第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

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2章

25.祝 婚約解消

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「やっぱり言ってみるものですね~」
 鍋の中には大量の石が敷き詰められている。
 これは全て、お父様が洞窟付近で拾った石である。

 洞窟に結界を施すのはもちろんだが、近くの石に神の力が宿っていた場合、悪用されかねない。だから回収してきて、屋敷の地下で厳重に保存してあった。

 そのことを知り、私はとある提案を持ちかけたのである。

「焼き芋作りに使いたいと言われるとは思っていなかっただろうな。領主、唖然としていたぞ?」
「ちょうど良い大きさだったので聞いてみるだけ聞いてみようかなと。結果的に許可も出ましたし、これで石焼き芋を作ってもらえますよ」

 確かにお父様は固まってしまった。だ
 が熟考の上、神の力が宿っているかもしれない石を調理用に使っているとは誰も思うまい、ということで使用の許可をくれた。

 ちなみに石のことはキッチンの人達にも内緒である。ちょうど良いサイズの石を見つけたから使って欲しいとだけ告げてある。

 これから石の洗浄・煮沸後に調理に入るので石焼き芋が完成するのは夕方になってしまうだろう。手順としては簡単だが、時間はかかるのだ。

 鍋を渡しに行くついでに午前中のおやつである焼き栗を受け取る。
 いわずもがな、ファドゥールの栗である。


 今日は魔法の休息日。魔法も運動と一緒でたまに休みを入れることでさらなる成長が見込めるらしい。朝からのんびりと勉強に励んでいる。

 焼き栗はちょこちょこと摘まむには持ってこいのおやつである。
 だが渡された皿に入っていた栗はなんだか少し心許ない。ルクスさんも不満げである。

「少なくないか?」
「実は先ほど奥様がお見えになりまして、亀蔵にあげたいから少し分けて欲しいと」

 魔法の練習を休みにすると決めたのは昨日の夜のこと。
 魔結晶を作るペースも上がってきたので、この辺りで一休みするかという話になった。

 するとそれを耳にしたお父様が亀蔵を一日貸して欲しいと言ってきたのだ。
 亀蔵もお父様のことを気に入っているし、と今日は朝からお父様と一緒に過ごすことになった。

 上機嫌で亀蔵との散歩ルートを考えているところにお母様がやってきて、一緒に散歩することになりーーお母様までもが亀蔵の魅力に気付いたというわけだ。

 お父様曰く、前々から気になってはいたとのことだが、二人揃ってデレデレである。

 多分今頃、二人でせっせと亀蔵のために栗の皮を剥いてあげているのだろう。

「追加分が出来ましたらお持ち致します」
「頼んだぞ」
 亀蔵にあげるのなら仕方ない。今ある分だけもらって部屋に戻る。

 その途中のことだった。
 お父様の書斎の方から何やら声がした。

 お父様なら先ほどまで、お母様と亀蔵と一緒に裏庭にいたはず。
 おやつタイムで戻ってきたのだろうか。

 亀蔵が可愛いからってあまり栗をあげすぎないでくださいね、と釘を差そうとドアをノックしようとした時だった。

「マーシャル………………婚約解消…………サルガス…………………………………………邪神…………………………」

 中から聞こえたのは途切れ途切れの声。
 途中から声を潜めてしまったせいでこれ以上の情報は得られない。

 だがこの四つのワードさえあれば状況を理解するのはたやすいこと。

 ルクスさんと顔を見合わせ、その場を立ち去る。
 足音を立てぬよう部屋へと戻り、机に焼き栗の入った皿を置いた。

「祝 婚約解消!」
 両腕を天井に向け、両手にはブイサインを作る。カニのように指をちょきちょきと動かしながら、ウィンウィンダンスを踊る。

 ダンスと言ってもその場でくるくると回るだけ。
 それもこの喜びが他の人にバレないようにひっそりと。

 私にとってもマーシャル王子にも利益しかない婚約解消だが、年頃の令嬢が喜ぶようなものでもない。
 手紙を気にしなくて良いと言い出した時からこの話が持ち上がっていたのかもしれない。


 もしかしてルクスさんを恐れて婚約解消に踏み切ったとか?
 決め手はサルガス王子の訪問だったのかもしれない。

 何はともあれ、闇落ちに繋がるルートが一つ消えるのは大きい。これから丸一日でもカニカニと周り続けたい気分だ。
 だがそれも後方からの圧に折れざるを得ない。もう少ししたら追加の栗も来る。

「終わったか」
「一旦落ち着くことにしました」
 椅子に腰掛け、栗の皮を剥いていく。
 若干冷めてしまったが美味しいことには変わりない。すぐに追加の栗が運び込まれ、揃って栗に手を伸ばす。

「ルクスさん」
「ん」
 包丁の切り込みが甘い部分も、ルクスさんは器用にこじあげていく。

 栗と一緒に用意してもらったハサミを使うよりルクスさんに渡した方が早い。スッと差し出せば、パキパキと割ってくれる。
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