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2章
26.監視
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黙々と食べ進め、山のほとんどがなくなった頃、ルクスさんがそういえばと呟いた。
「王子との婚約の主な理由は監視だとすれば、他に監視要員が送り込まれるのではないか?」
「確かに。王家はシルヴェスターを牽制する以外にもルクスさんのことも警戒しているでしょうから誰かしらは来るとは思います。ただマーシャル王子はシルヴェスターに対する捧げ物のような役割もあったので、王家にとってそこそこ大事な人じゃないといけないんですよね~」
マーシャル王子と同じくらい王家にとって大切な人間、かつ王都から動けるとなると真っ先に浮かぶのは王弟殿下である。
同じ年のマーシャル王子と比べてかなり年は離れるが、未婚で婚約者もいない。今まで殿下が務めていた陛下の補佐役も第一王子がいる。
だが殿下が動けば権力のバランスは傾く。数番目の王子がちょうどいいのだ。だからこそマーシャル王子が選ばれた。可能な限り、王弟殿下という切り札はとっておきたいはずだ。
そうなると王家に近しい血筋の騎士数人とかが妥当か。
家族とか婚約者はどうするのかという話になるが、その辺りはどうにかするのだろう。
少なくとも邪神のいるシルヴェスターを放置するようなことはしないはず。
それにシルヴェスター側としてもどうせなら役に立つ人材が来て欲しい。
マーシャル王子のことは嫌いではないが、ここは辺境。
顔と頭が良くて優しいけど身体の弱い王子様よりも、ガッツリ動ける人間が重宝されるのだ。
「ところでこの栗食べ終わったら採寸するので人型になってください」
「服なら従兄弟の物をリメイクするのではなかったか?」
「そうなんですけど、頼んでから結構経ちますし、忙しいならお兄様の服をガシガシと手直ししようかなって」
ルクスさんが人型になれると分かってすぐ、お父様に頼んで彼の服を用意してもらうことにした。
だがドラゴンの服となると型紙がない。
説明するにも難しく、針子にルクスさんの姿を見せることはできないと断られてしまった。
ならば既製品をリメイクしようと探してもらったのだがちょうど良い大きさの服がなかった。
尻尾がある分、腰から股にかけての生地に余裕が欲しい。
かといって身体自体は子どもサイズなので全体のサイズとしてはさほど大きくはない。足の肉付きもそこそこ。
大人の服を買ってリメイクするにしても練習はしておきたい。
お父様のお下がりでは大きすぎるし、お兄様の服は特注品ばかり。『戦闘時に楽な服装』がコンセプトになっているので、変なところにポケットがあったり、ナイフや薬瓶を仕込むためのバンドがついていたりする。その上で使いやすいように自分でも弄っている。
そんな服で練習をしたところで全くもって参考にならない。
そこで私よりもやや身長が高く、乙女ゲーム攻略者だけあって足の長い従兄弟に白羽の矢がたった。
お下がりが欲しいと手紙を出せば、わりとすぐに返事があった。
近々そっちに顔を見せるからその時に持っていくと言ってくれたが、一向に来る様子がない。忙しいのは分かっているので急かすようなことはしたくない。
「だが芋掘りには来るのだろう?」
ルクスさんは人型になれるとはいえ、今のところ人型になる用事はない。
急ぐ必要がないといえばないのだが、サルガス王子のように突然の訪問者が来ないとも限らない。
何より、従兄弟の来る日が全く予想出来ない。
「例年通りならそうなんですけど、今は王都にお兄様がいるので……」
普段は種芋を植える時と芋掘りの時、それからお祖父様の付き添いでも顔を見せる。お祖父様は定期的にスカビオ領に薬をもらいに来るので、そのついでに何泊かして帰る。
薬といってもどこか体調が悪いわけではなく、健康サプリみたいなもの。
メインは幼馴染みとの交流である。スカビオとファドゥールの先代達とお茶を飲みながら世間話や孫達の話で盛り上がっているらしい。
だが今年から数年間は来れるかどうか怪しいものだ。
「どこも監視ばかりだな」
お兄様もシルヴェスターで暮らす分には問題ないのだ。
社交嫌いな面はあるが、戦闘好きで家族愛が強い性質はこの場所では大きなプラスだ。
これでどこかで生涯のパートナーでも見つけてきてくれれば言うことなしである。万が一、ずっと見つからなくてもヴァレンチノから養子をもらえばいい。
「王子との婚約の主な理由は監視だとすれば、他に監視要員が送り込まれるのではないか?」
「確かに。王家はシルヴェスターを牽制する以外にもルクスさんのことも警戒しているでしょうから誰かしらは来るとは思います。ただマーシャル王子はシルヴェスターに対する捧げ物のような役割もあったので、王家にとってそこそこ大事な人じゃないといけないんですよね~」
マーシャル王子と同じくらい王家にとって大切な人間、かつ王都から動けるとなると真っ先に浮かぶのは王弟殿下である。
同じ年のマーシャル王子と比べてかなり年は離れるが、未婚で婚約者もいない。今まで殿下が務めていた陛下の補佐役も第一王子がいる。
だが殿下が動けば権力のバランスは傾く。数番目の王子がちょうどいいのだ。だからこそマーシャル王子が選ばれた。可能な限り、王弟殿下という切り札はとっておきたいはずだ。
そうなると王家に近しい血筋の騎士数人とかが妥当か。
家族とか婚約者はどうするのかという話になるが、その辺りはどうにかするのだろう。
少なくとも邪神のいるシルヴェスターを放置するようなことはしないはず。
それにシルヴェスター側としてもどうせなら役に立つ人材が来て欲しい。
マーシャル王子のことは嫌いではないが、ここは辺境。
顔と頭が良くて優しいけど身体の弱い王子様よりも、ガッツリ動ける人間が重宝されるのだ。
「ところでこの栗食べ終わったら採寸するので人型になってください」
「服なら従兄弟の物をリメイクするのではなかったか?」
「そうなんですけど、頼んでから結構経ちますし、忙しいならお兄様の服をガシガシと手直ししようかなって」
ルクスさんが人型になれると分かってすぐ、お父様に頼んで彼の服を用意してもらうことにした。
だがドラゴンの服となると型紙がない。
説明するにも難しく、針子にルクスさんの姿を見せることはできないと断られてしまった。
ならば既製品をリメイクしようと探してもらったのだがちょうど良い大きさの服がなかった。
尻尾がある分、腰から股にかけての生地に余裕が欲しい。
かといって身体自体は子どもサイズなので全体のサイズとしてはさほど大きくはない。足の肉付きもそこそこ。
大人の服を買ってリメイクするにしても練習はしておきたい。
お父様のお下がりでは大きすぎるし、お兄様の服は特注品ばかり。『戦闘時に楽な服装』がコンセプトになっているので、変なところにポケットがあったり、ナイフや薬瓶を仕込むためのバンドがついていたりする。その上で使いやすいように自分でも弄っている。
そんな服で練習をしたところで全くもって参考にならない。
そこで私よりもやや身長が高く、乙女ゲーム攻略者だけあって足の長い従兄弟に白羽の矢がたった。
お下がりが欲しいと手紙を出せば、わりとすぐに返事があった。
近々そっちに顔を見せるからその時に持っていくと言ってくれたが、一向に来る様子がない。忙しいのは分かっているので急かすようなことはしたくない。
「だが芋掘りには来るのだろう?」
ルクスさんは人型になれるとはいえ、今のところ人型になる用事はない。
急ぐ必要がないといえばないのだが、サルガス王子のように突然の訪問者が来ないとも限らない。
何より、従兄弟の来る日が全く予想出来ない。
「例年通りならそうなんですけど、今は王都にお兄様がいるので……」
普段は種芋を植える時と芋掘りの時、それからお祖父様の付き添いでも顔を見せる。お祖父様は定期的にスカビオ領に薬をもらいに来るので、そのついでに何泊かして帰る。
薬といってもどこか体調が悪いわけではなく、健康サプリみたいなもの。
メインは幼馴染みとの交流である。スカビオとファドゥールの先代達とお茶を飲みながら世間話や孫達の話で盛り上がっているらしい。
だが今年から数年間は来れるかどうか怪しいものだ。
「どこも監視ばかりだな」
お兄様もシルヴェスターで暮らす分には問題ないのだ。
社交嫌いな面はあるが、戦闘好きで家族愛が強い性質はこの場所では大きなプラスだ。
これでどこかで生涯のパートナーでも見つけてきてくれれば言うことなしである。万が一、ずっと見つからなくてもヴァレンチノから養子をもらえばいい。
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