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2章
29.家族愛
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「この辺りの雑貨は俺からで、服はお祖父様から。最近よく本を読んでいると聞いたから父上と母上は本とそれを収納するための棚、食べ物関係はダグラス兄さんから。ウェスパル専用の小屋を建てる木材は搬入に時間がかかりそうだからとりあえず今はこれだけで」
「小屋って何!?」
「屋敷を建ててもいいんだが、そうするとそちらがメインになってしまうだろう? 叔父さん達も寂しがるかと思って」
「さっきと言ってることが合致しないんだけど!?」
「? 俺はずっと外の世界を見た上で家族を選んでほしいと思っている」
「家族への愛が強すぎる!」
訂正しよう。
ゲーム段階より明らかに家族愛が強くなっている。
ここまで強い愛情を持ちながら、乙女ゲームではわりとクールなキャラで通っていたのが不思議である。
一歩間違えたらヤンデレ確実なのに……。
もしかしてウェスパルの闇落ちとかけてたりするんだろうか?
ウェスパルの闇落ちの原因も意外と家族関係だったりして……。
目の前に置かれた大量の贈り物はシルヴェスター家全体の性質を表している。
もちろんその中に私ことウェスパルも含まれているわけで。乙女ゲームなのにヒロインガン無視で突き進んでいそうに思えるのがすごく怖い。
「ところで随分といろんな色の缶があるみたいだけど、これ何?」
「紅茶だよ。最近好んで飲んでいるって聞いたから。ダグラス兄さんが紅茶葉に詳しい商人と一緒にミルクティーに合う茶葉を選んだらしい」
「いつも使っている商会じゃないの?」
「そこの商会長が紅茶ならここがいいって教えてくれたんだ。ノルマンド商会っていう最近力を付けてきた商会で、茶葉にハズレがない。うちも最近はここの紅茶をよく飲んでるんだ」
ノルマンド商会のことなら私もよく知っている。
元々は北方のとある領で紅茶専門店を経営していたが、先代から他の物の取り扱いも始め、急成長を遂げた。
数年後にはジェノーリア王国内有数の商会に名を連ね、お城にも紅茶を納品することとなる。
なぜここまで詳しく知っているのかといえば、ノルマンド商会の息子、ゲルディ=ノルマンドが第一部の攻略対象者だからである。
商人の息子という設定もあり、彼のルートでは他の攻略対象者との接触も多い。だがイザラクは商会の名前こそ知っているが、交流はなかったはず。第一部の序盤では馴染みの商会があるからと冷たくあしらっている。
まさか私が紅茶を飲み始めたことで交流が生まれるとは思うまい。
いつも取引している商会から見れば商売敵だろうに、お客に勧めるほど美味しいのだろう。ノルマンド商会のお茶の美味しさは乙女ゲームでも語られていた。思い出すと喉がゴクリと鳴った。
「淹れてもらうか?」
「ええ!」
「我はロイヤルミルクティーが良いぞ!」
「あ、私も!」
「ロイヤルミルクティーってなんだ?」
「とても美味しいミルクティー。イザラクも同じで良い?」
「ああ」
紅茶で有名な商会が選ぶミルクティーに合う茶葉で淹れるロイヤルミルクティー。美味しさは約束されたもの同然である。
『ミ~ルクティ~ ミ~ルクティ~
わ~たしっがっ飲むのはロイヤルミルクティ~
わ~れがの~むのもっ ロイヤルミルクティー』
私とルクスさんはデュエットしながらクルクルと回る。亀蔵は合いの手係。
イザラクは驚いたように瞬きをしていたが、私達の喜びが伝わったのか嬉しそうに笑みをこぼした。
それから他のお土産も見ているうちにロイヤルミルクティーが運び込まれた。
イザラクもロイヤルミルクティーを気に入ったようだ。ヴァレンチノ家に帰ってからも飲みたいとメモをもらっていた。そのメモをポケットに入れ、立ち上がる。
「さてウェスパルの元気そうな姿も見れたし、帰るよ」
「え、泊まっていかないの?」
「お祖父様の薬と手紙はもう預かってるから。それにこれ以上いると帰りたくなくなる。早く戻ってダグラス兄さんにウェスパルの様子を伝えないと」
「そっか。今日は来てくれてありがとう。お祖父様達にもよろしく伝えておいて」
抱きしめてお礼を告げれば、私の背中にも彼の手が回される。
「今度こそ、すぐにかけつけるから」
「うん」
「愛してる」
「私も愛しているわ」
家族の熱い抱擁を交わし、イザラクはシルヴェスターを去っていった。
大量のお土産を持ってきた行きとは違い、荷馬車はとても軽くなっている。
彼の足取りも来た時よりもずっと軽くなっていた。
「小屋って何!?」
「屋敷を建ててもいいんだが、そうするとそちらがメインになってしまうだろう? 叔父さん達も寂しがるかと思って」
「さっきと言ってることが合致しないんだけど!?」
「? 俺はずっと外の世界を見た上で家族を選んでほしいと思っている」
「家族への愛が強すぎる!」
訂正しよう。
ゲーム段階より明らかに家族愛が強くなっている。
ここまで強い愛情を持ちながら、乙女ゲームではわりとクールなキャラで通っていたのが不思議である。
一歩間違えたらヤンデレ確実なのに……。
もしかしてウェスパルの闇落ちとかけてたりするんだろうか?
ウェスパルの闇落ちの原因も意外と家族関係だったりして……。
目の前に置かれた大量の贈り物はシルヴェスター家全体の性質を表している。
もちろんその中に私ことウェスパルも含まれているわけで。乙女ゲームなのにヒロインガン無視で突き進んでいそうに思えるのがすごく怖い。
「ところで随分といろんな色の缶があるみたいだけど、これ何?」
「紅茶だよ。最近好んで飲んでいるって聞いたから。ダグラス兄さんが紅茶葉に詳しい商人と一緒にミルクティーに合う茶葉を選んだらしい」
「いつも使っている商会じゃないの?」
「そこの商会長が紅茶ならここがいいって教えてくれたんだ。ノルマンド商会っていう最近力を付けてきた商会で、茶葉にハズレがない。うちも最近はここの紅茶をよく飲んでるんだ」
ノルマンド商会のことなら私もよく知っている。
元々は北方のとある領で紅茶専門店を経営していたが、先代から他の物の取り扱いも始め、急成長を遂げた。
数年後にはジェノーリア王国内有数の商会に名を連ね、お城にも紅茶を納品することとなる。
なぜここまで詳しく知っているのかといえば、ノルマンド商会の息子、ゲルディ=ノルマンドが第一部の攻略対象者だからである。
商人の息子という設定もあり、彼のルートでは他の攻略対象者との接触も多い。だがイザラクは商会の名前こそ知っているが、交流はなかったはず。第一部の序盤では馴染みの商会があるからと冷たくあしらっている。
まさか私が紅茶を飲み始めたことで交流が生まれるとは思うまい。
いつも取引している商会から見れば商売敵だろうに、お客に勧めるほど美味しいのだろう。ノルマンド商会のお茶の美味しさは乙女ゲームでも語られていた。思い出すと喉がゴクリと鳴った。
「淹れてもらうか?」
「ええ!」
「我はロイヤルミルクティーが良いぞ!」
「あ、私も!」
「ロイヤルミルクティーってなんだ?」
「とても美味しいミルクティー。イザラクも同じで良い?」
「ああ」
紅茶で有名な商会が選ぶミルクティーに合う茶葉で淹れるロイヤルミルクティー。美味しさは約束されたもの同然である。
『ミ~ルクティ~ ミ~ルクティ~
わ~たしっがっ飲むのはロイヤルミルクティ~
わ~れがの~むのもっ ロイヤルミルクティー』
私とルクスさんはデュエットしながらクルクルと回る。亀蔵は合いの手係。
イザラクは驚いたように瞬きをしていたが、私達の喜びが伝わったのか嬉しそうに笑みをこぼした。
それから他のお土産も見ているうちにロイヤルミルクティーが運び込まれた。
イザラクもロイヤルミルクティーを気に入ったようだ。ヴァレンチノ家に帰ってからも飲みたいとメモをもらっていた。そのメモをポケットに入れ、立ち上がる。
「さてウェスパルの元気そうな姿も見れたし、帰るよ」
「え、泊まっていかないの?」
「お祖父様の薬と手紙はもう預かってるから。それにこれ以上いると帰りたくなくなる。早く戻ってダグラス兄さんにウェスパルの様子を伝えないと」
「そっか。今日は来てくれてありがとう。お祖父様達にもよろしく伝えておいて」
抱きしめてお礼を告げれば、私の背中にも彼の手が回される。
「今度こそ、すぐにかけつけるから」
「うん」
「愛してる」
「私も愛しているわ」
家族の熱い抱擁を交わし、イザラクはシルヴェスターを去っていった。
大量のお土産を持ってきた行きとは違い、荷馬車はとても軽くなっている。
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