79 / 175
3章
26.ロドリーがやってきた
しおりを挟む
「ウェスパル、ルクスさん、久しぶり」
ロドリーから『またシルヴェスターに行きたい』と手紙が届いたのは十日ほど前のこと。
消印は王都のもので、大会が終わったその日に出したらしかった。いつでも構わないとすぐに手紙を返した。
タータス領までの距離を考えると、私の手紙が届いた数日後にこちらに向かいだした計算になる。数日おいたのは、私が手紙に「迎えを出すから事前にいつ来るか伝えて欲しい」と書いたから。
スカビオ領に到着する予定時刻まで書いてくれたこともあり、迎えに行ってくれたお父様とすぐに落ち合うことが出来たらしい。
お父様はとてもロドリーが気に入ったようで、帰りも送るから声をかけなさい! と上機嫌で屋敷に戻っていった。こちらに来るまでにどんな話をしていたのかは分からないが、帰りも頼むつもりだったのでありがたい。
「久しいな。大会はどうだったのだ?」
「もちろん俺も兄貴も優勝。といっても兄貴はダグラスさんが出られないからこその優勝だって笑っていたけどな」
「出られない?」
「他の参加者との実力差がありすぎるとエントリーが出来なくなるんだ。レジェンド認定って言って、大抵は何連勝かしつづけると認定される。大会に出る奴らの憧れの的で、俺も兄貴もずっとそれを目指してきた。けどダグラスさんは一度も参加せずにレジェンド認定されて、大会始まって以来だってさ。目指す夢が小さすぎたって兄貴は大笑いだよ。多分ウェスパルも同じじゃないかとな」
長年の夢を目の前であっさりと叶えられれば大抵は落ち込むものだろう。
だがケラケラと笑うロドリーが気にした様子はない。むしろ俺ももっとビッグな夢を立てたい! と燃えている。
「ということで今日も遠慮なく叩きのめしてくれ!」
「叩きのめすって……」
「あ、もちろんすぐ負けるつもりはない。この前ルクスさんから教えてもらったところは押さえてきた。この数ヶ月、自分なりに戦い方をかなり見直したつもりだ」
爽やかな笑顔で言うことではないと思うのだが、そこがロドリーなのだろう。
兄も兄なら弟も弟。
どこまでも前向きで、貪欲。
ルクスさんも「なるほど。強くなったか我直々に見てやろう」と乗り気である。
今回のルールも前回同様、魔法は強化のみ使用可。
ロドリーは足や腹などピンポイントに強化を施している。脇や首元への警戒も怠らず、剣の振り方にも変化が見られた。戦い方を見直したという言葉に嘘はなかったらしい。
警戒するのはいいが、それが相手に分かっては意味がない。それに強化ポイントもあからさま過ぎる。少し観察すれば弱点が見抜けてしまう。彼も理解しているらしく、弱点が見破られた際のカバーするために剣の技を磨いている。
だからこれといった決定的な悪い点はない。
どうしても挙げるというなら、この戦い方を身につけて日が浅い点と、まだ彼の身体が成長過程にあるという点だろうか。剣に風魔法を乗せて彼の手を打てば簡単に剣が落ちてしまう。
「おっも、たいな……。もしかして今の、兄貴の参考にしたのか?」
「といってもあそこまで上手くは出来ないけれど」
「兄貴の場合、魔法は強化専門。ほとんどをランスの強化に振ってるから。あそこまではなかなか割り切れない。だから俺も分散させて……そうか、手元にも強化入れておけば良かったかのか」
キャラメイクやステータス配分が決められるゲームではしばしば『極振り』をするプレイヤーが見られた。
極振りとは、ここだ! と決めたところに全てのポイントを割り振ることである。ようは一点特化。
成功すれば一気に伸びるが、それ以外のステータスが他のプレイヤーよりも劣るので、成功にたどり着くまでが大変だ。進行がかなり遅れることもあり、我慢できずにキャラを作り直す者も多いのだそうだ。
だからといって全体を伸ばしてオールラウンダーになったとしても上手くやらなければ器用貧乏で終わってしまうので、どちらが良いとは言えない。
だがどちらもゲームの話である。
現実でも実現できるかと言われると、ロドリーの言う通り、なかなか難しいものがある。
どうしても攻撃を受けた時のことまで考えてしまう。
それにライヒムさんのランスには多くの魔力が込められていることは一目瞭然で、気付いた敵がランスの動きを封じる、もしくはランス本体を破壊すれば、その時点で勝敗が見えてしまう。
おそらくこの欠点についてはライヒムさん本人も理解していて、その上で実行しているのだろう。
お兄様の友人になるだけあって、肝の据わり方から常人とは違うのだ。
ロドリーから『またシルヴェスターに行きたい』と手紙が届いたのは十日ほど前のこと。
消印は王都のもので、大会が終わったその日に出したらしかった。いつでも構わないとすぐに手紙を返した。
タータス領までの距離を考えると、私の手紙が届いた数日後にこちらに向かいだした計算になる。数日おいたのは、私が手紙に「迎えを出すから事前にいつ来るか伝えて欲しい」と書いたから。
スカビオ領に到着する予定時刻まで書いてくれたこともあり、迎えに行ってくれたお父様とすぐに落ち合うことが出来たらしい。
お父様はとてもロドリーが気に入ったようで、帰りも送るから声をかけなさい! と上機嫌で屋敷に戻っていった。こちらに来るまでにどんな話をしていたのかは分からないが、帰りも頼むつもりだったのでありがたい。
「久しいな。大会はどうだったのだ?」
「もちろん俺も兄貴も優勝。といっても兄貴はダグラスさんが出られないからこその優勝だって笑っていたけどな」
「出られない?」
「他の参加者との実力差がありすぎるとエントリーが出来なくなるんだ。レジェンド認定って言って、大抵は何連勝かしつづけると認定される。大会に出る奴らの憧れの的で、俺も兄貴もずっとそれを目指してきた。けどダグラスさんは一度も参加せずにレジェンド認定されて、大会始まって以来だってさ。目指す夢が小さすぎたって兄貴は大笑いだよ。多分ウェスパルも同じじゃないかとな」
長年の夢を目の前であっさりと叶えられれば大抵は落ち込むものだろう。
だがケラケラと笑うロドリーが気にした様子はない。むしろ俺ももっとビッグな夢を立てたい! と燃えている。
「ということで今日も遠慮なく叩きのめしてくれ!」
「叩きのめすって……」
「あ、もちろんすぐ負けるつもりはない。この前ルクスさんから教えてもらったところは押さえてきた。この数ヶ月、自分なりに戦い方をかなり見直したつもりだ」
爽やかな笑顔で言うことではないと思うのだが、そこがロドリーなのだろう。
兄も兄なら弟も弟。
どこまでも前向きで、貪欲。
ルクスさんも「なるほど。強くなったか我直々に見てやろう」と乗り気である。
今回のルールも前回同様、魔法は強化のみ使用可。
ロドリーは足や腹などピンポイントに強化を施している。脇や首元への警戒も怠らず、剣の振り方にも変化が見られた。戦い方を見直したという言葉に嘘はなかったらしい。
警戒するのはいいが、それが相手に分かっては意味がない。それに強化ポイントもあからさま過ぎる。少し観察すれば弱点が見抜けてしまう。彼も理解しているらしく、弱点が見破られた際のカバーするために剣の技を磨いている。
だからこれといった決定的な悪い点はない。
どうしても挙げるというなら、この戦い方を身につけて日が浅い点と、まだ彼の身体が成長過程にあるという点だろうか。剣に風魔法を乗せて彼の手を打てば簡単に剣が落ちてしまう。
「おっも、たいな……。もしかして今の、兄貴の参考にしたのか?」
「といってもあそこまで上手くは出来ないけれど」
「兄貴の場合、魔法は強化専門。ほとんどをランスの強化に振ってるから。あそこまではなかなか割り切れない。だから俺も分散させて……そうか、手元にも強化入れておけば良かったかのか」
キャラメイクやステータス配分が決められるゲームではしばしば『極振り』をするプレイヤーが見られた。
極振りとは、ここだ! と決めたところに全てのポイントを割り振ることである。ようは一点特化。
成功すれば一気に伸びるが、それ以外のステータスが他のプレイヤーよりも劣るので、成功にたどり着くまでが大変だ。進行がかなり遅れることもあり、我慢できずにキャラを作り直す者も多いのだそうだ。
だからといって全体を伸ばしてオールラウンダーになったとしても上手くやらなければ器用貧乏で終わってしまうので、どちらが良いとは言えない。
だがどちらもゲームの話である。
現実でも実現できるかと言われると、ロドリーの言う通り、なかなか難しいものがある。
どうしても攻撃を受けた時のことまで考えてしまう。
それにライヒムさんのランスには多くの魔力が込められていることは一目瞭然で、気付いた敵がランスの動きを封じる、もしくはランス本体を破壊すれば、その時点で勝敗が見えてしまう。
おそらくこの欠点についてはライヒムさん本人も理解していて、その上で実行しているのだろう。
お兄様の友人になるだけあって、肝の据わり方から常人とは違うのだ。
1
お気に入りに追加
471
あなたにおすすめの小説
月が隠れるとき
いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。
その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。
という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。
小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください
シンさん
恋愛
金貸しから追われる、靴職人のドロシー。
ある日突然、7才のアイザック王子にプロポーズされたんだけど、本当は20才の王太子様…。
こんな事になったのは、王家に伝わる魔術の7つ道具の1つ『子供に戻る靴』を履いてしまったから。
…何でそんな靴を履いたのか、本人でさえわからない。けど王太子が靴を履いた事には理由があった。
子供になってしまった20才の王太子と、靴職人ドロシーの恋愛ストーリー
ストーリーは完結していますので、毎日更新です。
表紙はぷりりん様に描いていただきました(゜▽゜*)
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる