第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

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3章

21.小屋完成!

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「これが私達の家!」
「小屋だからな?  新居や愛の巣などでは決してない!」
「もう、何回も言わなくても分かってますってば。こういうのは雰囲気の問題なんです」
「雰囲気!? お父様の知らないところで甘い雰囲気になるなんて許さないからな!」
「だから私とルクスさんの間にそんなのないって言っているじゃないですか……」

 すっかり空気も冷たくなり、季節は冬。
 私達の小屋が完成した。亀蔵の移動を考え、一階建てにしてもらった。見た目は小屋というよりもログハウスに近い。

 部屋は三つ。入ってすぐのリビングと、奥には本専用部屋と錬金部屋がある。
 室内に段差はほとんどなく、入り口にはスロープを設置した。本を保管するためだけの部屋や、今後を見据えた錬金部屋など希望したもののほとんどは叶っている。

 基本的に室内のドアを開けっぱなしにするためにスライド式に変わっていたり、その関係で中に亀蔵用ドアがなくなっていたりなど多少の変更はある。

 叶わなかったのは主に休息室とキッチンの二つ。
 休息室は靴を脱いでカーペットの上をゴロゴロとするための部屋だった。寝転がって本を読んだりお昼寝したりするつもりで書き込んだ。

 またキッチンは屋敷にあるような立派なものではなく、コンロが一つとオーブンがあれば良かった。
 本格的な料理をするためではなく、前世の食べ物・飲み物シリーズを試作するための場所が欲しかっただけなのだ。石焼き芋のように簡単に作れるが長時間場所を占領してしまうものなんかも、ここで作ろうと考えていた。

 だがどちらも『私の目が届かないところで愛を育んでもらっては困る!』とのお父様の言葉で潰されてしまった。

 最近は信頼してくれていると思っていたが、そんなことはなかったようだ。
 お父様曰く、ルクスさんに慣れることと、娘と必要以上に仲良くするのを見逃すのは違うとのことだそう。

 領主としての心配ではなく、父親としての心配らしいので、私もルクスさんも渋々納得することにした。ちなみにドアがスライド式に変わったのはこの言葉があったからである。

 代わりに大人が寝転がれるくらい大きいソファを要求した。

 こちらはリビングに設置するということと、お父様も使うことという条件付きで納得してくれた。

 今までも度々様子を見に来ていたお父様だが、小屋の方にも出入りする予定らしく、椅子の数なんかが希望した数よりも増えていた。

 多分お母様も来るのだろう。
 色や柄の指定をしなかったところにお母様の好きそうなものが混じっている。雰囲気はまんま屋敷である。

 こうして確保したソファなどの大きな家具は、すでに大人達に運び込んでもらっている。

 今は中を見学するついでに本を運び込んでいる最中である。
 伯父様&叔母様セレクトの本とイザラクに頼んで送ってもらった神様について書かれた本、お父様に頼んでおいた錬金術関連の本、それから家にあった勉強本と少しの娯楽本ーーとそこそこの量だ。

 本棚はもらったものだけではなく、追加でも作ってもらったのだが、その大半を埋めてしまうのではないだろうか。
 まぁ部屋が足りなくなったら増設してくれるとのことなので、今後も遠慮なく増やしていくつもりだが。

 土地自体はあるので、いざとなったら本オンリーの小屋、図書館のような場所を作ってしまえばいいだろう。

「あ、ルクスさん。その本はそっちに入れてもらえますか」
「うむ」
「これはどうする?」
「お父様のものは右上に、亀蔵の箱に入っている本は全て後ろの棚でお願いします」
「分かった」

 お父様は亀蔵が背負った箱から本を取り出す。
 私は自分の抱えた本を棚に差し終えてから、亀蔵の箱が空になっているか確認する。残っている本はお父様とルクスさんに託すため、近くの棚に詰んでおく。私は亀蔵と一緒に家に戻って新しい本を運んでくる。
 これの繰り返した。


 亀蔵は秋から冬にかけて一気に大きくなった。
 歩くスピードも亀さんから幼子の歩行スピードに進化した。
 例の発光に何か意味があったのか、亀蔵の生物としての成長なのかは謎である。

 季節の変化によって見えてきた亀蔵の情報といえば、普通の亀とは違い、冬眠はしないこと。

 今日も昨日も一昨日も元気に畑を耕していた。毎日耕す必要はないのだが、お父様も亀蔵も楽しそうなので見守ることにしている。

 それに大人達から気になる話も聞いた。
 なんでも亀蔵が畑に関わるようになってから土の質が変わったらしい。前よりもうんとよくなったとか。

 確かに去年の芋よりも今年の芋が美味しいような気はしていた。
 耕す段階から関わればもっと美味しくなるのでは? なんて下心もあったりする。

 ただ、錬金術の本に目を通しても錬金獣が土の質を変えるという記載はなかった。

 過去に錬金術師が土地を豊かにした話ならあったが、錬金術で作り出した栄養剤を使った結果である。当然ながら亀蔵に栄養剤と同等の効果はない。

 魔法を送り込むという動作に意味があるという可能性も考えたが、そんな簡単に変えられるのならご先祖様達も苦労していないだろう。

 未だ亀蔵には謎の部分が多い。
 そもそも普通の錬金獣なのだろうか。
 錬金獣自体の情報が極めて少ないので、何が普通で何が普通じゃないのかは分からないけれど。

 亀蔵とは別の錬金獣を作れば分かることもあるのかな?
 じいっと見つめていると、亀蔵は不思議そうに声をあげた。

「かめぇ?」
「ごめんね。今、本入れるから」
「かめかめかめえ!」
「これで最後だから入れ終わったらおやつにしようか」
「かめ!」
「うん、頑張ろう」

 いや、亀蔵は亀蔵か。
 他の子を作ってもその子と亀蔵は違う子だ。他の子と同じところもあれば違うところがあって当然。そこを差として認識しようなんて私が間違っていた。

 ごめんね、と小さく呟けば亀蔵は不思議そうに首を傾げた。


 今日もうちの亀蔵はオンリーワンの可愛さである。
 比較なんて出来るはずもなかった。
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