第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

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2章

◆ダグラス=シルヴェスター

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 だがダグラスは煽りには乗らなかった。
 時折面倒くさいと学園を抜け出すこともあったが、相手にはしなかったようだ。抜け出す頻度が増えても彼の成績は下がらない。

 無視し続けられるのにも苛立った彼らはやがて家族を馬鹿にするようになった。
 すると徐々にダグラスが反応を返すようになってくる。さすがにまずいと周りの生徒が止めたが、彼らは聞く耳を持たなかった。

 そしてついに彼らは絶対に侵してはならない領域に足を踏み入れた。

「毎日動物と遊んで過ごしている田舎者が!」
  
 ダグラスに向けて暴言とともに撃たれたのは攻撃魔法ーーそれが戦闘の合図となった。


 堪忍袋の緒が切れた彼は喧嘩を売ってきた相手は全員治療院送りにした。
 それも武器や魔法を一切使うことなく。

 だがダグラスの恐ろしさはそこではない。
 彼は怒りに我を忘れることはなく、治るレベルで止めたのだ。

 シルヴェスターの人間を知る者は口を揃えて『殺そうと思えば殺せただろう』と言う。だが殺さなかったのは許しを与えるためではなく、シルヴェスターへの恐怖を植え付けるため。

 ダグラスは彼らを見せしめに利用した。
 シルヴェスターを、家族を侮辱すればこうなるぞと。

 目撃者は多数。
 現場に居合わせずとも、加害者である令息達が泣いて詫びている声は構内にこだました。

 構内での乱闘は禁じられているが、経緯が経緯あり、ダグラスを擁護する声も多い。

 元々彼を知っていた者はもちろん、実技の授業が始まる二年生以上は地方領の偉大さを知っている。そのトップに立つ存在がシルヴェスターであることも。
 授業を通して魔物の恐ろしさを実感することで彼らはシルヴェスターに守られていることを理解し、税金を納めるのである。

 知らぬのは温室育ちだけ。
 その温室で育った雑草が獅子に喧嘩を売った。シルヴェスターは喧嘩を売っていい相手ではなかったのだ。

 本来乱闘騒ぎは退学に相当する罪ではある。だが退学処分にすれば彼を野放しにすることになる。学園側は復讐を恐れた。

 なにより親戚であるヴァレンチノ公爵家にはシルヴェスターの先代当主が隠居している。加害者の親も文句など言えなかった。

 その結果、十日の謹慎のみ。
 ダグラスは謹慎期間中、形ばかりの取り調べを受けた際に乱闘時のことを語った。

『あの日のことが頭をよぎった。今、叩き潰しておかなければ、妹はまたあの日のように泣くことになる。ただでさえウェスパルはすでに人間不信を起こしているかもしれないのに……。あの子が家族とすら会話を拒むようになってしまったらと考えたら身体が勝手に動いていた』

 あの日とは少し前に王都で開催されたお茶会のこと。
 ウェスパルが急いで帰ったと聞いた時点で、王家もその日のことは調べてある。

 あの日お茶会でウェスパルに絡んだ令嬢達は辺境伯を格下だと勘違いしていた。その上でシルヴェスター家自体も馬鹿にした。

 絡まれていた令嬢がウェスパル嬢だと認識していたかはさておき、この件の目撃者は複数いたとか。

 彼らは今回の一件に関わっていないとはいえ、深堀りすれば被害が広まるだけ。
 ダグラスはあの一件を無知な子どもの嫌がらせとして見逃しているらしかったが、何が原因で彼の怒りに触れるかは分からない。

 今頃、多くの貴族がダグラスの、シルヴェスターの怒りに触れやしないかと恐れていることだろう。
 王家とて例外ではない。

 それにダグラス=シルヴェスターと聞いて思い出すのは、一年ほど前。
 彼が討伐したホワイトウルフの皮が大量に献上されている。添えられていた手紙には単独で討伐したと書かれていたが、ホワイトウルフといえば冒険者がパーティーになって討伐する魔物である。
 王家への挨拶の品、加えて送り主が次期辺境伯ということで功績を盛ったのだろうと判断した。

 だがアレが王家へ力を示すための物だったとしたら?

 そう考えると背筋がゾッとした。

 スカーレット公爵家の了承が得られたことで、サルガスをウェスパルの婚約者として提案し、王弟をダグラスの監視に付けることとなった。

 王位継承権争いの火種となることを恐れて彼に召喚獣がいることを隠していたが、今となっては強力なパートナーがいることはとても心強い。長期休暇明けから学園の講師として働く手はずになっている。

 今後のダグラスの様子次第では彼もシルヴェスターに派遣するか、学園に残ってウェスパルの卒業を見守るかが決まる。

 こうしてジェノーリア国王は辺境伯へと婚約者変更の申し出をすることとなったのである。


 大量のホワイトウルフの毛皮は純粋な贈り物でも、ましてや力を示すものでもなく、ウェスパルから突き返された物であることは知る由もない。
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