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3章
33.羊はまさかの事実を連れて来る
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むしろ私の方がルクスさんって本当に邪神なのかと疑いたくなったくらいだ。
まぁ元神様だろうが、そうじゃなかろうが、ルクスさんはルクスさん。今やすっかり私の家族であることには違いないが。
今後も一緒に参加することを考えると早く馴染んでくれて嬉しい。けれど少しだけ寂しいと思ってしまう気持ちもある。イヴァンカと話している時はこんな気持ちにならなかったのに……。
上手く表せないもやもや感を胸に抱えたまま手近なお菓子に手を伸ばす。イヴァンカはそんな私に嬉しそうな表情を向ける。
「どうしたの?」
「ウェスパルにも良い人見つかって良かったなって思って」
「良い人?」
「ずっと一緒に居たいと思う相手のことよ」
「?」
見つかったも何も、私は以前からイヴァンカとギュンタとずっと一緒に居たいと思っていた。
最近はそこにルクスさんや亀蔵も加わったが、このタイミングでイヴァンカが喜ぶ理由が分からない。首を傾げても彼女はふふふと笑うだけ。これ以上教えてくれる気はないようだった。代わりに彼女のオススメのお菓子を持ってきてくれた。
ルクスさんにオススメを捧ぐ列が短くなった頃。会場がざわつき始めた。
そう、このお茶会の大本命の彼がようやく登場したのである。
開かれたドアから登場したのはバスケットを手に提げたギュンタと、その後ろを歩く使用人達。
バスケットの中身は石けんである。今回は親戚の屋敷ということで新作を沢山用意したらしい。
私とルクスさんが愛用している物の他にも様々な見た目のものが入っている。
それらをいつの間にか設置されていた長机に並べていく。中でも令嬢達の目を引いたのは宝石のようにカットされた石けんである。それも様々なカラーが用意されている。
フィルムに包まれているから香りまでは分からないが、ギュンタが作ったものである。今までですでに令嬢達との信頼関係は作られており、誰もがいい香りであることを確信している。
いや、令嬢達に限ったことではない。令息達も同じこと。
「婚約者に贈ったら喜ばれたんだよね」
「母上に頼まれた」
「俺は妹に」
令嬢達よりも前に出ることはないが、革袋を手に、そわそわとしている。
「本日用意したのは……」
石けんの説明を始めてからはもうギュンタの独壇場。
机の上に並べたものの他にも大きな固まりを運んできて、その場でカットしてみせたりと令嬢・令息達を魅了していった。
「貴族が揃いもそろってあんなに平和ボケしていていいものなのか」
帰りの馬車でルクスさんがそう漏らすほどには、社交界らしくない貴族のお茶会であった。
といっても私の身近にはなかなか『貴族らしい』人はいない。
マーシャル王子は基本的に社交界に参加しないし、サルガス王子の対応も一度だけ見たがあれは王子という身分があってこその対応だ。一般的な『貴族らしさ』というものとは少し外れている。少なくとも私は彼の貴族らしい姿を見たことがない。
イザラクはちゃんと貴族をしているのだろうが、私がいるとこちらにばかり構ってくれるので活躍の場を目にすることはなかった。
また最近まで絶賛思春期に突入していたロドリーも、貴族らしいかと聞かれると微妙である。
そんなロドリーだが、ルクスさんの三本目のネクタイの活躍後すぐにシルヴェスターを訪れた。
春の大会ももちろん優勝したが、彼の向上心は天井知らず。さらなる技術向上を目指し、ルクスさんの教えを乞いに来たのである。
今度は羊のぬいぐるみとまさかの事実を携えて。
なんでも羊好きの幼馴染みさんがこの前のコーラをいたく気に入ったらしく、お気に入りの羊の毛で作ってくれたらしい。
「あいつも喜んでたが、彼女も喜んでたからな。それはもうすごい張り切りようで」
「彼女『も』?」
「ああ。あいつの彼女も甘いものが好きなんだ。結婚式ではこれを振る舞おうなんて今から話していたくらい」
「もしかして、幼馴染みさんって男の人?」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてない!」
私の密かな計画は無残にも散っていった。
だが羊のぬいぐるみは可愛いし、幼馴染みの話をするロドリーはとても嬉しそうだ。その顔に恋情など欠片もない。純粋に幼馴染みの幸せを望んでいる。
私がギュンタとイヴァンカの幸せを望むのと同じである。
ルート潰しは失敗したけど、ロドリーが幼馴染みを大切に思う気持ちは再確認出来た。
そして幼馴染さんとその彼女さんは隣の家同士で家族ぐるみで仲がいいのだという貴重な情報もゲットした。
それだけでルート潰しはまた頑張れば良いかと割り切れた。
数歳年の離れた幼馴染も良いものである。
まぁ元神様だろうが、そうじゃなかろうが、ルクスさんはルクスさん。今やすっかり私の家族であることには違いないが。
今後も一緒に参加することを考えると早く馴染んでくれて嬉しい。けれど少しだけ寂しいと思ってしまう気持ちもある。イヴァンカと話している時はこんな気持ちにならなかったのに……。
上手く表せないもやもや感を胸に抱えたまま手近なお菓子に手を伸ばす。イヴァンカはそんな私に嬉しそうな表情を向ける。
「どうしたの?」
「ウェスパルにも良い人見つかって良かったなって思って」
「良い人?」
「ずっと一緒に居たいと思う相手のことよ」
「?」
見つかったも何も、私は以前からイヴァンカとギュンタとずっと一緒に居たいと思っていた。
最近はそこにルクスさんや亀蔵も加わったが、このタイミングでイヴァンカが喜ぶ理由が分からない。首を傾げても彼女はふふふと笑うだけ。これ以上教えてくれる気はないようだった。代わりに彼女のオススメのお菓子を持ってきてくれた。
ルクスさんにオススメを捧ぐ列が短くなった頃。会場がざわつき始めた。
そう、このお茶会の大本命の彼がようやく登場したのである。
開かれたドアから登場したのはバスケットを手に提げたギュンタと、その後ろを歩く使用人達。
バスケットの中身は石けんである。今回は親戚の屋敷ということで新作を沢山用意したらしい。
私とルクスさんが愛用している物の他にも様々な見た目のものが入っている。
それらをいつの間にか設置されていた長机に並べていく。中でも令嬢達の目を引いたのは宝石のようにカットされた石けんである。それも様々なカラーが用意されている。
フィルムに包まれているから香りまでは分からないが、ギュンタが作ったものである。今までですでに令嬢達との信頼関係は作られており、誰もがいい香りであることを確信している。
いや、令嬢達に限ったことではない。令息達も同じこと。
「婚約者に贈ったら喜ばれたんだよね」
「母上に頼まれた」
「俺は妹に」
令嬢達よりも前に出ることはないが、革袋を手に、そわそわとしている。
「本日用意したのは……」
石けんの説明を始めてからはもうギュンタの独壇場。
机の上に並べたものの他にも大きな固まりを運んできて、その場でカットしてみせたりと令嬢・令息達を魅了していった。
「貴族が揃いもそろってあんなに平和ボケしていていいものなのか」
帰りの馬車でルクスさんがそう漏らすほどには、社交界らしくない貴族のお茶会であった。
といっても私の身近にはなかなか『貴族らしい』人はいない。
マーシャル王子は基本的に社交界に参加しないし、サルガス王子の対応も一度だけ見たがあれは王子という身分があってこその対応だ。一般的な『貴族らしさ』というものとは少し外れている。少なくとも私は彼の貴族らしい姿を見たことがない。
イザラクはちゃんと貴族をしているのだろうが、私がいるとこちらにばかり構ってくれるので活躍の場を目にすることはなかった。
また最近まで絶賛思春期に突入していたロドリーも、貴族らしいかと聞かれると微妙である。
そんなロドリーだが、ルクスさんの三本目のネクタイの活躍後すぐにシルヴェスターを訪れた。
春の大会ももちろん優勝したが、彼の向上心は天井知らず。さらなる技術向上を目指し、ルクスさんの教えを乞いに来たのである。
今度は羊のぬいぐるみとまさかの事実を携えて。
なんでも羊好きの幼馴染みさんがこの前のコーラをいたく気に入ったらしく、お気に入りの羊の毛で作ってくれたらしい。
「あいつも喜んでたが、彼女も喜んでたからな。それはもうすごい張り切りようで」
「彼女『も』?」
「ああ。あいつの彼女も甘いものが好きなんだ。結婚式ではこれを振る舞おうなんて今から話していたくらい」
「もしかして、幼馴染みさんって男の人?」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてない!」
私の密かな計画は無残にも散っていった。
だが羊のぬいぐるみは可愛いし、幼馴染みの話をするロドリーはとても嬉しそうだ。その顔に恋情など欠片もない。純粋に幼馴染みの幸せを望んでいる。
私がギュンタとイヴァンカの幸せを望むのと同じである。
ルート潰しは失敗したけど、ロドリーが幼馴染みを大切に思う気持ちは再確認出来た。
そして幼馴染さんとその彼女さんは隣の家同士で家族ぐるみで仲がいいのだという貴重な情報もゲットした。
それだけでルート潰しはまた頑張れば良いかと割り切れた。
数歳年の離れた幼馴染も良いものである。
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