27 / 175
2章
6.ロイヤルな飲み物
しおりを挟む
「それで、我に何の用だ」
「あ、ああ。一度、あなた達に会ってみたかった」
ルクスさんに声をかけられ、王子は慌てて目的を告げる。
概ねルクスさんの読み通り。
だがそこに私も加えないで欲しかった。
目を逸らしたい気持ちをグッとこらえて、平静な表情を保つ。鏡がないので出来ているかは分からないけれど。
それはそれは遠いところご足労いただき~なんて嫌味が出なかっただけ上出来である。
「我々も確認してみたいと思っていたので同席させてもらうことにした」
「まさかここまで仲良くしているとは想像以上だったな」
サルガス王子に大人二人が続く。
けれどそこでプツリと会話が途切れてしまった。
二人は聞かれたからそれらしい目的を答えただけ。主な用事は王子を届けることと守ることだろう。
この先、ルクスさんと会話を続けるべきはサルガス王子である。
だが彼は小さく口を閉じたり開いたりを繰り返すばかり。
お茶会では多くの令嬢や令息の相手をしていた彼だが、慣れぬ相手に緊張しているのかもしれない。
「言いたいことはそれだけか?」
「っ!」
「会って我らの姿を確認したいだけなら用は済んだだろう。まったく……期待外れにもほどがある」
確かに早く帰りたいと願った。
時間を取って欲しいのなら事前に連絡くらいしてくれとも思う。
ルクスさんとの約束も問いかけには答えるようにとのものだった。
この状況は想定していなかった。
だがこれではサルガス王子があまりにも可哀想だ。
「ルクスさん、意地悪言っちゃダメですよ。それにお菓子だってまだ来てません。楽しみにしていたんでしょう?」
どんな期待をしていたかは分からないけれど、彼がお茶とお菓子に期待していたのも事実だ。お茶もおかわりくらいはあるだろう。
これで少しくらいは待ってくれるかと思ったが、ルクスさんの口から出たのは無情すぎる言葉だった。
「部屋に運ばせればいい。行くぞ、ウェスパル」
「でも……」
「待ってくれ! あなたに聞きたいことはまだある」
「ならなぜすぐに聞かなかった? 予定も聞かずに無理矢理押しかけておいて、真っ先に聞くべきだろう。第一、我相手に手土産一つないとは……」
ルクスさんは「はぁ……」とため息を吐きながらフルフルと首を振る。
いきなり不機嫌になった理由はそれか。
まさかの理由に周りの大人達は目を丸くして驚いている。
王子なんて頑張って声を出したら、そんな返事だったのでもう泣きそうだ。
「手土産なら魔林檎を」
「それはファドゥールからだろう。ファドゥールは林檎、スカビオは石鹸、シルヴェスターは芋だ。王家は自らを示すために我に何を贈るのだ?」
そこまで贈り物に固執しなくても……と思うのは私だけだろうか。
それともルクスさんにとってそれだけ重要なものなのだろうか?
なにせ元神である。
贈り物には人柄や性格が出るなんてよく聞く話だが、ルクスさんにとって他者を測る物差しになっているのかもしれない。
まぁただ単にがめついだけかもしれないけれど。
「それは……」
「名産でなくとも構わぬ。お前の好物を寄越せ。言葉を交わすのは人となりを表してからだ。さぁウェスパル、今度こそ帰るぞ」
「まあまあ遠路はるばる来てくれたんですから、もう少し話しましょう? 紅茶だってまだ残ってるじゃないですか」
「もういい」
お菓子もダメ。
紅茶もダメ。
もう完全にお部屋に帰るモードである。
この様子では部屋に帰ってからも不機嫌な状態が続くのだろう。
今のうちにご機嫌を取らなければなるまい。
「紅茶の葉っぱがあるならミルクティーも飲めますよ!」
「ミルク、ティー? なんだそれは牛乳と関係があるのか? 美味いのか?!」
「美味しいものと美味しいものを掛け合わせたらもっと美味しいものが出来上がるなんてこの世の常識ですよ~」
紅茶単体でダメなら牛乳を足せばいい作戦は、ルクスさんの心を動かした。
ゴクリと喉を鳴らしている。
もうひと押しだ。
「ルクスさんがもう少しここに残ってるっていうならロイヤルミルクティーにしてもらえるかもしれませんね~」
「ロイヤルミルクティー……」
「ただでさえ美味しいミルクティーをさらにグレードアップさせた飲み物です」
「ウェスパルが美味いというのだから美味いのだろうな……」
「美味しいですよ~。あ、もしルクスさんが気に入らなかったらその時は私が全部飲みますから! 無駄にはならないので気に入らなかったら遠慮なく残してくれてもいいですからね」
『遠慮なく』を強めるのがポイントである。
するとふぅ~と長い息を吐いた。
「なら今すぐ用意させろ。出来上がるまでは話を聞いてやる」
さすがは牛乳好き。
ロイヤルな飲み物に陥落である。
「あ、ああ。一度、あなた達に会ってみたかった」
ルクスさんに声をかけられ、王子は慌てて目的を告げる。
概ねルクスさんの読み通り。
だがそこに私も加えないで欲しかった。
目を逸らしたい気持ちをグッとこらえて、平静な表情を保つ。鏡がないので出来ているかは分からないけれど。
それはそれは遠いところご足労いただき~なんて嫌味が出なかっただけ上出来である。
「我々も確認してみたいと思っていたので同席させてもらうことにした」
「まさかここまで仲良くしているとは想像以上だったな」
サルガス王子に大人二人が続く。
けれどそこでプツリと会話が途切れてしまった。
二人は聞かれたからそれらしい目的を答えただけ。主な用事は王子を届けることと守ることだろう。
この先、ルクスさんと会話を続けるべきはサルガス王子である。
だが彼は小さく口を閉じたり開いたりを繰り返すばかり。
お茶会では多くの令嬢や令息の相手をしていた彼だが、慣れぬ相手に緊張しているのかもしれない。
「言いたいことはそれだけか?」
「っ!」
「会って我らの姿を確認したいだけなら用は済んだだろう。まったく……期待外れにもほどがある」
確かに早く帰りたいと願った。
時間を取って欲しいのなら事前に連絡くらいしてくれとも思う。
ルクスさんとの約束も問いかけには答えるようにとのものだった。
この状況は想定していなかった。
だがこれではサルガス王子があまりにも可哀想だ。
「ルクスさん、意地悪言っちゃダメですよ。それにお菓子だってまだ来てません。楽しみにしていたんでしょう?」
どんな期待をしていたかは分からないけれど、彼がお茶とお菓子に期待していたのも事実だ。お茶もおかわりくらいはあるだろう。
これで少しくらいは待ってくれるかと思ったが、ルクスさんの口から出たのは無情すぎる言葉だった。
「部屋に運ばせればいい。行くぞ、ウェスパル」
「でも……」
「待ってくれ! あなたに聞きたいことはまだある」
「ならなぜすぐに聞かなかった? 予定も聞かずに無理矢理押しかけておいて、真っ先に聞くべきだろう。第一、我相手に手土産一つないとは……」
ルクスさんは「はぁ……」とため息を吐きながらフルフルと首を振る。
いきなり不機嫌になった理由はそれか。
まさかの理由に周りの大人達は目を丸くして驚いている。
王子なんて頑張って声を出したら、そんな返事だったのでもう泣きそうだ。
「手土産なら魔林檎を」
「それはファドゥールからだろう。ファドゥールは林檎、スカビオは石鹸、シルヴェスターは芋だ。王家は自らを示すために我に何を贈るのだ?」
そこまで贈り物に固執しなくても……と思うのは私だけだろうか。
それともルクスさんにとってそれだけ重要なものなのだろうか?
なにせ元神である。
贈り物には人柄や性格が出るなんてよく聞く話だが、ルクスさんにとって他者を測る物差しになっているのかもしれない。
まぁただ単にがめついだけかもしれないけれど。
「それは……」
「名産でなくとも構わぬ。お前の好物を寄越せ。言葉を交わすのは人となりを表してからだ。さぁウェスパル、今度こそ帰るぞ」
「まあまあ遠路はるばる来てくれたんですから、もう少し話しましょう? 紅茶だってまだ残ってるじゃないですか」
「もういい」
お菓子もダメ。
紅茶もダメ。
もう完全にお部屋に帰るモードである。
この様子では部屋に帰ってからも不機嫌な状態が続くのだろう。
今のうちにご機嫌を取らなければなるまい。
「紅茶の葉っぱがあるならミルクティーも飲めますよ!」
「ミルク、ティー? なんだそれは牛乳と関係があるのか? 美味いのか?!」
「美味しいものと美味しいものを掛け合わせたらもっと美味しいものが出来上がるなんてこの世の常識ですよ~」
紅茶単体でダメなら牛乳を足せばいい作戦は、ルクスさんの心を動かした。
ゴクリと喉を鳴らしている。
もうひと押しだ。
「ルクスさんがもう少しここに残ってるっていうならロイヤルミルクティーにしてもらえるかもしれませんね~」
「ロイヤルミルクティー……」
「ただでさえ美味しいミルクティーをさらにグレードアップさせた飲み物です」
「ウェスパルが美味いというのだから美味いのだろうな……」
「美味しいですよ~。あ、もしルクスさんが気に入らなかったらその時は私が全部飲みますから! 無駄にはならないので気に入らなかったら遠慮なく残してくれてもいいですからね」
『遠慮なく』を強めるのがポイントである。
するとふぅ~と長い息を吐いた。
「なら今すぐ用意させろ。出来上がるまでは話を聞いてやる」
さすがは牛乳好き。
ロイヤルな飲み物に陥落である。
3
お気に入りに追加
471
あなたにおすすめの小説
月が隠れるとき
いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。
その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。
という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。
小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。


家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください
シンさん
恋愛
金貸しから追われる、靴職人のドロシー。
ある日突然、7才のアイザック王子にプロポーズされたんだけど、本当は20才の王太子様…。
こんな事になったのは、王家に伝わる魔術の7つ道具の1つ『子供に戻る靴』を履いてしまったから。
…何でそんな靴を履いたのか、本人でさえわからない。けど王太子が靴を履いた事には理由があった。
子供になってしまった20才の王太子と、靴職人ドロシーの恋愛ストーリー
ストーリーは完結していますので、毎日更新です。
表紙はぷりりん様に描いていただきました(゜▽゜*)

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる