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第1部

17.5:ある男の子の話

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「ねぇ、父さんはなんのお仕事をしているの?」




「んー、そうだなぁ、”力を使って獲物を狙う仕事”だな。」




「へー!かっこいいね!」




「そうか。」







俺の父さん、ガルダはいつも昼過ぎ頃出かけて真夜中、もしくは朝方に帰ってくる。

子供のころから不思議に思って聞いてみても職種は言ってくれない。

いつも、”力を使って獲物を狙う仕事”と返される。

俺が知っている中でそういう仕事は冒険者だけだ。

冒険者は、危険な仕事だ。いつ死ぬかわからない。

父さんは、きっと俺にそういう仕事についてほしくないに違いない。

だからそうやって濁すのだ。

だからかっこいいというと困ったような笑顔になるんだろう。

俺の家は、貧乏だ。だから父さんは危険な仕事でもやっているんだろう。

やっぱりかっこいい。




5歳になった。

相変わらず、父さんは昼過ぎに出かけて真夜中くらいに帰ってくる。

俺には母さんはいない。

父さんの話によると、俺を生んですぐ死んじゃったらしい。

俺は父さんにまったく似ていないから母さんに似ているんだろう。

会ってみたかった。

でも、悲しいか、と言われるとそうじゃない。

毎日遊んでくれてご飯をつくってくれる父さんがいるからだ。

覚えていない母さんより、父さんの方が好きなのは仕方のないことだと思う。




父さんがいつものように出かけて行った。

今日は、大物が来るらしい。明日はごちそうだといわれた。

楽しみに待っていたが、いつまでたっても帰ってこない。

いつもなら、朝起きたら父さんも横に寝ている。

でも、起きても横に父さんはいない。

大物だから時間がかかっているのかもしれない。




その日の夜になっても父さんは帰ってこない。

やっぱりおかしい。




次の朝、俺は探しに行くことにした。

俺の家は、森の中にあって、周りに人は住んでいない。

街は危険だから成人まではこの辺りから出てはだめだといわれていた。

でも、それを守っている場合じゃないんじゃないかと思った。

なんだか嫌な予感がしていた。

お金と鞄と剣だけを持って外に出た。




しばらくまっすぐ歩いていると、道に出た。

この道沿いに歩いて行ったら、町につくはずだ。

行ったことはないが、人がたくさんいる場所だと父さんは言っていた。

冒険者の人もたくさんいるから、父さんを知っている人がいると思う。




けっこう歩いた。

朝に出てきたが、もう太陽は傾き始めている。

走った方がいいだろうか。

夜になっても着かなかったら魔物に食べられてしまうかもしれない。

父さんが鍛えてくれたから、ちょっとしたのだったら倒せるけど、寝ているところを襲われたりしたらかなわないし、大きいやつには勝てない。

どのくらいだろう、と考えていたら、少し先に馬車が止まっているのが見えた。

のせてもらえないかな?という淡い期待を抱いて小走りで進んだ。




近くまで来て、様子がおかしいことに気が付いた。

馬車の後ろの荷物は崩れて散乱している。

剣と剣がぶつかる音がする。

そして、ところどころ地面が赤く染まっている。

何人か人が倒れている。




落ち着くまで隠れていよう。




そーっと道の横の森に入って木の上にのぼって葉や枝に身を隠した。

下にいるより気が付かれないと思ったからだ。

そして、そっと戦いの様子をうかがった。




「おい、早く荷物を置いてった方が身のためだぞ。お前らも命は惜しいだろう?」




「っ!な、何を言う!商売道具を持ってかれたら結局は飢え死ぬんだ。ここを離れるわけにはいかない!」




どうやら、盗賊が商人の馬車をおそっているらしい。

商人たちがおされている。

俺に力があったら商人たちを助けてあげたい。きっと父さんならそうすると思う。

だって、かっこいい冒険者だから。

早くここを通り抜けて町へ行きたい。父さんを探さなきゃ。




「ガルダ!こっちのフォローに回れ!こいつらん中で一番力がある!そいつは適当に殺しとけ。奴隷の数は減るが、それより商品の方が優先だ」




「わかった。――――――お前、どう殺されたい?火あぶりか?剣でひと思いにいくか?」










――――――――――――え?







いま、ガルダって言った?




……ト、ウ、サ、ン?




トウサンハトウゾク




いや、そんなはずはない。

やさしくてかっこいい父さんが、こんなことするわけない。

父さんは、商人を助ける側になるに違いない。

同姓同名のやつに違いない。







「そうか、お前は火あぶり希望か。望みどおりにしてやろう。」




「俺はそんなこと言ってないっ!殺さないでくれ、頼むっ!やめろっ!」




そんな男の声をきくことなく、”ガルダ”は矢を取出して放った。

火の属性の付与がされた矢は、放たれた瞬間火が大きく膨れ上がり、男に突き刺さって燃えた。










―――――――――――あの矢は、父さんのだ。

父さんの武器だ。







あの盗賊のガルダは、俺の父さんのガルダだ。

背丈だって、声だって、武器だって、全部同じだ。

間違いようがない。




でも、そんなことって……。







木からとびおりて森の奥へ走った。行くあてはない。

でも、家に帰っても父さんと今までどうり接することができるとは思わなかったから、とにかく走って、家と戦いの現場から離れた。







気がついたら湖の前にいた。




湖の真ん中には家があった。




もう夜だ。

今日だけでもとまれせてもらえないかたずねてみようと重い足を引きずって家の扉をたたいた。







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