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1章
18.芋プリンがある限り
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「今から外に出るの。芋とお茶用意もらってもいい? あ、芋は丸干し芋がいいって」
「丸干し芋とお茶ですね。用意できましたらお部屋にお持ちいたします。それからおやつに作った芋プリンは夕食時にお出ししますね」
「芋プリンできたの!?」
「調理班一同で試作を重ねましたので、満足していただける一品になったかと」
「楽しみにしているわ」
彼らがルクスさんに慣れてからというもの、芋料理のバリエーションが増えた。
私がルクスさんに言われて書き出した前世の芋料理知識も少しは役立っている。
といっても料理は詳しくない。今も前世も食べる専門。
ルクスさん以外には前世の記憶があることを誤魔化しつつ、こんなものがあった程度の情報しか出せなかった。
それでもルクスさんと調理班の彼らの芋への強い情熱が再現を可能にした。
さすがに大学芋は調味料が足りずに作ることはできなかったが、揚げ芋にタレを付けるという考えは新鮮だったようだ。
今は芋に付けるタレの開発を進めているらしい。
芋のためなら醤油やみりんも開発してくれるんじゃないかと密かに期待している。
彼と別れ、今度こそお父様の部屋のドアを叩く。
「ウェスパルです。少しお時間よろしいでしょうか」
「何かあったのか?」
「外出許可を頂きたいと思いまして」
「外出許可? なんのために?」
「ルクスさんと魔法の練習をしようと思いまして。屋敷の近くだと使用人が怯えるからあの洞窟の前がいいとルクスさんが」
言われた通り、ルクスさんの名前を前面に出す。
けれどやはりというべきかお父様の表情は固い。
「なぜいきなり魔法の練習なんか」
「魔法を極めて錬金術を習得することで、芋小屋にあるアイテムの類似品を作るためです。といっても元々は私が魔法の操作が下手なので見てくれるという話でして、錬金術の話は後から出来たものですが」
「また芋か……」
「彼は芋好きですから。シルヴェスターにとっても芋は重要な食料ですし、芋小屋のアイテムが壊れればかなりの打撃になるかと」
「だからといって錬金術など突飛すぎる。諦めなさい。それに魔法の練習だってする必要ないだろう。ウェスパルは魔法が得意とは言わんが、今まで困ることはなかった」
ウェスパルは今のままでいいんだ、魔法なんて……と小さく呟くお父様に違和感を覚えた。
ルクスさんの外出を拒んでいるというよりも、私が魔法の練習をすることを拒んでいるように見える。
思えば長年まじめに魔法の練習をしてこなかったのは『必要がない』と感じていたからだ。
今のままでも十分戦える。自分の武器は魔法ではなくナイフであると。
苦手を伸ばすより得意をカバーするのは一つの手だし、私も今の今まで戦闘面ではそれでいいと思っていた。
闇落ちが関連しなければ自ら練習しようなんて考えなかったかもしれない。
だがやる気になっている娘を止めるのはおかしくないか?
お父様は優しい人だ。とても家族思いで、領地のこともよく考えている。
お父様の性格を考えるとむしろこの場面、伸ばそうとするのが自然なのではなかろうか。
それともルクスさんに習うというのが不安なだけ?
だがドライヤーの練習をしている時のルクスさんの指摘は的確だった。
鱗が焦げた後には魔法について詳しく教えてくれた。
錬金術が、と切り出してきたあたり、火と風以外の属性も詳しいのだろう。
少なくとも他の人に習うよりも私に合っている。
これを逃したら魔法上達の道を失うことになるかもしれない。
そうなれば闇落ちの道がだんだん濃くなっていき……。ダメだ、諦めてはいけない。
もっとルクスさんの名前を前面に出さねば!
頭をフル回転させて良いアイディアはないかと探る。ああそういえばと思い出した。
「実は先日ルクスさんの鱗を焦がしまして」
「は?」
ドライヤーの件を知っているのは私と調理班の一部のみ。
自然と気づいた彼らはともかく、お父様に伝えればまた騒ぐだけだと口止めされていたのだ。
ここに来て交渉の良いカードになるとは思わなかった。
後で怒られるかもしれないが、魔法と錬金術、ひいては芋のためだ。ルクスさんも許してくれるだろう。
「それでも引き続き練習に付き合ってくれるということなので、甘えようかと」
「本当に彼は一体何を……」
「それで外出許可なのですが」
「……勝手に行かれなかった分、マシか。夕食までには帰ってくるように」
「ありがとうございます!」
お父様は重いため息を吐きながら、渋々といった形で許してくれた。
夕食までに帰らなければ心配させるが、夕食には芋プリンが付いている。
一分たりとも遅れることはないだろう。
「丸干し芋とお茶ですね。用意できましたらお部屋にお持ちいたします。それからおやつに作った芋プリンは夕食時にお出ししますね」
「芋プリンできたの!?」
「調理班一同で試作を重ねましたので、満足していただける一品になったかと」
「楽しみにしているわ」
彼らがルクスさんに慣れてからというもの、芋料理のバリエーションが増えた。
私がルクスさんに言われて書き出した前世の芋料理知識も少しは役立っている。
といっても料理は詳しくない。今も前世も食べる専門。
ルクスさん以外には前世の記憶があることを誤魔化しつつ、こんなものがあった程度の情報しか出せなかった。
それでもルクスさんと調理班の彼らの芋への強い情熱が再現を可能にした。
さすがに大学芋は調味料が足りずに作ることはできなかったが、揚げ芋にタレを付けるという考えは新鮮だったようだ。
今は芋に付けるタレの開発を進めているらしい。
芋のためなら醤油やみりんも開発してくれるんじゃないかと密かに期待している。
彼と別れ、今度こそお父様の部屋のドアを叩く。
「ウェスパルです。少しお時間よろしいでしょうか」
「何かあったのか?」
「外出許可を頂きたいと思いまして」
「外出許可? なんのために?」
「ルクスさんと魔法の練習をしようと思いまして。屋敷の近くだと使用人が怯えるからあの洞窟の前がいいとルクスさんが」
言われた通り、ルクスさんの名前を前面に出す。
けれどやはりというべきかお父様の表情は固い。
「なぜいきなり魔法の練習なんか」
「魔法を極めて錬金術を習得することで、芋小屋にあるアイテムの類似品を作るためです。といっても元々は私が魔法の操作が下手なので見てくれるという話でして、錬金術の話は後から出来たものですが」
「また芋か……」
「彼は芋好きですから。シルヴェスターにとっても芋は重要な食料ですし、芋小屋のアイテムが壊れればかなりの打撃になるかと」
「だからといって錬金術など突飛すぎる。諦めなさい。それに魔法の練習だってする必要ないだろう。ウェスパルは魔法が得意とは言わんが、今まで困ることはなかった」
ウェスパルは今のままでいいんだ、魔法なんて……と小さく呟くお父様に違和感を覚えた。
ルクスさんの外出を拒んでいるというよりも、私が魔法の練習をすることを拒んでいるように見える。
思えば長年まじめに魔法の練習をしてこなかったのは『必要がない』と感じていたからだ。
今のままでも十分戦える。自分の武器は魔法ではなくナイフであると。
苦手を伸ばすより得意をカバーするのは一つの手だし、私も今の今まで戦闘面ではそれでいいと思っていた。
闇落ちが関連しなければ自ら練習しようなんて考えなかったかもしれない。
だがやる気になっている娘を止めるのはおかしくないか?
お父様は優しい人だ。とても家族思いで、領地のこともよく考えている。
お父様の性格を考えるとむしろこの場面、伸ばそうとするのが自然なのではなかろうか。
それともルクスさんに習うというのが不安なだけ?
だがドライヤーの練習をしている時のルクスさんの指摘は的確だった。
鱗が焦げた後には魔法について詳しく教えてくれた。
錬金術が、と切り出してきたあたり、火と風以外の属性も詳しいのだろう。
少なくとも他の人に習うよりも私に合っている。
これを逃したら魔法上達の道を失うことになるかもしれない。
そうなれば闇落ちの道がだんだん濃くなっていき……。ダメだ、諦めてはいけない。
もっとルクスさんの名前を前面に出さねば!
頭をフル回転させて良いアイディアはないかと探る。ああそういえばと思い出した。
「実は先日ルクスさんの鱗を焦がしまして」
「は?」
ドライヤーの件を知っているのは私と調理班の一部のみ。
自然と気づいた彼らはともかく、お父様に伝えればまた騒ぐだけだと口止めされていたのだ。
ここに来て交渉の良いカードになるとは思わなかった。
後で怒られるかもしれないが、魔法と錬金術、ひいては芋のためだ。ルクスさんも許してくれるだろう。
「それでも引き続き練習に付き合ってくれるということなので、甘えようかと」
「本当に彼は一体何を……」
「それで外出許可なのですが」
「……勝手に行かれなかった分、マシか。夕食までには帰ってくるように」
「ありがとうございます!」
お父様は重いため息を吐きながら、渋々といった形で許してくれた。
夕食までに帰らなければ心配させるが、夕食には芋プリンが付いている。
一分たりとも遅れることはないだろう。
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