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3章
30.精霊感謝祭
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精霊たちに魔結晶を配布している間に何があったのかを話してくれた。
なんでも鉱山が崩落する危険性があったらしい。
それも一カ所ではなく、複数のポイントで危険が確認され、後数日も掘り進めていたら危なかったそうだ。
だから彼らは人間が鉱山に入るのを拒み、近づかないようにバリケードを張った。
大規模に展開したのは、そうすればすぐに異変に気付き、ルクスさんを呼んでもらえると思ってのことだったとか。ルクスさんなら精霊の言葉を理解出来る。鉱山が危険であることを明確に伝えることが出来ると考えたのだと。
そのことを知ったイヴァンカは先ほどから「ありがとうありがとう」と感謝の言葉と涙を溢している。
魔力をギリギリまで消費した精霊達はやりきったような表情だった。彼らは自らのパートナーを守るために行動を起こしたのである。ルクスさんの言う通りだった。
手元にある分を全て渡しきったが全然足りていない。
まだ列に並んでいる精霊に謝るが、ふるふると首を振る。ルクスさんに通訳してもらうと「気にしないで。ギリギリの子だけにでも行き渡っただけでもありがたい」と言っているらしかった。
「ほら、領主の元へ行くぞ」
「……はい」
悔しい気持ちを抱えながら馬車へと乗り込む。
私にもっと作れる能力があれば……。
手のひらに爪を立てながら拳を固めても中に魔結晶が発生する訳ではない。
「ウェスパル、出来なかったことを悔やむより、出来たことを誇れ」
「あの子達がすぐに回復出来たのはウェスパルが魔結晶を作って、貯めておいてくれたおかげよ。ありがとう。すぐに駆けつけてくれて」
イヴァンカの心からの感謝に涙が溢れた。
バリケードがなくなった道を抜けながら、私は今の私が出来ることを実行することにした。
ふうっと息を拭きながら魔力を結合していく。いつもよりも集中力が上がっているのか、普段よりも早く次に取りかかれるようになっている気がする。
精霊達の異変の原因を知った大人達は目を丸くして驚いた。
そして伯爵は迷うことなく、鉱山を閉める宣言をした。
「鉱物は自然が作り出したものであり、私達はそれを分けてもらっているに過ぎない。自然を愛する彼らが止めるなら従うだけだ」ーーと。
今回、崩落の危険性がありと教えてもらった山は鉱物の採掘量が特に多かった山で、ファドゥール領の収入はガクンと減ることになる。
だが領民達から非難の声が上がることはなく、むしろ彼らの口から出たのはどれも精霊達への感謝の言葉だった。
「よし、今日は精霊のための宴を開こう」
「宴だ、宴だ!」
「精霊に感謝する宴ならスカビオやシルヴェスターも巻き込んだ方が良くないか?」
「誰か声かけてこい」
「宴は夜だ! それまでに酒と食事をあるだけ用意しろ」
大人達はお~っと拳を突き上げる。
これから宴の準備に取りかかるらしい。また私の活躍を知ったらしい元城勤めの魔法使い達は魔結晶の作り方を教えて欲しいとやってきた。
自分たちでも作れるようになりたいのだと。
少しコツを教えればサクサクと作れるようになっていった。さすがはエリート中のエリート。習得も早い。すぐに私の作成スピードを追い越していった。
初めての時よりもずっと魔力の扱いに慣れてきているとはいえ、まだまだ彼らほどの境地には達していなようだった。
魔法を極めるために城での職を手放して移住してくるような人達だ。魔法に対する思いが違う。それに精霊たちへの感謝の気持ちも。
魔結晶があることを察したらしい精霊達に次々と完成品を渡していく。
彼らのおかげで夜にはほとんどの精霊に行きわたらせることが出来るだろう。悔やむだけで終わらなくて良かった。
「私もいつか返せるようにならなきゃね」
「少し前に、蜂蜜のケーキを持ってきてくれただろう」
「え、ええ。美味しくなった蜂蜜を食べて欲しかったから」
「それと同じだ。美味しいものを食べて欲しいと思う気持ちとウェスパルや精霊達が頑張る気持ちも、大切な誰かを思ってのこと。お前が大事だから、ウェスパルも精霊達も、我も力を貸したのだ。返そうだなんて気負う必要などない」
「そっか」
「ああ」
「ありがとう、ルクスさん」
背後で繰り広げられる二人の会話には耳を傾けるだけ。混ざるなんて野暮な真似はしない。だって私が言いたいことは全てルクスさんが言ってくれたから。
返さなくたっていい。
ただ笑いながら長生きしてくれさえすればそれでいいのだ。
精霊の活躍により未然に防げた崩落だが、精霊召喚が行われなかった乙女ゲーム世界では発生していた可能性が高い。
イヴァンカの死亡推定時期はまだ二年先。彼女の死と崩落事故を結びつけるにはやや時期が合わない気もするが、この崩落事故自体が精霊の活躍により早まった可能性を否定は出来ない。
ただイヴァンカが鉱山に行くのはごくごくわずか。それも領主様について行くくらい。崩落自体が早まっていたとしても、完全に結び付けるにはまだ早い。
『ロドリー=タータス』というカナリアをモチーフにしたキャラクターが示していたのは、鉱山の毒ガスではなく、崩落だったのだろうか。それとも別の災害? そもそも災害ではないかもしれない。
謎は解けぬまま。とはいえ、精霊の活躍により崩落が食い止められたことだけは確かだ。救われた命も多い。
スカビオ・シルヴェスターも巻き込んで夜中行われた宴は『精霊感謝祭』と名付けられた。
今後も毎年同じ日に宴を開くらしい。今回は酒とご飯を持ち寄っただけの簡単なものだったが、来年はもっと豪華に祝おうと笑う。この場所には幸せが満ちていた。
なんでも鉱山が崩落する危険性があったらしい。
それも一カ所ではなく、複数のポイントで危険が確認され、後数日も掘り進めていたら危なかったそうだ。
だから彼らは人間が鉱山に入るのを拒み、近づかないようにバリケードを張った。
大規模に展開したのは、そうすればすぐに異変に気付き、ルクスさんを呼んでもらえると思ってのことだったとか。ルクスさんなら精霊の言葉を理解出来る。鉱山が危険であることを明確に伝えることが出来ると考えたのだと。
そのことを知ったイヴァンカは先ほどから「ありがとうありがとう」と感謝の言葉と涙を溢している。
魔力をギリギリまで消費した精霊達はやりきったような表情だった。彼らは自らのパートナーを守るために行動を起こしたのである。ルクスさんの言う通りだった。
手元にある分を全て渡しきったが全然足りていない。
まだ列に並んでいる精霊に謝るが、ふるふると首を振る。ルクスさんに通訳してもらうと「気にしないで。ギリギリの子だけにでも行き渡っただけでもありがたい」と言っているらしかった。
「ほら、領主の元へ行くぞ」
「……はい」
悔しい気持ちを抱えながら馬車へと乗り込む。
私にもっと作れる能力があれば……。
手のひらに爪を立てながら拳を固めても中に魔結晶が発生する訳ではない。
「ウェスパル、出来なかったことを悔やむより、出来たことを誇れ」
「あの子達がすぐに回復出来たのはウェスパルが魔結晶を作って、貯めておいてくれたおかげよ。ありがとう。すぐに駆けつけてくれて」
イヴァンカの心からの感謝に涙が溢れた。
バリケードがなくなった道を抜けながら、私は今の私が出来ることを実行することにした。
ふうっと息を拭きながら魔力を結合していく。いつもよりも集中力が上がっているのか、普段よりも早く次に取りかかれるようになっている気がする。
精霊達の異変の原因を知った大人達は目を丸くして驚いた。
そして伯爵は迷うことなく、鉱山を閉める宣言をした。
「鉱物は自然が作り出したものであり、私達はそれを分けてもらっているに過ぎない。自然を愛する彼らが止めるなら従うだけだ」ーーと。
今回、崩落の危険性がありと教えてもらった山は鉱物の採掘量が特に多かった山で、ファドゥール領の収入はガクンと減ることになる。
だが領民達から非難の声が上がることはなく、むしろ彼らの口から出たのはどれも精霊達への感謝の言葉だった。
「よし、今日は精霊のための宴を開こう」
「宴だ、宴だ!」
「精霊に感謝する宴ならスカビオやシルヴェスターも巻き込んだ方が良くないか?」
「誰か声かけてこい」
「宴は夜だ! それまでに酒と食事をあるだけ用意しろ」
大人達はお~っと拳を突き上げる。
これから宴の準備に取りかかるらしい。また私の活躍を知ったらしい元城勤めの魔法使い達は魔結晶の作り方を教えて欲しいとやってきた。
自分たちでも作れるようになりたいのだと。
少しコツを教えればサクサクと作れるようになっていった。さすがはエリート中のエリート。習得も早い。すぐに私の作成スピードを追い越していった。
初めての時よりもずっと魔力の扱いに慣れてきているとはいえ、まだまだ彼らほどの境地には達していなようだった。
魔法を極めるために城での職を手放して移住してくるような人達だ。魔法に対する思いが違う。それに精霊たちへの感謝の気持ちも。
魔結晶があることを察したらしい精霊達に次々と完成品を渡していく。
彼らのおかげで夜にはほとんどの精霊に行きわたらせることが出来るだろう。悔やむだけで終わらなくて良かった。
「私もいつか返せるようにならなきゃね」
「少し前に、蜂蜜のケーキを持ってきてくれただろう」
「え、ええ。美味しくなった蜂蜜を食べて欲しかったから」
「それと同じだ。美味しいものを食べて欲しいと思う気持ちとウェスパルや精霊達が頑張る気持ちも、大切な誰かを思ってのこと。お前が大事だから、ウェスパルも精霊達も、我も力を貸したのだ。返そうだなんて気負う必要などない」
「そっか」
「ああ」
「ありがとう、ルクスさん」
背後で繰り広げられる二人の会話には耳を傾けるだけ。混ざるなんて野暮な真似はしない。だって私が言いたいことは全てルクスさんが言ってくれたから。
返さなくたっていい。
ただ笑いながら長生きしてくれさえすればそれでいいのだ。
精霊の活躍により未然に防げた崩落だが、精霊召喚が行われなかった乙女ゲーム世界では発生していた可能性が高い。
イヴァンカの死亡推定時期はまだ二年先。彼女の死と崩落事故を結びつけるにはやや時期が合わない気もするが、この崩落事故自体が精霊の活躍により早まった可能性を否定は出来ない。
ただイヴァンカが鉱山に行くのはごくごくわずか。それも領主様について行くくらい。崩落自体が早まっていたとしても、完全に結び付けるにはまだ早い。
『ロドリー=タータス』というカナリアをモチーフにしたキャラクターが示していたのは、鉱山の毒ガスではなく、崩落だったのだろうか。それとも別の災害? そもそも災害ではないかもしれない。
謎は解けぬまま。とはいえ、精霊の活躍により崩落が食い止められたことだけは確かだ。救われた命も多い。
スカビオ・シルヴェスターも巻き込んで夜中行われた宴は『精霊感謝祭』と名付けられた。
今後も毎年同じ日に宴を開くらしい。今回は酒とご飯を持ち寄っただけの簡単なものだったが、来年はもっと豪華に祝おうと笑う。この場所には幸せが満ちていた。
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