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2章
4.サルガス=ジェノーリア
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「なんでサルガス王子がいるの?」
「サルガス王子というと第一部の攻略者で、もう一人の悪役令嬢の婚約者。ウェスパルの婚約者の兄でもあったか?」
「意外と設定マシマシのその人で間違いないです。でもサルガス王子とウェスパルは第一部が始まるまで面識がないはずなんですよ」
例のお茶会にマーシャル王子が参加していたら紹介してくれたかもしれないが、彼は来なかった。
従兄弟から彼がサルガス王子なのだと教えてもらい、ある程度人が引いたら挨拶に……と考えている時にお兄様が逃げ出したのである。
つまり今は私が一方的に知っている状態だ。
それでも弟の婚約者なので知識程度にはあるかもしれないがその程度。
ゲームでもウェスパルとサルガス王子が出会うのは第一部のイベントの一つである夜会の時。
ウェスパルが『お初にお目にかかります』と挨拶していたので間違いない。
第二部をプレイしてウェスパルとマーシャル王子の関係性を知るまでは、いくらなんでもここまで会わないのはおかしくないか? と思っていたので、よく覚えている。
だからこのままゲームシナリオ開始まで会うことはないと思っていた。
なのに、なぜーー
「我を見極めにきたのかもしれんぞ。以前聞いた奴の性格がその通りならありえない話ではないだろう」
「確かに彼ならやりかねないかもですけど、でもまだ十一歳ですよ? 十一歳であの境地に辿り着いていたら救いなさすぎません?」
「真の救いが存在しないことがサルガスルートの特徴なんだろう?」
「そうですけど……」
サルガス=ジェノーリアはよく言えば責任感が強く、悪く言えば自ら事件に頭を突っ込んでいくタイプ。我が身すら犠牲にすることも厭わない猪突猛進型である。
第二王子の彼は第一王子の補佐役として奔走するシーンが多い。
カリスマ性で周りを引っ張っていく彼のシナリオは俺様系ヒーロー好きを虜にした。
だがストーリーを進めていくうちに、彼の原動力は他者から肯定されたいという欲であることが判明する。
一つ年下の第三王子が幼い頃から病弱だったため、幼少期から物分かりが良かったサルガス王子は十分な愛情を注がれていなかった。親に甘えることのできない彼は『王子』として肯定されることで欲を満たしていった。
だが第一王子がいる以上、一番にはなれないことを徐々に悟っていく。
常に二番であることに劣等感を感じながらも、自分が認められるにはこれしかないのだと努力を続けた。
ワガママ三昧のシェリリン=スカーレットとの婚約を続けていたのは国のため。そして彼女を を断罪したのもヒロイン可愛さではなく、国のため。
彼はヒロインという、自分を肯定してくれる存在が現れてもなお自分を犠牲にしてでも国のために生き続けるのだ。
ファンディスクにあたる第三部では学園を卒業し、兄の補佐をしていた彼は謎の大量死と関わっていく。
原因が死草と呼ばれる植物であったことまではすぐに辿り着いた。
だが厄介なのはこの植物が神の協力を得ることで一時的にしのぐことはできても、種を完全に消滅させることはできないこと。
また発生条件は全く分からず、一度発生してしまえば増え続ける。
死草は初期症状では分からないことから、気づいた時には大量発生しているケースがほとんど。創造神が神格持ち達に与えたもうた困難だとさえ言われてる。
選択肢を間違えれば国民の半分以上が死に、救えたとしても5パーセントものが亡くなっているという、救いがあるようでないシナリオに胸を痛めたファンも多い。
サルガスは自分が早く気づいていれば救えたのに……と後悔し続けるのでなおのこと。
創造神が死草という名の困難を世界に課したように、公式は永遠に解けない鎖で劣等感と責任感をサルガスに結びつけたと言われていた。
彼のルートは前半と後半でイメージが大きく変わることや犠牲者の多さ、なにより真の救いがないことから、賛否両論が分かれた。
私もあまり好きではなかった。
ヒロインが王子として生きていく彼を支えていくのはいいとしても、乙女ゲームなのだから夢が欲しかった。
とはいえ第二部は第二部で三ルート揃って選択肢をミスると大陸が焦土と化すので、サルガス王子ルートばかりを強く否定することは出来ないが。それでも二部の彼らのハッピーエンドには幸せな未来が描かれていた。
好みが分かれるルートではあるが、一番熱が強いのは間違いなくサルガス王子ファンだった。
一部のファンは『病んでくれさえすれば。病んでくれさえすれば彼は救われるのに……』と幸せのためのヤンデレ化を熱望し続けていたとか。
「やだなぁ~。関わりたくない」
「我は興味あるぞ」
「国のためにとか言って斬りかかられたらどうするんですか! 怪我したら牛乳ちょびちょびとしか飲めなくなるんですよ!?」
「ふん、小僧の剣戟などこの鱗で弾き返してやるわ」
「小娘の魔法で焦げたのに?」
「お前の火力が異常なだけだ! それに相手に敵意があればこちらとて応戦する」
もしもサルガス王子が第二部の攻略者なら大事になる前にウェスパルもろとも切り捨てていることだろう。
そして人を殺した後悔を背負ってーー。
ダメだ、あの人の場合、どの方向を通ろうとしても暗くなる。
本当にヤンデレ化くらいしか幸せになる道は残っていないんじゃなかろうか。
闇落ちするかもしれない私と、病んだ方が幸せになれるかもしれないサルガス王子。二人揃ってマイナス方向に特化しすぎて、相性最悪である。
やはり関わりたくない。
「サルガス王子というと第一部の攻略者で、もう一人の悪役令嬢の婚約者。ウェスパルの婚約者の兄でもあったか?」
「意外と設定マシマシのその人で間違いないです。でもサルガス王子とウェスパルは第一部が始まるまで面識がないはずなんですよ」
例のお茶会にマーシャル王子が参加していたら紹介してくれたかもしれないが、彼は来なかった。
従兄弟から彼がサルガス王子なのだと教えてもらい、ある程度人が引いたら挨拶に……と考えている時にお兄様が逃げ出したのである。
つまり今は私が一方的に知っている状態だ。
それでも弟の婚約者なので知識程度にはあるかもしれないがその程度。
ゲームでもウェスパルとサルガス王子が出会うのは第一部のイベントの一つである夜会の時。
ウェスパルが『お初にお目にかかります』と挨拶していたので間違いない。
第二部をプレイしてウェスパルとマーシャル王子の関係性を知るまでは、いくらなんでもここまで会わないのはおかしくないか? と思っていたので、よく覚えている。
だからこのままゲームシナリオ開始まで会うことはないと思っていた。
なのに、なぜーー
「我を見極めにきたのかもしれんぞ。以前聞いた奴の性格がその通りならありえない話ではないだろう」
「確かに彼ならやりかねないかもですけど、でもまだ十一歳ですよ? 十一歳であの境地に辿り着いていたら救いなさすぎません?」
「真の救いが存在しないことがサルガスルートの特徴なんだろう?」
「そうですけど……」
サルガス=ジェノーリアはよく言えば責任感が強く、悪く言えば自ら事件に頭を突っ込んでいくタイプ。我が身すら犠牲にすることも厭わない猪突猛進型である。
第二王子の彼は第一王子の補佐役として奔走するシーンが多い。
カリスマ性で周りを引っ張っていく彼のシナリオは俺様系ヒーロー好きを虜にした。
だがストーリーを進めていくうちに、彼の原動力は他者から肯定されたいという欲であることが判明する。
一つ年下の第三王子が幼い頃から病弱だったため、幼少期から物分かりが良かったサルガス王子は十分な愛情を注がれていなかった。親に甘えることのできない彼は『王子』として肯定されることで欲を満たしていった。
だが第一王子がいる以上、一番にはなれないことを徐々に悟っていく。
常に二番であることに劣等感を感じながらも、自分が認められるにはこれしかないのだと努力を続けた。
ワガママ三昧のシェリリン=スカーレットとの婚約を続けていたのは国のため。そして彼女を を断罪したのもヒロイン可愛さではなく、国のため。
彼はヒロインという、自分を肯定してくれる存在が現れてもなお自分を犠牲にしてでも国のために生き続けるのだ。
ファンディスクにあたる第三部では学園を卒業し、兄の補佐をしていた彼は謎の大量死と関わっていく。
原因が死草と呼ばれる植物であったことまではすぐに辿り着いた。
だが厄介なのはこの植物が神の協力を得ることで一時的にしのぐことはできても、種を完全に消滅させることはできないこと。
また発生条件は全く分からず、一度発生してしまえば増え続ける。
死草は初期症状では分からないことから、気づいた時には大量発生しているケースがほとんど。創造神が神格持ち達に与えたもうた困難だとさえ言われてる。
選択肢を間違えれば国民の半分以上が死に、救えたとしても5パーセントものが亡くなっているという、救いがあるようでないシナリオに胸を痛めたファンも多い。
サルガスは自分が早く気づいていれば救えたのに……と後悔し続けるのでなおのこと。
創造神が死草という名の困難を世界に課したように、公式は永遠に解けない鎖で劣等感と責任感をサルガスに結びつけたと言われていた。
彼のルートは前半と後半でイメージが大きく変わることや犠牲者の多さ、なにより真の救いがないことから、賛否両論が分かれた。
私もあまり好きではなかった。
ヒロインが王子として生きていく彼を支えていくのはいいとしても、乙女ゲームなのだから夢が欲しかった。
とはいえ第二部は第二部で三ルート揃って選択肢をミスると大陸が焦土と化すので、サルガス王子ルートばかりを強く否定することは出来ないが。それでも二部の彼らのハッピーエンドには幸せな未来が描かれていた。
好みが分かれるルートではあるが、一番熱が強いのは間違いなくサルガス王子ファンだった。
一部のファンは『病んでくれさえすれば。病んでくれさえすれば彼は救われるのに……』と幸せのためのヤンデレ化を熱望し続けていたとか。
「やだなぁ~。関わりたくない」
「我は興味あるぞ」
「国のためにとか言って斬りかかられたらどうするんですか! 怪我したら牛乳ちょびちょびとしか飲めなくなるんですよ!?」
「ふん、小僧の剣戟などこの鱗で弾き返してやるわ」
「小娘の魔法で焦げたのに?」
「お前の火力が異常なだけだ! それに相手に敵意があればこちらとて応戦する」
もしもサルガス王子が第二部の攻略者なら大事になる前にウェスパルもろとも切り捨てていることだろう。
そして人を殺した後悔を背負ってーー。
ダメだ、あの人の場合、どの方向を通ろうとしても暗くなる。
本当にヤンデレ化くらいしか幸せになる道は残っていないんじゃなかろうか。
闇落ちするかもしれない私と、病んだ方が幸せになれるかもしれないサルガス王子。二人揃ってマイナス方向に特化しすぎて、相性最悪である。
やはり関わりたくない。
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