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3章
23.コーラシロップを作ろう
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「そこまで楽しみにしてくれて嬉しいわ。はい、どうぞ」
ルクスさんはイヴァンカから受け取ったケーキを鷲掴みにして、パクパクと頬張っていく。
どうですか? なんて聞く必要もない。
その表情は、今まで見たどの顔よりも幸せそうだ。さすがはイヴァンカの自信作。
私もすぐに頂きたいところだが、ルクスさんを抱いたままである。
加えて食べるより先に腕を洗わないといけない。このタイミングで下ろしたら怒られるのが分かりきっているので、グッと堪えて羨ましげな視線を向けるだけ。
「そうだ! 俺もお祝いの品を持ってきたんだった。頼まれてたコーラセット」
「揃ったの!?」
スカビオ領で栽培できる植物が増えたと聞き、シナモン・バニラビーンズ・クローブ・カルダモンといったクラフトコーラ基本セットを頼んでいた。その他の柑橘類と蜂蜜、砂糖はキッチンで分けてもらう予定だ。
私は作ったことないが、友達が夏休みの自由研究で作っていたので材料と作り方は覚えていた。前世ではスーパーやコンビニに行けば簡単に手に入ったのでわざわざ作る機会なんてないと思っていたが、案外どんな知識が役立つか分からないものである。
「ああ。スパイスやハーブが材料だって聞いたから他にもいくつか持ってきてる」
「あ、私も蜂蜜を使うって聞いたから持ってきたわよ」
「こんなに! 本当にもらっちゃっていいの?」
「その代わり、コーラっていうのが出来たら俺にも飲ませて」
「私も飲みたいわ」
「頑張って美味しいコーラ作るから楽しみにしていて!」
コーラといえば真っ先に思い浮かぶのが炭酸である。
ギュンタに頼んだ後、この世界にも炭酸水があるのか調べたところ、少し離れた場所の井戸から採取できることが判明した。
ただし、シルヴェスターに持ち帰れるかどうかは微妙。
前世のように、炭酸の気が抜けないように保存出来るアイテムがないのだ。
全く聞いたことがなかったのはこれが理由らしかった。
いざとなったらシロップ持参でそちらに向かうことにしよう。
コーラシロップは水で割っても美味しいのだ。牛乳で割ったのも案外イケると聞いたことがある。チャイみたいだとか。
大人になったらカクテルもいける。
美味しく出来たらお父様達にも勧めてみよう。
手元に材料が集まったことで想像が雲みたいにもくもくと広がっていく。
「ケーキ、食べないなら我がもらうぞ?」
「あげません!」
ルクスさんをソファの上に下ろし、錬金部屋の流しで腕を洗う。タオルでよく拭いてから、ようやく絶品ケーキを頬張った。
一口食べて、声を失った。そして気づけば私は空中をフォークで刺していた。
あまりの美味しさに手が止まらなかったのである。
多分、二人がいなければ私もルクスさんみたいに鷲掴んで食べていたことだろう。それくらい美味しかった。
乾きを感じ始めた喉に紅茶を注げば、ケーキで満たされていた時とは違う甘みが広がっていく。
「さいっこう……」
幸福に浸る私の周りを精霊がグルグルと飛び回る。
小屋に入ってからずっと大人しくしていた彼らのため、スクッと立ち上がる。錬金部屋に設置した机から複数の小瓶を取り出す。そして瓶の中身を全て手のひらに出した。
「私からの貢物。めっちゃ美味しかったです」
両手いっぱいに載っているのは魔結晶。貢ぎ先はもちろん精霊達である。
ありがとう。
そしてまたよろしく。
そんな感謝と下心が合わさった物を、精霊達は喜んで受け取っていく。
服のポケットに入れたり、帽子に入れたり、脇で抱えたり。とにかく持てるだけ回収していく。ここにはいない子達にもあげるのだろう。
「三日後また来て。その時までに作っておくから」
そう約束して二人を見送った。
夕食後、早速コーラシロップの作成に取り掛かる。小屋の方にキッチンは作ってもらえなかったので、屋敷のキッチンの端っこを借りることにした。
作り方は簡単。
計った材料を鍋に入れて火にかける。十分くらいしたら火から下ろして、粗熱が取れたら柑橘汁を入れる。後は一晩寝かせて濾す。
たったこれだけ。
人から聞いた情報だけで作れるほどには超簡単。スパイスの配合やら組み合わせる柑橘の種類なんかで全く味が変わるらしい。
今回使った柑橘はレモンだが、オレンジやライムでも美味しいそうだ。またスパイスとして生姜もわりと王道だとか。
突き詰めると奥が深いが、初心者にも優しい。それがコーラシロップである。
作る際、気をつけるべき点は主に三つ。
一つ目は、鍋に入れる際に柑橘類は輪切りにすること。
二つ目は、スパイスはより風味を出すために折ったり中身を取り出したりすること。
そして三つ目は火を強くしすぎないこと。
一番大事なのは三つ目。
コーラシロップに限らず、料理において火加減というものは大事なのだと。絶対にグラグラさせちゃダメ! 怖かったら火を弱める! との友人からのアドバイスである。火加減大事! と繰り返す友人の顔は今でも鮮明に思い出せる。多分焦がしたのだと思う。
「じゃあまた明日取りに来るから!」
友人のの失敗を無駄にしないよう、火加減に気をつけて作ったそれをキッチンに残してお風呂に向かった。
ルクスさんはイヴァンカから受け取ったケーキを鷲掴みにして、パクパクと頬張っていく。
どうですか? なんて聞く必要もない。
その表情は、今まで見たどの顔よりも幸せそうだ。さすがはイヴァンカの自信作。
私もすぐに頂きたいところだが、ルクスさんを抱いたままである。
加えて食べるより先に腕を洗わないといけない。このタイミングで下ろしたら怒られるのが分かりきっているので、グッと堪えて羨ましげな視線を向けるだけ。
「そうだ! 俺もお祝いの品を持ってきたんだった。頼まれてたコーラセット」
「揃ったの!?」
スカビオ領で栽培できる植物が増えたと聞き、シナモン・バニラビーンズ・クローブ・カルダモンといったクラフトコーラ基本セットを頼んでいた。その他の柑橘類と蜂蜜、砂糖はキッチンで分けてもらう予定だ。
私は作ったことないが、友達が夏休みの自由研究で作っていたので材料と作り方は覚えていた。前世ではスーパーやコンビニに行けば簡単に手に入ったのでわざわざ作る機会なんてないと思っていたが、案外どんな知識が役立つか分からないものである。
「ああ。スパイスやハーブが材料だって聞いたから他にもいくつか持ってきてる」
「あ、私も蜂蜜を使うって聞いたから持ってきたわよ」
「こんなに! 本当にもらっちゃっていいの?」
「その代わり、コーラっていうのが出来たら俺にも飲ませて」
「私も飲みたいわ」
「頑張って美味しいコーラ作るから楽しみにしていて!」
コーラといえば真っ先に思い浮かぶのが炭酸である。
ギュンタに頼んだ後、この世界にも炭酸水があるのか調べたところ、少し離れた場所の井戸から採取できることが判明した。
ただし、シルヴェスターに持ち帰れるかどうかは微妙。
前世のように、炭酸の気が抜けないように保存出来るアイテムがないのだ。
全く聞いたことがなかったのはこれが理由らしかった。
いざとなったらシロップ持参でそちらに向かうことにしよう。
コーラシロップは水で割っても美味しいのだ。牛乳で割ったのも案外イケると聞いたことがある。チャイみたいだとか。
大人になったらカクテルもいける。
美味しく出来たらお父様達にも勧めてみよう。
手元に材料が集まったことで想像が雲みたいにもくもくと広がっていく。
「ケーキ、食べないなら我がもらうぞ?」
「あげません!」
ルクスさんをソファの上に下ろし、錬金部屋の流しで腕を洗う。タオルでよく拭いてから、ようやく絶品ケーキを頬張った。
一口食べて、声を失った。そして気づけば私は空中をフォークで刺していた。
あまりの美味しさに手が止まらなかったのである。
多分、二人がいなければ私もルクスさんみたいに鷲掴んで食べていたことだろう。それくらい美味しかった。
乾きを感じ始めた喉に紅茶を注げば、ケーキで満たされていた時とは違う甘みが広がっていく。
「さいっこう……」
幸福に浸る私の周りを精霊がグルグルと飛び回る。
小屋に入ってからずっと大人しくしていた彼らのため、スクッと立ち上がる。錬金部屋に設置した机から複数の小瓶を取り出す。そして瓶の中身を全て手のひらに出した。
「私からの貢物。めっちゃ美味しかったです」
両手いっぱいに載っているのは魔結晶。貢ぎ先はもちろん精霊達である。
ありがとう。
そしてまたよろしく。
そんな感謝と下心が合わさった物を、精霊達は喜んで受け取っていく。
服のポケットに入れたり、帽子に入れたり、脇で抱えたり。とにかく持てるだけ回収していく。ここにはいない子達にもあげるのだろう。
「三日後また来て。その時までに作っておくから」
そう約束して二人を見送った。
夕食後、早速コーラシロップの作成に取り掛かる。小屋の方にキッチンは作ってもらえなかったので、屋敷のキッチンの端っこを借りることにした。
作り方は簡単。
計った材料を鍋に入れて火にかける。十分くらいしたら火から下ろして、粗熱が取れたら柑橘汁を入れる。後は一晩寝かせて濾す。
たったこれだけ。
人から聞いた情報だけで作れるほどには超簡単。スパイスの配合やら組み合わせる柑橘の種類なんかで全く味が変わるらしい。
今回使った柑橘はレモンだが、オレンジやライムでも美味しいそうだ。またスパイスとして生姜もわりと王道だとか。
突き詰めると奥が深いが、初心者にも優しい。それがコーラシロップである。
作る際、気をつけるべき点は主に三つ。
一つ目は、鍋に入れる際に柑橘類は輪切りにすること。
二つ目は、スパイスはより風味を出すために折ったり中身を取り出したりすること。
そして三つ目は火を強くしすぎないこと。
一番大事なのは三つ目。
コーラシロップに限らず、料理において火加減というものは大事なのだと。絶対にグラグラさせちゃダメ! 怖かったら火を弱める! との友人からのアドバイスである。火加減大事! と繰り返す友人の顔は今でも鮮明に思い出せる。多分焦がしたのだと思う。
「じゃあまた明日取りに来るから!」
友人のの失敗を無駄にしないよう、火加減に気をつけて作ったそれをキッチンに残してお風呂に向かった。
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