第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中

文字の大きさ
上 下
44 / 175
2章

23.精霊のお菓子

しおりを挟む
 だから精霊にあげるのは一日一個まで。
 属性は日替わりで、その他は何かあった時用に貯めている。

 鍵を開けてから、そういえばどの属性が何体いるのか聞いていないことに気づいた。

「とりあえず箱ごと持っていけばいっか」
 属性ごとに分けた瓶にはそれぞれ五個ずつ入っている。全部合わせても足りないということはないだろう。

 再び鍵を閉め、応接間へと戻る。
 二人は先に戻ってきていたらしい。

 すでにルクスさんの周りには沢山の精霊が飛び回っていた。
 精霊を見るのは初めてだが、概ね想像通りの見た目だ。
 茶、青、緑の髪の小人さんに羽が生えている。パッと見ただけでも男の子と女の子の両方がいる。

 ただ想像と違ったのは身長体型や服装も一律ではないこと。ちゃんと個性がある。

 ルクスさんは彼らから聞き取りを行なっているらしい。
 コクコクと頷きながら、言葉を交わしている。といっても精霊側の言葉は私達には分からない。

 それでもギュンタとイヴァンカは真剣な表情で話し合いを見守っている。

「分かった。我が伝えてやろう」
「どうでした?」
「契約を結ばせないようにしていたのは、それぞれが自分を売り込もうとした結果らしい。検討した上で選ばれなかったら引くつもりだそうだが、全員と契約してやったらどうだ?」
「そんなことできるの?」
「初めから複数体と契約するケースは稀だが、そもそもここまで好かれる人間が珍しい。それにこやつらは全員、召喚される前から二人に目をつけていたらしいぞ。ここしばらく人間が精霊召喚を行わなかったというのも理由の一つだが、よほど気に入ったのだろうな。負担にならないのなら応じてやれ」
「ああ、喜んで」

 まさかの理由だが、おそらくルクスさんは聞く前からなんとなく予想がついていたのだろう。だから私に魔結晶を取りに行かせた。

 二人がホッとしたように表情を和らげると、精霊達は彼らの周りを飛び回った。
 受け入れられたことが嬉しいようだ。二人もこれからよろしくと個別に挨拶をしている。

「それから周りの人間にも精霊召喚に興味はないか聞いてやってくれ。他の仲間も呼んでほしいそうだ」
「分かったわ」
「実は父さんも精霊に興味があるらしくてさ。困ったことがあったらまた聞きに来ていい?」
「遠慮なく来るといい」

 スカビオとファドゥールには魔法適性持ちが一定数いる。
 魔獣が身近にいる場所に住んでいる人は何かしらの自衛手段を持っているものである。それは剣術であったり魔法であったりと様々だ。

 特にこの二領は元から住んでいた人や内地からの移住者の他に、元々シルヴェスターに住んでいたが戦闘適性がなかったり引退を理由に引っ越していった人もいる。

 また少し歴史を辿れば貴族の三男、四男あたりがゴロゴロといたりする。貴族には魔法が使える者が多い。平民として生きているので貴族の地位や権限こそないが、その血にはバッチリ貴族の、魔法適正者の血が流れているというわけだ。

 シルヴェスター・スカビオ・ファドゥールの三領はその土地柄から魔法適性持ちは協力して育てるので、基本的に適正持ちはみんな魔法が使える。

 またスカビオ・ファドゥールは自然を相手に働いている人が多いので、自然を愛するという条件も大体の人がクリアしていることだろう。残るは精霊を尊敬するという条件だが、精霊自身が認めた相手なら問題ない。


 今後、精霊召喚が当時のような勢いを取り戻すかどうかは分からない。
 だが今まで諦めていた人達が再び彼らとの共存を選ぶ道を示せたのではないかと思う。

 少なくともスカビオとファドゥールの二領は精霊と共にこれから変わっていくはずだ。

「あ、そうだ。二人と精霊達にこれ。私からのプレゼント」
 箱を開け、瓶を取り出す。
 どうせ数個しか入っていないので、三属性の魔結晶は全てあげてしまおう。
 中身を等分し、用意していた袋にザラザラと入れていく。すると目の前から強い視線を感じる。

「精霊のお菓子ね!」
「文献には錬金術師しか作れないって書いてあったのに。ウェスパル、これどこで手に入れたんだ?」
「私が作ったの」
「え?」
「高濃度の魔力を結合させて作る結晶で、錬金術師でなくとも作れる。難易度は高いが、お前達も精霊と共に精進すれば作れるようになるだろう」
「そっか!」
「なら頑張らないとね!」

 気合いを入れる二人の周りを精霊達は嬉しそうに飛び回る。
 温かい気持ちで見つめていると、精霊の中に赤い髪と黄色い髪も混ざり始めた。

「あの、ルクスさん。どさくさに紛れて増えてません?」
「……残りも全部くれてやれ」

 二人の魅力を前にすれば適性属性なんて関係ないらしい。
 一度袋を預かって、残りもザラザラと入れていく。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください

シンさん
恋愛
金貸しから追われる、靴職人のドロシー。 ある日突然、7才のアイザック王子にプロポーズされたんだけど、本当は20才の王太子様…。 こんな事になったのは、王家に伝わる魔術の7つ道具の1つ『子供に戻る靴』を履いてしまったから。 …何でそんな靴を履いたのか、本人でさえわからない。けど王太子が靴を履いた事には理由があった。 子供になってしまった20才の王太子と、靴職人ドロシーの恋愛ストーリー ストーリーは完結していますので、毎日更新です。 表紙はぷりりん様に描いていただきました(゜▽゜*)

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...