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2章
13.兄弟
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「ところで話変わっちゃうんだけど、サルガス王子って一体何しにきたの?」
「我を見に来たのだ」
「確かに竜族は珍しいし、ましてやこの年齢で呼び出すなんて過去なかったかもしれないけど、王都からわざわざ見に来るか? それも護衛なんてほとんど連れずに」
ギュンタの疑問にギクリとする。
私に投げかけられたものではないことは分かっているが、隠し事をしている手前、申し訳なさが募る。
何と返せばいいのかと悩んでいると、イヴァンカがこてんと首を傾げた。
「召喚予定があるって周りに知られたくなかったんじゃない?」
「そういえばサルガス王子ってまだ相棒いないんだっけ? 王族は早くに召喚を行うことも少なくないって聞くのになんでだろう?」
「政治的問題でしょ。王弟殿下も未だに相棒を作っていないし。まぁ争いを避けるために公にしていないだけかもしれないけれど」
「確かに第一王子の王位継承がほぼ確実と言われているのに、強い種族を召喚したなんてことがあったら騒ぎになりそうだよな」
「王子様っていうのも大変よね。私達は気楽なものだわ」
いつのまにか話は綺麗にまとまっていた。二人ともその理由で納得してくれたらしい。
だがゲーム通りなら、サルガス王子と王弟殿下にはそれぞれ召喚獣がいる。
王弟殿下は第一王子よりも力の強い召喚獣のため公には出来ず、サルガス王子に至っては大人達がいない場所で召喚してしまった。
確か三歳の時に本で読んで試したら成功したんだったっけ?
彼の召喚獣の存在が明らかになるのは第三部。まさか部屋で飼っている鳥が召喚獣だとは思わなかった。
ちなみに公にされていないどころか弟のマーシャル王子ですらもその存在を知らない。
兄にも召喚獣がいないからとマーシャル王子は召喚の授業を受講しなかった。
ゲームをプレイしている時はサルガス王子からマーシャル王子への想いにばかり目がいってしまっていた。マーシャル王子ルートで描かれる幼少期は病弱さにフォーカスが当てられていたし。
だがマーシャル王子もまたサルガス王子にに思うところがあったのかもしれない。
うちのお兄様なんて召喚獣と契約したら確実に自慢してくるのに……。
そういえばまだお兄様から手紙が届いていない。
落ち着いたら手紙出すから、って言っていたけどまだ学園には慣れないのだろうか。
お茶会の時みたいに学園から抜け出したりしていないといいけど……。
健康や成績の心配は全くしていないが、素行と出席日数は心配でたまらない。
ちゃんと登校してくれと釘をさす意味でもこちらから手紙を出すべきだろうか。
種類は違えど、どこの兄弟にも不安や不満はあるものなのかもしれない。
じんわりと妹モードに浸っていると、腕の中から不満げな声が飛び出した。
「大変なものか。あれはただの傲慢な男だ」
「傲慢?」
「自らの傲慢性に目をそらし、自分は理性的だと言い聞かせて自ら開けた穴に土を埋め込むような男だ。自らの欲と向き合い、狡猾さを身につければ優れた為政者にも独裁者にもなりうる。もちろんその他の道もないわけではないが、どちらにせよ自らと向き合わなければ何も変わらない」
子ども相手に欲と向き合えとは、元神様はなかなか難しいことを言ってくれる。だがサルガス王子にはカリスマ性もあるし、あのネガティブ思考をどうにかすれば道は切り開けそうな気はする。
「俺は? 俺はどう見えてる!?」
「お前は突っ走りすぎだ。真っ直ぐなのは利点だが、真っ直ぐすぎると誰かに付け入れられるぞ。我だって信頼に足る相手ではないかもしれない」
「でもルクスさんは良いドラゴンだろう? 一緒にいるウェスパルがこんなに笑えてるんだから間違いない」
「私だってルクスさんがウェスパルをいじめる悪いドラゴンだったらこうしてアップルパイを振舞っていないわ」
「なるほど。お前達は我を見極めにきていたのか」
「美味しいものを一緒に食べたい相手としてもね」
パチリとウィンクをするイヴァンカに、ルクスさんは小さくため息を吐く。
けれどすぐに目の前の皿に新たなアップルパイが載せられると「我もお前達のことは認めているぞ」と呟いた。
「それで、その……良いドラゴンさんにお願いがあるんだが」
「願い?」
「肥料作りのためにドラゴンのフンをくれ」
「あ、ずるい! 私も魔物避けに使いたいからフンを分けてちょうだい!」
顔の前で両手をパチンと打ち付けて懇願するギュンタと、彼を押しのけながら私も! と声を上げるイヴァンカ。少し前までしんみりとした空気に包まれていたのに、あっという間にいつも通りに戻ってしまった。いつも通りで、とても落ち着く。
「やはりウェスパルと同族なんだな」
ルクスさんは呆れているような、笑っているような何とも言えない表情で二人を眺める。でも多分悪い意味ではない。
ルクスさんの態度に交渉は難航しそうだと勘違いしたらしい二人はおろおろとし始める。焦っているが、数日前のサルガス王子とはまるで違う。
「いや、待ってくれ。何もタダでとは言わない。お礼に香草や薬草を用意する」
「効果が分からない以上、鉱物を渡すのは難しいけど林檎ならいっぱいあげるから! それから秋まで待ってもらえれば栗も付けるわ!」
すぐに報酬を提示する逞しさがある。
幼い頃から物品が売買される所を目にしてきたので慣れているし、自領の売りも理解しているのだ。
「我を見に来たのだ」
「確かに竜族は珍しいし、ましてやこの年齢で呼び出すなんて過去なかったかもしれないけど、王都からわざわざ見に来るか? それも護衛なんてほとんど連れずに」
ギュンタの疑問にギクリとする。
私に投げかけられたものではないことは分かっているが、隠し事をしている手前、申し訳なさが募る。
何と返せばいいのかと悩んでいると、イヴァンカがこてんと首を傾げた。
「召喚予定があるって周りに知られたくなかったんじゃない?」
「そういえばサルガス王子ってまだ相棒いないんだっけ? 王族は早くに召喚を行うことも少なくないって聞くのになんでだろう?」
「政治的問題でしょ。王弟殿下も未だに相棒を作っていないし。まぁ争いを避けるために公にしていないだけかもしれないけれど」
「確かに第一王子の王位継承がほぼ確実と言われているのに、強い種族を召喚したなんてことがあったら騒ぎになりそうだよな」
「王子様っていうのも大変よね。私達は気楽なものだわ」
いつのまにか話は綺麗にまとまっていた。二人ともその理由で納得してくれたらしい。
だがゲーム通りなら、サルガス王子と王弟殿下にはそれぞれ召喚獣がいる。
王弟殿下は第一王子よりも力の強い召喚獣のため公には出来ず、サルガス王子に至っては大人達がいない場所で召喚してしまった。
確か三歳の時に本で読んで試したら成功したんだったっけ?
彼の召喚獣の存在が明らかになるのは第三部。まさか部屋で飼っている鳥が召喚獣だとは思わなかった。
ちなみに公にされていないどころか弟のマーシャル王子ですらもその存在を知らない。
兄にも召喚獣がいないからとマーシャル王子は召喚の授業を受講しなかった。
ゲームをプレイしている時はサルガス王子からマーシャル王子への想いにばかり目がいってしまっていた。マーシャル王子ルートで描かれる幼少期は病弱さにフォーカスが当てられていたし。
だがマーシャル王子もまたサルガス王子にに思うところがあったのかもしれない。
うちのお兄様なんて召喚獣と契約したら確実に自慢してくるのに……。
そういえばまだお兄様から手紙が届いていない。
落ち着いたら手紙出すから、って言っていたけどまだ学園には慣れないのだろうか。
お茶会の時みたいに学園から抜け出したりしていないといいけど……。
健康や成績の心配は全くしていないが、素行と出席日数は心配でたまらない。
ちゃんと登校してくれと釘をさす意味でもこちらから手紙を出すべきだろうか。
種類は違えど、どこの兄弟にも不安や不満はあるものなのかもしれない。
じんわりと妹モードに浸っていると、腕の中から不満げな声が飛び出した。
「大変なものか。あれはただの傲慢な男だ」
「傲慢?」
「自らの傲慢性に目をそらし、自分は理性的だと言い聞かせて自ら開けた穴に土を埋め込むような男だ。自らの欲と向き合い、狡猾さを身につければ優れた為政者にも独裁者にもなりうる。もちろんその他の道もないわけではないが、どちらにせよ自らと向き合わなければ何も変わらない」
子ども相手に欲と向き合えとは、元神様はなかなか難しいことを言ってくれる。だがサルガス王子にはカリスマ性もあるし、あのネガティブ思考をどうにかすれば道は切り開けそうな気はする。
「俺は? 俺はどう見えてる!?」
「お前は突っ走りすぎだ。真っ直ぐなのは利点だが、真っ直ぐすぎると誰かに付け入れられるぞ。我だって信頼に足る相手ではないかもしれない」
「でもルクスさんは良いドラゴンだろう? 一緒にいるウェスパルがこんなに笑えてるんだから間違いない」
「私だってルクスさんがウェスパルをいじめる悪いドラゴンだったらこうしてアップルパイを振舞っていないわ」
「なるほど。お前達は我を見極めにきていたのか」
「美味しいものを一緒に食べたい相手としてもね」
パチリとウィンクをするイヴァンカに、ルクスさんは小さくため息を吐く。
けれどすぐに目の前の皿に新たなアップルパイが載せられると「我もお前達のことは認めているぞ」と呟いた。
「それで、その……良いドラゴンさんにお願いがあるんだが」
「願い?」
「肥料作りのためにドラゴンのフンをくれ」
「あ、ずるい! 私も魔物避けに使いたいからフンを分けてちょうだい!」
顔の前で両手をパチンと打ち付けて懇願するギュンタと、彼を押しのけながら私も! と声を上げるイヴァンカ。少し前までしんみりとした空気に包まれていたのに、あっという間にいつも通りに戻ってしまった。いつも通りで、とても落ち着く。
「やはりウェスパルと同族なんだな」
ルクスさんは呆れているような、笑っているような何とも言えない表情で二人を眺める。でも多分悪い意味ではない。
ルクスさんの態度に交渉は難航しそうだと勘違いしたらしい二人はおろおろとし始める。焦っているが、数日前のサルガス王子とはまるで違う。
「いや、待ってくれ。何もタダでとは言わない。お礼に香草や薬草を用意する」
「効果が分からない以上、鉱物を渡すのは難しいけど林檎ならいっぱいあげるから! それから秋まで待ってもらえれば栗も付けるわ!」
すぐに報酬を提示する逞しさがある。
幼い頃から物品が売買される所を目にしてきたので慣れているし、自領の売りも理解しているのだ。
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