第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

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3章

12.亀蔵ハウス

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「王都に戻るまではこの中に入っていてくれ」
「わふっ!」

 お兄様はペンダントをシロの額にピタッとくっつける。
 あんなもの持っていたっけ? なんて考えていると、シロの身体が煙に変わっていく。そしてそのままペンダントに収まるようにしゅるしゅると消えていった。

「消えた!?」
「ちゃんと中にいるよ。王都に戻るまで何日かかかるから中で休んでもらっているんだ」
「なるほど?」
「元はウェスパルのために二つ用意して来たんだが、シロをあのまま連れて行くと目立つから一つ使わせて貰った」
「二つ?」
「ルクスさんと亀蔵用だよ。シルヴェスターにいる時はいいが、社交界に連れて行くわけにはいかないだろう?」
「我はそんな容れ物に入るつもりはないぞ」

 ルクスさんはムッとするが、お兄様はケラケラと笑いながら手を横に振った。

「元々ルクスさんの方はついでで、亀蔵の方がメイン。社交界についていって誰かに踏まれでもしたら、ってお父様が騒いでな~」

 あ、そっちの心配なんだ。
 てっきりルクスさんを隠せということかと思った。

 ちなみにシロが使っているのもルクスさん用に作ったものらしい。
 元神ということで中はかなり広めに作っており、マットには最高級毛皮を使用となかなかにこだわっていたようだ。

 広さなどの設定は後から弄ることは出来ないが、物であれば後から出し入れすることが可能なので、身体の大きなシロでも使えるというわけだ。

 こんなアイテムがあったのか。乙女ゲームでは登場しなかったと思う。

 だがよく考えるとフェンリル召喚後、常にヒロインの隣に巨大なもふもふがいたとは考えづらい。
 魔物を連れている生徒は全員首からタグを下げることが義務づけられていたので、もしかしたらあのタグがペンダントと同じ役割を担っていたのかもしれない。

 それにしても普通のペンダントにしか見えない。
 未使用品をまじまじと眺めていると、お父様がふふふと笑い始めた。

「私が亀蔵のためにオーダーしたこだわりの品だ!」
 お父様は拳を固めながら、亀蔵用にオーダーしたペンダントのこだわりをつらつらと並べ始めた。

 なんでも亀蔵用のものは中に水場や草木のエリアが搭載してあるらしい。また、最近亀蔵の成長が著しいこともあり、中は広めに作ってあるそうだ。その他にも様々な機能を搭載してあるらしいが、長くなりそうなので軽く聞き流しておく。

 主な使用時は社交界を想定しているようだが、今年はゴタゴタしていることもあり、出席予定はない。早くて来年の春頃だろうか。
 それでも急いでくれたのは、毎日階段を上げたり下ろしたりするのが大変だろうと思ったからだそう。

 とても助かる。早速今日から階段の時はこの中に入ってもらおう。
 便利だな~くらいにしか考えていない私とは違い、亀蔵は自分の家が出来たようで喜んでいる。亀蔵から感謝のスリスリを贈られたお父様の顔はデレデレに溶けていた。


 こうしてお兄様とお祖父様がシルヴェスターを去った。


 亀蔵はすっかりペンダントの中が気に入ったようで、夜はその中で過ごすようになった。階段の上り下りが必要な時もすんなり入ってくれるので、とても助かっている。

 ただ、亀蔵ハウスが出来上がったことにより、一つの問題が浮上した。

「亀蔵を連れて行きたい」
「ダメです」
「十日間だけだから」
「だけと思うなら我慢してください」
「妻にも娘にも亀蔵にも会えないなんて、ウェスパルはお父様のことを可哀想だと思わないか?」
「お仕事なんだから諦めてください」

 お父様が仕事に連れて行きたいと言い出したのだ。

 ゴタゴタで休めるのは私とお母様だけ。お父様は普通にお仕事を継続している。

 今回は公爵家と辺境伯家が集まる会合で、会期自体は四日間とさほど長くはない。

 ただし会場となった場所が王都にほど近い場所で、シルヴェスターからはとても離れている。日が上る前に出発し、帰ってくるのは日が変わる頃だそうだ。

 移動するだけでかなりの時間を消費するのは辺境に住んでいる者の宿命とも言える。

 お父様がペンダントの作成を急いだ本当の理由はこれなのではないかという気がしてきた。多分、私の気のせいではなんかじゃない。

 それにしてもお父様がこんな子どものワガママみたいなことを言うなんて……。

 亀蔵が良いと言えば、ペンダントごと託してもいいのではないかという思いもない訳ではない。だが今回の会合は芋の収穫日と被っているのだ。

 今回、芋掘り名人のお兄様とお父様は不在となるが、亀蔵の活躍でかなり効率化されるだろうと期待していた。亀蔵だって密かに練習を繰り返している。

 なのに出発の二週間前にこんな申し出があるとは予想もしていなかったのだ。
 頭を下げるお父様と、頭を抱える私、そして構わずクッキーを食べ続けるルクスさん。

 室内はカオスな空気に包まれている。話の中心である亀蔵がここにいないことだけが救いだった。
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