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1章
1.未来の邪神は芋と牛乳がお好き
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お・い・も ころころころころころ
お・い・も ころころころころころ
あっつ~い石の上でこ~ろころ
まんべんな~くあたためて
ほくほく焼き芋作りましょ
お・い・も ころころころころころ
お・い・も ころころころころころ
「その歌は人間達の間で流行っているのか?」
「いえ、これは前世のホームセンターで流れていた曲です。曲名は分かりませんが、我が家では石焼き芋の歌と呼んでいました」
「ほーむせんたーとはなんだ?」
「いろんな物を売っているお店で、鍋とかのこぎりなんかはもちろん、お店によってはお花や動物が売ってるところです。我が家の愛犬はそこでお迎えしました」
「芋は売ってるのか?」
「お店の規模によりますかね~。あ、そろそろ出来たんじゃないでしょうか。串を刺してみてください」
竹串をルクスさんに渡せば、彼はふよふよと焼き芋の上へと移動する。そして上からぷすっと芋の皮を突き刺した。一つ、また一つと芋を次々に刺していき、納得したように頷く。
「どれもよく焼けている」
彼からの了承は得て、石の上から焼き芋を回収する。そのうちの一つをトングで掴んだままルクスさんの手の上に乗せる。
「熱いですからやけどしないでくださいね~」
「ドラゴンがこのくらいでやけどするものか」
「この前、あつあっつ! って言って食べてたじゃないですか。そうだ、お茶の準備もしないと!」
メイドから持たせてもらった水筒を取り出せば、ルクスさんはわかりやすいほどに顔を顰めた。
言いたいことは分かる。分かるが、聞き入れるつもりはない。
同じく持たせてもらったカップを並べてトクトクとお茶を注ぐ。
ルクスさんは石焼き芋をがっしりと両手で掴んでいるため、隣に置いておく。
私は猫舌なのでお芋もお茶もしばらく冷ますことにして、先に鍋を火から降ろす。
いつもは適当な木の上に置くところだが、今日はお父様からプレゼントしてもらった鍋置きがある。やはり専用のものは安定感が違う。
小さくなった火に薪をくべ、暖を取る。
石焼き芋作りのために長時間、調理場を占領する訳にもいかないと外に出たはいいが、今の時期はまだ寒い。
火に手をかざせば、隣からぼそぼそと弱い声が聞こえてくる。
「牛乳……」
「ないですよ」
「なぜないのだ! 焼き芋には牛乳が必須だろう」
「だと思うなら起き抜けに三杯も飲むの止めれば良かったでしょ! 私、ちゃんと止めましたよね?」
「だ、だが、この前の商談で取引量を増やしたと言っておったではないか!」
「増えるのは来週からです」
「……仕方ない。コップ半分でいいぞ」
「ダメです」
「なぜだ! この我が譲歩してやるというのだぞ!」
「すでに三杯飲んでおいて譲歩も何もないでしょう。飲み過ぎです」
むううっと子どもらしい声で鳴くルクスさんことルシファーさんは未来の邪神様である。
かつて神だった彼は大陸の一部を焦土にした結果、神格を剥奪された。その上でとある場所に封印されていた。
そのとある場所というのが我がシルヴェスター辺境伯領にある洞窟である。そして彼が焦土にした場所というのも私達が暮らすすぐお隣。
神によって焼かれたせいで何千年たっても雑草すら生えない呪われた地と化し、人間と魔物以外の動物は暮らせなくなってしまった。
そのため牛乳などの乳製品は他領土から買う以外ない。
簡単に言ってしまえば我が領では高級品扱いなのである。
ルクスさんの食事は主に牛乳と甘藷ーーさつまいもである。甘藷を調理する際に他にも材料を使うが、基本はこの二つ。
甘藷は我が領でも育つ貴重な穀物なので通年保存する方法も生み出している。
問題は牛乳だ。
封印される前は酒ばかり飲んでいたのに今ではすっかり牛乳派に変わり、ガバガバと飲みまくっている。
しかも安い牛乳に変えると駄々をこねるので質が悪い。
だがお父様から見れば可愛いワガママらしく、せっせと牛乳を貢いでしまう。
牛乳と国を天秤にかけたら国が圧勝するのは分かる。
だがあげすぎはダメだ。この前なんてミルクタンクを勝手に開けて、顔を突っ込もうとしていたのだから。
私がルクスさんと出会ったのは五年前。
王家主催のお茶会に参加してから数日が経った時のことだった。
お・い・も ころころころころころ
あっつ~い石の上でこ~ろころ
まんべんな~くあたためて
ほくほく焼き芋作りましょ
お・い・も ころころころころころ
お・い・も ころころころころころ
「その歌は人間達の間で流行っているのか?」
「いえ、これは前世のホームセンターで流れていた曲です。曲名は分かりませんが、我が家では石焼き芋の歌と呼んでいました」
「ほーむせんたーとはなんだ?」
「いろんな物を売っているお店で、鍋とかのこぎりなんかはもちろん、お店によってはお花や動物が売ってるところです。我が家の愛犬はそこでお迎えしました」
「芋は売ってるのか?」
「お店の規模によりますかね~。あ、そろそろ出来たんじゃないでしょうか。串を刺してみてください」
竹串をルクスさんに渡せば、彼はふよふよと焼き芋の上へと移動する。そして上からぷすっと芋の皮を突き刺した。一つ、また一つと芋を次々に刺していき、納得したように頷く。
「どれもよく焼けている」
彼からの了承は得て、石の上から焼き芋を回収する。そのうちの一つをトングで掴んだままルクスさんの手の上に乗せる。
「熱いですからやけどしないでくださいね~」
「ドラゴンがこのくらいでやけどするものか」
「この前、あつあっつ! って言って食べてたじゃないですか。そうだ、お茶の準備もしないと!」
メイドから持たせてもらった水筒を取り出せば、ルクスさんはわかりやすいほどに顔を顰めた。
言いたいことは分かる。分かるが、聞き入れるつもりはない。
同じく持たせてもらったカップを並べてトクトクとお茶を注ぐ。
ルクスさんは石焼き芋をがっしりと両手で掴んでいるため、隣に置いておく。
私は猫舌なのでお芋もお茶もしばらく冷ますことにして、先に鍋を火から降ろす。
いつもは適当な木の上に置くところだが、今日はお父様からプレゼントしてもらった鍋置きがある。やはり専用のものは安定感が違う。
小さくなった火に薪をくべ、暖を取る。
石焼き芋作りのために長時間、調理場を占領する訳にもいかないと外に出たはいいが、今の時期はまだ寒い。
火に手をかざせば、隣からぼそぼそと弱い声が聞こえてくる。
「牛乳……」
「ないですよ」
「なぜないのだ! 焼き芋には牛乳が必須だろう」
「だと思うなら起き抜けに三杯も飲むの止めれば良かったでしょ! 私、ちゃんと止めましたよね?」
「だ、だが、この前の商談で取引量を増やしたと言っておったではないか!」
「増えるのは来週からです」
「……仕方ない。コップ半分でいいぞ」
「ダメです」
「なぜだ! この我が譲歩してやるというのだぞ!」
「すでに三杯飲んでおいて譲歩も何もないでしょう。飲み過ぎです」
むううっと子どもらしい声で鳴くルクスさんことルシファーさんは未来の邪神様である。
かつて神だった彼は大陸の一部を焦土にした結果、神格を剥奪された。その上でとある場所に封印されていた。
そのとある場所というのが我がシルヴェスター辺境伯領にある洞窟である。そして彼が焦土にした場所というのも私達が暮らすすぐお隣。
神によって焼かれたせいで何千年たっても雑草すら生えない呪われた地と化し、人間と魔物以外の動物は暮らせなくなってしまった。
そのため牛乳などの乳製品は他領土から買う以外ない。
簡単に言ってしまえば我が領では高級品扱いなのである。
ルクスさんの食事は主に牛乳と甘藷ーーさつまいもである。甘藷を調理する際に他にも材料を使うが、基本はこの二つ。
甘藷は我が領でも育つ貴重な穀物なので通年保存する方法も生み出している。
問題は牛乳だ。
封印される前は酒ばかり飲んでいたのに今ではすっかり牛乳派に変わり、ガバガバと飲みまくっている。
しかも安い牛乳に変えると駄々をこねるので質が悪い。
だがお父様から見れば可愛いワガママらしく、せっせと牛乳を貢いでしまう。
牛乳と国を天秤にかけたら国が圧勝するのは分かる。
だがあげすぎはダメだ。この前なんてミルクタンクを勝手に開けて、顔を突っ込もうとしていたのだから。
私がルクスさんと出会ったのは五年前。
王家主催のお茶会に参加してから数日が経った時のことだった。
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