

 改めて自分達とは簡単に比べられる存在ではないことを理解させられる。

「俺たち、もしかして余計なこと言った?」
「……まぁでもあくまで誰かがドラゴンを連れている状態に慣れさせるのが目的だろ? それにこちらから危害を加えなければ牙を向くことはないから、今後怪我人が出るようなら悪いのは俺らじゃなくて怪我したやつだ」
「それに数年後、妹さんの周りが騒ぎになるよりはマシだ」

 ハハハと笑いながら酒を頼む。
 周りの冒険者達は、新たな魔獣を従えようとしているらしいダグラスの会話に耳をそばだてているが、どうせ誰も止められないのだ。

 最悪を防げただけでも良かったと喜ぶべきだろう。
 現実逃避というワードを冷たい酒で流し込む。


 だが彼らは知らない。
 これがきっかけでダグラスとライヒムから頻繁に声をかけられるようになることも。

 意見を求められるとなんだかんだで真面目に返してしまうために、周りから一目置かれるようになることも。

 数年後、シルヴェスターへの用事が全て彼らへの指名依頼になることも。
 そこでかつてシルヴェスターについて語っていた冒険者が焼いた芋を一緒に食べることも。

 この時の三人は想像もしていなかったのである。
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