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2章
19.焦り
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「あそこのドラゴン、よく分かってるじゃないか」
「お嬢、良い相棒を見つけたな」
「もう彼らは立派なうちの戦力だ」
「お~い、そこまで終わったら一旦休憩にしないか~。茶、飲もう」
私がドラゴンを召喚したことは事前にお父様から聞かされていたらしいが、そのドラゴンが芋好きだと知ってとても感動したようだ。
芋効果は絶大で、休憩のお茶までご馳走になるほど。
「ところでこの亀さんどうしたんだ? かなり強そうだが……」
「この前、森で拾ったの」
さすがはシルヴェスターの領民。すでに亀蔵の強さを見抜いているらしい。
そんな彼らを相手にこれで貫こうとするのは、かなり無理があると自分でも思う。だがこれしかないのだ。
ニコニコと微笑みながら、なんとか信じてくれと強く念じる。
だが私の心配は杞憂に終わった。
「ああ、なるほどな。これだけ強い魔物がいたから森に魔物が寄り付かなかったのか!」
「信じてくれるの?」
「こんな魔獣初めて見るが、うちの森は特殊な場所だし、人も寄りつかない。今まで人に見つからずにいた魔獣がいたとしても不思議じゃない」
「敵意がまるでないしな。森から出てこなかったら気付かんよ」
「お嬢はよほど好かれたんだろうな~」
「そうかな」
「よく森に行くから仲間だと思ったのかもしれないぞ」
敵意がない。
何より領主であるお父様がとても可愛がっている。
この二点が彼らの警戒を解いたらしい。
錬金獣だとはバレてない。
冷静になって考えてみると、滅びたと思われている術で生み出される錬金獣よりも新種の方が身近である。
お茶休憩の後、水まきを披露した亀蔵はますます領民の心を掴み、領民のアイドルとなったのだった。
亀蔵の畑デビューから二週間。
亀蔵の練習場所はもっぱら空いている畑となった。ついでに私も水と土の魔法はここで練習させてもらっている。
かなりのスペースがあるので、森でしていたような水球を操る練習から貸してもらった畑に雨を降らせる練習へとチェンジする。
調整が出来るようになったからこそ可能になった練習である。
練習の成果もあり、亀蔵は四日前から芋畑の水やり当番を任せてもらうこととなった。だが私はといえば実用出来るレベルにはほど遠い。
亀蔵に比べて上達スピードが遅い理由は分かっている。
畑を潤す水ともなればそこそこの力を使う。慣れれば効率よく出来るようになるらしく、実際亀蔵の消費魔力は少ない。
だが私は水以外の魔法も上達する必要がある。なので仕方のないことと言える。言えるのだが、面白くはない。
「もう少しダメですか?」
「バランスが悪くなる。今の練習法が錬金術への最短ルートだ」
畑一面分を使って練習できる水と土の魔法に比べ、風・雷・火は屋敷裏での練習に留まっている。風はともかく、火と雷の魔法を伸ばすのは戦闘が一番なのだ。
だが私達は狩りに行くことを禁じられている。
「狩りにさえ行ければ……」
唇を噛みしめて呟く。
だが禁じられているのは大人の同行が得られないから。
なぜ得られないのかと言えば洞窟の封印に人手を割かなければならないからである。
元を正せば邪神の封印を解き、偶然錬金獣を作ってしまった私が悪いのだ。
後悔はしていない。だから我慢をしなければならない。
亀蔵に羨ましげな視線を向けるとこちらへとトコトコ歩いてくる。
どうしたのか、と首を傾げる姿も可愛らしい。ほとんど首が動いていないけれど、そんなところも含めて亀蔵の魅力である。
「亀蔵は何も悪くないからね。私も封印が終わったら存分に暴れてやるんだから」
グッと両手を固める。すると私の強い決意が伝わったのか、亀蔵はぴゅうっと水を噴射した。アーチ状に吹き出された水が虹を生み出している。これが亀蔵と私の懐の違いである。
だが狩りに行けない以上、飛躍的な上昇は難しい。
ルクスさんはこのままでいいと言うが、本当にこのままでいいのかと気ばかりが急く。
何か良い方法はないのか。
そればかりを考え、勉強も身に入らなくなってしまった。
魔法の練習中も思考を巡らせ続け、はたと気付いた。
「精霊だ! 私一人の力で伸ばすのが難しいなら精霊の力を借りればいい。なんでこんな簡単なこと気付かなかったんだろう」
「お嬢、良い相棒を見つけたな」
「もう彼らは立派なうちの戦力だ」
「お~い、そこまで終わったら一旦休憩にしないか~。茶、飲もう」
私がドラゴンを召喚したことは事前にお父様から聞かされていたらしいが、そのドラゴンが芋好きだと知ってとても感動したようだ。
芋効果は絶大で、休憩のお茶までご馳走になるほど。
「ところでこの亀さんどうしたんだ? かなり強そうだが……」
「この前、森で拾ったの」
さすがはシルヴェスターの領民。すでに亀蔵の強さを見抜いているらしい。
そんな彼らを相手にこれで貫こうとするのは、かなり無理があると自分でも思う。だがこれしかないのだ。
ニコニコと微笑みながら、なんとか信じてくれと強く念じる。
だが私の心配は杞憂に終わった。
「ああ、なるほどな。これだけ強い魔物がいたから森に魔物が寄り付かなかったのか!」
「信じてくれるの?」
「こんな魔獣初めて見るが、うちの森は特殊な場所だし、人も寄りつかない。今まで人に見つからずにいた魔獣がいたとしても不思議じゃない」
「敵意がまるでないしな。森から出てこなかったら気付かんよ」
「お嬢はよほど好かれたんだろうな~」
「そうかな」
「よく森に行くから仲間だと思ったのかもしれないぞ」
敵意がない。
何より領主であるお父様がとても可愛がっている。
この二点が彼らの警戒を解いたらしい。
錬金獣だとはバレてない。
冷静になって考えてみると、滅びたと思われている術で生み出される錬金獣よりも新種の方が身近である。
お茶休憩の後、水まきを披露した亀蔵はますます領民の心を掴み、領民のアイドルとなったのだった。
亀蔵の畑デビューから二週間。
亀蔵の練習場所はもっぱら空いている畑となった。ついでに私も水と土の魔法はここで練習させてもらっている。
かなりのスペースがあるので、森でしていたような水球を操る練習から貸してもらった畑に雨を降らせる練習へとチェンジする。
調整が出来るようになったからこそ可能になった練習である。
練習の成果もあり、亀蔵は四日前から芋畑の水やり当番を任せてもらうこととなった。だが私はといえば実用出来るレベルにはほど遠い。
亀蔵に比べて上達スピードが遅い理由は分かっている。
畑を潤す水ともなればそこそこの力を使う。慣れれば効率よく出来るようになるらしく、実際亀蔵の消費魔力は少ない。
だが私は水以外の魔法も上達する必要がある。なので仕方のないことと言える。言えるのだが、面白くはない。
「もう少しダメですか?」
「バランスが悪くなる。今の練習法が錬金術への最短ルートだ」
畑一面分を使って練習できる水と土の魔法に比べ、風・雷・火は屋敷裏での練習に留まっている。風はともかく、火と雷の魔法を伸ばすのは戦闘が一番なのだ。
だが私達は狩りに行くことを禁じられている。
「狩りにさえ行ければ……」
唇を噛みしめて呟く。
だが禁じられているのは大人の同行が得られないから。
なぜ得られないのかと言えば洞窟の封印に人手を割かなければならないからである。
元を正せば邪神の封印を解き、偶然錬金獣を作ってしまった私が悪いのだ。
後悔はしていない。だから我慢をしなければならない。
亀蔵に羨ましげな視線を向けるとこちらへとトコトコ歩いてくる。
どうしたのか、と首を傾げる姿も可愛らしい。ほとんど首が動いていないけれど、そんなところも含めて亀蔵の魅力である。
「亀蔵は何も悪くないからね。私も封印が終わったら存分に暴れてやるんだから」
グッと両手を固める。すると私の強い決意が伝わったのか、亀蔵はぴゅうっと水を噴射した。アーチ状に吹き出された水が虹を生み出している。これが亀蔵と私の懐の違いである。
だが狩りに行けない以上、飛躍的な上昇は難しい。
ルクスさんはこのままでいいと言うが、本当にこのままでいいのかと気ばかりが急く。
何か良い方法はないのか。
そればかりを考え、勉強も身に入らなくなってしまった。
魔法の練習中も思考を巡らせ続け、はたと気付いた。
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