第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

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1章

8.お風呂

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「連れてきたって、そんな、冗談よね? だってそこにいるのは邪神……」
「ああ芋だけではない。牛乳と風呂も付ける約束になっている。何事もなかったのだから早く芋を用意しろ、芋を」
「そうですね、邪神相手ならもう怯えなくてもいいですし。それで芋を蒸している間に彼をお風呂に入れたいので、お湯も沸かしてもらいたいのですが……」
「ウェスパル、あなた何言ってるか分かっているの?」

 邪神の所業を思えば、恐ろしくてたまらないというのが普通の反応なのだろう。

 だがその恐ろしき元邪神様の脳内の大半を占めているのが芋である。
 我慢しきれずに「い~も、い~も」なんて芋芋コールまでし始める始末だ。

「彼に敵意はありません。あるのは食欲です」
「あなた、頭がおかしくなって……。やっぱり王都になんて連れて行くんじゃなかったわ」

 どうやらお母様は王都でいじめられたことによって娘が変わってしまったと思ったようだ。

 確かに記憶を取り戻す前の私は少し暗くて、とても犬を拾う感覚で邪神を連れ帰るような子どもではなかった。

 今は前世の性格と疲れと勢いが相まってかなりずんずん突き進んでしまっているが。

 とはいえ王都に行ったことで暗さや自己否定感に拍車がかかっていたのも事実。
 ウェスパルという少女を変えた原因が王都行きにあるというのもあながち間違ってはいないだろう。



 森に返して来いとも言えないお母様は、同じく地下室に隠れていた使用人達に芋と風呂の準備を命じた。

「旦那様にも報告しないと」
 はぁ……と大きなため息を吐きながら、よったよったと階段を上っていく。
 私達もそれに続くが、後ろの使用人からはかなりの距離を開けられてしまった。

 恐怖の対象である彼は未だに「い~もい~も」と芋芋コールを続けているというのに。


 とりあえずお茶を飲みながらお風呂が沸くのを待つ。

 この世界のお風呂は魔法を使って沸かしている。
 水魔法で水を満たしてから、風呂釜の下に火の魔法を詰めた魔石を投げ込むのだ。

 現代日本ではあまり見かけなくなっていたが、薪風呂と似た原理だ。

 電気は通っていない。
 一応王都のごくわずかにはあるらしいので、王都では次第に普及していくのだろう。

 だがその他では難しい。
 シルヴェスターほどではないにしろ、王都を出れば魔物に遭遇するリスクを背負うこととなる。

 電柱なんて立てたところで魔物に攻撃されるのが目に見えている。
 かといって地下に埋めたところで掘り返されるだけである。

 そもそも水道管すらろくに整備されていない地域がほとんどなのだ。電気なんて程遠い。

 それに無理に導入しなくても魔法があるのでわりとどうにかなる。


「お風呂沸きましたよ」
「は~い」
 自分の服とタオル、そして新品のブラシを用意してからお風呂に向かう。

 浴室に入った時点でぶわっとした熱気が肌に伝わる。
 ドラゴンさんの希望もあり、沸かしたての熱々である。

 まずは彼を洗ってしまおう。

 風呂釜とは別の釜で沸いたお湯を桶に移す。そこにドラゴンさんを浸からせる。

「熱くないですか?」
「問題ない」
「上からお湯かけますよ。目、つむっててくださいね~」
 声をかけてから手桶ですくったお湯をざぶんとかける。
 そして背中のあたりからブラシで擦ると、うすい膜のようなものが浮き上がってくる。


 ドラゴンって脱皮するんだ……。
 蛇は一気にすぽんと皮を脱ぐと聞いたことがあるが、ドラゴンの脱皮は人間の日焼けした後にぺりぺりと少しずつ剥けていくらしい。

 優しく擦ればどんどんと小さな皮がお湯の中へと落ちていく。

「気持ちいいですか~。痒いところはないですか~」
「上」
「こっちですね~」
 ドラゴンさんの指示に従いながら、ブラシを動かす。お湯も何回か変えて、せっせと洗っていく。

 初めは背中だけのつもりが尻尾に頭、羽根と続き、最終的には胸元を広げてみせた。やはり痒かったのかもしれない。

「そういえばドラゴンって石けん大丈夫ですかね?」
「問題ない」
「じゃあ遠慮なく泡泡しましょ~」
 手で軽くあわ立てたものを背中に乗せ、再びブラシで洗っていく。
 まだまだ泡が黒いので、一旦洗い流して、またお湯を変えてを繰り返す。

 ちなみにシルヴェスターで使っている石けんはお隣の領地からの頂き物である。
 薬草や花などの栽培が盛んで、この石けんにも複数のハーブ油が使われているとのこと。

 幼馴染は今、石けん作りに力を入れているらしく、最近は香りにもこだわっているようだった。

 ドラゴンさんも自然由来の香りが気に入ったようで、鼻歌まで歌い始めた。
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