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3章
17.驚きの新情報
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「果物の中では一番ベリーが好きだそうだ。だがベリーの中で、となると調理方法や状態によって順位が変わるらしく……。恥ずかしい話だが、私も最近弟の好物を知った」
「我は芋が好きだ。それから牛乳、ロイヤルミルクティー、ファドゥールの林檎も」
「私もルクスさんと同じ物が好きです。それから薬草茶とジャーキーも!」
「ジャーキーとは、少し意外だな」
サルガス王子は目を丸くする。
そういえばロドリーも令嬢が喜ぶとは思っていなかったんだっけ?
だが美味しいものが好きという気持ちに性別は関係ない。
「ねぇ、サルガス王子。知らないことってそんなに恥ずかしいことですか? だって知らないって分かったのなら、これから知っていけばいいじゃないですか。私だってマーシャル王子の好物を今、知りましたし。婚約者だったのに、片手を数えるほどしか会っていないサルガス王子の好物の方を先に知りました」
「それは会っていなかったからだろう」
「それでも知ろうと思えば聞く機会は何度もあった。けど、聞かなかったし、知らなかった。知ろうとしなかったんです」
「だが君は婚約者で、私は家族だ」
「婚約者だって未来の家族です。私は将来の旦那さんにずっと同じような手紙ばかりを送っていたし、こんな機会でもなければずっと知らなかったと思います」
だからといって私は反省していない。
それが良いことか悪いことかは分からないけれど、少なくとも私は恥に思う必要はないのでは? と考えている。
家族でも、知ろうとしなければ知らないことは多いものだ。
例えば私はお兄様の好きなものや嫌いなものを知らない。
じっとしているのが苦手というのは知っているが、それ以外となると悩んでしまう。
特に食べ物は基本的に何でも喜んで食べるので、好き嫌いがないのだと思っているが、実際どうかまでは知らない。
ルクスさんや私のように好きをアピールするタイプならいざ知らず、仲が悪くない兄弟だってこんなものだ。
それにマーシャル王子の場合、サルガス王子に気を遣っていた可能性もある。
病気がちで一緒に社交界に出る機会も少ないはずだし、寝込みがちであることを考えると、そもそも食事も一緒にしているかどうか怪しいものだ。
一緒にしていたとしても、我が家と違って席と席の間に距離があるだろうし……。
今回知れて良かった、でいいのではないだろうか。
けれどサルガス王子は私とは違う考えの持ち主らしい。
納得いかないと顔を歪ませる。
「それはマーシャルも同じことだろう。ウェスパル嬢の婚約者になってから、マーシャルにあなたやシルヴェスターの話を聞いたが、あまり知らないのだと申し訳なさそうに話していた」
「婚約者に、なった?」
聞き捨てならないワードが挟まった気がするのは私の気のせいだろうか。
私が望むのは婚約解消だけで、新たな変更は乙女ゲームシナリオをややこしくするだけだ。気のせいであってほしいと強く願う。
だがサルガス王子の口から発せられたのは無情な言葉であった。
「マーシャルだけではなく、婚約者だったシェリリンと話すようになったのも、あなたの婚約者になってからだ。マーシャルの世話を焼くために頻繁に城に来るようになった彼女を見て、ようやく今までまともに顔も見ていなかったのだと実感することが出来た」
「サルガス王子が、私の婚約者?」
「ああ、私が提案したのだが、聞いていないのか?」
「全く」
力強く否定する。
そもそも陛下や重役達からの勧めならいざ知らず、なぜサルガス王子が提案するのか。
ちょっと気になったから、なんて軽いノリで婚約者は変えられないし、そんな無責任な人ではなかったはずだ。
陛下もなぜ許可を出したのか。
娘を溺愛しているはずのスカーレット公爵からは許可は取れているのか。
シェリリンが黙っているはずがない。
色恋沙汰での揉め事なんてヒロイン関係で十分だ。
こちらは一切、サルガス王子を欲していないので変更をなかったことに出来るなら、今すぐ取り消したい。
「では私が来年から数年間、スカビオ領で世話になることも? 屋敷も建て始めているのだが……」
「初耳です!」
サルガス王子の話では、完成次第移住することが決まっているらしい。
学園入学少し前までそこで暮らし、卒業後にはシルヴェスターに屋敷ごと移住してくるそうだ。
小屋に浮かれている間に、お隣の領では王子のお屋敷が建てられているだなんて誰が想像するだろうか。
サルガス王子の訪問からそこまで時間は経っていないので、婚約者変更から屋敷の建設に取りかかるまで爆速で決まったのだろう。
なぜお父様は何も伝えてくれなかったのか。
新情報が満載すぎて、頭が痛い。少しくらっとしてきたのは熱中症や水分不足なんかではないはずだ。
「我は芋が好きだ。それから牛乳、ロイヤルミルクティー、ファドゥールの林檎も」
「私もルクスさんと同じ物が好きです。それから薬草茶とジャーキーも!」
「ジャーキーとは、少し意外だな」
サルガス王子は目を丸くする。
そういえばロドリーも令嬢が喜ぶとは思っていなかったんだっけ?
だが美味しいものが好きという気持ちに性別は関係ない。
「ねぇ、サルガス王子。知らないことってそんなに恥ずかしいことですか? だって知らないって分かったのなら、これから知っていけばいいじゃないですか。私だってマーシャル王子の好物を今、知りましたし。婚約者だったのに、片手を数えるほどしか会っていないサルガス王子の好物の方を先に知りました」
「それは会っていなかったからだろう」
「それでも知ろうと思えば聞く機会は何度もあった。けど、聞かなかったし、知らなかった。知ろうとしなかったんです」
「だが君は婚約者で、私は家族だ」
「婚約者だって未来の家族です。私は将来の旦那さんにずっと同じような手紙ばかりを送っていたし、こんな機会でもなければずっと知らなかったと思います」
だからといって私は反省していない。
それが良いことか悪いことかは分からないけれど、少なくとも私は恥に思う必要はないのでは? と考えている。
家族でも、知ろうとしなければ知らないことは多いものだ。
例えば私はお兄様の好きなものや嫌いなものを知らない。
じっとしているのが苦手というのは知っているが、それ以外となると悩んでしまう。
特に食べ物は基本的に何でも喜んで食べるので、好き嫌いがないのだと思っているが、実際どうかまでは知らない。
ルクスさんや私のように好きをアピールするタイプならいざ知らず、仲が悪くない兄弟だってこんなものだ。
それにマーシャル王子の場合、サルガス王子に気を遣っていた可能性もある。
病気がちで一緒に社交界に出る機会も少ないはずだし、寝込みがちであることを考えると、そもそも食事も一緒にしているかどうか怪しいものだ。
一緒にしていたとしても、我が家と違って席と席の間に距離があるだろうし……。
今回知れて良かった、でいいのではないだろうか。
けれどサルガス王子は私とは違う考えの持ち主らしい。
納得いかないと顔を歪ませる。
「それはマーシャルも同じことだろう。ウェスパル嬢の婚約者になってから、マーシャルにあなたやシルヴェスターの話を聞いたが、あまり知らないのだと申し訳なさそうに話していた」
「婚約者に、なった?」
聞き捨てならないワードが挟まった気がするのは私の気のせいだろうか。
私が望むのは婚約解消だけで、新たな変更は乙女ゲームシナリオをややこしくするだけだ。気のせいであってほしいと強く願う。
だがサルガス王子の口から発せられたのは無情な言葉であった。
「マーシャルだけではなく、婚約者だったシェリリンと話すようになったのも、あなたの婚約者になってからだ。マーシャルの世話を焼くために頻繁に城に来るようになった彼女を見て、ようやく今までまともに顔も見ていなかったのだと実感することが出来た」
「サルガス王子が、私の婚約者?」
「ああ、私が提案したのだが、聞いていないのか?」
「全く」
力強く否定する。
そもそも陛下や重役達からの勧めならいざ知らず、なぜサルガス王子が提案するのか。
ちょっと気になったから、なんて軽いノリで婚約者は変えられないし、そんな無責任な人ではなかったはずだ。
陛下もなぜ許可を出したのか。
娘を溺愛しているはずのスカーレット公爵からは許可は取れているのか。
シェリリンが黙っているはずがない。
色恋沙汰での揉め事なんてヒロイン関係で十分だ。
こちらは一切、サルガス王子を欲していないので変更をなかったことに出来るなら、今すぐ取り消したい。
「では私が来年から数年間、スカビオ領で世話になることも? 屋敷も建て始めているのだが……」
「初耳です!」
サルガス王子の話では、完成次第移住することが決まっているらしい。
学園入学少し前までそこで暮らし、卒業後にはシルヴェスターに屋敷ごと移住してくるそうだ。
小屋に浮かれている間に、お隣の領では王子のお屋敷が建てられているだなんて誰が想像するだろうか。
サルガス王子の訪問からそこまで時間は経っていないので、婚約者変更から屋敷の建設に取りかかるまで爆速で決まったのだろう。
なぜお父様は何も伝えてくれなかったのか。
新情報が満載すぎて、頭が痛い。少しくらっとしてきたのは熱中症や水分不足なんかではないはずだ。
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