第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

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2章

28.過保護な従兄弟

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 長くなることを覚悟して追加のお茶を頼む。ルクスさんが真面目に聞いてくれているうちに私は残り少ないモンブランへと手を伸ばす。

 彼の話は難しいのでまともに聞くと頭が痛くなる。
 お茶のみついでに耳を傾けるくらいがちょうどいいのだ。

 予想通り長々と続いたイザラクの話を簡単にまとめるとこうだ。

 龍神ルシファーはかなり古い神だが彼を中心とした話で残っているのは大地を焼いた話のみ。

 神格を剥奪される前の話が一切残されておらず、他の神について語られた話の中でもルシファーという名前の記載こそあれ、踏み込んだ話はない。
 交流があると書かれていた地域の資料も漁ったが、あからさまにカットされている。

 まるで誰かが意図的に資料を消したかのように。

 そもそもルシファーがなぜ大地を焼いたのかがどこにも記されていない。
 私とも仲良くやっていることから、彼は禍々しい存在などではなく、何かしらの理由があって大地を焼いたのではないか。その理由を隠すため、何者かによって資料が消されたのではないかーーイザラクはそう考えているようだった。

 私よりイザラクの方がよほどルクスさんと向き合っているような気がする。
 ルクスさんも感心したように大きく頷いている。

「なるほど、しっかりと調べてきたという訳か」
「正直俺はあなたが何をしでかしたのかは重要視していない。ドラゴンだろうが神だろうが、ウェスパルに仲の良い相手が出来るのはいいことだ。だがウェスパルに、俺の家族に危害を加えるというのなら話は別だ。まだ神の力を宿していたとしても俺はあなたを殺す」

 イザラクの目は獲物を狩る獣のよう。
 彼は本気だ。乙女ゲームのイザラクルートにウェスパルとの結婚エンドがあるように、彼の家族愛はとても強い。

 だがここまで過保護だっただろうか?
 ルクスさんも若干引いている。

「……この国の王子よりもウェスパルの幼馴染みや従兄弟の方が強い信念を持っているというのはどうなんだ?」
「まぁ家族・友人・幼馴染みは大事ですから」

 過保護すぎる気はするが、私にとってもイザラクは大事な家族である。
 もちろん家族の中にルクスさんと亀蔵も含まれていますよ、と付け足してからカップを渡せば、ルクスさんは満足気に喉を潤した。亀蔵も嬉しそうだ。


「今は仲が良くても後で考えが変わるかもしれない。マーシャル王子のことをとよかく言うつもりはないが、彼では少し頼りないというか、本当に結婚できるか怪しいんだよな……」
「そこまで結婚にこだわらなくても」
「マーシャル王子に何かあったら俺と結婚しよう。いや、何かなくてもすぐにこっちに移り住みたい!」

 彼はまだ私とマーシャル王子の婚約解消について知らされていないようだ。

 それより途中から願望に変わってないか?

「……そんなに王都での生活は大変なの?」
「違う。俺はウェスパルが心配なんだ」
「私は大丈夫よ。イヴァンカやギュンタもいるし」
「二人のことは信頼している。だがこのままではウェスパルが外の世界を知ることを止めてしまうかもしれないだろう?  俺もダグラス兄さんもお祖父様も、それが心配なんだ」
「イザラク……」

 乙女ゲームの中のウェスパルはきっと中に閉じこもった後の姿なのだろう。
 大好きな幼馴染は亡くなり、苦手な王都に連れ出され不安でたまらなかったに違いない。

 それを間近で見ていたイザラクは、プレイヤーがハッピーエンドに喜んでいた頃の彼の心情は、どんなものだったのだろうか。

 物語の裏側に少し触れてしまったよう。
 膝の上でギュッと拳を固めるイザラクの姿にじくりと胸が痛んだ。

 だがなにやら様子がおかしい。

「心配で心配で……。ウェスパルが気に入りそうなものを端から持ってきた」
「ん?」
「今、空き部屋に運んでもらっている。気にいるものがあるといいんだが」

 行こうと手を伸ばされ、そこで見たのは大量の荷物だった。
 部屋の端のハンガーラックにかけられているのは頼んでいたイザラクの着なくなった服だろう。いくつか見たことがある。

 想像より量が多いが、王都に住んでいると外に出る機会も多い。
 自然と数が増えていくものなのかもしれない。私達家族が揃って服への興味が薄いというのもあるが。

「ウェスパル、こんなところで止まらずもっと奥に入れ。期待の眼差しでこちらを見てるぞ」
「ちょっと心の準備が……」

 私が部屋の端に視線を向けているのはただの現実逃避である。
 イザラクとお祖父様は来るたびにお土産を持ってきてくれるし、いつも楽しみにしていた。やはりお土産というのは嬉しいものである。

 だが何事にも限度というものがある。
 大国のお姫様の誕生日でもないのに、部屋を埋め尽くすほどの贈り物なんて明らかにやり過ぎだ。
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