第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中

文字の大きさ
上 下
62 / 175
3章

9.タータス兄弟

しおりを挟む
「はじめまして。俺は君のお兄さんの友人のライヒムと言います」
「はじめまして。ウェスパル=シルヴェスターと申します。そして私の腕の中にいるドラゴンがルクスさんで、足元にいる亀が亀蔵です」
「そうか、君が噂のドラゴンか。この年齢でドラゴンを召喚してしまうなんて、さすがはダグラスの自慢の妹さんだ。俺にも君と同い年の弟がいてね、ロドリー、ウェスパルさん達に挨拶しなさい」
「ロドリー=タータスだ」

 ニコニコと笑みを貼り付けている兄のライヒムさんとは違い、ロドリーは仏頂面である。名前だってライヒムさんに促されてようやく告げたほどだ。よほど嫌なことがあったのか。

 もしかして人見知り、とか?
 乙女ゲームでは攻略対象一のコミュニケーション能力と面倒見の良さを発揮していた彼だが、まだそこまで辿り着けていないようだ。思春期の可能性もある。

 それに確かロドリーは兄を尊敬していたはず。ゲームでもちょこちょこと兄について触れていた。
 そんな兄が久しぶりに学園から帰ってきたと思ったら、友人の家に行くから付いてこいなんて言いだして~なんて、面白くはないかもしれない。

 訪問される側の私も急な話で驚いた。
 ましてや移動にほぼ丸一日かかるとなれば不機嫌にもなるというものだろう。

 元人見知りの私としては今のロドリーに少しだけ親近感が湧く。

「よろしくお願いします」
 ぐいぐい行くのも相手を困らせるだけ。軽く笑みを付けるだけに留める。

 お兄様達も私とロドリーにそれ以上を求めず、早速シロ自慢へと移っていく。

 私はそれを少し離れたところから眺めるだけ。
 なぜかこちらを睨み付けていくロドリーはスルーしておく。

 亀蔵はともかく、ルクスさんは何か言いたげだが、人見知りはまず相手の観察から入るものだ。何かあれば話しかけたそうな空気を醸し出すので、それまでは触らないに限る。

 というか相手を警戒している状態の時に触らないで欲しい。
 それが人見知りである。

 私は私でロドリー兄を観察する。
 ゲーム内でチラッと登場するものの、名前もビジュアルも出なかったライヒムさんの第一印象はうさんくさそう、である。

 初対面は大切だし、貴族にとって笑みは最大の武器だ。
 だが仏頂面の隣に並べばうさんくささが余計に目立つ。

 正直、何を考えているか分からなくて怖い。
 ずっと背負っている巨大な武器と羊のようでもこもこもふもふの髪のミスマッチも怖さを引き立てている。あんな武器は初めて見た。上下に巨大な円錐が付いている。真ん中の細い棒を持って使うとみた。

 ランスに似ているが、どうやって使うのだろうか。
 魔物を見に来たのなら、あれを使って討伐する姿が見られるかもしれない。
 初めて見る武器に熱い視線を送っていると、隣から声をかけられる。

「なぁ」
 いつの間にか真後ろまで来ていたらしいロドリーはとにかく背が高い。
 私と同学年になるので、今は十か十一のはず。だが彼の身長は兄達よりも少し低い程度。おそらく百六十後半はある。

 乙女ゲームの攻略対象者六人の中でダントツ背が高かった彼だが、あの頃には一体何センチまで成長していたのだろうか。まだ五年もあるのでもっと伸びそうだ。

 すでに成長痛という名の逃げ場のない痛みを体験しているのだろうと思うと、同情してしまう。

「なんだ、その可哀想なものを見る目は」
「何物も得るにはそれなりの代償があるものだなと思いまして」

 眉間に皺を寄せたロドリーだが、それ以上の追求はしてこない。
 代わりにゆっくりと言葉を吐いた。

「俺より強いって本当か?」
「私ですか? 戦ってみないと分かりません」
「だが兄貴と君の兄は俺よりも君が強いと断言した。王都の剣術大会を五連覇している俺よりも、女である君の方が何倍も強いと」
「強いかどうかに性別って関係あります?」
「女は守られる存在だ。男である俺が守られるべき存在よりも弱いはずがない」
「私、別にロドリー様に守られる予定ありませんよ?」
「だが俺は男で、君は女だ」

 嫌みに聞こえなくもないセリフだが、彼が本気でそう信じていることは知っている。

 彼は正義感の強いキャラだったから。
 サルガス王子が常に国のために行動するのなら、ロドリーは常に目の前の人達のために行動する人であった。
 第三部では逃げ遅れた女性と子どもをかばって大けがを負い、左目を失明することとなる。

 そんなロドリーが戦闘中、唯一守ろうとしない女性がウェスパルだった。
 今になって思えば、あれはロドリーなりの信頼だったのだろう。ヒロインはガッツリ守っていたことを考えると少し複雑だが、そこは恋愛感情があるかないかの問題だと思いたい。

 それにウェスパルに転生した今、彼に守られたいとは思わない。
 私があの場に立たされたら間違いなく、自分の身は自分で守るから目の前の敵に集中してくれと伝える。怪我を負うことがあってもそれは自己責任であると、幼い頃から叩き込まれている。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください

シンさん
恋愛
金貸しから追われる、靴職人のドロシー。 ある日突然、7才のアイザック王子にプロポーズされたんだけど、本当は20才の王太子様…。 こんな事になったのは、王家に伝わる魔術の7つ道具の1つ『子供に戻る靴』を履いてしまったから。 …何でそんな靴を履いたのか、本人でさえわからない。けど王太子が靴を履いた事には理由があった。 子供になってしまった20才の王太子と、靴職人ドロシーの恋愛ストーリー ストーリーは完結していますので、毎日更新です。 表紙はぷりりん様に描いていただきました(゜▽゜*)

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

処理中です...