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2章
27.久々の再会
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たった三年我慢させればお兄様は優秀な跡取りとなる。
だからこそお祖父様はなんとしてもお兄様の卒業をサポートするし、従兄弟もお兄様が逃げ出さないように監視している。同じ監視でも全然違う。お兄様の場合はのびのびしすぎているだけなのだ。
そう分かった上で、服を持ってきて欲しいなんて言えるはずがない。
送ってくれればいいとも思うが、それではこちらに来るなと言っているようで気が引ける。
それに私も従兄弟に会いたい。
会って、心配しないで大丈夫だよと伝えたい。
従兄弟と最後に会ったのはお茶会の翌日。彼の記憶の中の私は最悪な状態でストップしている。さっさと会ってアップロードしてしまいたい。
「芋掘りに来れないほど忙しいならその時に考えればいい」
そう締めくくられた翌日、従兄弟は私の前に現れた。
噂をすればなんとやらとはこのことか。
事前の連絡はなく、裏庭で魔結晶を作っていたらお父様と一緒に現れたのだ。
お父様もたまたま商人との取引に行った時に会ったらしい。とても驚いていた。
とりあえずお兄様の服を練習台にしなくて良かったと胸をなで下ろす。
「元気そうでよかった」
「イザラクこそ元気そうね。伯父様達は元気?」
客間に案内し、お茶とお菓子を用意してもらう。
ちなみに今日のおやつはモンブランである。カップケーキをベースにして上にマロンクリームを載せたタイプなので、手で掴んでも食べやすい。ルクスさんは私の膝の上でお行儀よく食べている。
「元気だよ。お祖父様もこっちに来たかったって文句を言っていた」
ギュンタのお祖父様から孫の薬草園を見てくれ! と何度も手紙が届いているらしい。
持ってきてくれた物だけ見ても驚いたのだ。薬草園は凄いことになっているだろう。ギュンタのお祖父様も同じく植物を育てる者として鼻が高いに違いない。
肩を落としながらもなんとか感動を伝えようと趣味のデッサンに励む様子が目に浮かぶ。
「お兄様が迷惑をかけてごめんなさい。ちゃんと学園に通っている?」
「ウェスパルから手紙が届いてからはしっかりと」
「……その前は?」
「たまに抜け出していたくらいかな?」
「早く手紙出せば良かった!」
「今は上手くやってるみたいだからそう責めないでくれ。謹慎明けで頑張っているんだから」
「入学数ヶ月で謹慎になるってどうなのよ……」
お兄様のことだから授業を抜けだしすぎたとか、休み時間中に剣を振っていたら近くに置いてあった備品を壊してしまったとかその辺りだろう。
早々に問題を起こしてくれるなとは思うが、貴族の輪の中での暮らしは息が詰まる。
お茶会でも逃げ出したくなるほどだったのだから、きっとお兄様は相当我慢しているはずだ。私も出来ることなら学園なんて通いたくない。
今度また手紙を書こう。
それにお兄様の好物の魔林檎のジャムも添えて。
離れていてもシルヴェスターの味覚が楽しめるように秋には獲れたて芋、冬には干し芋を送ろうと心に決める。
「今はもう大丈夫だから。それよりダグラス兄さん、ウェスパルのこと凄く心配していたぞ。俺も、ウェスパル達がこっちに到着してすぐ邪神の封印が解けたって聞いて、ずっと心配してた」
「心配かけてごめんなさい」
ぺこりと頭を下げると、頬に温もりを感じた。イザラクの手だ。視線を上げれば彼と目が合った。灰色と青が混ざり合った瞳は冷たそうな印象を持つが、向けられる視線はとても優しい。
「どうか謝らないでくれ。謝るのは俺の方だ。あの時、ウェスパルを一人になんかしなければ」
「あの時は二手に分かれて探すのが最善だった。それにお兄様が抜け出したくなる気持ちも分かるもの。それに今はもう私だって抜け出せるから。だから大丈夫よ」
「ウェスパル……」
イザラクは目を潤ませ感動に浸る。
だが本当に彼が責任感を負う必要など全くないのだ。大丈夫だから、と彼の背中に腕を伸ばす。
するとルクスさんが私の首の横からひょっこりと顔を出した。
「今は我がいるのだ。恐れるものなどないだろう」
ずっとルクスさんと一緒に大人しくしていた亀蔵も「かめぇ」と声をあげる。今度王都に行くときは彼らも一緒だ。顔も忘れた令嬢なんて怖くない。
「当然のようにあなたがいるのも心配する要因の一つなのだが」
「我が邪神だからか?」
「それもあるがそれだけではない。俺は幼い頃から多くの神話について調べてきた。その中でもあなたの資料だけが不自然なほどに少ない」
その言葉を皮切りにイザラクの神話トークが始まった。
だからこそお祖父様はなんとしてもお兄様の卒業をサポートするし、従兄弟もお兄様が逃げ出さないように監視している。同じ監視でも全然違う。お兄様の場合はのびのびしすぎているだけなのだ。
そう分かった上で、服を持ってきて欲しいなんて言えるはずがない。
送ってくれればいいとも思うが、それではこちらに来るなと言っているようで気が引ける。
それに私も従兄弟に会いたい。
会って、心配しないで大丈夫だよと伝えたい。
従兄弟と最後に会ったのはお茶会の翌日。彼の記憶の中の私は最悪な状態でストップしている。さっさと会ってアップロードしてしまいたい。
「芋掘りに来れないほど忙しいならその時に考えればいい」
そう締めくくられた翌日、従兄弟は私の前に現れた。
噂をすればなんとやらとはこのことか。
事前の連絡はなく、裏庭で魔結晶を作っていたらお父様と一緒に現れたのだ。
お父様もたまたま商人との取引に行った時に会ったらしい。とても驚いていた。
とりあえずお兄様の服を練習台にしなくて良かったと胸をなで下ろす。
「元気そうでよかった」
「イザラクこそ元気そうね。伯父様達は元気?」
客間に案内し、お茶とお菓子を用意してもらう。
ちなみに今日のおやつはモンブランである。カップケーキをベースにして上にマロンクリームを載せたタイプなので、手で掴んでも食べやすい。ルクスさんは私の膝の上でお行儀よく食べている。
「元気だよ。お祖父様もこっちに来たかったって文句を言っていた」
ギュンタのお祖父様から孫の薬草園を見てくれ! と何度も手紙が届いているらしい。
持ってきてくれた物だけ見ても驚いたのだ。薬草園は凄いことになっているだろう。ギュンタのお祖父様も同じく植物を育てる者として鼻が高いに違いない。
肩を落としながらもなんとか感動を伝えようと趣味のデッサンに励む様子が目に浮かぶ。
「お兄様が迷惑をかけてごめんなさい。ちゃんと学園に通っている?」
「ウェスパルから手紙が届いてからはしっかりと」
「……その前は?」
「たまに抜け出していたくらいかな?」
「早く手紙出せば良かった!」
「今は上手くやってるみたいだからそう責めないでくれ。謹慎明けで頑張っているんだから」
「入学数ヶ月で謹慎になるってどうなのよ……」
お兄様のことだから授業を抜けだしすぎたとか、休み時間中に剣を振っていたら近くに置いてあった備品を壊してしまったとかその辺りだろう。
早々に問題を起こしてくれるなとは思うが、貴族の輪の中での暮らしは息が詰まる。
お茶会でも逃げ出したくなるほどだったのだから、きっとお兄様は相当我慢しているはずだ。私も出来ることなら学園なんて通いたくない。
今度また手紙を書こう。
それにお兄様の好物の魔林檎のジャムも添えて。
離れていてもシルヴェスターの味覚が楽しめるように秋には獲れたて芋、冬には干し芋を送ろうと心に決める。
「今はもう大丈夫だから。それよりダグラス兄さん、ウェスパルのこと凄く心配していたぞ。俺も、ウェスパル達がこっちに到着してすぐ邪神の封印が解けたって聞いて、ずっと心配してた」
「心配かけてごめんなさい」
ぺこりと頭を下げると、頬に温もりを感じた。イザラクの手だ。視線を上げれば彼と目が合った。灰色と青が混ざり合った瞳は冷たそうな印象を持つが、向けられる視線はとても優しい。
「どうか謝らないでくれ。謝るのは俺の方だ。あの時、ウェスパルを一人になんかしなければ」
「あの時は二手に分かれて探すのが最善だった。それにお兄様が抜け出したくなる気持ちも分かるもの。それに今はもう私だって抜け出せるから。だから大丈夫よ」
「ウェスパル……」
イザラクは目を潤ませ感動に浸る。
だが本当に彼が責任感を負う必要など全くないのだ。大丈夫だから、と彼の背中に腕を伸ばす。
するとルクスさんが私の首の横からひょっこりと顔を出した。
「今は我がいるのだ。恐れるものなどないだろう」
ずっとルクスさんと一緒に大人しくしていた亀蔵も「かめぇ」と声をあげる。今度王都に行くときは彼らも一緒だ。顔も忘れた令嬢なんて怖くない。
「当然のようにあなたがいるのも心配する要因の一つなのだが」
「我が邪神だからか?」
「それもあるがそれだけではない。俺は幼い頃から多くの神話について調べてきた。その中でもあなたの資料だけが不自然なほどに少ない」
その言葉を皮切りにイザラクの神話トークが始まった。
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