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2章
18.亀蔵の力
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洞窟の結界を張るため、森への出入りがしばらく禁じられるようになった。
光の魔法使いがいないので本格的な封印は出来ないが、辺りの結界だけなら他の魔法使いでもどうにかなるそうだ。
ただし様々なアイテムだの準備があるため、時間がかかる。
少なく見積もっても二ヶ月。
人手が揃わなければもっとかかるらしい。
だがそこまで魔法の練習をサボってはいられない。そこで屋敷裏での練習が認められることとなった。
使用人がルクスさんに慣れてきたというのも大きいだろう。
またお父様の心労軽減の役割もある。
亀蔵が神の卵ではないことは納得してくれたが、私とルクスさんの仲が良いことにはまだ思うところがあるらしい。
私達にはやましいことなど特にないが、風呂別々はルクスさんが断固として拒否した。
理由は人に洗ってもらった方が綺麗になるから。
長年お風呂に入らなかったドラゴンとは思えぬ発言である。
この数ヶ月ですっかり人間の生活に染まり、お風呂の偉大さを知ることとなったのだろう。そしてお父様の嘆きが始まり……と言った具合になかなか面倒なやりとりが繰り広げられた。
その結果、なぜかお父様がおやつを運んでくる係となった。監視の意図があるらしい。
「今日のおやつはアップルパイだそうだ」
「わ~い」
屋敷裏での練習になったことで、おやつはできたて。
昼食・夕食の時間も呼びに来てくれる。おかげで時間を気にすることはなくなった。移動時間がまるっとなくなったことで、午前午後と区切ることもなくなり、のびのびと魔法の練習が出来る。
「亀蔵、魔法あげるからこっちおいで~」
「かめぇ」
亀蔵のご飯は一日五回。どれも私の魔力である。甲羅の上に手をかざして魔法を送り込む。
土魔法が二回と水魔法が二回、残りの一回は火・雷・風を日替わりである。
亀蔵は水と土の属性なので、この二つだけでも良いのだが、亀蔵が食べたがるのだ。
バランスが崩れても困るのであげるといっても少量。
それでも亀蔵はひなたぼっこをしているように頬を緩ませる。とても可愛い。
最近ではお父様も亀蔵の魅力に気付いたようだ。
おやつを運んでくる時、必ずポケットにクズ魔石を入れてくるようになった。
「亀蔵、おやつだよ」
「かめぇ」
「ああ、可愛い」
いわずもがな亀蔵のおやつ用である。
通常、錬金獣は作成者以外の魔法を受け付けないものらしいが、お父様と私は親子だけあって魔力の質がよく似ているようだ。亀蔵も喜んで食べている。
そんな亀蔵だが、癒やし要員に徹している訳ではない。
「お父様、亀蔵の魔法練習のために畑を使ってもいいですか?」
「畑? 何に使うんだ?」
「亀蔵は整地と水やりが出来ることが分かったので、畑を耕すのも出来るのではと思いまして」
屋敷にやってきた日、亀蔵はお父様の顔面に水を噴射した。つまり魔法が使えるのである。
試しに木を指さして『水鉄砲』と指示を出したら見事に当てて見せた。
威力の調整もバッチリ。『雨を降らせる要領で』という非常にアバウトな指示もこなせる。
また亀蔵が使えるのは水魔法だけではない。土魔法も使えるのである。
私がびしゃびしゃに濡らした土に『整地』と指示を出すととたとたと歩いて綺麗にしてしまった。
細かいところや方向転換の際には指示がいるが、ルクスさんに出会った頃の私よりも有能だった。
「それなら今年休ませる予定の畑がいくつかある。ロープを引いてあるところを使うといい」
「ありがとうございます! お昼を食べ終わったら行ってきます」
「それ、私もついていっていいか?」
「もちろん」
昼食後、畑へと向かう。
ルクスさんが屋敷の人以外の前に出るのはこれが初めて。加えて亀蔵が仲間に加わってからというもの、よく甲羅の上に乗るようになった。今も亀蔵の上でくつろいでいる。
知らない人からすれば異様な光景だ。
だがお父様もその様子に慣れきっているので特段気にすることもなく、亀蔵がとことこと歩く様子を微笑ましい様子で見守っている。
亀蔵にとっては屋敷に来てから初めてのお散歩である。どこか嬉しそうだ。
こうして畑に到着すると、ルクスさんは体勢を正した。
「亀蔵よ、お前には芋作りの才能がある。その才をここで存分に発揮せよ!」
「かめぇ」
ルクスさんは亀蔵の上からテキパキと指示を出していく。
彼も畑に来るのは初めてのはずなのだが、畑を耕す方法は心得ているようだ。
私の出る幕はない。
畑の端っこでお父様と並んで亀蔵の活躍を見守るだけだ。
「見事なものだな」
亀蔵が歩く前と後では土の様子がまるで違う。遠目からでも分かるほどの変化に思わず息を飲む。
これが土の魔獣 亀蔵の力。
だがルクスさんの指示が良いからというのもある。彼の芋への愛情はとても強い。
「そうだ、土への愛はそのまま芋へ還元される。美味い芋を作るためにはまず土から! お前はそれが分かっているのだな、亀蔵」
「かめぇ」
亀蔵に伝わっているのかは定かではないが、ルクスさんの力強い思いは領民達の心を鷲掴みにした。
光の魔法使いがいないので本格的な封印は出来ないが、辺りの結界だけなら他の魔法使いでもどうにかなるそうだ。
ただし様々なアイテムだの準備があるため、時間がかかる。
少なく見積もっても二ヶ月。
人手が揃わなければもっとかかるらしい。
だがそこまで魔法の練習をサボってはいられない。そこで屋敷裏での練習が認められることとなった。
使用人がルクスさんに慣れてきたというのも大きいだろう。
またお父様の心労軽減の役割もある。
亀蔵が神の卵ではないことは納得してくれたが、私とルクスさんの仲が良いことにはまだ思うところがあるらしい。
私達にはやましいことなど特にないが、風呂別々はルクスさんが断固として拒否した。
理由は人に洗ってもらった方が綺麗になるから。
長年お風呂に入らなかったドラゴンとは思えぬ発言である。
この数ヶ月ですっかり人間の生活に染まり、お風呂の偉大さを知ることとなったのだろう。そしてお父様の嘆きが始まり……と言った具合になかなか面倒なやりとりが繰り広げられた。
その結果、なぜかお父様がおやつを運んでくる係となった。監視の意図があるらしい。
「今日のおやつはアップルパイだそうだ」
「わ~い」
屋敷裏での練習になったことで、おやつはできたて。
昼食・夕食の時間も呼びに来てくれる。おかげで時間を気にすることはなくなった。移動時間がまるっとなくなったことで、午前午後と区切ることもなくなり、のびのびと魔法の練習が出来る。
「亀蔵、魔法あげるからこっちおいで~」
「かめぇ」
亀蔵のご飯は一日五回。どれも私の魔力である。甲羅の上に手をかざして魔法を送り込む。
土魔法が二回と水魔法が二回、残りの一回は火・雷・風を日替わりである。
亀蔵は水と土の属性なので、この二つだけでも良いのだが、亀蔵が食べたがるのだ。
バランスが崩れても困るのであげるといっても少量。
それでも亀蔵はひなたぼっこをしているように頬を緩ませる。とても可愛い。
最近ではお父様も亀蔵の魅力に気付いたようだ。
おやつを運んでくる時、必ずポケットにクズ魔石を入れてくるようになった。
「亀蔵、おやつだよ」
「かめぇ」
「ああ、可愛い」
いわずもがな亀蔵のおやつ用である。
通常、錬金獣は作成者以外の魔法を受け付けないものらしいが、お父様と私は親子だけあって魔力の質がよく似ているようだ。亀蔵も喜んで食べている。
そんな亀蔵だが、癒やし要員に徹している訳ではない。
「お父様、亀蔵の魔法練習のために畑を使ってもいいですか?」
「畑? 何に使うんだ?」
「亀蔵は整地と水やりが出来ることが分かったので、畑を耕すのも出来るのではと思いまして」
屋敷にやってきた日、亀蔵はお父様の顔面に水を噴射した。つまり魔法が使えるのである。
試しに木を指さして『水鉄砲』と指示を出したら見事に当てて見せた。
威力の調整もバッチリ。『雨を降らせる要領で』という非常にアバウトな指示もこなせる。
また亀蔵が使えるのは水魔法だけではない。土魔法も使えるのである。
私がびしゃびしゃに濡らした土に『整地』と指示を出すととたとたと歩いて綺麗にしてしまった。
細かいところや方向転換の際には指示がいるが、ルクスさんに出会った頃の私よりも有能だった。
「それなら今年休ませる予定の畑がいくつかある。ロープを引いてあるところを使うといい」
「ありがとうございます! お昼を食べ終わったら行ってきます」
「それ、私もついていっていいか?」
「もちろん」
昼食後、畑へと向かう。
ルクスさんが屋敷の人以外の前に出るのはこれが初めて。加えて亀蔵が仲間に加わってからというもの、よく甲羅の上に乗るようになった。今も亀蔵の上でくつろいでいる。
知らない人からすれば異様な光景だ。
だがお父様もその様子に慣れきっているので特段気にすることもなく、亀蔵がとことこと歩く様子を微笑ましい様子で見守っている。
亀蔵にとっては屋敷に来てから初めてのお散歩である。どこか嬉しそうだ。
こうして畑に到着すると、ルクスさんは体勢を正した。
「亀蔵よ、お前には芋作りの才能がある。その才をここで存分に発揮せよ!」
「かめぇ」
ルクスさんは亀蔵の上からテキパキと指示を出していく。
彼も畑に来るのは初めてのはずなのだが、畑を耕す方法は心得ているようだ。
私の出る幕はない。
畑の端っこでお父様と並んで亀蔵の活躍を見守るだけだ。
「見事なものだな」
亀蔵が歩く前と後では土の様子がまるで違う。遠目からでも分かるほどの変化に思わず息を飲む。
これが土の魔獣 亀蔵の力。
だがルクスさんの指示が良いからというのもある。彼の芋への愛情はとても強い。
「そうだ、土への愛はそのまま芋へ還元される。美味い芋を作るためにはまず土から! お前はそれが分かっているのだな、亀蔵」
「かめぇ」
亀蔵に伝わっているのかは定かではないが、ルクスさんの力強い思いは領民達の心を鷲掴みにした。
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