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1章
10.信仰と畏怖
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「合うな」
「でしょう!」
蒸かし芋と牛乳は合う。
そもそも芋と牛乳が合わないはずがないのだ。
私の分の牛乳にまで手を伸ばそうとするドラゴンさんからコップを死守し、代わりに芋を半分分けてあげる。
「ところでさっきの話ってどういうことですか?」
「なんのことだ?」
「神になる条件がなんだかんだってやつです。ドラゴンさんは一度神様になっているんだから戻るのは難しくないんじゃないですか? というか邪神と他の神様って基準同じでいいんですか? 今も健在な邪神もいますよね?」
「質問だらけだな。そもそも邪神とは人間が勝手につけた名称であって、神は神だ。剥奪されても再び神になることは出来るが、以前よりも基準が高くなる」
「基準?」
「神になるには他者からの多くの信仰や畏怖を集めることが必須だ。我が神に戻ることを望んだとしても、それを集めることは難しい」
「でも大人達はドラゴンさんを恐れていましたよ」
「この場所が我が封印されていた洞窟から近いからだろう。それにここだけでは足りぬ。だが今の我の力ではこの屋敷内を移動することもままならん。神格化など不可能だな」
「それは、おかしな話ですね」
乙女ゲームでも邪神について触れられているが、あくまで知識として。
プレイヤーとして、ヒロインと同じ視点で見ている限りではルシファーに対しての畏怖は集まっていないように思えた。
彼の言う通り、シルヴェスターの人間が恐れるのは洞窟の近くに暮らしているから。
王都に住む貴族にとってルシファーは完全に過去の存在であった。
もちろん、ヒロインが知らないだけで邪神信仰があった可能性も否定は出来ない。
だが信仰や畏怖が鍵になるのであればなぜ物語に登場しなかったのかが引っかかる。
あの物語の悪役はウェスパルだ。
ウェスパルが何かしらの方法で邪神の封印を解いた。
『ウェスパル=シルヴェスター』という少女を、第二部のシナリオを追う上で最も重要なのはこの二点。もしここが揺らぐとすれば、私がすべきことが変わってしまう。
それに邪神が眠る洞窟を含め、付近の領地を任されているお父様がそのことに気づかぬはずがない。
お父様はこれ以上話しても無駄だと折れたのだ。
考えを改めた訳ではない。
「お前がどう感じたとしてもこれが事実だ。疑うのなら調べてみるといい。人族も記録の一つくらい残しているだろう」
「抜け穴みたいなものはないんですか?」
「ない」
「闇の力を使っても?」
お父様はさっき『やはり闇属性持ちは邪神と惹かれ合う運命なのか……』と呟いていた。
そして『何事もなく過ごせるようにとウェスパルの名をつけた』とも。
ウェスパルの名前の意味は分からないが、闇属性と邪神に何らかの関係性があることは確かだ。
今のところ私が知っている闇属性の能力といえば、他人のステータスを下げること。
確かに厄介ではあるが、それだけで邪神と娘を結びつけるとは思えない。
もっと何かあるはずなのだ。
どうなんですか? とユッサユッサと揺らせば、彼は分かりやすいほどに眉をしかめた。
「……どこで、それを知った」
「さっきのお父様の反応と、前世の知識を総合した結果です。それでも確信はありませんでしたが、やっぱり可能なんですね」
「前世、というとお前が生まれ変わるよりも前に人はその可能性にたどり着いていたのか。……なるほどただの変わり者ではないということか。お前の目的はなんだ」
ドラゴンさんはつい先ほどまで芋と牛乳で和んでいたのが嘘かのように警戒を強める。
だが私は闇の力を利用して邪神を復活させたいなんて、欠片ほども思っていないのだ。
「そんな気構えないでください。私はただ、私の闇落ちを防ぎたいだけなんです。闇落ちする原因は今のところ分かっていませんが、邪神の復活と関係あるんじゃないかな~と思っています。なので出来れば、あなたにはこのままの姿でいて欲しい」
「その言葉が真実ならば、我を避けると思うが」
「まぁ普通そうなると思うんですが、六年後、意図せぬ形で復活させてしまうかもしれないというリスクを負っている以上、管理できるうちに協力を仰いだ方がいいかなと思ったんですよ」
「確かに邪神復活に闇の力が必要だと知られている以上、その心配も仕方ないか。だが、なぜ六年後なのだ? 隠しても無駄だから言うが、今のお前でも十分復活に足る力を持っているだろう」
喉元まで出かかった『え、そうなんですか?』という情けない声を力技で押し込め、その次に上がってきた言葉を吐き出す。
「でしょう!」
蒸かし芋と牛乳は合う。
そもそも芋と牛乳が合わないはずがないのだ。
私の分の牛乳にまで手を伸ばそうとするドラゴンさんからコップを死守し、代わりに芋を半分分けてあげる。
「ところでさっきの話ってどういうことですか?」
「なんのことだ?」
「神になる条件がなんだかんだってやつです。ドラゴンさんは一度神様になっているんだから戻るのは難しくないんじゃないですか? というか邪神と他の神様って基準同じでいいんですか? 今も健在な邪神もいますよね?」
「質問だらけだな。そもそも邪神とは人間が勝手につけた名称であって、神は神だ。剥奪されても再び神になることは出来るが、以前よりも基準が高くなる」
「基準?」
「神になるには他者からの多くの信仰や畏怖を集めることが必須だ。我が神に戻ることを望んだとしても、それを集めることは難しい」
「でも大人達はドラゴンさんを恐れていましたよ」
「この場所が我が封印されていた洞窟から近いからだろう。それにここだけでは足りぬ。だが今の我の力ではこの屋敷内を移動することもままならん。神格化など不可能だな」
「それは、おかしな話ですね」
乙女ゲームでも邪神について触れられているが、あくまで知識として。
プレイヤーとして、ヒロインと同じ視点で見ている限りではルシファーに対しての畏怖は集まっていないように思えた。
彼の言う通り、シルヴェスターの人間が恐れるのは洞窟の近くに暮らしているから。
王都に住む貴族にとってルシファーは完全に過去の存在であった。
もちろん、ヒロインが知らないだけで邪神信仰があった可能性も否定は出来ない。
だが信仰や畏怖が鍵になるのであればなぜ物語に登場しなかったのかが引っかかる。
あの物語の悪役はウェスパルだ。
ウェスパルが何かしらの方法で邪神の封印を解いた。
『ウェスパル=シルヴェスター』という少女を、第二部のシナリオを追う上で最も重要なのはこの二点。もしここが揺らぐとすれば、私がすべきことが変わってしまう。
それに邪神が眠る洞窟を含め、付近の領地を任されているお父様がそのことに気づかぬはずがない。
お父様はこれ以上話しても無駄だと折れたのだ。
考えを改めた訳ではない。
「お前がどう感じたとしてもこれが事実だ。疑うのなら調べてみるといい。人族も記録の一つくらい残しているだろう」
「抜け穴みたいなものはないんですか?」
「ない」
「闇の力を使っても?」
お父様はさっき『やはり闇属性持ちは邪神と惹かれ合う運命なのか……』と呟いていた。
そして『何事もなく過ごせるようにとウェスパルの名をつけた』とも。
ウェスパルの名前の意味は分からないが、闇属性と邪神に何らかの関係性があることは確かだ。
今のところ私が知っている闇属性の能力といえば、他人のステータスを下げること。
確かに厄介ではあるが、それだけで邪神と娘を結びつけるとは思えない。
もっと何かあるはずなのだ。
どうなんですか? とユッサユッサと揺らせば、彼は分かりやすいほどに眉をしかめた。
「……どこで、それを知った」
「さっきのお父様の反応と、前世の知識を総合した結果です。それでも確信はありませんでしたが、やっぱり可能なんですね」
「前世、というとお前が生まれ変わるよりも前に人はその可能性にたどり着いていたのか。……なるほどただの変わり者ではないということか。お前の目的はなんだ」
ドラゴンさんはつい先ほどまで芋と牛乳で和んでいたのが嘘かのように警戒を強める。
だが私は闇の力を利用して邪神を復活させたいなんて、欠片ほども思っていないのだ。
「そんな気構えないでください。私はただ、私の闇落ちを防ぎたいだけなんです。闇落ちする原因は今のところ分かっていませんが、邪神の復活と関係あるんじゃないかな~と思っています。なので出来れば、あなたにはこのままの姿でいて欲しい」
「その言葉が真実ならば、我を避けると思うが」
「まぁ普通そうなると思うんですが、六年後、意図せぬ形で復活させてしまうかもしれないというリスクを負っている以上、管理できるうちに協力を仰いだ方がいいかなと思ったんですよ」
「確かに邪神復活に闇の力が必要だと知られている以上、その心配も仕方ないか。だが、なぜ六年後なのだ? 隠しても無駄だから言うが、今のお前でも十分復活に足る力を持っているだろう」
喉元まで出かかった『え、そうなんですか?』という情けない声を力技で押し込め、その次に上がってきた言葉を吐き出す。
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