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3章
◆冒険者ギルド内酒場にて(前編)
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冒険者ギルドには酒場が併設されていることが多い。
王都の冒険者ギルドもそうだ。毎日時間を問わず、冒険者達で溢れている。
仕事から帰ってきたばかりのとある冒険者達は酒場の端の席に腰を降ろした。
彼らは冒険者達の間でも有名なチーム アンドゥトロワのメンバーである。
五年前に田舎の村から出てきた幼馴染み、アンディ・ドゥーダ・トロワンドのパーティで、彼らの見た目は非常に地味である。
話しかけやすさはギルド一と言われる彼らだが、たった五年で上級ランク一歩手前まで上るほどの有望株でもある。
強さはもちろん、仕事は丁寧で初心者にも優しい。そのため、指名依頼の数が群を抜いていた。少し前まで、若手一番のホープと呼ばれてもいた。
だがダグラス=シルヴェスターとライヒム=タータスの学園入学以降、すっかり霞んでしまっている。
といっても本人達は全く気にしていないが。
向上心がない訳ではない。
ただアンドゥトロワのスローガンは『いつまでも初心を忘れず、命大事に!』である。それを胸に掲げて今まで大きな怪我をせずにやってきた。
身の丈に合わない依頼を受けて引退せざるを得なくなった冒険者を見送る度、初めに三人で考えたスローガンが正しかったことを再認識する。
だから他と比べて焦ったりはしない。焦っても仕方ないことを理解している。
実際、あの二人は強い。自分達よりも注目されることにも納得していた。
今日も今日とて身の丈に合った仕事を受け、三人で遅めの昼食を取る。
「やっぱりダグラス君は強いよな~」
「ライヒム君もなかなかだ。この前見たときよりランスの捌きが上手くなっていた」
会話の内容は帰りに見かけた彼らのこと。
元から目立つ彼らだが、ダグラスがフェンリルを召喚してからはより目立つようになっていた。
なんでも魔獣神の子どもだとか。
知っている人からすれば、強い男が最強の魔獣を連れてきたと驚くほどらしいが、アンディ・ドゥーダ・トロワンドの三人は神についてトンと詳しくなかった。
現在存在する神と、シルヴェスターに眠っている邪神 ルシファーのことをチラッと知っている程度。
ただ神の子どもならそれはそれはありがたい存在なのだろう、と三人で手を合わせたくらいだ。
ライヒムは肩を揺らして笑っていたが、神なんて縁遠い存在なのだ。
田舎の小さな村から出てきた者なら似たようなリアクションをすることだろう。
「シルヴェスターってダグラス君くらい強い人がわんさかいるのかな?」
「まぁシルヴェスターといえば強くないと入れないっていうし、一部の冒険者の憧れの場所だからな~」
冒険者なら『シルヴェスター』という土地を知らぬ者はいないだろう。
かつて邪神 ルシファーが焼いたというその土地の周りには魔物が溢れているのだとか。それも三人の故郷の村の周りにいたような魔物とは比べものにならないほどに強い魔物が。
それらに対抗出来る者のみがシルヴェスターに定住出来る。
身分・出自は一切関係ない。力のみが必要とされる。魔物討伐の義務はあるが、毎月かなりの額が支給されるらしい。
だが冒険者を魅了するのはそこではない。
『死後、必ず埋葬してもらえる。身内がいない俺たちの墓を立ててもらえて、誰かが墓参りに来るんだ。これがどんなに幸せなことか分かるか?』
それはアンドゥトロワが王都のギルドに来たばかりの頃、最強と呼ばれていた冒険者が酔いながら溢した言葉である。
それからしばらくして、彼はシルヴェスターへと向かった。
以降、王都でも他の場所でも話を聞かないので、無事定住出来たのだろう。
聞いた話では、死後もらえるのは墓だけではなく、かなりの額の見舞金もだとか。お金の使い道や受け取り先は指定できるため、故郷に孤児院を建てて欲しいと望む者も多いのだとか。
依頼先ではそうして建てられたのだという孤児院を何件も見てきた。建てられた孤児院にシルヴェスターの名前も、冒険者の名前も刻まれてはいないが、孤児院のおかげで助かった子ども達の心には強く刻まれていく。
そんなシルヴェスターの次期当主として君臨するのが、ダグラスである。強くないはずがない。
王都の冒険者ギルドもそうだ。毎日時間を問わず、冒険者達で溢れている。
仕事から帰ってきたばかりのとある冒険者達は酒場の端の席に腰を降ろした。
彼らは冒険者達の間でも有名なチーム アンドゥトロワのメンバーである。
五年前に田舎の村から出てきた幼馴染み、アンディ・ドゥーダ・トロワンドのパーティで、彼らの見た目は非常に地味である。
話しかけやすさはギルド一と言われる彼らだが、たった五年で上級ランク一歩手前まで上るほどの有望株でもある。
強さはもちろん、仕事は丁寧で初心者にも優しい。そのため、指名依頼の数が群を抜いていた。少し前まで、若手一番のホープと呼ばれてもいた。
だがダグラス=シルヴェスターとライヒム=タータスの学園入学以降、すっかり霞んでしまっている。
といっても本人達は全く気にしていないが。
向上心がない訳ではない。
ただアンドゥトロワのスローガンは『いつまでも初心を忘れず、命大事に!』である。それを胸に掲げて今まで大きな怪我をせずにやってきた。
身の丈に合わない依頼を受けて引退せざるを得なくなった冒険者を見送る度、初めに三人で考えたスローガンが正しかったことを再認識する。
だから他と比べて焦ったりはしない。焦っても仕方ないことを理解している。
実際、あの二人は強い。自分達よりも注目されることにも納得していた。
今日も今日とて身の丈に合った仕事を受け、三人で遅めの昼食を取る。
「やっぱりダグラス君は強いよな~」
「ライヒム君もなかなかだ。この前見たときよりランスの捌きが上手くなっていた」
会話の内容は帰りに見かけた彼らのこと。
元から目立つ彼らだが、ダグラスがフェンリルを召喚してからはより目立つようになっていた。
なんでも魔獣神の子どもだとか。
知っている人からすれば、強い男が最強の魔獣を連れてきたと驚くほどらしいが、アンディ・ドゥーダ・トロワンドの三人は神についてトンと詳しくなかった。
現在存在する神と、シルヴェスターに眠っている邪神 ルシファーのことをチラッと知っている程度。
ただ神の子どもならそれはそれはありがたい存在なのだろう、と三人で手を合わせたくらいだ。
ライヒムは肩を揺らして笑っていたが、神なんて縁遠い存在なのだ。
田舎の小さな村から出てきた者なら似たようなリアクションをすることだろう。
「シルヴェスターってダグラス君くらい強い人がわんさかいるのかな?」
「まぁシルヴェスターといえば強くないと入れないっていうし、一部の冒険者の憧れの場所だからな~」
冒険者なら『シルヴェスター』という土地を知らぬ者はいないだろう。
かつて邪神 ルシファーが焼いたというその土地の周りには魔物が溢れているのだとか。それも三人の故郷の村の周りにいたような魔物とは比べものにならないほどに強い魔物が。
それらに対抗出来る者のみがシルヴェスターに定住出来る。
身分・出自は一切関係ない。力のみが必要とされる。魔物討伐の義務はあるが、毎月かなりの額が支給されるらしい。
だが冒険者を魅了するのはそこではない。
『死後、必ず埋葬してもらえる。身内がいない俺たちの墓を立ててもらえて、誰かが墓参りに来るんだ。これがどんなに幸せなことか分かるか?』
それはアンドゥトロワが王都のギルドに来たばかりの頃、最強と呼ばれていた冒険者が酔いながら溢した言葉である。
それからしばらくして、彼はシルヴェスターへと向かった。
以降、王都でも他の場所でも話を聞かないので、無事定住出来たのだろう。
聞いた話では、死後もらえるのは墓だけではなく、かなりの額の見舞金もだとか。お金の使い道や受け取り先は指定できるため、故郷に孤児院を建てて欲しいと望む者も多いのだとか。
依頼先ではそうして建てられたのだという孤児院を何件も見てきた。建てられた孤児院にシルヴェスターの名前も、冒険者の名前も刻まれてはいないが、孤児院のおかげで助かった子ども達の心には強く刻まれていく。
そんなシルヴェスターの次期当主として君臨するのが、ダグラスである。強くないはずがない。
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