上 下
21 / 64
第1部

17.5:ある男の子の話

しおりを挟む
「ねぇ、父さんはなんのお仕事をしているの?」




「んー、そうだなぁ、”力を使って獲物を狙う仕事”だな。」




「へー!かっこいいね!」




「そうか。」







俺の父さん、ガルダはいつも昼過ぎ頃出かけて真夜中、もしくは朝方に帰ってくる。

子供のころから不思議に思って聞いてみても職種は言ってくれない。

いつも、”力を使って獲物を狙う仕事”と返される。

俺が知っている中でそういう仕事は冒険者だけだ。

冒険者は、危険な仕事だ。いつ死ぬかわからない。

父さんは、きっと俺にそういう仕事についてほしくないに違いない。

だからそうやって濁すのだ。

だからかっこいいというと困ったような笑顔になるんだろう。

俺の家は、貧乏だ。だから父さんは危険な仕事でもやっているんだろう。

やっぱりかっこいい。




5歳になった。

相変わらず、父さんは昼過ぎに出かけて真夜中くらいに帰ってくる。

俺には母さんはいない。

父さんの話によると、俺を生んですぐ死んじゃったらしい。

俺は父さんにまったく似ていないから母さんに似ているんだろう。

会ってみたかった。

でも、悲しいか、と言われるとそうじゃない。

毎日遊んでくれてご飯をつくってくれる父さんがいるからだ。

覚えていない母さんより、父さんの方が好きなのは仕方のないことだと思う。




父さんがいつものように出かけて行った。

今日は、大物が来るらしい。明日はごちそうだといわれた。

楽しみに待っていたが、いつまでたっても帰ってこない。

いつもなら、朝起きたら父さんも横に寝ている。

でも、起きても横に父さんはいない。

大物だから時間がかかっているのかもしれない。




その日の夜になっても父さんは帰ってこない。

やっぱりおかしい。




次の朝、俺は探しに行くことにした。

俺の家は、森の中にあって、周りに人は住んでいない。

街は危険だから成人まではこの辺りから出てはだめだといわれていた。

でも、それを守っている場合じゃないんじゃないかと思った。

なんだか嫌な予感がしていた。

お金と鞄と剣だけを持って外に出た。




しばらくまっすぐ歩いていると、道に出た。

この道沿いに歩いて行ったら、町につくはずだ。

行ったことはないが、人がたくさんいる場所だと父さんは言っていた。

冒険者の人もたくさんいるから、父さんを知っている人がいると思う。




けっこう歩いた。

朝に出てきたが、もう太陽は傾き始めている。

走った方がいいだろうか。

夜になっても着かなかったら魔物に食べられてしまうかもしれない。

父さんが鍛えてくれたから、ちょっとしたのだったら倒せるけど、寝ているところを襲われたりしたらかなわないし、大きいやつには勝てない。

どのくらいだろう、と考えていたら、少し先に馬車が止まっているのが見えた。

のせてもらえないかな?という淡い期待を抱いて小走りで進んだ。




近くまで来て、様子がおかしいことに気が付いた。

馬車の後ろの荷物は崩れて散乱している。

剣と剣がぶつかる音がする。

そして、ところどころ地面が赤く染まっている。

何人か人が倒れている。




落ち着くまで隠れていよう。




そーっと道の横の森に入って木の上にのぼって葉や枝に身を隠した。

下にいるより気が付かれないと思ったからだ。

そして、そっと戦いの様子をうかがった。




「おい、早く荷物を置いてった方が身のためだぞ。お前らも命は惜しいだろう?」




「っ!な、何を言う!商売道具を持ってかれたら結局は飢え死ぬんだ。ここを離れるわけにはいかない!」




どうやら、盗賊が商人の馬車をおそっているらしい。

商人たちがおされている。

俺に力があったら商人たちを助けてあげたい。きっと父さんならそうすると思う。

だって、かっこいい冒険者だから。

早くここを通り抜けて町へ行きたい。父さんを探さなきゃ。




「ガルダ!こっちのフォローに回れ!こいつらん中で一番力がある!そいつは適当に殺しとけ。奴隷の数は減るが、それより商品の方が優先だ」




「わかった。――――――お前、どう殺されたい?火あぶりか?剣でひと思いにいくか?」










――――――――――――え?







いま、ガルダって言った?




……ト、ウ、サ、ン?




トウサンハトウゾク




いや、そんなはずはない。

やさしくてかっこいい父さんが、こんなことするわけない。

父さんは、商人を助ける側になるに違いない。

同姓同名のやつに違いない。







「そうか、お前は火あぶり希望か。望みどおりにしてやろう。」




「俺はそんなこと言ってないっ!殺さないでくれ、頼むっ!やめろっ!」




そんな男の声をきくことなく、”ガルダ”は矢を取出して放った。

火の属性の付与がされた矢は、放たれた瞬間火が大きく膨れ上がり、男に突き刺さって燃えた。










―――――――――――あの矢は、父さんのだ。

父さんの武器だ。







あの盗賊のガルダは、俺の父さんのガルダだ。

背丈だって、声だって、武器だって、全部同じだ。

間違いようがない。




でも、そんなことって……。







木からとびおりて森の奥へ走った。行くあてはない。

でも、家に帰っても父さんと今までどうり接することができるとは思わなかったから、とにかく走って、家と戦いの現場から離れた。







気がついたら湖の前にいた。




湖の真ん中には家があった。




もう夜だ。

今日だけでもとまれせてもらえないかたずねてみようと重い足を引きずって家の扉をたたいた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

婚約者が庇護欲をそそる可愛らしい悪女に誑かされて・・・ませんでしたわっ!?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
わたくしの婚約者が……とある女子生徒に侍っている、と噂になっていました。 それは、小柄で庇護欲を誘う、けれど豊かでたわわなお胸を持つ、後輩の女子生徒。 しかも、その子は『病気の母のため』と言って、学園に通う貴族子息達から金品を巻き上げている悪女なのだそうです。 お友達、が親切そうな顔をして教えてくれました。まぁ、面白がられているのが、透けて見える態度でしたけど。 なので、婚約者と、彼が侍っている彼女のことを調査することにしたのですが・・・ ガチだったっ!? いろんな意味で、ガチだったっ!? 「マジやべぇじゃんっ!?!?」 と、様々な衝撃におののいているところです。 「お嬢様、口が悪いですよ」 「あら、言葉が乱れましたわ。失礼」 という感じの、庇護欲そそる可愛らしい外見をした悪女の調査報告&観察日記っぽいもの。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

ざまぁでちゅね〜ムカつく婚約者をぶっ倒す私は、そんなに悪役令嬢でしょうか?〜

ぬこまる
恋愛
王立魔法学園の全校集会で、パシュレミオン公爵家長子ナルシェから婚約破棄されたメルル。さらに悪役令嬢だといじられ懺悔させられることに‼︎  そして教会の捨て子窓口にいた赤ちゃんを抱っこしたら、なんと神のお告げが……。 『あなたに前世の記憶と加護を与えました。神の赤ちゃんを育ててください』 こうして無双魔力と乙女ゲームオタクだった前世の記憶を手に入れたメルルは、国を乱す悪者たちをこらしめていく! するとバカ公爵ナルシェが復縁を求めてくるから、さあ大変!? そして彼女は、とんでもないことを口にした──ざまぁでちゅね 悪役令嬢が最強おかあさんに!? バブみを感じる最高に尊い恋愛ファンタジー! 登場人物 メルル・アクティオス(17) 光の神ポースの加護をもつ“ざまぁ“大好きな男爵令嬢。 神の赤ちゃんを抱っこしたら、無双の魔力と乙女ゲームオタクだった前世の記憶を手に入れる。 イヴ(推定生後八か月) 創造神ルギアの赤ちゃん。ある理由で、メルルが育てることに。 アルト(18) 魔道具開発をするメルルの先輩。ぐるぐるメガネの平民男子だが本当は!? クリス・アクティオス(18) メルルの兄。土の神オロスの加護をもち、学園で一番強い。 ティオ・エポナール(18) 風の神アモネスの加護をもつエポナ公爵家の長子。全校生徒から大人気の生徒会長。 ジアス(15) 獣人族の少年で、猫耳のモフモフ。奴隷商人に捕まっていたが、メルルに助けられる。 ナルシェ・パシュレミオン(17) パシュレミオン公爵家の長子。メルルを婚約破棄していじめる同級生。剣術が得意。 モニカ(16) メルルの婚約者ナルシェをたぶらかし、婚約破棄させた新入生。水の神の加護をもち、絵を描く芸術家。 イリース(17) メルルの親友。ふつうに可愛いお嬢様。 パイザック(25) 極悪非道の奴隷商人。闇の神スキアの加護をもち、魔族との繋がりがありそう──? アクティオス男爵家の人々 ポロン(36) メルルの父。魔道具開発の経営者で、鉱山を所有している影の実力者。 テミス(32) メルルの母。優しくて可愛い。驚くと失神してしまう。 アルソス(56) 先代から伯爵家に仕えているベテラン執事。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

処理中です...