第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中

文字の大きさ
上 下
17 / 175
1章

16.刺激された芋好き魂

しおりを挟む
 それにウェスパルがステータスを下げたのもバランスを取るためとの考え方も……。

 いや、知っていたらランダムと言わずに光の魔法をピンポイントに下げるか。
 うーむと腕を組んで考えこめば、おでこをパチンと叩かれる。

「いたっ」
「お前の場合、光闇以前の問題だ」
「どうすれば上手くできますかね~。素質はあると思うんですけど」

 調整は下手だが、マンガを再現するだけの魔法を使えるだけの力はあるのだ。

 上手く扱えば広大な芋畑を耕すのも一瞬で終わりそうだ。

 水撒きも一発。空飛ぶ絨毯だって再現可能かもしれない。

 ファンタジー世界には可能性が無限大だ。


「比較的簡単な水魔法か土魔法の訓練から始めたらどうだ?」
「土魔法といえばゴーレムですよね!」

 ゲームではよくなんたらの間や宝物を守っていたりする。
 防御力は高いし、数ターンに一度大きな魔法打ってきたりするしで、難関の一つとして扱われていることも多い。

 シルヴェスター領に神殿はないが、夜中の警戒に役立ってくれるかもしれない。

 何より私はリアルで動くゴーレムを見てみたい!

 興奮を抑えられず、ブンブンと手を振って『ゴーレムはいいですよね!』と熱意を伝える。だがルクスさんはロマン語りを一刀両断した。

「土魔法を極めても、魔核がないと動かんぞ」
「魔核?」
「人間の心臓のようなものだ」
「魔核ってどうやって作るんですか?」
「錬金術だ」
「錬金術ってもう滅びてるじゃないですか!」
「ファンタジーでお馴染みのホムンクルスやアイテムバッグだけじゃなくて、ゴーレムまでダメだなんて……。夢がなさすぎる」

 ファンタジーにも色々ある。錬金術がない世界だってある。
 そんなことは分かっている。
 分かっていても、初めからないのと少し前まであったのとでは落胆度合いがまるで違う。

 確かに乙女ゲームにはどれも出てこなかった。
 けど乙女ゲームだから、恋愛メインだから出てこなかったのかなって少しは希望を持っていた。

 そして教本を見て絶望した。

 魔法があるだけで満足すべきなのかな~。
 服の裾を指先でいじりながら「錬金術やりたかったなぁ」と零す。

「錬金術は滅びてはおらんぞ」
「いやいや教本にも書かれていたじゃないですか。ルクスさんも見たでしょ?  三百年前にいた錬金術師で最後だって。シルヴェスター領の芋小屋だって錬金術師の作ったアイテムが壊れれば機能しなくなるから、色々と保存方法を編み出しているんですよ」
「芋小屋?」
「シルヴェスターは甘藷しか育たないので、秋に収穫したものを通年食べられるように専用の小屋に保管してあるんです。アイテムの仕組みはよくわかりませんが、多分空調管理とかじゃないですかね。あの中は結構寒いんですよ」

 お父様がたった一晩で陛下と連絡が取れたのも、錬金術師の残した通信アイテムのおかげだろう。

 だが通信アイテムも芋小屋のアイテムも永久ではない。
 壊れたらそれっきりなのだ。

 錬金術で作り出されたアイテムは魔法の何段も上を行く。
 錬金術以外では再現が出来ないのだ。

 けれどその錬金術は滅びてしまった。
 今ある分が壊れればまたなかった頃の生活に戻るしかないのだ。だからそのために今から色々と備えている。

 特に力をいれているのは乾燥芋。
 前世のようなフリーズドライ技術はないが、賞味期限がものすごく長い。半年以上持つ。

 なんでも魔法を使う際に一工夫を施しているのだとか。
 だが普通に干したものと風魔法を使ったものとでは食感や味に差が出てしまう。
 そこの改良が今後の課題だとお父様は熱く語っていた。

 芋はシルヴェスターにとって貴重な食料だ。
 私も何事もなく学園を卒業することができれば、こちらに力を入れることになるのだろう。

「アイテムが壊れれば芋が食えなくなるのか?」
「収穫時期の秋から春の初めくらいまでならギリギリ食べられると思いますが、夏場は難しいでしょうね」
「ウェスパル、錬金術を身につけろ」
「いやだから錬金術は滅びて」
「滅びておらんと言っておるだろう!  なに、我に任せておけば問題ない」

 ルクスさんは胸を張る。

 だが彼が目覚めたのは最近である。
 封印される前にいた存在が消えてしまったことをまだ受け入れられていないのかもしれない。

 人間が数百年かけて出した結論が今更ひっくり返るとは思えないが、どうせ暇なのだ。

 なによりルクスさんは芋が関わるとかなりしつこいことをこの数週間ほどで思い知らされた。

 芋好き魂に火をつけてしまったのは私だし、飽きるまで付き合うしかあるまい。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

いきなり結婚しろと言われても、相手は7才の王子だなんて冗談はよしてください

シンさん
恋愛
金貸しから追われる、靴職人のドロシー。 ある日突然、7才のアイザック王子にプロポーズされたんだけど、本当は20才の王太子様…。 こんな事になったのは、王家に伝わる魔術の7つ道具の1つ『子供に戻る靴』を履いてしまったから。 …何でそんな靴を履いたのか、本人でさえわからない。けど王太子が靴を履いた事には理由があった。 子供になってしまった20才の王太子と、靴職人ドロシーの恋愛ストーリー ストーリーは完結していますので、毎日更新です。 表紙はぷりりん様に描いていただきました(゜▽゜*)

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...