第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中

文字の大きさ
上 下
52 / 175
2章

◆転機

しおりを挟む
 幼い頃から欲を口にせず、言われたことを淡々とこなすだけのサルガスが自らの意思でシルヴェスターに足を運び、そして邪神ルシファーと辺境伯令嬢ウェスパル=シルヴェスターに興味を持った。

 こんなこと、もう二度とないかもしれない。
 親として叶えてやりたい気持ちはあった。だが相手が相手である。すぐに頷く事は出来なかった。

 サルガス本人も状況を理解しているからだろう、急かすようなことはしなかった。
 代わりに王の間を下がってから真っ先にマーシャルの元へと足を運んだ。
 しばらく二人で何やら話し、翌日からマーシャルと同じ鍛錬に励むようになった。その関係で兄弟で会話を交わすようになり、二人の表情も豊かになった。

 召喚以来、部屋の鳥籠に入れてばかりだった召喚獣も外に出すようになったそうだ。

 少しずつ、けれど確実にサルガスは良い方向へと変わりつつある。

 以降も辺境伯の報告を聞きながら、頭を悩ませる日々が続いた。
 神に戻る気はないとの言葉通り、邪神に異様な動きはない。ウェスパル嬢との仲はよく、彼女の魔法の練習にも付き合っているそうだ。

 元とはいえ、神であるルシファーが彼女を妻にしたいと望んだら……という不安は残る。

 だがそれよりもジェノーリア王国にとって重要なのは、ファドゥール伯爵家とスカビオ伯爵家への対応である。

 封印が解けた直後こそ邪神に警戒していた二領だが、代々シルヴェスターと深い仲にあるというだけあって適応が早い。すっかりルシファーのいる生活に慣れつつあった。

 こうして悩み続けている間にも、シルヴェスターと他二家に今以上の力を持たせるきっかけを与えてしまう。

 やはりサルガスの提案通り、婚約者をマーシャルからサルガスにチェンジするべきなのではないか。

 だがサルガスの婚約者であるシェリリンとその父親のスカーレット公爵が認めるかどうか。

 スカーレット家は名家の一つで重臣でもある。公爵は今は亡き妻にそっくりの娘を溺愛している。二人の婚約も娘の初恋を叶えるために公爵が奔走して決まったもの。

 マーシャルに護衛と医者を付けてシルヴェスターに送ればいいと言いかねない。了承したとしても後々の関係に響く。頭が痛かった。



 だがとある事件により、自体が一変する。
 眠れる獅子を起こした阿呆がいたのである。

 今後の政略について悠長に悩んでいる時間はなくなった。
 すぐさまスカーレット公爵を呼び出した。

「スカーレット公爵家には不義理なことになってしまうが、サルガスとシェリリン嬢の婚約を解消してもらいたい」

 ジェノーリア国王は深く頭を下げた。
 スカーレット公爵も呼び出された時点で予測はしていたのだろう。彼は目を細め、遠くを見つめた。

「妻亡き今、私には娘しかおりません。自分の命よりも大事な娘の初恋を叶えてやりたい気持ちはあります。けれど恋というのは命があってこそのものであります。あの子には私よりうんと長生きをしてほしい。そのためなら娘に恨まれても構わないとさえ思います」

 すでに事件のことは耳に挟んでいるらしかった。その上で婚約解消を了承してくれた。

 荒ぶる獅子をこれ以上刺激しないようにするため。
 ひいては余計な火種が愛娘に降りかかることを避けるためであった。

「私にとって、大昔に罪を犯した邪神よりも彼の方が恐ろしい」
 スカーレット公爵がポツリと溢したその言葉が事の重大さを物語っている。きっとこの先、いくつもの貴族がシルヴェスター家に下ることだろう。ダグラス=シルヴェスターが中心となって起きた乱闘騒ぎは国の勢力図を書き換えるには十分だった。

 乱闘後、何があったのか調べてみると事の発端は数ヶ月前、入学試験まで遡ることとなった。

 ダグラス=シルヴェスターは座学・武術・魔力すべての項目で一位を獲得した。
 入学挨拶こそ公爵令息に譲ったが、入学試験の時点で彼はとても目立っていた。元々地方貴族達から一目置かれていたこともある。

 それを気に入らなかった数人の令息が彼にちょっかいをかけ始めたらしい。

「シルヴェスターなんて辺境伯という地位を与えられてはいるが、所詮俺たちの納税のおかげで成り立っているお荷物じゃないか」
「少し成績がいいくらいで調子に乗るなよ」
「魔物を倒しているだけで公爵家と並ぶ家格だなんて納得いかない。魔物なんてそこらへんにいる家畜と変わらないじゃないか」

 周りの生徒によれば、そんないちゃもんのような言葉を毎日吐きつけられていたようだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

シンメトリーの翼 〜天帝異聞奇譚〜

長月京子
恋愛
学院には立ち入りを禁じられた場所があり、鬼が棲んでいるという噂がある。 朱里(あかり)はクラスメートと共に、禁じられた場所へ向かった。 禁じられた場所へ向かう途中、朱里は端正な容姿の男と出会う。 ――君が望むのなら、私は全身全霊をかけて護る。 不思議な言葉を残して立ち去った男。 その日を境に、朱里の周りで、説明のつかない不思議な出来事が起こり始める。 ※本文中のルビは読み方ではなく、意味合いの場合があります。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください

シンさん
恋愛
金貸しから追われる、靴職人のドロシー。 ある日突然、7才のアイザック王子にプロポーズされたんだけど、本当は20才の王太子様…。 こんな事になったのは、王家に伝わる魔術の7つ道具の1つ『子供に戻る靴』を履いてしまったから。 …何でそんな靴を履いたのか、本人でさえわからない。けど王太子が靴を履いた事には理由があった。 子供になってしまった20才の王太子と、靴職人ドロシーの恋愛ストーリー ストーリーは完結していますので、毎日更新です。 表紙はぷりりん様に描いていただきました(゜▽゜*)

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...