第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中

文字の大きさ
上 下
59 / 175
3章

6.亀蔵との共闘

しおりを挟む
 適当な位置で止めてもらい、車から降りる。
 耳をすませば小さな音がする。小型の魔物だろうか。

 亀蔵は車から降ろしたが、ルクスさんは車に乗ったまま。
 ナイフを握ると車から声が飛んでくる。

「魔法の練習に来たのだからナイフはしまえ」
「あ、そうだった。亀蔵、頑張ろうね」
「かめえ」

 やる気満々な私と亀蔵は数歩前に出る。
 お兄様は車に背を預けながら「頑張れよ~」と気の抜けたような応援をする。といっても警戒は忘れない。

 そして車を外したシロはその隣でちょこんとお座りをしていた。
 どうやら先鋒は私達に譲ってくれるそうだ。

 なら遠慮なく。
 深く息を吐いてから、雷魔法の玉を作る。制御のために作っていた時よりも小さく、数も多い。集中し、少しずつ硬度を上げていく。

 本当は時間をかけずに錬成出来ればいいのだが、私にそこまでのスキルはない。だからこうして時間がある時しか使えない。

 時間があるといっても、あちらもすでに私達の気配に気付いている。
 亀蔵が睨みを効かせてくれているとはいえ、そこまで長い時間はかけられない。

「かめえ!」
 亀蔵の鳴き声が戦闘開始の合図となった。

 出てきたのはホーンラビットーー額からツノが生えたうさぎである。
 この辺りでは比較的弱い魔獣だ。新しい魔法を試すにはちょうどいい。

 風魔法で作り上げたラケットを使い、空中に浮かばせた電気の玉を次々に魔物めがけて打ち込んでいく。ラケットが触れると玉は銃弾のように飛んでいった。

 複数属性魔法の同時展開が出来るようになったのは魔結晶作りの成果である。
 だが攻撃魔法として実践するのは初めて。想像以上の威力に私自身も驚いている。

 それを見た亀蔵も新しいことが試したくなったのか、プップップと短く水鉄砲を放っていく。

 私が作った玉を水魔法でマネしてみたのだろう。だが慣れていないせいか飛距離が短い。私のように風魔法で後押しすることも出来ない。

 難しいところだ。
 亀蔵もそれが気になったのか、かめえと鳴いて雨雲を作る。そしてトタトタと歩き始めた。自分で出した雨が当たる位置でストップすると、その場で足踏みを始めた。

 一体何をするつもりだろうか。
 首を傾げると、徐々に魔物付近の地面が歪み始めた。
 水を吸った地面に足を取られている魔獣に向けて、再び亀蔵は水鉄砲を放つ。先ほどよりも威力が上がっている。

 もしかしてこの雨って強化目的?
 亀蔵は私が思っているよりも強く、頭も良いらしい。

 この場にお父様がいたら確実に褒め倒していることだろう。私も戦闘時でなければ全力で褒めている。

 だがここは戦場である。
 亀蔵がホーンラビットを相手にしてくれている間に新たにやってきた魔犬に火の魔法を飛ばしていく。

 雨雲の範囲に入られると火は消えてしまうが、これも練習だ。上手く誘導しつつ、玉を打ち込んでいく。

「ホーンラビットの角は出荷するからなるべく傷つけるな。肉は後で食べる。攻撃の仕方は気をつけろ。魔犬族は時間をかけると仲間を呼ぶからさっさと片付けるように。採れるのは魔石くらいだから戦闘方法は気にするな。だが魔犬族とよく似た魔狼族は毛皮が売れるから。大体毛足が長いのが魔狼族なんだが、シャドウドッグという魔物がいて……」

 その間、お兄様はシロに魔物レクチャーをしている。
 私達に先鋒を譲ってくれたのはこのためでもあるのだろう。シロは真面目にこちらを眺めながらコクコクと頷いている。

「そろそろ魔物回収しちゃいますね。亀蔵、雨を止めてから地面戻してもらえる?」
「かめえ!」

 その一声でピタリと雨を止め、足踏みで一気に荒野に戻してしまう。
 さすが亀蔵。だが普段よりも多くの魔力を使っていたようで、ぺたりと座り込んでしまった。

 タイミングもちょうどいいし、この辺りで交代すべきなのだろう。
 お兄様に視線を向ければコクリと頷いてくれた。

「ルクスさんはこっちに」
「うむ」

 ルクスさんが亀蔵の上に着地したのを確認してから、車に乗り込む。

 まずはホーンラビットから。
 雨雲があった場所に風魔法を展開させる。大きなネットをイメージし、出来上がったそれをホーンラビットの下に潜らせる。
 風で作ったネットなので、スススと載っかってくれるのが見ていて気持ちいい。

 全て載ったのを確認してから、ゆっくりと車の上に運ぶ。
 慎重に、慎重に。短く息を吐きながら、ネットを台の上に降ろした。

「ふ~」
「その魔法便利だな。俺も真似しよう」

 お兄様は風魔法で角型スコップのようなものを作り上げると、討伐した魔犬を次々と掬い上げていく。瞬く間に車の隣に魔犬の山が出来た。

 ホーンラビットとは違い、繊細さを必要しない作業とはいえ、真似しようの一言で実行できてしまうところがなんともお兄様らしい。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください

シンさん
恋愛
金貸しから追われる、靴職人のドロシー。 ある日突然、7才のアイザック王子にプロポーズされたんだけど、本当は20才の王太子様…。 こんな事になったのは、王家に伝わる魔術の7つ道具の1つ『子供に戻る靴』を履いてしまったから。 …何でそんな靴を履いたのか、本人でさえわからない。けど王太子が靴を履いた事には理由があった。 子供になってしまった20才の王太子と、靴職人ドロシーの恋愛ストーリー ストーリーは完結していますので、毎日更新です。 表紙はぷりりん様に描いていただきました(゜▽゜*)

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

処理中です...