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3章
15.芋掘り初日
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「いやぁいい天気ですね~」
空一面にはどんよりとした雲がかかっている。
雨が降る気配はなく、空気はじめっともしていなければ乾燥しすぎていることもない。絶好の芋堀り日和である。
このまま夜も月を隠してくれれば、明日も続けて芋を掘ることが出来る。
例年より人手が少ないので、天気が味方してくれるのはとてもありがたい。
ルクスさんも芋堀りに協力してくれるらしく、今日は朝から人の姿をしている。大の好物ということもありヤル気満々。昨日、森の散歩をしながらではあるが、芋堀りの仕方も軽くレクチャーをしておいた。
首にはしっかりとタオルを提げて、お茶の準備もバッチリ。二人でせっせと芋を掘りながら、イザラクの到着を待つ。
「これはかなりの大物に違いない」
「抜く時気をつけてくださいね」
「任せろ!」
気合を入れて、ズボっと引き抜く。初めに見事な大きさの芋が顔を見せた。勢いをつけすぎたのか、ルクスさんは尻もちをついてしまう。
目を丸くした彼が見つめるのは、今しがた抜いた芋である。
確かに大物ではあった。けれど大きかったのは手前の一つだけで、小さな芋がコロコロと続いている。
よくあることだが、本人としては面白くなかったらしい。
むうっとほっぺを膨らましてカゴに入れる。そして次だ、次とスコップで他の場所を掘り始めた。
「絶対に大物を引き抜いて見せる」
一体何と競っているのかとは思うが、ルクスさんの気持ちが分からなくはない。だから私も近くにしゃがみ込んで土をほぐしていく。
もちろん、煽るのも忘れずに。
「頑張ってください。まぁ大物を引き当てるのは芋堀り歴が長い私の方ですけど」
「住んでいる時間は我が長い!」
「でも芋に関わった時間は一年未満でしょう?」
「我の芋への愛を忘れたか」
「私なんか初対面のドラゴンに食べかけの芋とセットで牛乳まで勧めちゃうくらいですけど?」
「むううううう」
唸るルクスさんにふふんとドヤ顔を向ける。
もちろん本気でどちらの愛が強いだとか考えている訳ではない。
それに愛情があったところで大きな芋が引き当てられる訳ではない。そもそもここにある芋は全て愛情を込めて育てられたものだ。大きくても小さくてもそれは変わらない。
ルクスさんだって分かっているはず。それでも悔しさはあるのだろう。
「ドラゴンの爪ならスコップなんかよりもっと早く掘れる。人間の姿など効率が悪い!」
「でもせっかく大きな物を見つけても、踏ん張りが効かなければ引っこ抜けませんよ」
「ぐぬぬぬぬ」
「勝ちたければ早くその姿とスコップに慣れることですね」
煽りながらも手は止めず、芋を引き抜く。
「私の方が大きい」
抜いた芋を手に、ふっと笑う。するとルクスさんの頬は張り裂けそうなほどに膨らんでいく。
ああ、楽しい。毎年ひたすら抜くばかりで、こうやって競うなんてことはなかった。
それにルクスさんを煽っている時の方がサクサクと作業が出来ている気がする。
ルクスさんも悔しいからか、うおおおおと声を上げながら芋を掘る。
周りからは温かい視線を感じる。
「それにしてもイザラク遅いな~。いつもは朝一番に来てくれるのに……」
「少し前に馬車の音がしていたから、もう着いていると思うぞ?」
屋敷を出る前に使用人に伝言を残してあるし、誰かに聞けば私達の場所はすぐにわかるはずだ。
イザラクならすぐにこちらに向かってくれると思っていたので、このあたりは担当人数が少なめになっている。とはいえ、人が少ないのはここに限ったことではないが。
他の場所を手伝ってくれているのだろうか。
昼休憩になれば使用人が食事を配って回るので、その時に聞いてみることにしよう。
気を取り直してサクサクと掘っていくと、少し離れた場所から聞きなれた声が飛んでくる。
「ウェスパル!」
「いらっしゃい! イザラクに……サルガス王子?!」
「久しぶりだな」
なぜ彼がここにいるのだろうか?
頭上にはてなマークが並ぶ。しかもサルガス王子と、そのお付きと思われる人達は非常にラフな格好をしている。
サルガス王子の手にはしっかりと軍手がはめられており、左手にはスコップが握られている。右手にはなぜか紙袋を提げているが、総合的に見れば芋堀りスタイルである。
だが一国の王子、それもあのサルガス王子が芋堀りとは……。
一体どんな心境の変化だろうか。そもそもなぜイザラクは止めなかったのか。疑問ばかりが押し寄せる。
「この時期、シルヴェスター領では芋堀りが行われているという話をマーシャルから聞いてな、イザラク殿に頼んで連れて来てもらったのだ。もちろん辺境伯の許可は取ってある」
「マーシャル王子から?」
兄弟で会話するんだ。ゲームの中ではあるが、未来の二人を知っているだけに、驚いてしまう。
その内容がシルヴェスター領についてというのがなんとも言えない。他に話題はなかったのかなとは思う。
ただ『弟の話を聞いて行動に移す』という行為がサルガス王子にとって大きな決断だったことは確かだ。
彼は変わりつつあるのかもしれない。
私の今の感情を例えるならばそう、ライブ会場で推しの成長を目にする古参ファンの気持ちである。もしくは子役から知っている子がお酒のCMに出始めた時の視聴者の気持ち。
サルガス王子は私の推しではないし、ウェスパルとして会話をしたのはついこの前ではあるが、私は彼の過去を知っている。目頭が熱くなるのも仕方のないことだろう。
空一面にはどんよりとした雲がかかっている。
雨が降る気配はなく、空気はじめっともしていなければ乾燥しすぎていることもない。絶好の芋堀り日和である。
このまま夜も月を隠してくれれば、明日も続けて芋を掘ることが出来る。
例年より人手が少ないので、天気が味方してくれるのはとてもありがたい。
ルクスさんも芋堀りに協力してくれるらしく、今日は朝から人の姿をしている。大の好物ということもありヤル気満々。昨日、森の散歩をしながらではあるが、芋堀りの仕方も軽くレクチャーをしておいた。
首にはしっかりとタオルを提げて、お茶の準備もバッチリ。二人でせっせと芋を掘りながら、イザラクの到着を待つ。
「これはかなりの大物に違いない」
「抜く時気をつけてくださいね」
「任せろ!」
気合を入れて、ズボっと引き抜く。初めに見事な大きさの芋が顔を見せた。勢いをつけすぎたのか、ルクスさんは尻もちをついてしまう。
目を丸くした彼が見つめるのは、今しがた抜いた芋である。
確かに大物ではあった。けれど大きかったのは手前の一つだけで、小さな芋がコロコロと続いている。
よくあることだが、本人としては面白くなかったらしい。
むうっとほっぺを膨らましてカゴに入れる。そして次だ、次とスコップで他の場所を掘り始めた。
「絶対に大物を引き抜いて見せる」
一体何と競っているのかとは思うが、ルクスさんの気持ちが分からなくはない。だから私も近くにしゃがみ込んで土をほぐしていく。
もちろん、煽るのも忘れずに。
「頑張ってください。まぁ大物を引き当てるのは芋堀り歴が長い私の方ですけど」
「住んでいる時間は我が長い!」
「でも芋に関わった時間は一年未満でしょう?」
「我の芋への愛を忘れたか」
「私なんか初対面のドラゴンに食べかけの芋とセットで牛乳まで勧めちゃうくらいですけど?」
「むううううう」
唸るルクスさんにふふんとドヤ顔を向ける。
もちろん本気でどちらの愛が強いだとか考えている訳ではない。
それに愛情があったところで大きな芋が引き当てられる訳ではない。そもそもここにある芋は全て愛情を込めて育てられたものだ。大きくても小さくてもそれは変わらない。
ルクスさんだって分かっているはず。それでも悔しさはあるのだろう。
「ドラゴンの爪ならスコップなんかよりもっと早く掘れる。人間の姿など効率が悪い!」
「でもせっかく大きな物を見つけても、踏ん張りが効かなければ引っこ抜けませんよ」
「ぐぬぬぬぬ」
「勝ちたければ早くその姿とスコップに慣れることですね」
煽りながらも手は止めず、芋を引き抜く。
「私の方が大きい」
抜いた芋を手に、ふっと笑う。するとルクスさんの頬は張り裂けそうなほどに膨らんでいく。
ああ、楽しい。毎年ひたすら抜くばかりで、こうやって競うなんてことはなかった。
それにルクスさんを煽っている時の方がサクサクと作業が出来ている気がする。
ルクスさんも悔しいからか、うおおおおと声を上げながら芋を掘る。
周りからは温かい視線を感じる。
「それにしてもイザラク遅いな~。いつもは朝一番に来てくれるのに……」
「少し前に馬車の音がしていたから、もう着いていると思うぞ?」
屋敷を出る前に使用人に伝言を残してあるし、誰かに聞けば私達の場所はすぐにわかるはずだ。
イザラクならすぐにこちらに向かってくれると思っていたので、このあたりは担当人数が少なめになっている。とはいえ、人が少ないのはここに限ったことではないが。
他の場所を手伝ってくれているのだろうか。
昼休憩になれば使用人が食事を配って回るので、その時に聞いてみることにしよう。
気を取り直してサクサクと掘っていくと、少し離れた場所から聞きなれた声が飛んでくる。
「ウェスパル!」
「いらっしゃい! イザラクに……サルガス王子?!」
「久しぶりだな」
なぜ彼がここにいるのだろうか?
頭上にはてなマークが並ぶ。しかもサルガス王子と、そのお付きと思われる人達は非常にラフな格好をしている。
サルガス王子の手にはしっかりと軍手がはめられており、左手にはスコップが握られている。右手にはなぜか紙袋を提げているが、総合的に見れば芋堀りスタイルである。
だが一国の王子、それもあのサルガス王子が芋堀りとは……。
一体どんな心境の変化だろうか。そもそもなぜイザラクは止めなかったのか。疑問ばかりが押し寄せる。
「この時期、シルヴェスター領では芋堀りが行われているという話をマーシャルから聞いてな、イザラク殿に頼んで連れて来てもらったのだ。もちろん辺境伯の許可は取ってある」
「マーシャル王子から?」
兄弟で会話するんだ。ゲームの中ではあるが、未来の二人を知っているだけに、驚いてしまう。
その内容がシルヴェスター領についてというのがなんとも言えない。他に話題はなかったのかなとは思う。
ただ『弟の話を聞いて行動に移す』という行為がサルガス王子にとって大きな決断だったことは確かだ。
彼は変わりつつあるのかもしれない。
私の今の感情を例えるならばそう、ライブ会場で推しの成長を目にする古参ファンの気持ちである。もしくは子役から知っている子がお酒のCMに出始めた時の視聴者の気持ち。
サルガス王子は私の推しではないし、ウェスパルとして会話をしたのはついこの前ではあるが、私は彼の過去を知っている。目頭が熱くなるのも仕方のないことだろう。
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