第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中

文字の大きさ
上 下
57 / 175
3章

4.お兄様のパートナー

しおりを挟む
 ーーなんて思っていた私はお兄様への理解が足りなかったのだろう。

 教本によれば、魔獣召喚の儀にはいくつか決められたルールがある。
 呼び出す種族に応じた召喚陣を描き、特定の魔獣をイメージしながら決められた詠唱を行う。

 この時、召喚陣を間違えていたり、イメージが不十分だったりすると予期しない魔獣が呼び出されてしまう。

 お兄様にお父様、お祖父様まで室内にいるので危険ということはないが、本来とても注意が必要となってくる儀式であることには違いない。

 だがそのほとんどをお兄様は無視した。
 召喚陣を描くために使ったのはお兄様が過去に討伐した魔物の皮だが、陣自体はとても適当。綺麗に描かれた円の中は子どもの落書きのような模様が描かれている。

 召喚の儀に立ち会うのがはじめての私でもこんなのあり得ないと断言するような図である。ルクスさんも無言で陣と私を見比べている。

 それだけでもまずいのに、詠唱はもっと適当だった。

「三食昼寝・散歩・狩り・ブラッシング付き!  俺と一緒に戦ってくれる強いやつ出てこい!」

 RPG序盤のパーティーメンバー募集要項かと突っ込みたくなるような詠唱で、魔獣なんて呼び出せるはずがない。

 やはり学園側の授業で色々と準備してもらうのが一番なのだろうーーそう思った時だった。召喚陣からズモモモと何かが浮き上がってきた。

 あれで納得した魔獣がいたらしい。物好きもいるものだ。
 煙に包まれているので種族までは分からない。また現時点では強いかどうかは分からないが、お兄様の相棒になるならそのうち強くなることだろう。

 身体のほとんどが出てくると徐々に煙も薄くなっていく。
 お兄様、お父様、お祖父様の三人は魔獣からの襲撃に備え、戦闘態勢に入る。私達は三人の後ろから陣を見守る。

 先に飛び出したのは魔獣だった。
 2メートル以上はある巨体で、四足歩行。身体は真っ白な毛に包まれており、お兄様の頭を噛みちぎる勢いで飛びかかってきた。

 それをお兄様は構わずペチンとはたき落した。
 拳ですらない。だが威力は抜群。魔獣は床へと沈んでいった。

 今の一撃で勝てないと悟ったのだろう。
 きゅーん……と可愛らしい声を上げ、腹を見せた。なんともあっけない。

「ごめんな~痛かったよな~」
 お兄様がそう言いながら魔獣の腹を撫でる。

 魔獣というか未来の神様。
 お兄様が召喚したのは、神の卵から産まれたフェンリルだった。例の神様になるには一歩足りない彼である。

 そのことに気づいているのはこの部屋で私とルクスさんだけ。

「神の子が簡単に人間に屈したことに嘆くべきか、兄妹揃ってやらかす規模が違うことを嘆くべきか……」
「私もさすがにお兄様ほどの思い切りはないですって」
「謙遜することはないと思うぞ」

 本来第二部でヒロインが召喚するフェンリルだが、ゲームとは違い、人間への敵意が見える。おそらくまだ人間と協力しようという考えに至っていないのだろう。

 魔獣側から見た魔獣召喚というものがどんなものかは分からないが、態度の差から考えると望まぬ呼び出しだった可能性は高い。

 呆れる私達を横目にお兄様はサクサクと契約を結んでしまった。
 私とルクスさんが契約を結んだ時のお父様もこんな気持ちだったのかもしれない。

 だが私にとっては朗報でもある。
 お兄様がフェンリルと契約したということは、裏を返せばお兄様が契約を保っているうちは他の人間が彼を呼び出すことはできないということになる。

 つまりヒロインは他の魔獣を召喚することとなる。
 だが召喚に応じる魔獣の中ではフェンリルが最強。神の力を受け継ぐ魔獣が召喚に応じることはほぼないので、この時点でヒロインの勢力を大幅に削ったことになる。

 ヒロインが弱ければ、攻略は進まない。
 つまり私の闇落ちは回避される!  なんと素晴らしい構図だろうか。

 この時点で乙女ゲームに打ち勝ったも同然である。

「パーティー!  召喚記念パーティーをしましょう!」
「それはいい。そうだ、シロは何食べるんだ?」
「我輩……いえ、私は頂けるものならなんでも」
「謙虚なんだな」

 乙女ゲームではヒロインと協力関係にあった彼だが、お兄様に下ったことにより、一人称や口調まで変わってしまっている。

 名前だって親から付けてもらった名前に誇りを持っていたはずなのに、お兄様が適当につけた名前を受け入れてる。忠犬のように後ろをトコトコと歩くシロはとても近々神様となるとは思えない。

 いや、今回の一件で神になる運命自体吹っ飛んでしまったかもしれない。

 だが召喚されてしまったのもまた運命。
 お兄様の元で強く生きて欲しいものだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください

シンさん
恋愛
金貸しから追われる、靴職人のドロシー。 ある日突然、7才のアイザック王子にプロポーズされたんだけど、本当は20才の王太子様…。 こんな事になったのは、王家に伝わる魔術の7つ道具の1つ『子供に戻る靴』を履いてしまったから。 …何でそんな靴を履いたのか、本人でさえわからない。けど王太子が靴を履いた事には理由があった。 子供になってしまった20才の王太子と、靴職人ドロシーの恋愛ストーリー ストーリーは完結していますので、毎日更新です。 表紙はぷりりん様に描いていただきました(゜▽゜*)

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...