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1章
15.ドラゴンの鱗も焦げる
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「暇だ」
「暇ですね」
パートナー契約を結んで以降、私達の行動は制限されてしまった。
ルクスさんが部屋の外を歩く度に使用人に恐れられているので仕方のない。
屋敷の外に出られるようになるのは使用人が慣れてからということになった。
今のところルクスさんのことを知っているのは家族の他にヴァレンチノ家、シルヴェスター家の使用人と王家と重鎮達、そしてシルヴェスターと隣接しているファドゥール家とスカビオ家の一部の人のみである。
多くの人に知らせれば騒ぎになる。
シルヴェスター家の人間ほどあからさまでないにしろ、多くの者が小さな恐怖や少しの畏怖を感じれば、それだけルクスさんが神に近づいてしまう。
ルクスさんはその程度では神になれんと言うが、お父様の対応に理解を示してくれた。
私と一緒に大人しく部屋に引きこもってくれているのは彼の協力あってこそなのだ。
領民達には邪神がシルヴェスターの管理下にいることは周知したが、ルクスさんがそうだとは告げていない。
使用人達が慣れてくれた後で、彼を私のパートナーだと紹介する予定だ。
それまで幼馴染に会えないのは寂しいが、仕方ない。
手紙でパートナーができたことだけ伝えると、二人とも早く会いたいと言ってくれた。
引きこもり期間中はひたすら起きる可能性の話ーー乙女ゲームについての説明を行なっていた。その時、前世の知識についても触れていった。
ルクスさんが首を傾げることも少なくはなかった。
だがやることがないというのもあって根気よく話を聞いてくれた。
「……ドライヤーの練習します?」
「やるなら水桶を用意してからにしてくれ。この前はエライ目にあった」
「ドラゴンの鱗は人間の魔法如きで焼けるほどヤワではないわって言ってたくせに……」
十日ほど前、前世の話をしていた時にドライヤーの話になったのだ。
ドライヤーはシャワーと並ぶお風呂の便利グッズである。
これなら魔法を使って似たようなことが出来るかもしれないと試すことにしたのだが、見事に失敗した。
ルクスさんの鱗が焦げたのである。
黒いから分かりづらいが、一部だけ色味が変わってしまってしまった。
何かあってもパートナー契約があるし! とタカをくくっていたのだが、見事に『危害を加えられない』というルールをすり抜けてしまった。
お互いの了承あっての行為だからなのだろう。何の防御にもなりはしなかった。
そこから数日間かけて脱皮し、ようやく昨日戻ったのである。
ちなみにドラゴンの抜け殻には魔物除けの効果があるのだとか。「芋畑を荒らす魔物が出た時に周りに撒け!」と言われ、初めの一回以降、取れたものは全て布袋に保管している。
犬の抜け毛を集めている気分……と溢したら一緒にするなとすごく怒られた。
一応取ってあるが、本当に効果があるのかは謎である。
「まさか調整がド下手な上に火力だけは強いとは思わないだろう……。あれでよく自分の髪を乾かそうと思ったな」
「魔法を操るコツが想像と伝達にあるならいけると思ったんですけどね~」
想像なら得意なはずだった。
アニメやマンガで見た『魔法』を想像してみたのだが、よくよく考えれば参考にしたのは攻撃魔法。
そもそも私が好むジャンルには生活魔法というものはあまり登場しなかった。
出てきてもサラッと流されるだけ。
記憶に残るのはどれも派手な攻撃魔法。微調整が必要なものには向かなかった。
対魔物戦に使用するにしても周りの被害が大きそうだ。
やはり二次元とリアルとでは違うものである。
「確かにそう言ったが……。あれだけ調整が下手となれば、今まで魔物とはどう戦っていたんだ」
「ナイフでざくりと。武術の方が得意なんですよ。でも闇落ちには闇魔法の暴走も関係しているかもしれないので、苦手でも魔法の練習はある程度しておかないと」
「魔法の暴走か。闇の魔法なら光の魔法と強さとの関係もあるが……」
「え、そうなんですか?」
「この二属性は両者のバランスが重要視されるからな」
「バランス……」
五代属性の外に存在する光と闇の魔法は未だ謎に包まれた部分が多い。
考察勢の中には『ウェスパルがヒロインのステータスを下げるのは己の力を高めるためではないか』と考えている人もいた。
私怨が感じられないために挙げられた考えだが、ウェスパルが誰かを恨んでいないのなら邪神を復活させる理由がなくなる。そのためあまり信じられてはいなかった。
それなら嫉妬で闇の魔法を使い続けた結果暴走した、の方が信憑性がある。
だが闇の魔法が光の魔法とのバランスが重要視されるすれば、ヒロインが光の魔法を鍛えたことにより均衡が崩れ、ウェスパルが上手く闇の力を制御できなくなってしまった可能性が浮上する。
「暇ですね」
パートナー契約を結んで以降、私達の行動は制限されてしまった。
ルクスさんが部屋の外を歩く度に使用人に恐れられているので仕方のない。
屋敷の外に出られるようになるのは使用人が慣れてからということになった。
今のところルクスさんのことを知っているのは家族の他にヴァレンチノ家、シルヴェスター家の使用人と王家と重鎮達、そしてシルヴェスターと隣接しているファドゥール家とスカビオ家の一部の人のみである。
多くの人に知らせれば騒ぎになる。
シルヴェスター家の人間ほどあからさまでないにしろ、多くの者が小さな恐怖や少しの畏怖を感じれば、それだけルクスさんが神に近づいてしまう。
ルクスさんはその程度では神になれんと言うが、お父様の対応に理解を示してくれた。
私と一緒に大人しく部屋に引きこもってくれているのは彼の協力あってこそなのだ。
領民達には邪神がシルヴェスターの管理下にいることは周知したが、ルクスさんがそうだとは告げていない。
使用人達が慣れてくれた後で、彼を私のパートナーだと紹介する予定だ。
それまで幼馴染に会えないのは寂しいが、仕方ない。
手紙でパートナーができたことだけ伝えると、二人とも早く会いたいと言ってくれた。
引きこもり期間中はひたすら起きる可能性の話ーー乙女ゲームについての説明を行なっていた。その時、前世の知識についても触れていった。
ルクスさんが首を傾げることも少なくはなかった。
だがやることがないというのもあって根気よく話を聞いてくれた。
「……ドライヤーの練習します?」
「やるなら水桶を用意してからにしてくれ。この前はエライ目にあった」
「ドラゴンの鱗は人間の魔法如きで焼けるほどヤワではないわって言ってたくせに……」
十日ほど前、前世の話をしていた時にドライヤーの話になったのだ。
ドライヤーはシャワーと並ぶお風呂の便利グッズである。
これなら魔法を使って似たようなことが出来るかもしれないと試すことにしたのだが、見事に失敗した。
ルクスさんの鱗が焦げたのである。
黒いから分かりづらいが、一部だけ色味が変わってしまってしまった。
何かあってもパートナー契約があるし! とタカをくくっていたのだが、見事に『危害を加えられない』というルールをすり抜けてしまった。
お互いの了承あっての行為だからなのだろう。何の防御にもなりはしなかった。
そこから数日間かけて脱皮し、ようやく昨日戻ったのである。
ちなみにドラゴンの抜け殻には魔物除けの効果があるのだとか。「芋畑を荒らす魔物が出た時に周りに撒け!」と言われ、初めの一回以降、取れたものは全て布袋に保管している。
犬の抜け毛を集めている気分……と溢したら一緒にするなとすごく怒られた。
一応取ってあるが、本当に効果があるのかは謎である。
「まさか調整がド下手な上に火力だけは強いとは思わないだろう……。あれでよく自分の髪を乾かそうと思ったな」
「魔法を操るコツが想像と伝達にあるならいけると思ったんですけどね~」
想像なら得意なはずだった。
アニメやマンガで見た『魔法』を想像してみたのだが、よくよく考えれば参考にしたのは攻撃魔法。
そもそも私が好むジャンルには生活魔法というものはあまり登場しなかった。
出てきてもサラッと流されるだけ。
記憶に残るのはどれも派手な攻撃魔法。微調整が必要なものには向かなかった。
対魔物戦に使用するにしても周りの被害が大きそうだ。
やはり二次元とリアルとでは違うものである。
「確かにそう言ったが……。あれだけ調整が下手となれば、今まで魔物とはどう戦っていたんだ」
「ナイフでざくりと。武術の方が得意なんですよ。でも闇落ちには闇魔法の暴走も関係しているかもしれないので、苦手でも魔法の練習はある程度しておかないと」
「魔法の暴走か。闇の魔法なら光の魔法と強さとの関係もあるが……」
「え、そうなんですか?」
「この二属性は両者のバランスが重要視されるからな」
「バランス……」
五代属性の外に存在する光と闇の魔法は未だ謎に包まれた部分が多い。
考察勢の中には『ウェスパルがヒロインのステータスを下げるのは己の力を高めるためではないか』と考えている人もいた。
私怨が感じられないために挙げられた考えだが、ウェスパルが誰かを恨んでいないのなら邪神を復活させる理由がなくなる。そのためあまり信じられてはいなかった。
それなら嫉妬で闇の魔法を使い続けた結果暴走した、の方が信憑性がある。
だが闇の魔法が光の魔法とのバランスが重要視されるすれば、ヒロインが光の魔法を鍛えたことにより均衡が崩れ、ウェスパルが上手く闇の力を制御できなくなってしまった可能性が浮上する。
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